私たちは、主に物質科学的手法を用いて火山学の課題にチャレンジしています。
ここでは今現在、大学院の学生さんと一緒に進めている研究テーマについて紹介させて頂きます。
■火道を上昇するマグマ中での結晶化過程の実験的研究
火山噴火において火道を上昇するマグマ中では、減圧に伴い溶け込めなくなった気相成分がガスとして放出される。また、それに伴い結晶成分が過飽和となり、マイクロライトと呼ばれる微結晶が晶出する。マイクロライトはマグマの粘性を大きく増加させ、結果として火山噴火の爆発的にすると考えられていることから、結晶化過程を明らかにすることが重要である。そこで、マグマ上昇過程を模擬した様々な実験を行い、減圧率・量と結晶数密度・量との関係を調べたり、結晶核形成のメカニズムを原子レベルで理解する研究を進めている。 (博士課程 松本一久)
■爆発的火山噴火の推移メカニズムの解明
一旦開始した爆発的噴火は,マグマ噴出に伴ってマグマだまりの収縮を引き起こし,最終的には終息へと向かう。マグマ噴出率の推移の仕方は多様であり,噴火とともに指数関数的に減衰する場合や爆発的噴火の間はほぼ一定の場合などが報告されている。原理的にはマグマだまりの圧力低下に伴い噴出率も低下すると予想されるが,このような多様性の発生原因は不明であり爆発的噴火がどのような推移を辿るか現在のところ予測することはできない。本研究では、有珠火山1977年噴火を例として、爆発的噴火の推移とともにマグマ減圧率と破砕圧力などが如何に変化したのか明らかにする。最終的には、爆発的噴火の推移を支配する要因を明らかにしたい。 (修士課程 堀田修平)
■爆発的噴火における噴煙中での火山灰・ガスの反応シミュレーション
爆発的噴火によって大気圏へ放出されるSO2などの火山ガスは地表環境へ大きな影響を与える。火山噴火で地表へ放出されるSO2量は、マグマ中のSO2量と噴出したマグマ量から推定される。一方で、噴煙内では火砕物とSO2が反応し、その火砕物が降下することで噴煙からSO2が除去される。本研究では、様々な規模の爆発的火山噴火により形成される噴煙を数値シミュレーションで再現し、その噴煙シミュレーションで推定される噴煙温度を利用して、火山灰とSO2ガスの反応シミュレーションを行っている。 (修士課程 渡辺詩文)
■火道内を上昇するマグマの浸透率変化に関する実験的研究
マグマの脱ガスのしやすさを表す浸透率という物性値は,火山噴火の爆発性を支配するパラメータの一つとして知られている。しかしながら火道内を上昇するマグマの浸透率や空隙率といった情報は,噴火に伴う発泡・脱ガス過程において失われてしまい,火山噴出物からは限られたデータしか得られない。本研究では,火道内でのマグマ変形を圧縮変形試験で再現し,透気試験・X線CT画像観察を組み合わせることによって上昇するマグマの浸透率変化・微細構造変化について調べている。 (修士課程 大畑健)
■高速変形条件下における珪酸塩メルトの分子動力学シミュレーション
爆発的火山噴火は火道内を上昇するマグマが粉々に破壊することで発生する。マグマの破砕は高速変形を加えられた珪酸塩メルトが固体的に変形することに起因する。一方で,高速変形条件下では,変形速度の上昇に伴いメルト粘性が低下することも知られている。このように,高速変形条件下の珪酸塩メルトは固体的な性質と液体的な性質を併せ持つことが分かっているが,それらの分子構造的な起源はよく分かっていない。そこで,分子動力学シミュレーションを用いて,高速変形条件下の珪酸塩メルトのレオロジーと分子構造変化の関係を調べている。 (修士課程 馬見塚亮太)
<卒業した学生の研究>
■高結晶量マグマ中での気泡形成の実験的研究
高結晶量マグマは結晶がフレームワークを形成し流動が困難だと考えられているが、共存する気相がマグマを流動化させ、噴火様式を支配することが示唆されつつある。特に我々が進めてきた減圧発泡実験では、マグマの流動性、具体的には気泡が高結晶量マグマ内に保持されるか、系外へ分離するかの分岐条件について、減圧過程がそれを支配することを明らかにした。その背景にある物理プロセスの解明を目指し、マグマを模擬した高固相量流体中の気泡の挙動について、パラメータ依存性を明らかにする実験を進めている。
■火砕性黒曜石の生成メカニズム
火砕性黒曜石は爆発的な噴火の噴出物中に軽石や火山灰と共に観察される、軽石よりも発泡度が低いガラス質火山岩である。また火砕性黒曜石の含水量は軽石の石基ガラス中の含水量よりも高いことが多い。低い発泡度の理由は開放系脱ガスの結果であると考えられるが、高い含水量の原因は十分に説明されていない。含水量が高いことからマグマが高圧条件でクエンチされたことが示唆されるが、高圧でクエンチされたマグマがどのように地表に噴出して火砕性黒曜石が形成されたのかは十分に理解ができていない。本研究では火砕性黒曜石の成因を明らかにし、マグマの火道上昇過程を理解することを目的として、十和田火山の平安噴火(915年)の毛馬内火砕流堆積物に含まれる火砕性黒曜石を調べている。