皿の裏

 

宇吹萌が企画しているライジング・テイップトーはファンタジックな世界観が特徴だと聞いたので、この「皿の裏」は寓話的な物語だと思ったのだが、どうやら違うようだ。高円寺で行われた公演の観劇レポートを書くにあたって、「皿の裏」が何を言わんとしているのかピンとこなかったので今回初めてTwitter上の評価を渉猟したが、「皿の裏」はなんと砂糖の危険性ついて語った演劇らしい!ネット記事なら5分で済む話を二時間もかけて我々は見せられたのかと知って大変驚いた。

劇中ではしかし砂糖の危険性について書かれていたのか?砂糖中毒になっている3人組が登場し「所長」の治療を受けている。砂糖の代わりに「ずぶずぶスウイート」という甘味料を摂取しているのだが、その甘味料の効果は有限である。甘味料による治療には何か欠陥があることが提示される。しかし劇中でストレートに「砂糖を摂取していた時には冷や汗が止まらず、キレやすかった」と言われても、ああそうなのかと受け止めることができるのか?

  北京の演劇学校を訪れた際、演劇教育専攻の学生たちの中間発表公演があったので観劇した。麻薬撲滅キャンペーンの一環として作られたものだが、麻薬がいかにおそろしいかどう表現するのか期待して見にいったらば、薬物中毒で逮捕された5人の刑務所生活をただただリアルに描いたものだったので拍子抜けした。麻薬を摂取したらどういう恐ろしい目に合うか刑務官がご丁寧にモノローグの形で観客に正対して延々と説明してくれる。家族とは離れ離れになり、友人も失い、人生どん底になる様が描かれる。

寓話小説を書くなら表の物語と裏のテーマは極力お互いを殺しあわないように共存すべきだ。社会主義の国で学生たちつくる中間発表であれば、そうした寓意を含める余裕がないのも仕様がないが、自由の国アメリカにまで留学した劇作家が書いたものとしては構成が単純で曖昧すぎる。砂糖を砂糖として描写しているのに、アスパルテームやソルビトールといった甘味料をずぶずぶスイートとして表現しているのは一貫性がなく混乱する。このずぶずぶスイートは砂糖を毎日大量に摂取している工場者の汗からできているのがこの劇のオチなのだが、砂糖を大量に摂取したのち生じる症状はリアリテイがあるのに、甘味料の描写がファンタジー過ぎるのも一貫性がない。題名が「皿の裏」なのに、物語の構成に裏テーマがないのは名前だおれではないか。


アカデミー11期 奥田知叡 2019.7/14