それは秘密です。

 

 いつもなら時事ネタをとりいれた作品にはー誰に頼まれたともなくー難色を示すことが多いがこれは素晴らしい…のは非戦闘地域に派遣されて安全と思っていたはずなのに戦争に巻き込まれて味方を殺害してしまう小島健という「大きな話」と同時に四十にもなって定職につかず人生の一発逆転を狙って芸人生活を送りそのチャンスが来るも急に逮捕されてしまう小島圭という非常に「小さな話」のふたつを同時に展開してくれるからで、これが「大きな」政治的な話だけでは食傷気味になってしまうのだがそのバランスを楢原拓は見事にとっており合間合間に展開されるTKFを中心としたギャグがこの重たい話を和らげてくれる。

もう一点作品の見所は「語り」の使い方でーダイアローグで展開すると時間がかかる部分をモノローグで省略している時もあれば私的告白に近いモノローグもありーとりわけ終盤の小島健による罪の告白のモノローグは圧巻…生きるか死ぬかの瀬戸際で人が発する言葉はこうも脆く美しいのかと聞き入ってしまった。つい「赤と黒」やそれこそカフカを思い出したが熊野善啓による小島健のモノローグはまさに名ぜりふ!名演技!だった。

ギャグと語り文学による展開そして終盤の罪の告白を経てやっと平和な日常生活が戻ってきたー秘密保護法とか自衛隊の派遣とか劇場に観劇しにくるであろう大衆とは全く縁もゆかりもない話がやっと終わったーと思ったその時!米国の船艦が襲われ日本政府がある重大な決断を下したというニュースが流れるも、ピー音によって何を言っているか全く分からなくなるというラストは本当に鳥肌が立った。ここで心からの拍手と敬意を作家と俳優たちに捧げたい。

 

アカデミー11期 奥田知叡 2020.1.27