13:30 開会
一般報告セッション
13:35~14:15
今田匡彦/サウンドスケープと対話的理性によるポスト・ポスト構造主義的音楽教育
ショートトークセッション
14:15~14:45
第1報告| 瀧川宣之/ステレオのサウンドスケープ ジョナサン・スターンを読む
第2報告| 鈴木波隆/災害公営住宅の早期建設に向けた災害発生前に行う合意形成をはかるためのサウンドスケープの展開
第3報告| 魯牡丹/都市の記憶と感性的風景の形成―福岡港における花火大会の変遷に関する調査
総合討論
14:45~15:15
15:15 閉会
※一般報告は発表20分+質疑20分、ショートトークは発表5分+質疑5分です。
サウンドスケープと対話的理性によるポスト・ポスト構造主義的音楽教育
今田匡彦(弘前大学)
本発表は,子どもの「対話的理性(communicative rationality)」に基づくポスト=ポスト構造主義的音楽教育の枠組みを提案するものである。まず,西洋近代の科学的啓蒙思想がもたらした「合理化」と「対象化」の傾向が,いかに音楽教育を歪めてきたかを問い直し,そこからの回復の可能性を探る。デリダ,フーコー,ドゥルーズらによって展開されたポスト構造主義は,音楽・権力・カリキュラムに関する支配的言説を解体する上で重要な理論的役割を果たしたが,教育実践においては建設的な代案を欠いていたといえる。本発表で提示するポスト=ポスト構造主義的視点は,この欠落を補うものであり,「大きな物語」への回帰ではなく,状況に根ざした文脈の中で子どもとともに音楽的意味を共創する,対話的で暫定的な志向をもつ。教育的実践のモデルとして,R・マリー・シェーファーのサウンドスケープ思想およびサウンド・エデュケーションを分析する。シェーファーによるサウンド・エデュケーションは,音環境を通した子どもの聴覚体験環境,個々人固有体験基盤とした協働的創造性を具現するオルタナティヴな実践と考えることができる。とりわけ重要なのは,子ども自身の音楽的創造,教室という音響的環境の中から,これまで聴いたことのない音を生み出し,他者の評価を必ずしも必要としない独自の音楽的経験への道を開く点である。この意味で,シェーファーのサウンド・エデュケーションは,従来の音楽室を子どもたちによる新たなオンガクを実践する生成的な場として変容させるものである。本発表では,シェーファーのサウンド・エデュケーションをフランクフルト学派第二世代のユルゲン・ハーバーマスによる対話的理性:communicative rationalityと統合することによって,子どもの創造性を肯定し,オンガクを生活世界に結びつけ,音楽教育を生態学的かつ多文化的文脈に位置づける理論的枠組みを提示する。最終的に,ポスト=ポスト構造主義的音楽教育は,単なる「脱構築」を越えた建設的な方向性を示し,音楽を「対話的」「生成的」かつ「共有された音環境への倫理的感受性をもつ営み」として再構想するものである。
キーワード:サウンドスケープ、サウンド・エデュケーション、フランクフルト学派、生活世界、対話的理性
ステレオのサウンドスケープ ジョナサン・スターンを読む
瀧川宣之(横浜国立大学大学院)
ジョナサン・スターンによれば、サウンドスケープとは物理的空間とその表象にとどまらない。それは、「音響空間の経験を可能にする文化的・感覚的条件」をも指し示す構想なのである。こうした主張に基づき、スターンはハイファイ・ステレオ文化に注目する。
本発表ではスターンのいくつかの論文から、古典的なサウンドスケープ概念とハイファイ・ステレオ文化を紐づける道筋を簡潔に示す。
キーワード:サウンドスケープ、ステレオ、メディア論、音響文化論
災害公営住宅の早期建設に向けた災害発生前に行う合意形成をはかるためのサウンドスケープの展開
鈴木波隆(九州大学大学院)
仮設住宅や災害公営住宅の分散によって、コミュニティの解体が起こり、その再建を困難にする。一方、災害公営住宅の早期建設には迅速な合意形成が不可欠である。本発表では、災害「前」の平時に着目する。サウンドウォーク等の手法を用い、地域住民が「街の音」という無形文化財を共有・継承するプロセスが、地域のアイデンティティを強め、事前の合意形成を促進するのではないか。サウンドスケープを通じたコミュニティの維持・継承の可能性を、災害復興の文脈から考察する。
キーワード:事前復興、災害公営住宅、地域コミュニティ形成
都市の記憶と感性的風景の形成―福岡港における花火大会の変遷に関する調査
魯牡丹(九州大学)
本研究は、福岡港で継続的に開催されてきた花火大会の変遷過程を調査し、その過程で再構築されてきた都市の記憶と感性的風景を探る。花火大会は、花火の爆音、波や風の音、観客の歓声などによって、その場ならではのサウンド環境を構成し、世代を超えて共有される都市の集合的記憶として蓄積されてきた。本研究では、サウンドスケープの視点から港の物理的環境と祭典のサウンド環境を分析し、これらの聴覚的経験が都市のアイデンティティや感情的連帯、さらには場所性の維持にどのような影響を及ぼしているかを考察する。
キーワード:場所性、サウンドスケープ、聴覚的経験、花火大会、福岡港