プログラム

2024年度 季研究発表会 プログラム

13:00 開会

一般報告

13:05 第1報告|松田 新史/山車まつり体験者におけるナラティブ分析に向けて―山車活動のワークショップを通して―

13:45 第2報告|久永尚生/畏敬の念を感じるためのサウンドスケープデザインの検討 傾聴態度の転換に着目して

14:25 第3報告|足立 美緒/自作品とサウンドスケープの関係性―創作者としての一視座から

15:05 休憩(15分)

総合討論

15:20~16:00 

16:00 閉会

※発表20分+質疑20分です。

 

報告要旨

一般報告

◇第1報告

山車まつり体験者におけるナラティブ分析に向けて―山車活動のワークショップを通して―

松田 新史(青山学院大学)

本論文は、2024年10月27日に予定している山車活動のワークショップから音環境の調査を実施することに向けての中間報告書である。現時点(2024年4月21日)での計画では、山車まつりに長く参加してきた方たちと、あまり経験のない方たちが、それぞれワークショップに参加した後に半構造化インタビューを行い、体験後にどのような影響がみられるのかを調査し、その語りをナラティブ分析していく。

「山車活動」における主な活動内容は、お囃子の練習、山車の飾り付け、山車の曳き回しや担ぎ上げ・担ぎ落とし等である。ワークショップで使用する山車は、知立市で毎年5月に行われている「知立まつり」で隔年に使用されている間車(あいぐるま)がモデルである。

筆者が当時沖縄で友人Gが始めた山車活動に興味を持ち参加したきっかけは、彼が地元のお祭りである「知立まつり」の写真や動画を見せながら話していた「山車が(担ぎ上げられてから)地面に落ちた時の音がすごくいいんだよ」という発言からであった。

サウンドスケープの先行研究における神田ニコライ堂の鐘の音をめぐる研究では、「身体」が「記憶」を蓄積する主体そのものであり、「音の風景」とは常に「過去の記憶」と「現在の事実」、さらには「未来へのイメージ」とが呼応し合う中に織りなされていくと述べられている。

知立まつりに参加した方たちは、山車について語る時に音についての話しをする。知立まつりをモデルにした、山車を用いたワークショップにおいて、山車まつりの未経験者は、山車活動の体験をした後に、どのような発言をするのか?「サウンドスケープは伝承できるのか?」というリサーチクエスチョンのもと、山車まつりにこれまで参加していた経験者と、未経験者の発言内容における差異について、文化的な視点に着目しながら考察していく予定である。

キーワード:山車まつり、ワークショップ、ナラティブ、記憶、サウンドスケープ

◇第2報告

畏敬の念を感じるためのサウンドスケープデザインの検討 傾聴態度の転換に着目して

久永 尚生(武蔵野美術大学)

畏敬の念とは、物事を理解する際に必要な参照の枠組みが拡大するときに感じる情動反応である。従来の枠組みでは理解できない現象に出会うと、枠組みに変更を加えることになり、そのときに畏敬の念を感じる。畏敬の念を感じると、各個人の自己への関心は減少し、利他的な行動が促されるという研究があり、環境教育や道徳教育において重要な概念とされている。

サウンドスケープ研究は、物理的な波としての音だけではなく、それらを聴く人々の内面的な要因によって音がどのように認識されるのか、人間の聴取や認知のメカニズムの解明と理解を目指している。そして、サウンドスケープという概念は、五感のうちこれまで視覚に頼ることであまり顧みられなかったその他4つの感覚の弱体化に警鐘を鳴らし、聴覚をきっかけとして、従来の認知の方法に揺さぶりをかけ、五感全体で周囲の環境を捉えようと呼びかけている。

本研究の目的は、畏敬の念とサウンドスケープ研究の、認知の枠組みの変更という共通点を手掛かりに、音環境への関心の高まりが認知の枠組みを拡大させ、畏敬の念を涵養することができるか検証することである。

著者は、音へ耳を傾けることで、視覚では捉えきれなかったこの世界の異なる層へ思いをはせる体験の提供を目指し、サウンドスケープと畏敬の念の研究を進めている。著者の研究作品と、約40名の鑑賞者から得られた作品へのコメントから、M-GTAを用いて概念を抽出する。それらの概念をより強く体験できる空間を制作し、体験者に対して、畏敬の念の体験を評価する尺度Awe Experience Scale (AWE-S)を用いた量的調査と、半構造化インタビューを行う。それらをもとに再び概念を抽出したのち、畏敬の念を感じるためのサウンドスケープデザインの可能性について議論する。

キーワード:畏敬の念、傾聴態度、音環境、公共空間

◇第3報告

自作品とサウンドスケープの関係性―創作者としての一視座から

足立 美緒(作曲家・サウンドデザイナー)

本報告は2023年11月に開催された展示『音場(OTOBA)~都心から一番近い森の記憶』を中心に、発表者自身による作品とサウンドスケープとの関わりについて、またサウンドスケープと創作について可能性と課題を考察するものである。

『音場(OTOBA)~都心から一番近い森の記憶』は千葉県流山市のスターツおおたかの森ホールにて行う音を聴くための企画として委嘱された。地域密着のホールの価値を考慮し、発表者のリサーチから流山市の街の発展と市内にある森の存在、そして両者のせめぎ合いという特色に着目し、立体音響システムにて「流山の森と街の音を聴く」ためのサウンドインスタレーション作品を含む展示イベントとして企画制作した。

発表者によるサウンドスケープと関連のあると考える作品は、必ずしも意識的にサウンドスケープを動機や目的にしたものではない。むしろ作品が要請する課題と向き合う際にサウンドスケープ的な要素に帰納的にたどり着いたと感じているが、そもそも展示される場所や企画におけるサイトスペシフィックな価値を検討すること、あるいは特定の土地や歴史といったテーマを掘り下げること自体がすでに文化的背景から音を捉えるサウンドスケープ的な姿勢であると言える。広範なテーマを包括するサウンドスケープを創作とどのように関連づけることが可能か、それが作品創作にどのような意義があるか、創作者としての一視座を共有する。

また『音場(OTOBA)~都心から一番近い森の記憶』や『空想の大陸―記憶の岩―』(2022年)で用いた立体音響が表現する没入感が、その土地の文脈への「想像」という体験に重要な役割を果たしたことから、サウンドスケープと音響技術の親和性についても指摘したい。

本報告は、サウンドスケープと創作の相互作用の可能性を模索する出発点であり、学術的な分析や体系化をするものではない。むしろ創作者として研究者との連携を探り、分析や体系化の意義の検討に繋がることを期待するものである。

キーワード:サウンドインスタレーション、作曲、立体音響、サウンドスケープ、フィールドレコーディング