プログラム

2023年度 秋季研究発表会 プログラム

13:00 開会

一般報告セッション

13:05 第1報告|三村 咲/サウンドウォークによる音響コミュニティ

13:45 第2報告|齋藤 佑真/増幅された音と,「聴く」ということ

14:25 休憩(15分)

ショートトークセッション

14:40 第1報告|鈴木 聖子/文楽のサウンドスケープ・デザイン

14:45 第2報告|ロ テンセキ・シュ ブンハン・長谷川 敦士/日本橋浜町の過去・現在・未来を音で繋ぐ ー浜町造園計画の紹介ー

14:50 第3報告|小西 潤子/生態音楽学のトレンド

総合討論

15:00~15:45

15:45 協会設立30周年記念「心に残る音風景」写真・動画募集事業の紹介

16:00 閉会 閉会

※発表20分+質疑20分です。

 

報告要旨

一般報告

◇第1報告

サウンドウォークによる音響コミュニティ

三村 咲(弘前大学)

本発表は,カナダの作曲家でR.M.シェーファー(2006)が提唱した「音響共同体:acoustic community」の概念を基盤に,新たな音響共同体を構築することを目的とする。

シェーファーが音響共同体の概念を現代のサウンドスケープに応用させ,提唱するために用いた重要なエクササイズがサウンドウォークである。作曲家ヒルデガード・ウェスターカンプ(2011)はサウンドウォークについて以下の3点を明らかにした。1)空間的なヒトの群れのかたちは問われない(1人でもペアでもグループでも良いということ);2)サウンドウォーク中は会話によるコミュニケーションがない;3)ひとり(単独)の集まりである。

生態人類学者の足立薫(2009)は,霊長類学者伊谷純一郎による集団社会における「非構造概念」を用いて,人類進化の過程における集団の形成について論じている。足立の述べる混群及び非構造の概念と,シェーファーの行ったサウンドウォークにおける共同体(コミュニティ)の構造には以下の共通点が見られる。

1)空間的なヒトの群れのかたちが問われないことついては,混群では空間的にくっついたり離れたりを繰り返して,輪郭のない変動をし続けるゆるいまとまりとして存在している。

2)サウンドウォーク中は会話によるコミュニケーションがないということについては,親和交渉を頻繁に行うことによって形成される親密な集団,あるいは,敵対的交渉の積み重ねから見えてくる厳しい順位序列に支配されている専制的な集団のどちらでもない。

3)ひとり(単独)の集まりであることについては,集団にとどまらず,集団からの離脱や単独性といった現象がある。

以上を踏まえ発表者は2023年3月と10月に青森県弘前市にて市民を対象としたワークショップ「オンガク—はなす・きく・たわむれる—」を2回実施した。本発表では,文献調査による音響共同体の再考と,ワークショップの参加者たちの半構造化インタビューの分析から,音楽とコミュニティについて更に論証する。

キーワード:音響共同体、サウンド・エデュケーション、コミュニティ音楽

◇第2報告

増幅された音と,「聴く」ということ

齋藤 佑真(弘前大学)

スピーカーのようなシステムは,人間の声を拡張するという意味で,マーシャル・マクルーハン(1987)のいうメディアである。例えば全社集会で話す社長は,その声をスピーカーで拡張すると同時に,自身の声を自身の体から切り離し,自身ではないものへの自分の拡張を行い,感覚知覚を外化し,スピーカーからの声を自身の身体に置き換えることによって新しい均衡を図る。逆にその時社員の側が自由にマイクを使うことはできず,スピーカーによって増幅された社長の声を一つの権威というメタファーとして知覚し,それを抱えることで身体的な新しい均衡を生み出す。こうしたメタフォリカルな解釈によって,声を大きく響かせるというスピーカーが及ぼす変化そのものが見えなくなる。マクルーハンはメディアのこうした「内容」ではなく「形式」を捉える重要性について言及した。本研究では,以上の観点を参考に身近な環境のフィールド・レコーディングを行い,増幅された音とその元となる音の関係を捉える試みを行なった。レコードという音媒体は,音の振動が刻まれた樹脂製の円盤である。その削り跡に針を擦ることによって記録された振動が再現され,それを電気信号に変換し,アンプによって増幅することで音が聴こえるようになる。しかし当然のことながら,増幅される前の小さな振動は存在し,アンプに電源を入れずに針の近くに耳を傾けると,小さな音が確かに鳴っていることに気づく。同じくマイクは音の空気振動を電気信号に変換し,それを増幅する装置であるが,通常人間の耳では聴こえない音や方向性をもたらしている。あらゆる音事象の中で,増幅された音がもたらす身体的な感覚は,フィールド・レコーディングにおいて,日常の「聴く」行為と併存させた時に一種の違和感として現れる。私たちが増幅された音を聴き,そこで身体の新たな均衡を生む時,何が見失われているのかについて考察した。

キーワード:フィールド・レコーディング,増幅,マクルーハン,メディア

ショートトーク

◇第1報告

文楽のサウンドスケープ・デザイン

鈴木 聖子(大阪大学)

日本の伝統的な「音」をサウンドスケープとして再解釈する試みは行われてきた。しかし、 日本の伝統音楽をサウンドスケープの観点から総合的・実践的に捉えなおそうとすることは、まとまった形では行われてこなかったように思う。本発表は、発表者が2022年度から大学のゼミで『世界の調律』の邦訳の講読と文楽の実習を通して試み始めた、伝統音楽をサウンドスケープ・デザインによって楽しみ理解するための実践について紹介したい。

キーワード:伝統音楽、義太夫節、聴衆、邦楽教育、無形文化財

◇第2報告

日本橋浜町の過去・現在・未来を音で繋ぐ ー浜町造園計画の紹介ー

ロ テンセキ(武蔵野美術大学)・シュ ブンハン(武蔵野美術大学)・長谷川 敦士(武蔵野美術大学)

本研究では、東京駅至近の伝統と現代が共存する日本橋浜町をフィールドとして、かつて浜町に流れていた人口の川である浜町川を起点にして音源制作を通じて町にある可能性を探求した。グローバル化と地域性、住民と観光客という二つの軸がぶつかり合い、交差し、共存する多様な力場である日本橋浜町をドキュメントしつつ、ひとつの楽曲のなかに再構築するにより、町の内部と外部の関係性を提示した新たなサウンドスケープを紹介する。 

キーワード:日本橋浜町、グローバル化、都市観光 、文化的持続性、浜町造園計画

◇第3報告

生態音楽学のトレンド

小西 潤子(沖縄県立芸術大学)

生態音楽学 Ecomusicology は、エコクリティシズムの影響を受けて近年提唱されるようになった学際的分野で、M. シェーファーのサウンドスケープ研究もそのルーツの1つである。本発表では、Oxford University Press より本年9月に刊行されたA. S. Allen A& J. T. Titon eds., Sounds, Ecologies, Musics をもとに、 そのトレンドについて紹介する。

キーワード:生態音楽学 Ecomusicology