13:00 開会
一般報告セッション(1)
13:05 第1報告|中澤宗太郎、塩川博義、豊谷純、中川一人/風鈴の発音性状に関する研究-有限要素法による固有振動解析-
13:45 第2報告|高尾美穂、塩川博義/風鈴の音に対する印象評価の因子分析に関する研究
14:25 休憩(15分)
一般報告セッション(2)
14:40 第3報告|久永尚生/火星でピアノを鑑賞する方法の研究:スペキュラティヴ・デザインのアプローチを用いて
15:20 第4報告|小澤俊太郎・久米隼/「保育所保育指針」におけるサウンドスケープに関する記述の位置づけとその意義
総合討論
16:00~16:30
16:30 閉会
※発表20分+質疑20分です。
◇第1報告
風鈴の発音性状に関する研究-有限要素法による固有振動解析-
中澤宗太郎(日本大学)、塩川博義(日本大学)、豊谷純教授(日本大学)、中川一人(日本大学)
日本の伝統的建築は遮音性能が低く、中と外の音が共存していた。しかし近年では密閉性の高いコンクリートやサッシが用いられるようになり、内外の音が分離しているのが現状である。また現在、環境共生住宅の重要性が謡われているが、風鈴を縁側に吊るし涼しさや静けさを感じることは日本の伝統住宅における環境共生の文化である。
本研究では、風鈴の音を心理的なアプローチと物理的なアプローチの両方から分析して、両者の関係性を比較検討することを目的にしている。
前報では、風鈴の音に対するSD評価アンケートを基に因子分析を行った結果、20ある表現語は、「美・叙述的因子」、「快適・日常因子」、「賑やかさ・明るさ因子」、「材質・素材に関する因子」の4つの因子に分類されることを明らかにした。また、物理的アプローチとして、14種類の風鈴の音に対する周波数特性を求めて考察している。
本報では、さらに物理的アプローチとして、金属製風鈴の3Dモデルを作成し、それを用いて音響シミュレーション解析を行い、風鈴の音響的構造を解析する。風鈴の発音性状について有限要素法を用いて固有振動解析を行い、倍音成分や「うなり周波数」に着目して、実際にその風鈴の音を録音して求めた測定値と比較検討し、風鈴の発音性状の特徴を分析する。
3Dモデルを作成する際、より正確にシミュレーションするために、簡易な形状から、実物形状に従ってモデルを意図的に歪ませたもの、装飾を加えたものなど様々な形状を作成して比較検証した。その結果、南部風鈴の基本周波数においては、縁(梵鐘における「駒の爪」部分)の厚さを歪ませることで実際の風鈴が出す「うなり周波数」に近づいた。また、装飾を加えても大きな相違は見られなかった。
キーワード:風鈴、うなり、シミュレーション、3Dモデル
◇第2報告
風鈴の音に対する印象評価の因子分析に関する研究
高尾美穂(日本大学)、塩川博義(日本大学)
日本の伝統的な住宅では、ふすまや障子を利用することによって外の音が家の中にまで入るようになっていたが、現代の日本の住宅では、内と外とが厚い壁で隔てられ、そのような機会は少なくなってきている。本研究では、住宅の内と外とをつなぐ役割を持つ風鈴の音に対する心理的評価および物理的評価を行っている。
本報では令和3年度および令和4年度に行った風鈴の音に対するSD評価アンケートを基に因子分析を行い、令和4年度に新たに追加した8種類の風鈴について音響解析を行ったので報告する。
令和3年度に103名に対して行った6種類の風鈴の音に対するSD評価アンケートから因子分析をした結果、20個の表現語は大きく「美・叙述的因子」、「快適・日常因子」、「賑やかさ・明るさ因子」、「材質・素材に関する因子」の4つの因子に分かれた。そして、令和4年度の6人の被験者を対象に、前年度から8種類の風鈴を加え、14種類の風鈴の音に対するSD評価アンケートから因子分析をした結果、21個の表現語は大きく、「美・叙述的因子」、「日常因子」、「賑やかさ・明るさ因子」、「材質・素材(質感)に関する因子」、「材質・素材(重量感)に関する因子」の5つに分かれた。これらのことから、令和4年度は「材質・素材に関する因子」が質感と重量感に分かれたが、いずれも「材料・素材に関する因子」なので、風鈴の音に対する表現語は大きく「美・叙述的因子」、「快適・日常因子」、「賑やかさ・明るさ因子」、「材質・素材に関する因子」の4つの因子に分類できる。
また、風鈴の音に対する「涼しい」という評価は、SD評価において、「暖かい―冷たい」の評価軸の「冷たい」寄りに位置すると考えることができる。因子分析では、「暖かい」は材料・素材に関する因子に含まれていることから、風鈴の音を聴くことで風を感じ、涼しさを感じているだけではなく、氷がガラスや陶磁器などの器に当たってカランと鳴るような音をイメージして「涼しい」と感じている可能性も考えられる。
キーワード:風鈴、音印象評価、因子分析、音響解析
◇第3報告
火星でピアノを鑑賞する方法の研究
スペキュラティヴ・デザインのアプローチを用いて
久永尚生(武蔵野美術大学)
本研究は、来るべき宇宙時代に備え、地球以外の場所での音環境への理解を深めるべく、火星でピアノライブを行うにあたって考慮すべき点を整理し、起こりうる演奏・鑑賞体験を提示することを目的としている。また同時に、一見奇妙な体験をスペキュラティヴ・デザインという手法と通じて提示することで、私たちに身近な地球環境におけるサウンドスケープや、今大きく進展している宇宙開発への関心を高めることも狙っている。スペキュラティヴ・デザインの概要を説明したのち、火星の音環境について考察し、ピアノ演奏方法や鑑賞方法がどのように変わる可能性があるのか、その射程範囲を示す。その後、火星でピアノ演奏を楽しむためのスペキュラティヴ(思索的)な方法を提案し、実際に作品として観客に向けて鑑賞体験を提供して、インタビューを行う。観客から得られた意見などをもとに、スペキュラティヴ・デザインの手法を用いた火星の音環境を体験できる作品が、火星環境への理解を深めたか、そしてサウンドスケープという概念や宇宙開開発への関心を高めたか検討する。それらの検討をもとに結論を導き、その意義や今後の展開について記す。
キーワード:宇宙開発、サウンドスケープ、スペキュラティヴ・デザイン、楽器、音響文化
◇第4報告
「保育所保育指針」におけるサウンドスケープに関する記述の位置づけとその意義
小澤俊太郎(埼玉純真短期大学)・久米隼(埼玉純真短期大学)
本研究は「保育所保育指針」においてサウンドスケープに関する記述を整理し,その位置づけと意義について考察することを目的としている。
保育所保育指針は,保育所保育について厚生労働省が定めた指針であり,子どもの発達段階を「乳児」,「1歳以上3歳未満児」,「3歳以上児」に分け,各段階において保育のねらいや内容を「健康・人間関係・環境・言葉・表現」の5つの領域(5領域)ごとに示すほか,すべての保育所が遵守するべき最低基準を示している。
そこで本研究では,保育所保育におけるサウンドスケープについて検討するにあたって,「保育所保育指針」や「保育所保育指針解説」等を用いた文献調査ならびに先行研究をもとにサウンドスケープに関する記述について,整理したのち分析を試みた。
同指針及び同指針解説における「音」という単語が用いられている箇所として,領域「表現」では,「風の音や雨の音」や「自然の中にある音」といった記述が確認された。その他の記述箇所として,領域「環境」においては,「音の出る玩具の場合はその音質や音量が子どもにとって心地よいと思われるものであること」 といった記述を確認した。
また,子どもの生活の場といった側面もある保育所は,その「環境及び衛生管理」についても同指針で定めており,施設内の音や声の大きさなどにも配慮して,常に適切な状態に保持することを求めていることを確認した。
これらの整理と分析を通した研究の結果,同指針においては「音」という単語が計12箇所確認され,領域「表現」及び「環境」の内容,ならびに「環境及び衛生管理」に関する項目で扱われていた。特に「すべての発達段階」において「子どもの生活環境における音」に関する記述がみられ,サウンドスケープを彷彿とさせる位置づけが多いことが明らかとなった。このことから,子どもの生活環境におけるサウンドスケープを検討する上で重要な意義があると考えられる。
キーワード:保育所保育指針、保育所保育指針解説、保育所、サウンドスケープ