13:00 開会
一般報告セッション(1)
13:10 第1報告| 三村 咲/新たな音響共同体の構築
13:45 第2報告| 小澤俊太郎・久米隼/幼稚園教育とサウンドエデュケーションのかかわり
14:20 第3報告| 岩水岳喜・高田正幸/聴覚過敏者が捉える大学キャンパスの音環境の特徴
ショートトークセッション(1)
14:55~15:15
第1報告| 久永尚生/音を通じて町の風景を異化する試みの紹介 ―北海道森町を事例として―
第2報告| 五十嵐美香/“聴く主体”と音との関係性を探る―福島駅周辺における古関メロディ使用の現状から-
15:15 休憩(15分)
一般報告セッション(2)
15:30 第4報告| 土田義郎・田中唯斗・溝口剛嗣/風鈴の音色の分析 物理的特徴からの考察
16:05 第5報告| 大門信也・箕浦一哉・兼古勝史/遠州灘沿岸における「海鳴り」の音響体的特徴の考察――2022年の現地観察記録および録音データにもとづいて
ショートトークセッション(2)
16:40~17:00
第3報告| 石橋幹己/『鉄道唱歌』成立前夜―路上で歌う―
第4報告| 大浦瑞樹/音にヘゲモニーはあるか?―日中戦争とウクライナ・ロシア戦争の比較分析―
総合討論
17:00~17:30
17:30 閉会
※一般報告は発表20分+質疑15分、ショート・トークは発表5分です。
◇第1報告
新たな音響共同体の構築
三村 咲(弘前大学)
本論文では,カナダの作曲家であるR.マリー・シェーファーが著書『世界の調律』(2006)で述べる「音響共同体:acoustic community」から,新たな音響共同体の構築に向けて考察した。共同体(コミュニティ)と音楽は,これまで例えば民族音楽学が研究対象としてきた, 西洋クラシック音楽やポピュラー音楽などを除く, 非西洋の音響文化など,特定のコミュニティと密接にかかわってきた。つまり,音楽は常に特定のコミュニティとの関係性において存在してきたとも考えられる。一方でシェーファーは,共同体について,政治的,地理的,宗教的,社会的な存在として定義づけするだけでなく,「聴覚的にも定義づけされ得る」と述べる(シェーファー,2006)。さらにシェーファーはサウンドスケープ論を提唱した後,広義の音楽教育と関わり続け,それを「コミュニティ音楽」と呼ばれる活動に発展させた(若尾裕,2011)。このことより音響共同体を応用して行われたサウンドウォークから,シェーファーの提唱する音響共同体を再考する。以上から,本研究では,文献調査を基盤にシェーファーの音響共同体を改めて検討し直し,新たな音響共同体のかたちを考察する。さらに,シェーファーがサウンド・エデュケーションとして行なっていたコミュニティ音楽の活動から,コミュニティと音楽の関係を改めて見直し,新たな音楽を創造する音楽活動を模索する。そして,弘前大学教育学部附属四校園で行われた合同研究会のサウンド・エデュケーションを分析するとともに,音楽教育における新たなコミュニティ音楽のデザインについて考察する。
キーワード:音響共同体,サウンド・エデュケーション,コミュニティ・ミュージック
◇第2報告
幼稚園教育とサウンドエデュケーションのかかわり
小澤俊太郎(埼玉純真短期大学)・久米隼(埼玉純真短期大学)
幼稚園教育における教育内容の基準として,文部科学省から示されている「幼稚園教育要領」(2017(平成29)年告示)において,生きる力の基礎を培うための5つの重点領域として,5つの領域(以下,「5領域」)が規定されている。
この領域の1つとして設定されている「表現」において,「自然の中にある音などに気づくこと」が示されており,「きく力」を重要視する「サウンドエデュケーション」に通じる考えであるといえる。
そこで,本研究では,領域「表現」とサウンドエデュケーションとのかかわりについて,領域の変遷や幼稚園教育要領および幼稚園教育要領解説のなかにおける記述を整理し,幼稚園教育の担い手である「幼児教育者」を養成する教職課程での扱いについて考察することを目的とし,文献をもとに調査をおこなった。
文献調査の対象として,領域「表現」に関する文献については,現在,数多くの教科書や書籍が出版されていることを踏まえ,筆者の勤務校が所在するS県内にある教職課程を設置する,すべての高等教育機関で「領域及び保育内容の指導法に関する科目」として設定されている該当科目の指定教科書・参考図書等として各養成校が採用している書籍を用いた。
また,なるべく条件を同一とするため,高等教育機関のなかでも「短期大学」もしくは「短期大学部」に絞ることとした結果,7校を対象とし,各養成校の名称は伏せた上,個別の情報は最小限にした。
これらの調査の結果,幼稚園教育の領域「表現」においては,環境や音に気づくことを通して,感性を育てるという内容が示されているが,一方で,幼稚園教育の担い手である「幼児教育者」を養成する教職課程では,音をきくことについて触れられているものの,領域「表現」におけるサウンドエデュケーションを取り扱う割合は,十分とは言い難い結果となった。
キーワード:幼稚園教育要領,幼稚園教諭養成課程,サウンドスケープ,サウンドエデュケーション
◇第3報告
聴覚過敏者が捉える大学キャンパスの音環境の特徴
岩水岳喜(九州大学)、高田正幸(九州大学)
近年,大学において発達障害を持つ学生は増加傾向にあり,発達障害学生への支援の必要性が説かれている。発達障害の症状のひとつに,聴覚過敏という音に過敏に反応してしまう症状があり,聴覚過敏の特性を持つ学生に配慮した空間づくりが必要とされている。しかしながら,聴覚過敏の特性を持つ学生および教職員が,大学キャンパスの音環境にどのような問題を感じているかは明らかになっていない。このような背景のもと,本研究では,聴覚過敏の特性を持つ学生および教職員が大学のキャンパスの音環境についてどのように感じているのかを明らかにするため,九州大学の学生および教職員に WEB フォームを用いたアンケート調査を行った。アンケートは,回答者の個人属性に関する質問,回答者の聴覚や聴取の状態および発達障害に関する質問,回答者の音の感じ方に関する質問,回答者が普段利用しているキャンパス内の快適な場所および不快な場所の快適度,満足度,その場所で聞こえる音源についての質問で構成された。回答者の聴覚や聴取の状態および発達障害に関する質問には,Khalfa Hyperacusis Questionnaire(KHQ)日本語版およびWeinstein Noise Sensitivity Scale(WNS)で用いられる質問項目が含まれた。合計89件の回答が得られたが,その多くは九州大学大橋キャンパス内の場所に関する回答であった。分析の結果として,KHQのスコアとWNSのスコアの間には統計的に有意な相関が認められ,聴覚過敏の傾向が強いほど,騒音感受性も強いことがわかった。キャンパス内で聞こえる音の中で,聴覚過敏の特性を持つと考えられた回答者が不快に感じる音には,「大勢の会話や人混みの声」といった人為的な音,「建設工事の音」といった一般的に騒音とみなされるような音に加え,「時計の秒針の音」といった、通常は音圧レベルが小さく,騒音とはみなされないような音も含まれた。
キーワード:聴覚過敏,アンケート調査,音環境,騒音感受性
◇第4報告
風鈴の音色の分析 物理的特徴からの考察
土田義郎・田中唯斗・溝口剛嗣(金沢工業大学)
風鈴は音によって清涼感を得る日本の伝統的音具である。本研究は風鈴の音を物理的に分析することでその音色を定量的にとらえることを目指している。まずは1回の打撃によって発生する音を対象とした基礎的な分析を行う。音の高さの知覚となる基本周波数、うなり周波数、余韻の長さを示す減衰時間、高調波の分布を示すスペクトル重心などを求める。その結果、基本周波数はほぼ2000-4000Hz の間にあり、小ぶりな金属製のものが高い周波数となった。うなりはみられないものもあり、80Hz を超すものもあり、ラフネスと類似する傾向が見られた。減衰時間は0.2-15 秒(60dB 減衰時間)と幅がある。ガラスは短く、金属は長い。スペクトル重心と基本周波数の比は音色の複雑さを示す。これらの分析値を用いることで風鈴の音色の基礎的な部分を特徴づけることができることが判明した。実際には、絶の材質や形状、短冊の面積や形状そして風のあたり方によって時間的な変化が生まれ、風鈴の音の全体的な聴覚的印象が形成されると考えられる。
キーワード:風鈴、基本周波数、減衰時間、スペクトル重心、うなり
◇第5報告
遠州灘沿岸における「海鳴り」の音響体的特徴の考察
――2022年の現地観察記録および録音データにもとづいて
大門信也(山梨県立大学)・箕浦一哉(関西大学)・兼古勝史(放送大学)
遠州灘地域につたわる海鳴り・波小僧伝承は、波音から天候を予測する観天望気の筋立てをもつことから、海と人びととの相互作用を知るための貴重なサウンドスケープ研究の題材といえる。またこの波音は、海岸線から25km以上も離れた内陸部にまで届くとされるなど、音事象としてだけではなく、音響体としての特徴も際立っている。ここで音響体とは、サウンドスケープ研究において、社会・文化的意味を含む音事象としての側面から切り離された、音の音響構成的側面に着目する概念である。遠州灘沿岸の波音は、特徴的な音響体であることが指摘されながらも、線音源説など若干の理論的検討が残されているだけで、観察記録にもとづく詳細な記述や分析は十分に蓄積されていない。そこで本報告では、この伝承の存在論的な基盤である波音、とくに「海鳴り」現象について、その音響体としての特徴を、筆者らと住民による現場観察にもとづいて検討する。
「海鳴り」現象は、波打ち際で聞こえる波音と異なり、基本的に中低音域の持続音(時間的変化がなく定常音的)であると考えられる。住民によれば、とくに「波小僧」と呼ばれる波音は、前述の「海鳴り」が聞こえるなかでさらに「太鼓」を想起させるような断続的な低音の衝撃音の事を指すといわれる。実際の観察でも「どど」や「ごろごろ」「ごごんご」といった言葉で低音部の断続音が記録されている。さらに住民の観察記録によれば、海鳴りは20km地点でも観察された。ただし波小僧伝承が残る25km地点では、現時点では過去に聞こえたという住民の証言が得られているのみである。さらにこうした海鳴りは、周波数や時間的変化の特性から、道路交通騒音や航空機騒音と類似しており、両者が聞き分けにい状況も発生する。他方で、前述の広範囲な伝搬や可聴域など、海鳴りならではの特徴もあり、地域固有の基調音として、現在でもこの地の音風景の「地」を構成していると考えられる。
キーワード:波音、波小僧、音響体、基調音
〇第1報告
音を通じて町の風景を異化する試みの紹介
―北海道森町を事例として―
久永尚生(武蔵野美術大学)
本発表では、森町を舞台に、音を通じて町の景色を異化し、地域固有の価値を再認識してもらうことを試みた3つの活動を紹介する。1:音のワークショップを開催し、森町の音を住民からヒアリング。2:それらの音などを録音して地図にマッピングし、音地図をウェブで公開。3:収録した音や当時の環境を文章化し、文字から画像を生成する人工知能を用いて、音を起点に森町の風景画を生成。見慣れた景色を一変させる試みの、背景や成果物を報告する。
〇第2報告
“聴く主体”と音との関係性を探る
―福島駅周辺における古関メロディ使用の現状から-
五十嵐美香(お茶の水女子大学)
福島市では1979年に市出身の作曲家、古関裕而氏が名誉市民に推戴されて以来、駅周辺の複数地点に彼が作曲したメロディ、いわゆる“古関メロディ”が設置されてきた。それらは、時計塔、古関裕而記念館、生誕記念碑、東西駅前モニュメント、福島駅発車メロディ、メロディーバス等、多様な場に存在しており、実際に街を歩くとメロディを頻繁に耳にする。本発表では、周辺でのメロディ使用変遷やメロディを軸とした街づくりやイベント等に関する資料調査、そしてフィールド調査で接した地域の人々や観光客とメロディの関わりを前提としながら、現時点での報告、そしてサウンドスケープ研究領域における今後の調査観点の検討を行う。
キーワード:福島、古関メロディ、関係性
〇第3報告
『鉄道唱歌』成立前夜―路上で歌う―
石橋幹己(国立劇場)
国立劇場では、今年7月9日に特別企画公演「鉄道唱歌―明治の音楽と鉄道―」を開催しました。『鉄道唱歌』は明治33年(1900)に成立しますが、一体どのようにして誕生したのか。落語・義太夫節・俗曲・流行り唄・法界節・壮士演歌といった江戸時代の芸能の系譜をたどりながら実演とともに紹介します。その際、「出版物を街頭で歌う」という明治期ならではの音楽文化と交り発展した経緯に着目します。『鉄道唱歌』は、読売や壮士演歌など路上で歌う文化を背景に成立しました。
キーワード:鉄道唱歌、唱歌集、三木書店(三木楽器)
〇第4報告
音にヘゲモニーはあるか?
―日中戦争とウクライナ・ロシア戦争の比較分析―
大浦瑞樹(所属なし)
研究報告者はこれまで大日本帝国における空襲警報を兼ねたサイレンのサウンドスケープに着目し、日中戦争下、とりわけ国民精神総動員運動期は、むしろ帝国の神器として機能したと指摘した。しかし、2022年2月、ロシアによるウクライナ東部侵攻から始まったウクライナ・ロシア戦争において、空襲警報のサイレンが形成する音空間はウクライナ市民にとって死傷と恐怖の表象として聴取された。
本報告は日中戦争下の大日本帝国とウクライナ・ロシア戦争下のウクライナにおけるサイレンの聴取言説を比較し、音空間を形成するヘゲモニーの存在を示唆する。
キーワード:サイレン、空襲警報、サウンドスケープ、ウクライナ、ヘゲモニー