細胞膜は、分子の膜局在やアクチンフィラメントの重合、分子モーターの作用などにより時に動的に変形する。特にエキソ/エンドサイトーシスでは、形のトポロジーが変わるほどの劇的な変形が現れる。それらの変形に関わる重要な遺伝子・分子の解明は進んできたが、シグナル因子と協働してどのように細胞膜が特定の形状に自己組織化するのかという理解は十分ではない。これらの問題に対し、細胞膜上のシグナル因子の反応拡散現象と細胞膜の変形をモデリングし、細胞変形の基本原理を解明する研究を行なっている。
[Saito & Sawai (2021) iScience; Imoto, Saito et al, (2021) Plos Comp; Honda, Saito et al, (2021) P.N.A.S; ]
機械学習を応用し、細胞の形状を計量、実験とシミュレーション結果をシステマティックかつ客観的に比較する手法を開発している。
[Imoto, Saito et al, (2021) Plos Comp; Tsutsumi, Saito, Koyabu, Furusawa, (2022) bioRiv; ]
発生過程や組織形成、創傷治癒などに代表される不均一な細胞集団から成る多細胞動態では、多様な細胞が複雑に相互作用し合い集団としての機能を果たす。このような状況で細胞の移動、変形、分裂/消滅、がどのように組織全体の変形と関係するのか、細胞スケール(ミクロ)と組織スケール(マクロ)を跨いだ解析は発展の途上にある。近年、実験技術やデータ解析技術は飛躍的な発展を遂げたが、現象の背後にあるメカニズムや因果の理解は不十分であり、これらを統合する数理モデリングによるアプローチが重要となる。
現在、フェイズフィールド法と呼ばれる数値計算手法を用いて、細胞性粘菌の集団運動を対象として多細胞モデリングを行なっている。同時に、数千細胞のシミュレーションを可能にする理論的フレームワークも開発している。
細胞内で起こる化学反応ではしばしば、反応に関与する分子の数が少数になることがありうる。こうした状況では分子の離散性・少数性に起因する確率性が無視できなくなり、従来の反応速度論的描像が破綻する。この少数性効果の基礎理論の構築や、キネシンによる協同的な微小管輸送現象への応用などを進めている。
[Saito & Kaneko (2015) Phys. Rev. E; Saito, Sughiyama & Kaneko (2016) J. Chem. Phys.; Saito & Kaneko (2017) Sci.Rep; ]
遺伝暗号の進化、揺らぐ環境における進化の数理モデル、シグナルネットワークや遺伝子制御ネットワークの進化のモデルなど、数理モデルを用いた進化ダイナミクスや細胞分化過程の解析を行なっている。遺伝的アルゴリズムによる解析だけではなく、統計力学で発展したマルチカノニカルモンテカルロ法を用いた解析などを行い、進化がどのような方向に進みやすいかなどの研究も行なっている。
[Yamagishi, Saito & Kaneko (2016) Plos. Comp.; Saito, Ishihara & Kaneko (2015) New J. Phys.; ]