(このページはブログのクローンです。)
SIRILはフランスで開発されたフリーの天体画像処理ソフトです。
フリーのPixinsightと呼ばれているという評判もありますが処理のアプローチは似ているようです。
最近のバージョンアップでかなり使いやすくなりました。
メニューは一部が日本語化されています。
通常はスクリプトを走らせて自動処理するのが楽なのですが、以下に完全に手操作で処理する場合について解説しています。
なお、最後にもコメントしていますが以下のように全プロセスを手操作だけ処理する必要はありません。
あくまでも仕組の理解のための解説です。
実際にはスクリプトで処理した上で、必要なプロセスのみその部分だけを後から手操作で処理するのが合理的です。
スクリプトによる処理手順は別のページで説明しています。
しかしスクリプトだけに頼っていると常にファイル変換から開始するので一部の処理をやり直す場合に非効率です。
また彗星の場合、メトカーフ合成の必要があるのでスクリプトだけでは処理できないので少なくとも一部を手操作で処理する必要があります。
なおDSSとの比較ですが高速な分だけ個人的にはDSSよりもSIRILに軍配をあげます。
私はここ最近、DSSを使っていません。
SIRILは以下からダウンロードできます。Win Mac Linuxの各々がサポートされています。
以下の解説の前提ですがデジ一眼(DSLR)のRAWデータ処理です。
作例はC/2020F3 NEOWISEです。
LX-200 10" F6.3 2020/07/20 21:57(UT)
EOS 6D(無改造) ISO3200 15" exposure x 61 frames
この当時のフラットはDSSで処理してマスターフラットのTIFファイルを作成した後、元のRAWデータは削除していたのでもはや手元にありません。
仕方なく最近のフラットで流用していますが当然、以前に無かったゴミやOAGの影が入っているため不適切なフラットです。
ご容赦ください。
対象天体の画像以外にバイアス、フラット、ダークの画像データがあるものとします。
以下が手順です。
1 バイアス画像のスタッキング --- RAWからFITへの変換
SIRILは一旦、画像データをすべてFITファイルに変換します。変換するファイルを読み込むためのダイアログを開くために変換タブで黄色の丸で囲まれている+アイコンをクリックします。
2 バイアス画像のスタッキング --- RAWからFITへの変換 (ファイル選択)
biasの画像ファイルを保管したフォルダーを開けて、読み込むファイルをクリックで選択しますが、シフトキーを押して範囲指定すれば複数ファイルを一度に選択できます。わざわざここで説明するまでもない一般的なお作法なのでご理解と思います。選択したファイルはブルーに反転します。追加ボタンをクリックします。
3 バイアス画像のスタッキング --- RAWからFITへの変換 (ファイル選択完了)
変換タブに選択したbias画像ファイルの一覧が表示されます。
4 バイアス画像のスタッキング --- RAWからFITへの変換 (画像シーケンス名)
画像シーケンス名に任意のファイル名を入力します。わかりやすいようにbiasとするのが一般的でしょう。ここにファイル名を入力するとConvertボタンが青くなりクリックできるようになりますのでクリックします。
5 バイアス画像のスタッキング --- RAWからFITへの変換 (変換開始)
タブがConsoleに変わって処理が実行されます。完了すると実行時間が表示されてとまります。結果はデフォルトフォルダーに保管されています。デフォルトのフォルダーについては別のページを参照ください。
6 バイアス画像のスタッキング --- スタッキング (シーケンス確認)
この手順は不必要ですが画像シーケンスのタブを見てみましょう。画像シーケンスはbias_.seqとなっています。通常、シーケンス名は直前に処理したファイル名_.seqとなります。シーケンス名とは一連のファイルのまとまりの名前です。処理が進むにつれて次々にシーケンスファイルが生成されます。処理の都度、対象になるファイルを手作業で選択する代わりにシーケンス名を指定すると自動的に対象となるファイルに対して処理される仕組みです。
これからFITフォーマットに変換したファイルをひとつのファイルにスタックするので、ここで正しいシーケンスが選択されている事を確認しただけです。
7 バイアス画像のスタッキング --- スタッキング (スタッキングの設定)
重ね合わせタブを開きます。画像によってパラメータを選ぶ必要がありますが、biasの場合は以下の通りです。
方法 ......... Average stacking with rejction
Normalization ............. 正規化なし
Rejection ........... Winsorized sigma clipping
重ね合わせ開始ボタンをクリックしてスタッキングを開始します。
8 バイアス画像のスタッキング --- スタッキング (スタッキング完了)
スタッキング完了。SILILでは何らかの処理を実行する都度、Consoleタブに処理過程のログが表示されます。
これでbiasファイルの準備完了。
9 バイアス画像のスタッキング --- スタッキング (生成されたファイルの確認)
デフォルトフォルダーにFITフォーマットに変換された各画像ファイルとそれらがスタックされたbias_stacked.fitというファイルが出来ています。
10 ダーク画像のスタッキング
変換タブに戻って黄色の丸で囲まれたボタンをクリックすると上のファイル一覧が消去されます。
この後の手順は基本的に1から9までと同じです。ただし画像シーケンス名を変更する必要があります。普通はdarkという名前をつけます。ここで画像シーケンス名を変えないと直前の画像シーケンス名がそのまま適用されるのでdarkという名前のついたbiasデータが生成されてしまいます。
なおスタッキングの際のパラメータはbiasの場合と同じです。
方法 ......... Average stacking with rejction
Normalization ............. 正規化なし
Rejection ........... Winsorized sigma clipping
11 フラット画像のスタッキング --- 前処理
フラット画像には前処理が加わります。1から6までの処理をフラット画像にも行った後、前処理のタブを表示します。
フラット画像の前処理はbiasの補正です。Biasを使用をクリックして選択した後、右側のフォルダーアイコンをクリックします。
12 フラット画像のスタッキング --- biasファイルの選択
ファイル選択のダイアログがオープしますからスタックされたbiasファイルを選択します。シーケンス名をbiasにしていればファイル名はbias_stacked.fitになっていますから、これをクリックして選択し、右下の開くボタンをクリックします。
13 フラット画像のスタッキング --- 前処理開始
前処理開始ボタンをクリックしてください。
14 フラット画像のスタッキング --- 前処理完了
前処理が完了しました。
15 フラット画像のスタッキング --- スタッキング (スタッキングの設定)
パラメータが少し違います。
方法 ......... Average stacking with rejction
Normalization ............. Multiplicative
Rejection ........... Winsorized sigma clipping
違いですが、理由は知りません。スクリプトではそうなっているのでそれに倣っての設定です。
重ね合わせ開始ボタンをクリックしてスタッキングを開始します。
完了するとbias、dark、flatの3つのファイルが揃った事になります。
次はいよいろ天体画像の処理ですがflat同様に1から6までの処理をフラット画像にも行った後、前処理のタブを表示します。
なおシーケンス名はlightにしましょう。
16 天体画像のスタッキング --- 前処理
処理に使うのはDarkとFlatです。Biasは使いません。
使用するファイルは以下の通りです。
dark_stacked.fit
pp_flat_stacked.fit
前処理を行ったファイルは前にpp_がつくのがデフォルトの設定です。
その他のパラメーターはスクリーンショットと同じにしてください。
ここでいよいよディベイヤーするので処理開始ボタンの右の「保存する前にディベイヤーする」をクリックして選択しておきます。
前処理開始のボタンをクリックします。
17 天体画像のスタッキング --- 整列(設定)
整列のタブを開きます。
対象は彗星なのでメトカーフ合成を行うのですが、一旦は通常の恒星位置での合成を行います。
整列方法はGlobal Star Alignment (deep-sky)を選択します。
後のパラメータはスクリーンショットのままです。
整列開始ボタンを押します。
18 天体画像のスタッキング --- 整列(処理中)
恒星と認識された箇所がマーキングされて処理が開始されます。作例では彗星コマや画像上の方のOAGによる影部分のノイズが恒星に間違われています。なお、天体画像はOAG無し、フラットはOAG有りなのでありもしないOAGの影の部分が明るく補正された結果、こんな妙な事になっています。作例としては紛らわしいものを使って申し訳ない。
19 天体画像のスタッキング --- 整列(完了)
整列が完了しました。彗星や小惑星のような移動天体でなければこのまま重ね合わせタブでスタッキングして一連のスタッキングは完了ですが、今回は彗星なので一旦、整列タブに戻ります。繰り返しますがこれは彗星の場合の手順ですので他の天体の場合は飛ばして27まで進んでください。
20 天体画像のスタッキング --- 整列(移動情報の設定)
整列方法としてComet/Asteroid Registrationを選択します。
次に右下の黄色の円で囲まれたアイコンをクリックしてシーケンスに含まれる画像の一覧を表示させます。
21 天体画像のスタッキング --- 整列(移動情報の設定)
最初の画像をクリックして選択した後にこの一覧ウィンドーはクローズします。
22 天体画像のスタッキング --- 整列(移動情報の設定)
彗星の位置をドラッグして四角で囲みます。重心の計算で彗星の中心はソフト側で決定してくれているようです。
23 天体画像のスタッキング --- 整列(移動情報の設定)
#1の対象を選択ボタンをクリックするとその座標が表示されます。
24 天体画像のスタッキング --- 整列(移動情報の設定)
先ほどと同様に右下のアイコンをクリックしてシーケンス画像の一覧を表示し、今度は一番最後の画像を選択した後にこのファイル一覧のフィンドーは閉じます。
25 天体画像のスタッキング --- 整列(移動情報の設定)
先ほどと同様に彗星の場所をドラッグして囲んだ後、今度は#2の対象を選択ボタンをクリックして彗星位置の座標を設定します。
これでシーケンスの画像ファイルにおいて最初の画像における彗星位置、最後の画像における彗星位置が設定されました。SIRILはこの2つの位置関係から彗星の移動方向、速さを計算してメトーカフ合成を行います。
以上、設定ができたので整列開始ボタンをクリックします。
26 天体画像のスタッキング --- 整列(完了)
これで合成のため位置合わせの設定が完了しました。
27 天体画像のスタッキング --- スタッキング (スタッキングの設定)
天体画像をスタックする場合のパラメータは下記の通りです。
方法 ......... Average stacking with rejction
Normalization ............. additive + scaling
Rejection ........... Winsorized sigma clipping
理由は・・・知りません。スクリプトの設定はこうなっているのでそれを採用しています。
重ね合わせ開始ボタンをクリックしてスタッキングを開始します。
結果はデフォルトのままr_pp_light_stacked.fitでデフォルトフォルダーに保存されます。
28 天体画像のスタッキング --- スタッキング (完了)
ご苦労様でした。これで一連のスタッキングは完了です。
この後の処理についてはSIRIL0.99.6による画像処理を参照してください。
スクリプトによる処理の場合はresult.fitというファイル名で保存されますが手作業の場合は重ね合わせタブで設定した画像名になります。この作例の場合はr_pp_light_stacked.fitです。
という事で一連のスタッキング作業を全部マニュアルで処理した場合の解説でした。
実際にはスクリプトで処理するのが簡単です。
彗星の場合も一旦、スクリプト処理した後に、画像シーケンスタブでr_pp_light_.seqを選択して20からの手順をマニュアルで行う事で対応可能です。
なお、デフォルトフォルダーの設定、画像やseqファイルの保管場所によってはエラーになると思いますのでマニュアルで処理する場合、関連するファイルをすべてデフォルトフォルダーに移動した後に処理してください。
そうでないとそもそもr_pp_light_.seqをSIRILの画面からアクセスできない事になります。