研究内容

数値シミュレーションで迫る超臨界降着流からの大局的アウトフロー構造


ブラックホールは周囲のガス(物質)を”吸い込む”だけでなく”吐き出す (アウトフロー)”ことにより、銀河さらには宇宙の進化に大きく寄与することが示唆されてますが、その詳細は不明です。特に超臨界降着流と呼ばれる降着率の高い (=ガスがたくさんブラックホールに落っこちている)天体は、多量のアウトフローを噴出するため、ブラックホールによる周囲環境との相互作用(進化過程)を理解する鍵になると考えられています。​


超臨界降着流は明るい (光度が高い)天体であるため、光 (輻射)がガスダイナミクスの中心的役割を演じます。したがって、光とガスの基礎方程式を同時に解く必要がありますが、計算量が膨大であり紙と鉛筆だけでの解析は困難を極めます。そこでスーパーコンピュータを用いて輻射流体 (RHD)シミュレーションを実施し、超臨界降着流から噴出するアウトフローを調べています。​


Yoshioka et al. (2022)では、超臨界降着円盤の全貌解明を目指し、前例のない大局的なRHDシミュレーションを実行しました(図1)。その結果、(1)アウトフローの多くは無限遠に達するが、一部は噴出後に円盤へ落下すること(左下図)、(2)ガスの運動エネルギーは輻射に匹敵するほど高いエネルギーに達し得ることを見出しました。

図1. 異なる質量降着率のモデルにおける密度のカラーマップ (左;低質量降着率, 右;高質量降着率)。

        従来の計算より広いガス円盤を設定して計算を実行したところ、ブラックホールに落ち込むガスが大きいほど

        円盤は膨らみ、アウトフロー量が急増することや、光度は観測と整合的であることを示しました。

これまでの計算では輻射だけしか考えていませんでしたが、ブラックホール近傍では輻射だけでなく一般相対論的効果や磁場の影響が強くなります。例えば、時空の引き摺りや磁場を介したブラックホールの回転エネルギーの引き抜きといった過程があげられ、これらは高速アウトフロー (ジェット)の噴出には重要となります。そこで、最近は一般相対論的効果と磁場、輻射全てを考慮し数値シミュレーションにも着手しており、超臨界降着流から噴出するアウトフローが宇宙進化に与える影響について議論を進めています。