数値シミュレーションで迫る超臨界降着流からの大局的アウトフロー構造
(キーワード:ブラックホール, 活動銀河核ジェット, 超臨界降着)
ブラックホールは周囲のガス(物質)を”吸い込む”だけでなく”吐き出す (アウトフロー)”ことにより、銀河ひいては宇宙の進化に大きく寄与することが示唆されてますが、その詳細は不明です。特に超臨界降着流と呼ばれる降着率の高い (=ガスがたくさんブラックホールに落っこちている)天体は、多量のアウトフローを噴出するため、ブラックホールによる周囲環境との相互作用(進化過程)を理解する鍵になると考えられています。また一部の超臨界降着流にはジェットと呼ばれる相対論的な (速度が速い)磁化されたプラズマが観測されていますが、その基本的な性質は未解明な点が多いです。例えば、(1)銀河と同じスケールに渡って収束されたジェット形状の起源 (収束機構)や、(2)光速に匹敵するほどの速さに加速するための機構 (加速機構)が挙げられます。
超臨界降着流は明るい (光度が高い)天体であるため、光 (輻射)がガスダイナミクスの中心的役割を演じます。したがって、光とガスの基礎方程式を同時に解く必要がありますが、計算量が膨大であり紙と鉛筆だけでの解析は困難を極めます。そこでスーパーコンピュータを用いて輻射流体力学 (Radiation HydroDynamics; RHD)シミュレーションを実施し、超臨界降着流から噴出するアウトフローを調べています。
Yoshioka et al. (2022)では、超臨界降着円盤の全貌解明を目指し、前例のない大局的なRHDシミュレーションを実行しました(図1)。その結果、(1)アウトフローの多くは無限遠に達するが、一部は噴出後に円盤へ落下すること(左下図)、(2)ガスの運動エネルギー (正確には運動学的パワー)は輻射 (輻射パワー)に匹敵するほど高いエネルギーに達し得ることを見出しました。さらにYoshioka et al. (2024)では、超臨界降着流のアウトフローおよび輻射パワーのガス降着率依存性はブラックホール質量によらず成立することを示しました。
図1. 異なる質量降着率のモデルにおける密度のカラーマップ (左;低質量降着率, 右;高質量降着率)。
従来の計算より広いガス円盤を設定して計算を実行したところ、ブラックホールに落ち込むガスが大きいほど
円盤は膨らみ、アウトフロー量が急増することや、光度は観測と整合的であることを示しました。
これまでの計算では輻射だけしか考えていませんでしたが、ブラックホール近傍では輻射だけでなく一般相対論的効果や磁場の影響が強くなります。例えば、時空の引き摺りや磁場を介したブラックホールの回転エネルギーの引き抜きといった過程が挙げられ、このような過程はジェットの噴出に非常に重要です。そこで、最近は一般相対論的効果と磁場、輻射の全てを考慮した一般相対論的輻射磁気流体 (General Relativistic-Radiation Magneto-HydroDynamic; GR-RMHD)シミュレーションを実施しています(図2,3)。特に、(1)ジェットの収束機構や加速機構の物理的起源は何か?や、(2)ジェットの加速・収束機構は天体種族 (cf. 移流優勢降着流, 標準円盤, 超臨界降着流)によって異なるのか?を解明するべく、研究を推進しています。
図2. 超臨界降着流のGR-RMHD計算の結果。左パネルは磁化σパラメータ(磁場/静止質量エネルギー密度)、右パネルは密度を表す。オレンジ線はσ=1で中心軸方向にσが高いジェット領域が形成されていることがわかる。
図3. 超臨界降着流のジェットおよびウィンドの大域構造。極域にはジェット、その外側には高速の10%程度で噴出する高密度のウィンドが噴出している様子が確認できる。