講義

◆ 深潟 康二 先生

乱流の制御と機械学習

私のグループで精力的に取り組んでいる、乱流の制御と機械学習という2つのトピックスを取り上げ、ご紹介します。

1日目は、共通の研究ツールである、乱流の直接数値シミュレーション(DNS)の概説から始め、最近取り組んでいる乱流および非定常層流の機械学習の試みについてご紹介します。

2日目は、ここ20年近く取り組んできた乱流制御の研究に関わる成果、特に、壁乱流の摩擦抵抗に関する理論や、フィードバック制御による摩擦抵抗低減のDNSやResolvent解析による予測、進行波を用いた摩擦抵抗低減と伝熱促進、プラズマアクチュエータを用いた物体からの渦放出の抑制などの研究事例をご紹介します。

乱流制御も乱流の機械学習も、未だ発展途上のテーマです。流体若手夏の学校2019では、自称まだまだ若手の深潟が、リアル若手の皆さんと一緒に、これらの研究の可能性について議論できると良いなと思っています。

【参考文献】

[1] K. Fukami, Y. Nabae, K. Kawai, and K. Fukagata, Phys. Rev. Fluids 4, 064603 (2019).

[2] K. Fukagata, K. Iwamoto, and N. Kasagi, Phys. Fluids 14, L73-L76 (2002).

[3] N. Kasagi, Y. Suzuki, and K. Fukagata, Annu. Rev. Fluid Mech. 41, 231-251 (2009).

[4] A. Kawagoe, S. Nakashima, M. Luhar, and K. Fukagata, J. Fluid Mech. 866, 810-840 (2019).

[5] K. Eto, Y. Kondo, K. Fukagata, and N. Tokugawa, AIAA J. 57, 2774-2782 (2019).

[6] R. Nakanishi, H. Mamori, and K. Fukagata, Int. J. Heat Fluid Flow 35, 152-159 (2012).

[7] H. Gejima, R. Takinami, K. Fukagata, T. Mitsumoji, T. Sueki, and M. Ikeda, J. Fluid Sci. Technol. 10, JFST0006 (2015).

◆ 竹内 一将 先生

乱流転移に現れる臨界現象、普遍性

パイプなどを流れる流体の乱流化は、19世紀に行われたReynoldsの先駆的研究以来、未だ完全解決に至らない難問です。しかし近年、チャネル流やTaylor-Couette流の実験[1]で乱流転移が計測され、directed percolation (DP) という確率モデルの臨界現象が出現すると判明して、大きな進展が起こっています。

実は統計物理学では、DP臨界現象は、ある種の非平衡相転移に現れる普遍的現象として深く理解されています[2]。従って、統計物理学の知見から乱流転移の様々な統計的性質が予言できるだけでなく、なぜ乱流転移にDP臨界現象が現れたかという本質的問いにも一定のヒントが与えられます。Navier-Stokesが記述する小さなスケールと、臨界現象が現れるマクロスケールが如何に繋がるかは、統計物理学としても極めて魅力的な未解決問題です。

そこで本講義では、DP臨界現象の統計物理学を基礎から解説し、それがどのような臨界現象を示すか、理論的にどう記述されるか、どのような自然現象が関わるのか等を概観します。Newton流体以外の実例として、液晶の電気対流現象、特にその乱流間転移でDP臨界現象が発見された実験[2,3]を紹介します。以上を踏まえ、Newton流体の乱流転移で報告されたDP臨界現象を解説し、その不思議さと、そこから生まれる様々な課題について議論したいと思います。

【参考文献】

[1] M. Sano and K. Tamai, Nat. Phys. 12, 249 (2016); G. Lemoult et al., Nat. Phys. 12, 254 (2016).

[2] 竹内一将, 日本物理学会誌 70, 599 (2015).

[3] K. A. Takeuchi et al., Phys. Rev. Lett. 99, 234503 (2007); Phys. Rev. E 80, 051116 (2009).