研究紹介
水質システム工学研究室における研究の一例です
(研究成果の詳細については「研究業績」の「論文・総説」等を参照してください)
水質システム工学研究室における研究の一例です
(研究成果の詳細については「研究業績」の「論文・総説」等を参照してください)
(1)水の再生利用技術・高度処理技術の開発
促進酸化処理は,水酸化物イオンから電子が一つ失われた構造のOHラジカルを用いて有機汚染物質を酸化分解する処理法です。OHラジカルは非常に強い酸化剤でほとんどの有機物を無機化できると考えられています。従来の促進酸化処理法は危険薬剤の管理や汚泥の生成などを伴うという運転管理上の課題がありました。
そこで当研究室では遊離塩素の紫外線(UV)分解によるラジカル類の生成に着目し,促進酸化処理法への応用を進めています。一般的なUV/遊離塩素法では遊離塩素を薬剤として供給しますが,当研究室では排水中に含まれる塩化物イオンを電解酸化することでオンサイトで遊離塩素を生成して利用するUV/電解遊離塩素法を日本で初めて提案し,その実用化に取り組んでいます。本法では遊離塩素薬剤の管理が不要であり,汚泥の発生もなく,電力のみで運転できることから,自動制御が容易であり,小規模排水処理に適した高度水処理技術となることが期待されます。
(下図:遊離塩素のUV分解で生じたOHラジカル(HO•),塩素ラジカル(Cl•)が引き起こす様々な反応スキーム)
臭素酸イオンや塩素酸イオンは国際がん研究機関(IARC)によりClass 2B(ヒトに対する発がん性が疑われる物質)に分類され,厳しい水道水質基準が設けられています。これらのイオンは塩素消毒の際に不純物として混入したり,高度浄水に用いられるオゾン処理において副生することが知られており,水道水からの除去が必要ですが,通常の浄水処理では除去が困難であり,大量の水道水を処理可能な迅速な処理法の開発が必要とされています。
当研究室では,臭素酸イオン,塩素酸イオンを臭化物イオンや塩化物イオンに電解還元無害化する技術開発を行っています。従来,臭素酸イオンの処理技術として研究されている生物活性炭処理では処理に何時間も必要であったのに対し,電解還元法では分単位の接触時間で速やかに処理が完了するという結果を得ています。
(下図:実験用電解還元反応器の例)
促進酸化処理は,水酸化物イオンから電子が一つ失われた構造のOHラジカルを用いて有機汚染物質を酸化分解する処理法です。OHラジカルは非常に強い酸化剤でほとんどの有機物を無機化できると考えられています。様々な促進酸化処理法の中でもFenton法は2価鉄イオンと過酸化水素の反応でOHラジカルを発生させる簡便な促進酸化処理法です。しかし,一方で危険な過酸化水素を用いなければならず,処理後に鉄汚泥が発生する等,欠点も抱えています。
水質システム工学研究室では,Fenton法の欠点を解消する新たな処理法として,2価鉄イオンと次亜塩素酸を反応させてOHラジカルを生成させるFenton型反応に着目し,さらに,排水中の塩化物イオンの電解酸化により次亜塩素酸を生成し,2価の鉄イオンを3価の鉄イオンの電解還元により生成・循環利用する新規電解Fenton型処理法を開発しました。この処理法では,過酸化水素が不要で,鉄汚泥も再利用可能なことから,排水中資源活用型の化学酸化処理法として今後の発展・応用が期待されます。
(下図:電解Fenton型促進酸化処理法の処理メカニズム)
促進酸化処理は,水酸化物イオンから電子が一つ失われた構造のOHラジカルを用いて有機汚染物質を酸化分解する高度水処理法です。OHラジカルは非常に強い酸化剤でほとんどの有機物を無機化できると考えられています。
水質システム工学研究室では,オゾンと電気分解を併用した新規促進酸化処理法を研究しています。オゾン電解併用処理ではオゾンを電解還元することによりオゾニドイオンが発生し,生成したオゾニドイオンが水と反応することによりOHラジカルができます。このメカニズムは当研究室が世界で初めて明らかにしました。現在は,実用化に向けて高効率な反応器の開発を進めています。
(写真:実験装置写真)
(2)湖沼や河川の汚濁・汚染メカニズムの解析,水質改善技術に関する研究
セタシジミに代表される淡水シジミは琵琶湖における重要な水産資源ですが,近年の漁獲量は最盛期の1%程度まで激減しており,資源の保全・回復が大きな課題となっています。そこで,滋賀県琵琶湖環境科学研究センターや東レテクノ(株)と共同で琵琶湖における淡水シジミの挙動を再現する数理モデル(二枚貝挙動モデル)を構築し,資源保全・回復に向けた方策の検討を進めています。
これまでの研究で淡水シジミの成長は直接的には水温,餌資源量,溶存酸素濃度に依存し,間接的に日射量,透明度,クロロフィル濃度,底質粒度分布に依存することを明らかにしました。また,これらの要素を組み込んだ数理モデルを用いて解析を行った結果,湖沼温暖化により平均水温が1℃上昇すると,シジミの年間成長量は10〜20%程度低下することが予測されました。琵琶湖では概ね20年で1℃程度の水温上昇が起こっていることから,シジミ個体群を保全するために,琵琶湖南湖からより水温の低い琵琶湖北湖北部へ生息地を移動させるなどの温暖化適応策の検討が必要だと考えられます。
(下図:開発した数理モデルの全体構成)
植物プランクトンは水草と並んで湖沼における主要な生産者です。様々な水質保全対策によって,琵琶湖の水質は徐々に良くなってきていますが,その一方で,有機物の総括指標である化学的酸素要求量(COD)が低下せず,環境基準値を超過する状況が続いています。
当研究室では,琵琶湖への有機汚濁源として,集水域からの流入に加え,湖内での一次生産に着目し,琵琶湖の植物プランクトン群集による過去から現在にわたる一次生産量の経年変化を明らかにしてきました。また,湖沼温暖化などの環境要因変化が個々の植物プランクトンや植物プランクトン群集構造変化に及ぼす影響の解析も行っています。その結果,琵琶湖では植物プランクトンの生物量は減少傾向にあるが,植物プランクトンが大型種から小型種に遷移した結果,一次生産量は逆に増加しているということを明らかにし,湖沼温暖化が植物プランクトン群集構造の変化に影響を与えている可能性を指摘しています。今後,湖内一次生産も考慮した湖沼環境保全対策の必要性が示唆されます。
(写真:琵琶湖の大型車軸藻Staurastrum arctisconの顕微鏡写真)
湖沼やダム湖のような水源で問題になるのが,水底にヘドロ等が溜まって水中の酸素が無くなる底層貧酸素化です。この結果,底泥から窒素やリンが溶出しアオコや淡水赤潮等の富栄養化現象が現れます。これを防止するために深層曝気を行って深層に酸素を供給することが行われますが,大型の深層曝気装置を何期も稼働させる必要があり,大きな動力エネルギーが必要であるという欠点がありました。
当研究室では太陽光を光ファイバーにより深層に導入し,底層で付着藻類の光合成を行わせることで酸素を供給する研究を実施し,1日に1平方メートルあたり100〜200mgの酸素を供給できることを実験的に明らかにしています。
(下図:ダム貯水池への太陽光深層導入システムの実装イメージ)
流域水質統合管理を実現するためには,流域内に多地点配置された水質自動計測装置をネットワークで結んで統合管理・監視する流域統合管理システムの導入が必要です。その実現のためには,安価で維持管理が容易な水質モニターが不可欠です。
水質システム工学研究室では,被計測対象水に何ら前処理を施すことなく,水質計測を実施可能な非破壊水質自動計測装置の開発を行っています。開発している装置は長期にわたって安定した計測精度を担保するため,機器の感度変化やセルの汚れ・妨害物質の影響をリアルタイムに補正する独自の情報処理アルゴリズムを開発し,その実証実験を行っています。
(写真:試作モニタリング装置によるフィールド試験の様子)
淡水赤潮はダム貯水池や湖沼等で特定のプランクトンが表層に集積し,水表面が赤褐色に着色する現象です。淡水赤潮原因プランクトンには渦鞭毛藻(Peridinium属,Ceratium属,Glenodinium属),黄色鞭毛藻(Uroglenopsis属),褐色鞭毛藻(Cryptomonas属)などが知られています。
水質システム工学研究室では,主にダム貯水池で発生するPeridinium属による淡水赤潮について研究し,その発生機構解析や制御法の開発を行っています。
(写真:Peridinium bipesの顕微鏡写真(直径45 µm程度,細胞の右下方向に伸びている線状のコントラストが異なる部分は鞭毛)
(3)水循環系が有する資源・エネルギーの有効利用に関する研究
一部の嫌気性バクテリアは基質分解過程で生じる電子を細胞表面に放出する細胞外電子輸送を行う能力を有することが知られています。微生物燃料電池は細胞外電子輸送により細胞外に輸送された電子を電極で集電することによって外部回路に電力を取り出す一種の燃料電池です。燃料となる基質には様々な有機物が利用可能であり,排水中の有機汚濁物質を基質に用いることにより,排水中の有機物を分解しながら発電することができます。
微生物が電子を放出する電極はアノード(陰極)ですが,当研究室では回路を形成する上で陰極とついになって必要となるカソード(陽極)に着目し,カソードシステムを工夫することで微生物燃料電池の能力向上に取り組んでいます。
(写真:開発した微生物燃料電池のパイロットプラント)
バイオガスやバイオエタノール生産においてトウモロコシなどの農作物が使われますが,農作物のエネルギー生産利用の普及に伴って食糧不足に陥ることが懸念されており,非食糧由来のバイオマス資源の利用の必要性が指摘されています。一方,下排水には窒素やリンといった栄養塩が含まれており,これらは公共用水域へ排出されるとアオコや赤潮などの富栄養化の原因になるため,現状,下水処理場をはじめとした排水処理施設で除去されています。
水質システム工学研究室では,これまで汚濁物扱いであった下排水中の栄養塩に着目し,下排水中栄養塩を利用した微細藻類バイオマス生産技術の開発に取り組んでいます。これにより下排水中の栄養塩を除去しつつ,バイオマス資源を生産することが可能となり,循環経済の実現に貢献することが期待されます。これまでにシアノバクテリアやミドリムシのバイオマス生産が可能であることを明らかにし,それらのバイオガス生成特性やエネルギー回収ポテンシャルの評価などを行っています。
(下図:シアノバクテリア(Aphanothece clathrataおよびMicrocystis wesenbergii)を用いたメタン生成ポテンシャルと培養器水深の関係)
リンは生物にとって必須の栄養素であり,化石燃料とともに枯渇が懸念されている資源の一つである。日本ではリン鉱石は100%輸入に頼っており,資源安全保障の面からも国内資源の利活用が急務である。下水にはリンが含まれており,下水処理場へのリン流入量は約5万トン/年と推定されている。下水中のリン資源を回収できれば,日本国内のリン需要の30%弱を賄えるという試算もされている。しかしながら,下水中のリン濃度は2〜4 mg-P/L程度と低く,効率的な回収が難しいという課題がある。
水質システム工学研究室では,アルミニウム系凝集剤のリンの捕捉性能に着目し,低濃度のリン含有排水からリンを回収する技術として,アルミニウム系凝集剤によるリン濃縮後に石灰凝集沈澱によりヒドロキシアパタイト(HAP)としてリンを回収するとともに,リン回収後の凝集剤を再溶解させて凝集剤として再利用する凝集剤循環型リン回収プロセスの開発を進めています。嫌気性生物処理水を用いた実験ではリン回収率87%,アルミニウム凝集剤回収率86%を達成可能であることを実証しています。
(下図:凝集剤循環型リン回収プロセスの流れ)