研究概要
ペル及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)のうち、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)など数種については、残留性有機汚染物質(POPs)条約等で世界的に規制されています。また、PFOA(C8)と比較して炭素鎖の長いC9〜C21の長鎖ペルフルオロカルボン酸(LC-PFCA)は、2025年のストックホルム条約第12回締約国会議(COP12)において、廃絶対象物質(附属書A)への追加が議論される予定となっています。しかし、PFOAと比較して、LC-PFCAの生態毒性、特に有害性に関する情報はほとんどないのが現状です。また、魚類においてLC-PFCAはPFOAよりも高蓄積性を示すことから、低濃度の長期曝露により有害性を示す可能性が考えられます。そこで本研究では、魚類に対する有害性の指標として繁殖及び次世代影響に着目しました。これらの有害性評価は持続可能な生態系保全に有益な情報を提供できると確信しています。一方、近年PFOS及びPFOA以外の1万種以上の代替及び新規PFASの存在が指摘されていますが、それらを包括的に評価する手法の基盤構築は喫緊の課題であると言えるでしょう。
本研究課題では、LC-PFCA(及びその前駆物質)を対象に、①環境中存在濃度の魚類(メダカ)曝露による繁殖及び次世代影響評価、②オミクス解析を用いた繁殖阻害メカニズムの解明、③魚類体内の蓄積・代謝特性の評価を行い、環境リスク評価のための基礎データを集積します。また、②及び既存データベースの作用機序に関するビッグデータを活用し、1万種以上のPFASを対象に④人工知能技術(AI)を用いた代替及び新規PFASの繁殖阻害や蓄積性などの有害性予測手法の開発を目指します。
以上により、魚類の繁殖阻害を指標としたLC-PFCAの有害性に加えて、その作用機序や体内蓄積・代謝特性に関する知見が集積され、環境リスク評価のための基礎データが得られます。また、AIを用いた代替及び新規PFASの有害性予測手法の開発は、今後の総合的なPFAS管理施策の立案や、代替及び新規PFASの監視システム構築に大きく貢献することが期待されます。これらは国際的なPOPs条約関連機関や国内省庁が環境施策を立案するための有益な基礎情報となりえるでしょう。