残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants: POPs)は、難分解性、高蓄積性、長距離移動性、有害性(ヒト健康・生態系)を示し、現在約40種類が指定されています。近年、有機フッ素化合物であるペル及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)のうち、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)など数種類のPFASがPOPsに追加されました。
PFASは、炭素-フッ素(C-F)結合の強固な構造により、熱・化学的に安定しているため、ファーストフードの容器等の撥水撥油コーティング剤、フッ素樹脂製品の製造助剤、泡消火剤、界面活性剤など、様々な工業的用途で使用されています。これまで世界各国の水道水、河川水や地下水など様々な水環境中からPFASの検出が報告されており、日本では水道法の水質基準項目にPFOSとPFOAが追加される予定です。
PFASはその化学構造の類似性等から1万種類以上の存在が指摘されています。しかしながら、PFOSやPFOAと比較して、それら次世代型PFASによる環境汚染や毒性影響に関する知見はほとんどありません。そこで、次世代型PFASによる環境汚染や野生生物・モデル生物にする毒性影響を解明し、リスク評価を試みています。
昆虫や甲殻類(エビ・カニなど)などの節足動物は、脱皮を繰り返して成長することから、化学物質ばく露などによって脱皮が促進・阻害されると、成長・成熟・繁殖への影響だけでなく、種の存続にも関わる可能性があります。海産無脊椎動物はすべての海産生物の90%以上を占めるといわれており、海洋生態系ならびに水産資源として極めて重要な生物です。
しかしながら、海産無脊椎動物の脱皮のメカニズムや化学物質による影響はほとんど明らかにされていません。そこで、フッ素系殺虫剤や臭素化ダイオキシン類の海産甲殻類アミに対する成長・脱皮・繁殖に対する影響評価と、脱皮かく乱のメカニズム解明に関する研究を行っています。
海産甲殻類アミ
人間活動の発展や高度化により、いわゆる新興化学物質(マイクロカプセル、医薬品・パーソナルケア製品由来化学物質PPCPs、ホルモン様物質、ネオニコチノイド系農薬の環境変化体など)が水圏生態系に及ぼす影響が指摘されています。
しかしながら、それら新興化学物質の水圏生物に対する影響やリスクについてはほとんど知見がありません。そこで、魚類(ミナミメダカやゼブラフィッシュなど)、甲殻類、刺胞動物などの水圏生物に対する影響評価とそのメカニズム解明を試みています。
ミナミメダカ
下線部は継続課題
・環境省環境研究総合推進費「PFASの魚類に対する有害性・蓄積特性の評価とその予測手法の開発」令和7〜9年度
・科学研究費補助金・基盤研究(A)「次世代型有機フッ素化合物による環境汚染・生物蓄積の実態解明と毒性影響評価」令和2〜6年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「New POPsによるPPARαシグナル伝達撹乱の比較生物学的リスク評価」平成28〜令和元年度
・科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究「PPCPsのエストロゲン様作用の一斉スクリーニング分析」平成25〜26年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)一般「核内受容体PPARαを用いた臭素系難燃剤のハイスループットリスク評価」平成24〜26年度
・厚生労働省科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)「健康食品等の安全性・有効性評価研究分野」平成19〜21年度
・科学研究費補助金・若手研究(B)「バイカルアザラシPPAR-CYP4を介した有機フッ素化合物の毒性メカニズム解明」平成18〜19年度
・財団法人クリタ水・環境科学振興財団助成金「医薬品起源化学物質がヒメダカの繁殖に及ぼす影響評価」平成15年度
下線部は継続課題
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「水生生物への新たな経口曝露手法開発と毒性作用機序の解明」令和7〜11年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「海産甲殻類に対する浸透移行性殺虫剤の汚染実態解明と環境リスク評価」令和6〜8年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「小型魚類胚動物代替生体毒性評価法によるAOPの構築と活用」令和5〜8年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「有機ハロゲン化合物の汽水産無脊椎動物に対する毒性リスク評価」令和5〜7年度
・高橋産業経済研究財団「日本沿岸域に生息する海産甲殻類を用いた環境リスク評価手法の開発」令和6年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「先端的分子生物学的手法による日焼け止め剤の造礁性サンゴの白化に及ぼす影響評価」令和3〜5年度
・科学研究費補助金・基盤研究(C)「海産甲殻類を用いたフッ素系殺虫剤の汚染実態解明と環境リスク評価」令和3〜5年度
・食品科学研究振興財団「メダカ非アルコール性脂肪肝炎モデルを用いた食品由来PPARリガンド成分と治療薬の同時摂取による効果の評価」令和2年度
・科学研究費補助金・基盤研究(A)「化学物質による水棲哺乳類細胞内受容体シグナル撹乱と感受性を規定する分子機構の解明」令和元〜5年度
・科学研究費補助金・基盤研究(A)「マイクロカプセルを介した化学物質の新たな環境動態の解明と評価」令和元〜5年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「臭素化ダイオキシンを蓄積する海産無脊椎動物を対象とした毒性リスク評価」令和元〜3年度
・科学研究費補助金・基盤研究(C)「魚類脳神経系に対するネオニコチノイド系農薬環境変化体の影響評価」平成30〜令和2年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「先端的分子生物学的手法によるサンゴ白化に及ぼす高水温と化学物質の複合影響の解明」平成30〜令和2年度
・科学研究費補助金・挑戦的研究(萌芽)「AOPによる環境毒性学発展のための基盤形成研究」平成30〜令和元年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「AOP研究基盤の高度化を目指した魚類を用いた化学物質の影響評価」平成29〜令和元年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「新規高電界パルス物質導入法によるメダカ胚期生態毒性試験の高感度化」平成28〜30年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)「熱帯産サンゴ・大型海藻を用いた基礎生産者の新たな化学物質リスク評価システムの構築」平成26〜28年度
・環境省環境研究総合推進費「河口域における残留性有機汚染物質の循環とそれが沿岸生態系に与える影響の定量的解析」平成24〜26年度
・科学研究費補助金・基盤研究(B)海外「中国癌村発生要因としての遺伝毒性物質」平成22〜24年度
・科学研究費補助金・基盤研究(S)「化学物質による細胞内受容体—異物代謝酵素シグナル伝達系撹乱の感受性支配因子の解明」平成21〜25年度
・科学研究費補助金・若手研究(B)「バイカルアザラシPPAR-CYP4を介した有機フッ素化合物の毒性メカニズム解明」平成18〜19年度