地震は断層滑りが時空間的に伝播し、地震波を放出する現象です。この伝播の様子を震源過程と呼びます。震源過程を推定することは、震源断層に働いた力(応力)の分布を調べたり、私たちの生活に大きな被害をもたらす強震動を予測する上で重要な研究になります。
震源過程を推定する方法には、地震波形インバージョン(以下波形インバージョン)と呼ばれる手法があります。波形インバージョンは、観測された地震波形をうまく再現するような断層滑りを、最小二乗法により推定する手法です。この手法では、グリーン関数と呼ばれる、断層滑りと観測波形をつなぐ関数を推定する必要があります。
グリーン関数には理論的に計算する方法と経験的に計算する方法があります。理論グリーン関数は詳細な速度構造がわかっている場合に非常に有効で、特に大規模地震でよく使われています。しかしその性質上、詳細な構造がわかっていないと使うことができません。
一方で、経験的グリーン関数 (empirical Green’s functionの略でEGFと呼ばれます) は、解析したい地震の近傍で発生した似たメカニズム (断層面の向きと滑り方向) の地震の波形をそのままグリーン関数として活用する方法です。この方法は詳細な速度構造を必要としないため、小〜中規模の地震でも効力を発揮しますが、断層のすべり方向 (rake angle)を推定することができないという欠点があります。
私は、これら2つの方法にある制約を軽減し、詳細な速度構造を得られない場合や小〜大規模の地震においても、滑り方向も推定可能な手法を開発することを目的に研究しています。(次項へ)
Radiation-corrected EGFのコンセプト図
(Shibata et al., 2022の図1から引用)
青線: 解析したい地震(Target event)の地震波形
赤線: EGFとして使う地震(EGF event)の地震波形
紫線: Radiation-corrected EGFの波形
赤線は青線と似ていないためグリーン関数として使うのは難しいですが、放射パターンの補正を行ったRadiation-corrected EGFは青線とほぼ重なっているため、グリーン関数として使うことができます。
前項で述べた、震源過程解析にある制約を軽減するために、EGFに改良を加えた手法を開発しています。具体的には、震源位置と観測点位置の関係や震源メカニズム(断層面の向きや滑り方向)によって定まる、放射パターンを考慮します。すなわち、放射パターンを考慮して振幅補正をすることでEGFの適用範囲を向上させる手法を提案しました(Radiation-corrected EGFと呼んでいます)。この成果は、Shibata et al. (2022; GJI) において発表しています。
Shibata and Aso (2025; BSSA) においては、このRadiation-corrected EGFを大規模地震に対する震源過程解析手法に適用し、EGFを使っても断層すべり方向を推定可能であることを確認しました。
前震は地震が発生する準備過程として捉えることができます。本震に至るまでの前震活動を知ることは、将来の地震予測精度を高める上で重要です(地震予測と地震予知は全く異なるものであることにご留意下さい→いずれ解説を追加します)。地震がどのように開始するのかについては現在もなお解明されておらず、前震が突発的に本震を引き起こすCascade modelと、本震震源付近の非地震性滑りが進展することで本震破壊につながるpreslip modelが提唱されています。また、岩石実験からはこの2つのモデルの複合モデルも提唱されています(McLaskey, 2019)。一概に全ての地震がいずれかのモデルに当てはまるということはないと思うのですが、「実際のところどのように本震に至るのか?」という問いは私にとって大変興味深いサイエンスですので、観測の観点から核生成過程について研究をしています。