〈物語としての『源氏物語』の力-紫式部にとっての「書くこと」と現代における意味、千年の時を超えて〉
「紫式部の方法-〈物語〉にすることでつかむ、受け入れる、伝える」
『源氏物語』の作者として知られる紫式部には、他に二つの実録作品があります。一つは職場日記をもとにした『紫式部日記』。この中で紫式部は、会話体を用いて読者に悩みを打ち明けています。彼女はごく近しい人物と思しい読者に〈語る〉ことで、自分のこれまでと今を確認し、これからを見据えたものと考えます。
もう一つは、晩年に編纂し、やはりごく近しい人物に非公開で遺したと思われる和歌集『紫式部集』。自分や周囲の人々の和歌を集めて説明を加えたものですが、和歌集としては非常に特異なことに、紫式部はこの作品を物語の文体で記しています。紫式部は自己の実人生を〈物語〉とすることで受け入れ、伝えようとしたのだと考えます。
翻って、『源氏物語』にも彼女の〈物語〉化した自己語りが見受けられます。長大な『源氏物語』を語り、聞いてもらうことで、紫式部は自分を生き直したのかもしれません。