アブストラクト
10月18日(水)
申 正善(静岡大学)
講演題目:Stability regions of discrete linear systems with delayed feedback controls
講演概要:講演において離散的な線形周期差分方程式が不安定な周期解持つときdelayed feedback control (簡単に、DFC)により周期解の安定領域を決定する問題を考える。標準的なDFCとしてピラガスタイプとエコータイプの制御が考えられるがここではエコータイプを考える。その際ある可換性の条件の下で、C-写像定理を得ることができる。これから導かれる或る単純閉領域を定めその幾何学的性質を明らかにする。これに基づいて安定領域が決まる。このような方法は代数的方法であるシユアーコンの判定法より或る意味において有効である。
宮崎 倫子(静岡大学)
講演題目:遅延フィードバック制御による安定化が可能な周期軌道の特性乗数について
講演概要:不安定周期軌道の安定化法として Pyragas によって提案された遅延フィードバック制御 (以下 DFC と呼ぶ) がよく知られている.制御ゲインが単位行列の実数倍という条件下においては,目標周期軌道の特性乗数について,制御前と制御後の関係式 (以下 C-map 定理と呼ぶ) が得られている.さらに,制御前の不安定な特性乗数 μ とすると,μ が実数で −e2 < μ < −1 をみたすとき,DFC により周期解が安定化できることを証明している.本講演では,この結果を複素数の場合について拡張した結果について報告するとともに,その適用例を紹介する.
10月19日(木)
河原 一幾(名古屋大学)
講演題目:遅延微分方程式へ operator splitting method の適用に関する考察
講演概要:遅延微分方程式の関数解析的な研究は1980 年代よりpopulation dynamics の分野からヨーロッパにおいて精力的な研究が進められてきた。代表的な研究グループはオランダCentrum voor Wiskunde en Informatica のメンバーであったPh. Cl´ement, O. Diekmann, M. Gyllenberg, H.J.A.M. Heijimans,, H.R. Thieme 等によるsemigroup の研究である。また彼らの研究の集大成としてOdo Diekmann et al.がある。遅延方程式のabstract Cauchy problem の研究は2000 年中頃からドイツ、ハンガリーの研究グループにより急激に進展した。Engel, Nagel の著書を基盤としたautonomous および non-autonomous の遅延微分方程式の基礎理論研究であるdelay semigroup の研究、well-posedness の研究とともに遅延微分方程式に焦点を当てたoperator splitting method の研究がこの10 年の間に急速に進化した。本研究ではautonomous およびnon-autonomous の遅延方程式をabstract Cauchy problem に置き換えsemigroup を構成する彼らの手法をサーベイしoperator splitting method を簡単な方程式に適用しエラーバウンドの評価を行った。その解のwell-posedness に対する考察および、operator splitting method による解の構成、考察を行った。これらについて紹介し、議論をいただければと考えている。
中村 憲史(神奈川大学)
講演題目:creation timeを考慮した記憶型の項をもつTimoshenko系について
講演概要:記憶型の項をもつTimoshenko系において、その項は記憶核と未知関数の時間変数に関する合成積として表される。通常は初期時刻からの積分として考え、記憶核は指数関数が満たす条件を仮定することが多い。初期値問題の場合、方程式を一階の双曲型偏微分方程式系に書き直し、Fourier空間におけるエネルギー法を適用することにより解の時間減衰評価などを得ることができる。一方、初期履歴を与えて、初期時刻以前のある時刻(creation time)からの積分として記憶型の項を扱っている先行研究は多くない。本講演ではこの場合について、解の消散構造を初期値問題の場合と同様の方法により調べる。なお、記憶核は指数関数や多項式関数が満たすより一般的な条件下で解析を行う。また、creation timeに関する極限を考えた場合に得られる結果も紹介する。
佐野 英樹(神戸大学)
講演題目:Observers for hyperbolic systems with two delays in the nonlocal boundary condition and its application
講演概要:1階双曲型システムに対して安定化問題や状態推定問題を解く際に, バックステッピング法が非常に有用であることが近年, 多くの論文で報告されている. バックステッピング法とはボルテラ型積分変換あるいはフレドホルム型積分変換によって, 元システムあるいは誤差システムが漸近安定なターゲットシステムにうつるように, フィードバックゲインあるいはオブザーバゲインを決定する手法である. ここでは, 非局所境界条件に二つの無駄時間が含まれる1階双曲型システムを取り上げ, 同手法を用いてオブザーバを構成する. つぎに, カオス的な波形を生成するファン・デル・ポール境界条件に, 無駄時間を含む積分項を追加した1階双曲型システムを考え, これに対して上記のオブザーバが適用できることを示す. さらに, それを用いた画像データの秘匿通信法を紹介する. その積分項に含まれる重み関数および無駄時間は共通暗号鍵となるため, 鍵空間が大幅に拡張できる.
大澤 智興(九州工業大学)
講演題目:走化性による集団追跡と逃避のモデル
講演概要:走化性のみで追跡や逃避を行うモデルを提案する。具体的には、追跡者と逃避者それぞれに、異なる物質の足跡を使用し、それぞれについて動的フロアフィールドモデルを用いた。追跡者は、逃避者の足跡を追跡し、逃避者は追跡者の足跡を忌避させた。追跡者が逃避者に追いつくと、逃避者は捕食される。走化性による信号伝達は、電磁波や音波に比べて 時間的に遅れて伝わるだけでなく、方向や距離も不明確であるが、数理モデル内の追跡者、逃避者の足跡に対する選好性を示すパラメタを変更することで、追跡者と逃避者にとって都合の良いの行動戦略を調べることができた。追跡者間距離、逃避者間距離は共により長くなるほうが、追跡者とっては捕食時間が短くなり、逃避者は生存時間が延びることが示せた。
小原 奈未(お茶の水女子大学)
講演題目:過去の行動変容を考慮に入れた感染症の数理モデルに対する平衡点の安定性解析
講演概要:感染症の数理モデルとしてSIRモデルがよく知られている.出生と死亡を考慮したSIRモデルではdisease-freeな平衡点とendemicな平衡点が存在し,基本再生産数の値により局所漸近安定な平衡点はdisease-freeな平衡点からendemicな平衡点に変わることはよく知られている.しかし,現実の感染症は再帰的な流行の波が確認されることが多く,このことは出生と死亡を考慮したSIRモデルでは説明が難しい.周期性をもたらす要因として時間遅れや非線形な接触項などがHethcoteにより提唱されており,非線形接触などについて多くの結果が知られている.そこで本講演では過去の行動変容を考慮に入れた感染症の数理モデルを考察し,平衡点とその安定性を解析する.
曲 明珠(大阪府立大学)
講演題目:Asymptotic stability for linear differential equations with discrete and distributed delays
講演概要:時間遅れのない項と離散的な時間遅れをもつ項からなるスカラー定数係数線形微分方程式の零解が漸近安定であるための具体的な必要十分条件(以下、漸近安定条件とよぶ)は Hayes (1950) によって与えられている。また、時間遅れのない項と連続的な時間遅れをもつ項からなるスカラー線形微分方程式の漸近安定条件は Funakubo et al. (2006) によって与えられている。本研究では、時間遅れのない項、離散的な時間遅れをもつ項、連続的な時間遅れをもつ項の3つの項からなるスカラー線形微分方程式の漸近安定性について考察する。離散的な時間遅れと連続的な時間遅れが特別な関係にあるとき、時間遅れに依存した漸近安定条件が得られたので報告する。証明は漸近安定性と同値である付随する特性方程式のすべての根が負の実部をもつための条件を詳細に調べることで行う。
10月20日(金)
砂田 哲(金沢大学)
講演題目:Neural Delay Differential Equations: 時間遅延系を用いた深層ニューラルネットワーク
講演概要:深層ニューラルネットワーク(DNN)の根幹は層から層への情報伝播であり,学習は情報伝搬の結果として達する所望の状態への最適制御とみなすことができるだろう.本講演では,連続時間の遅延系をDNNコンピューターとして利用するための最適制御方法を示し,次の3つの結果を紹介する.(1)時間遅延DNNでは,その高次元性と連続性により,単一ノードでありながら仮想的に大規模ネットワークを構築できる.そのため,物理実装が容易である.(2)光遅延システムへの実装,DNNの超高速・低消費電力演算を可能にする光アクセラレータ応用を議論する.(3)実際の脳では誤差逆伝播のような学習はなされていない.Biologically plausibleな学習からヒントを得て,生物のようにいい加減でありながら効率的な学習を可能にする手法を紹介する.
友枝 明保(関西大学)
講演題目:交通流数理モデルと時間遅れ:偏差分方程式で記述する新しい交通流モデル
講演概要:1950年代に始まったといわれている交通流の数理モデル研究では,今日に至るまでに様々な数理モデルが提案されており,これらの数理モデルは,そのモデリングのアプローチによって,流体力学モデル,追従モデル,セルオートマトンモデルと大きく三つに分類することができる.本講演では,多くの交通流数理モデルの中から,“時間遅れ“をキーワードに,モデル間の対応にも触れつつ,いくつかの数理モデルを紹介する予定である.さらに,現在共同研究をしている時間遅れを含む偏差分方程式で記述する新しい交通流モデル(共同研究者:岡本和也(早稲田大学),宮路智行(京都大学))に関する研究結果についても紹介する.
松本 昭夫(中央大学)
講演題目:経済動学研究における遅延:簡単な展望および今後の課題
講演概要:遅延は経済活動に必然の現象であり、それに対応する時間遅延を含む経済動学分析は長い歴史がある。ミクロ経済動学では、農生産物価格の循環的な変動を考察したKaldor (1934)やEzekiel (1938)らによるCobwebモデルを嚆矢とする。資本蓄積を基礎にもつマクロ経済動学では、Kalecki (1935)が投資の懐妊ラグ(投資決定から資本設置・稼働までの時間経過)を明示的に含むマクロ動学デルを構築し、時間遅延に起因する内生的循環変動を示した。特筆すべきはすでに、1930年代に経済活動に付随する様々な遅延を経済変動の主要因の一つに考えていたことである。しかしながら 1930 年代後半以降は均衡(静学)分析を主とするケインズ経済学が隆盛を極め、必ずしも動学に考察の重点が置かれなかったこと、さらに遅延微分方程式を理解することの数学的な難しさから、時間遅延を含む経済動学分析は必ずしも経済動学研究の中心的な分析手法とはならなかった。本講演においては、経済学における遅延分析を1930年代から現在までを(やや駆け足で)展望し、問題点、今後の課題について考察する。
Alejandro López Nieto (National Taiwan University)
講演題目:The global dynamics of enharmonic oscillators
講演概要:In the talk, I will present my doctoral work. In particular, I will discuss the global dynamics of the enharmonic oscillator, a scalar delay differential equation (DDE) of the special form $\dot{x}(t)=f(x(t),x(t-1)):=-\Omega\left(x(t)^2+x(t-1)^2\right)x(t-1)$. Here $\Omega$ is a positive nonlinear frequency function and $f$ is assumed to decrease monotonically in the delayed component, i.e., $\partial_2f<0$. More precisely, I will address the structure of the maximal compact invariant set $\mathcal{A}$. Thanks to a Poincar\'{e}--Bendixson theorem by Mallet-Paret and Sell, $\mathcal{A}$ possesses a graph structure whose vertices are periodic and stationary solutions and whose edges represent the existence of orbits connecting the vertices. Nevertheless, giving a precise description of which graphs are realizable is a challenging problem. The symmetric structure of the enharmonic oscillator allows an explicit characterization of all the DDE periodic solutions via a two-dimensional boundary value problem. In particular, we show that all periodic solutions can be retracted to a Hopf bifurcation point, which permits a detailed description of the graph structure of $\mathcal{A}$ by a combination of local center manifold analysis and global transversality theory.