[台本]『ウィキヌスズ・クラフト』
登場人物
〇平和 満(ひらわ みちる )
20歳、男性
自称・ウィッチ見習い。
誠実で明るい善人として振舞う好青年。
両親が居らず、祖父の残した遺産で生きている。
その遺産の一つ、“古書”から自分が“ウィッチ”だと知る。
〇アリス・インサニティ
20歳、女性
いつも笑顔で人々を助ける陽だまりの様な女性。
満とは小さい頃からの幼馴染で、満が“ウィッチ”である事を知っている。
困っている人が居たらすぐに声を掛け、困り事を解決している。
〇赤司 暁人(あかし あきひと)
21歳、男性
マイペースで尊重の怪物な青年。
満とは大学で同じゼミの友人。
好奇心や知識欲が強く、摩訶不思議な事も否定せず、一旦飲み込んで思考するようにしている。
〇モーヴ
年齢不詳、女性
“終(つい)”のウィッチを名乗る純血の“ホモ・ウィキヌス”の女性。
ボサボサで長髪の黒髪が特徴的且つ、義眼の右目を前髪で隠している。
口数が少なく、口を開けば毒舌ばかりの偏屈な性格をしており、ことわざをよく引用する。
〇フエゴ・ラドロン
年齢不詳、男性
“讐(むくい)”のウィッチを襲名した悪漢。
飄々としていて間延びをする喋り方をしており、相手の事を値踏みする様に視線を送る。
基本的にはニヒルに穏便な対応をするが、根が悪党であり残忍で残酷。
〇群衆
年齢不問、性別不問
町の群衆。
モーヴと兼ね役。
〇烏合
年齢不問、性別不問
烏合の衆。
フエゴと兼ね役。
※こちらの台本をやる前に事前にオー・シャンゼリゼを聞く事をおすすめします。
平和 満 ♂:
アリス・インサニティ ♀:
赤司 暁人 ♂:
モーヴ/群衆 ♀:
フエゴ・ラドロン/烏合 ♂:
※兼ね役は♥もしくは♠を追うとやりやすいかもです。
↓これより下が台本本編です。
───────────────────────────────────────
♥モーヴ:“ウィッチ”。
それは既存の人類、ホモ・サピエンスと共に共存していた種族“ホモ・ウィキヌス”たちの俗称……いや、蔑称。
私たちは自然と、世界との“つながり”が強く、不思議な力、能力を持っていた。
それを彼らは、“隣人達の恩恵(ウィキヌスズ・クラフト)”と呼んだ。
♠フエゴ:そして我々の交流は続き、時の流れは言葉の意味と我々との関係を砕けさせた。
“隣人達の恩恵(ウィキヌスズ・クラフト)”は、“魔族の外法(ウィッチクラフト)”に。
“隣人(ウィキヌス)”は、彼らの恐怖の対象“魔族(ウィッチ)”に。
♥モーヴ:私たちはただ、彼らの為に、世界の為に、自分の力を使ってきたのに。
暁人:人間たちは不平不満を垂れる。自分を優先しろと。力を独占させろと。
人間たちは恐怖に怯える。自分を傷つけるなと。力を行使するなと。
♠フエゴ:“ウィッチ”達は人間たちの要求を拒否する。
故に。
暁人:人間たちは“ウィッチ”たちを排除しようとした。
所謂、魔女狩りだ。
♠フエゴ:ノース・ベリック魔女裁判、セイラム魔女裁判、
暁人:トリーア魔女裁判、ヴュルツブルク魔女裁判。
♥モーヴ:本当に沢山。沢山。沢山。沢山、裁かれた。狩られた。殺された。
間。
♠フエゴ:「ンン?抵抗しなかったのか、だってェ?
勿論したさァ。一部は、ネ。」
♥モーヴ:私たちは我欲で力を行使しない。してはならない。
理由は単純。強大だから。そも、世界が許さない。
間。
♠フエゴ:「だから。」
♥モーヴ:「だから。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~満の部屋~
アリス:「──だから、“ウィッチ”は居なくなった……。」
間。
満:「そ。そういう事だよアリス。
世界の為に、延いては隣人たる“ホモ・サピエンス”たちの為に、歴史の表舞台から消えたんだ。
“ホモ・ウィキヌス”という種族が居た、という事実さえも抹消した。」
アリス:「した?されたんじゃなくて?」
満:「うん。“ウィッチ”たちは高次元な存在だからね。
自分たちが居なくなる事で世界の安定を測ったんだ。
……まあ、それでも全ての記録は消せなかった訳だけど。」
アリス:「そっかぁ……」
満:「そして!」
(満、立ち上がる。)
アリス:「わあ!」
満:「オレはそんな“ウィッチ”の生き残り!末裔である!!」
アリス:「わあ~」(パチパチと拍手する。)
満:「…………とは言え、今のオレを“ウィッチ”とは言えないわけでして。」
アリス:「それはどうして?」
満:「だってさ。オレまだ“ウィッチクラフト”……魔法とか使えないから。」
アリス:「…………。」
満:「けど、それでもオレは“ウィッチ”の末裔だから、いつかきっと……」
アリス:「……。」
間。
アリス:「世界の為だもんね。」
満:「そう。世界の為だ。」
(満、窓の方へ歩み寄る。)
満:「今、この世界は危機に直面している。
謎の病が流行ったり、人々の奇行が横行したり、異常気象だったり……
それらを解決するのに、人間の力ではどうしようもない。」
アリス:「だから、今一度、人間たちと“ウィッチ”たちが手を取り合うべき、なんだよね。
素敵だと思う!あたし、平和(ひらわ)君の手伝いになれる事なら、なんだってするよ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~蝶の間~
(モーヴとフエゴ、水晶越しに二人の会話を聞いている。)
♥モーヴ:「…………。」
♠フエゴ:「ンン~……志の高い少年だねェ。
どう思う?モーヴ女史。」
♥モーヴ:「どうって?」
♠フエゴ:「彼らの事だよォ。
ワタシは大いに感動していル。
“ウィッチ”の存在を知り、まず考える事が“世界の為”……
嗚呼、なんと健気かァ……。
その思想、その精神。真に“ホモ・ウィキヌス”ではないかィ?」
♥モーヴ:「……そうね。
彼……平和 満(ひらわ みちる)と言ったかしら。
この子の血の濃度は兎も角、その精神性は“ウィッチ”の適性が高いと思うわ。」
(フエゴ、椅子から立ち上がり、大袈裟に両腕を上げる。)
♠フエゴ:「おお!珍しく意見が合うねェ!!
であれば──」
♥モーヴ:「それはまだ。色々と早計だわ。」
♠フエゴ:「…………。」
(フエゴ、あからさまにテンションが下がり、身体を投げ出す様に椅子にもたれ掛かる。)
♠フエゴ:「あそゥ。
何か、理由があるのかィ?」
(モーヴ、フエゴをキッと睨む。)
♥モーヴ:「“Let sleeping dogs lie(触らぬ神に崇りなし).”
分かってるくせに。」
♠フエゴ:「……。」
(フエゴ、ニヤリと笑う。)
♠フエゴ:「まァねェ。
であれば、やらなければ、だねェ。」
♥モーヴ:「……はぁ……これだから“人間上がり”は嫌なのよ……。」
♠フエゴ:「誇り高き“ウィッチ”とは思えない差別的な発言だねェ。
まア、別にイイけれどォ。
そんな事は置いておいて、やろうかァ。モーヴ女史……いや、“終(つい)の魔女(ウィッチ)”。」
♥モーヴ:「くれぐれも勝手な行動はしない様に。“讐(むくい)の罪人(ウィッチ)”、フエゴ・ラドロン。」
間。
♠フエゴ:「『ウィッチクラフト』。」
♥モーヴ:「『ウィキヌスズ・クラフト』。」
間。
♠フエゴ:「せいぜい頑張っておくれヨ……“エディドヤの子”……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~満の部屋~
満:「まずは、初歩的なウィッチクラフトから出来る様にならないと。」
(満、古書を開く。)
アリス:「……ヒラワ君は、この本読めるの?
書いてる文字、何処の言語でも無い……というか、何故か脳が理解を拒もうとする感じさえある……。」
満:「うん、読めるよ。
例えば……ここ。ここは『水を発生させるウィッチクラフト』って書かれている。」
アリス:「へぇ~
それを今から試すの?」
満:「ああ。」
間。
満:「必要なものは全部揃ってる……ご飯もしっかり食べた……体調も万全……」
アリス:「……ごくり。」
満:「……よし!」
(部屋のチャイムが鳴る。)
暁人:「満(みちる)ー」
間。
満:「…………はぁ……扉開いてるから入っていいぞー」
暁人:「ういー」
(暁人、扉を開ける。)
暁人:「よ、ミチル。
と、インサニティさんも。こんにちは。」
アリス:「こんにちは!赤司(あかし)くん。」
満:「なんだよー暁人(あきひと)。
急に来てよー」
暁人:「急にって、お前なぁ。
今日は俺の研究手伝うって話だったろうが。」
満:「え、そうだっけ。」
暁人:「そうだよ。」
(暁人、スマホの画面を満に見せる。)
暁人:「ほら、先週約束したろ。」
満:「わ、マジだ。
すまん!アキヒト!」
暁人:「良いよ。
むしろ、俺の方こそ邪魔して悪かったな。
……ふふふ。」
満:「?」
アリス:「?」
暁人:「お熱いご様子で。」
満:「な!そ、そういうんじゃないから!!」
暁人:「え~~ホントか~???
部屋締め切って、暗くして、何やら意味深に桶なんか用意して……準備中だったか。」
満:「だから!違うって!!
ち、違うよな!?アリス!!!」
アリス:「????」
満:「アリス困惑しちまってるし!!!」
暁人:「ははは~
……ま、冗談は置いておいて。どうする、また後日にするか?
その場合、“約束すっぽかし罪”で三日分くらい昼食奢ってもらうが。」
満:「ちょいイタな出費だな……」
暁人:「この俺がちょいイタで済ますかな。」
満:「良いよ!行く!てかそっちが先約だしな!
……そういう訳だ。アリス、また今度な。」
アリス:「うん。あたしは見てるだけだから、いつでも良いよ。」
暁人:「あー……そういう趣向?」
満:「違うって!
とにかく、下降りててくれ、準備するから。」
暁人:「あいあいさー」
(暁人、部屋から出る。)
満:「……改めて、そういう訳だ。悪いなアリス。」
アリス:「ううん。」
満:「じゃ、オレはちょっと準備してるから、アリスも自分の荷物まとめたら勝手に出てって良いからな。」
アリス:「片付けは?」
満:「帰ってきたら自分でやる。
じゃあ、準備してくる。」
アリス:「うん。」
(満、部屋を出る。)
アリス:「…………。」
間。
アリス:「……『水を発生させるウィッチクラフト』……
うーん……該当すると思われる単語の区切りが分からない……どういう文法だろう……」
♠フエゴ:「気になるかィ?」
アリス:「え?!」
間。(アリス、声がした方に振り向く。)
アリス:「……誰も、居ない……?」
♠フエゴ:「ワタシの事はァイイんだよォ。
それよりも……ほら。」
♥モーヴ:知らない声。
でも貴女はそんな事よりも、視界の端で舞う小さな光に気を取られる。
アリス:「……蝶々……?
窓開けた時に入ってきたのかな?
でも、こんな時期に……」
間。
アリス:「綺麗……。」
間。
満:「ふ~ふっふっふふ~♪ふ~ふっふっふふ~♪」(オー・シャンゼリゼをハミングしている。)
満:「ふう、準備OK~
……あれ?アリス?まだ居たの?」
アリス:「………………。」
満:「アリス?」
アリス:「あ、ヒラワ君。」
満:「どうかしたか?」
アリス:「ううん。そういえばヒラワ君。」
満:「ん?」
アリス:「さっき歌ってた鼻歌ってなんて曲なの?
よくハミングしたり口ずさんだりしてるよね。」
満:「あ、ああ……
『オー・シャンゼリゼ』っていう曲。
暇な時とか楽しい時とか、なんか気持ちが良い時とか歌うと良いんだよな。」
アリス:「楽しい時……気持ちが良い時……いいね。」
満:「?」
(窓の外から、少し遠くから暁人の声がする。)
暁人:「おーいミチルー」
満:「悪い!今降りる!」
一拍。
満:「さ、出るか。」
アリス:「うん。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アリス:「せっかくなので、あたしもアカシくんのお手伝い、参加しても良いかな?」
暁人:「勿論。むしろ人手、というよりは人の目、人の耳、人の思考は多い方が良いからな。」
アリス:「?」
満:「そういや具体的な事聞いてなかったけど、研究って何するんだ?」
暁人:「研究っつっても、今日やるのはフィールドワークだな。」
アリス:「フィールドワーク?」
暁人:「実際に現地に行って散策したり、観察したり、インタビューしたりするんだよ。」
アリス:「なるほどー」
満:「で、何に関して調べてんの?どんな課題?」
暁人:「今回は別に大学の課題とかじゃないんだ。
ただの俺の興味。」
間。
暁人:「“空白探し”をしてる。」
満:「空白探し?」
暁人:「そう。この世界は、この世界の歴史は、あまりにも空白が多い。
俺はそういう空白を、人生を掛けて埋めていきたいと思っている。
まずは手始めにこの町からだ。」
満:「……。」
アリス:「……。」
暁人:「なんだ?
別に笑ってくれても良いんだぞ。」
満:「笑う訳無いだろ。
ただ、そういう目標があったりするのは良いなって思っただけだ。」
アリス:「うんうん。」
暁人:「……そっか。じゃ!張り切って行くぞ!」
満:「おー!」
アリス:「おー!」
◇
♥モーヴ:三人は一緒になって散策したり、散り散りになって散策したりした。
♠フエゴ:その道中で色々な話をしたりした。
◇
暁人:「そういやミチルとインサニティさんって大学入った頃からずっと仲良いよな。
何かきっかけとかあんの?」
満:「あーそもそもあれなんだよ。
アリスとは小学校から一緒でさ。」
暁人:「あー!幼馴染ってやつ!」
満:「そうそう。」
暁人:「で、どういう経緯で仲良くなったの?」
アリス:「それは……」
間。
アリス:「秘密!」
暁人:「勿体ぶるねぇ。
いつかその“空白”が埋まる時が楽しみだ。」
満:「そんな大した話じゃないさ。」
♥群衆:「おや、アリスちゃんじゃないか。」
満:「お?」
暁人:「え?」
アリス:「ん?あ!この間の人!」
♥群衆:「あの時は助けてくれてありがとうねぇ。」
アリス:「いえいえ!困ってたらお互い様ですよ!」
♥群衆:「本当に良い子だねーアリスちゃん。」
(満と暁人に向かって。)
♥群衆:「アリスちゃんの事、よろしく頼むよ。」
暁人:「え、あ、はい。」
満:「了解した。」
(群衆、去る。)
暁人:「……インサニティさん、さっきの人知り合い?」
アリス:「ううん。この間、財布を失くして困っていたから一緒に探しただけ。」
満:「で、見事に見つけて、無事解決したワケだ。」
アリス:「そ!」
暁人:「おー……めちゃくちゃ善行だ。」
アリス:「そんな事無いよ。ただ当たり前に、ただ当然に、自分が楽しい方に舵を切っただけ。」
♠烏合:「あれ?」
間。(誰かが満たちの下へ駆け寄る。)
♠烏合:「お、君は!」
アリス:「あら!体調の方はもう大丈夫なんですか?」
♠烏合:「ああ!もうすっかり元気だよ!
あの時、君に助けてもらえなかったら、もしかしたら今頃、もうこの世にはいなかったかもしれない。
感謝してもしたりないよ。」
アリス:「そんな、大袈裟ですねー」
暁人:「え、また?」
満:「凄いだろ。」
暁人:「何腕組んでんだよ。」
満:「アリスはな、善性の塊なんだよ。
オレが目を離している隙に、誰かを助けている。
昔からそういう奴なんだよ。」
暁人:「どうした急に。」
満:「そもそも顔立ちや振る舞い、言葉回しや声も柔和だからな。
だからこそ、人々も自分の弱みをアリスに晒してしまう。
けれど、それを悪用する様な性格じゃないから、ただ自然にその弱みを解消してくれる。
ああ見えて結構力も強いしな。」
暁人:「フッ……見た目以上に頼りになるってことだな。」
満:「ああ、そういう事だ。」
♠烏合:「ではそろそろ行くよ。」
アリス:「気をつけてねー!」
(烏合、去る。)
暁人:「何をしたんですかい、ヨシュアよ。」
アリス:「よ、ヨシュアってそんな罰当たりな……
ただバス停であの人が苦しそうにしてたから救急車を呼んだだけだよ。」
満:「しっかりと介抱もしていたんだろうなぁ。」
暁人:「フッ……だが言うまでもない事、だよな。」
満:「ああ、そういう事だ。」
アリス:「??????」
◇
♠フエゴ:時間は過ぎる。が、“空白探し”とやらは何も進展していない。
他愛も無い、意味も無い時間が過ぎる。
♥モーヴ:だが換えの効かない唯一無二の尊い時間。
このまま、何も無いまま、終われば良い。
間。
♠フエゴ:「……フフフ……フハハハハハハハハハハハ!!!!!」
♥モーヴ:「……。」
♠フエゴ:「モーヴ女史……星に祈るお姫様みたいな顔してェ……
分かっているだろォ?その願いは、叶わないってさァ。」
♥モーヴ:「……。」
♠フエゴ:「もう賽は投げられた。“何も無い”事は、もう無いんだヨ。」
♥モーヴ:「…………。」(頭を抱える。)
♠フエゴ:「ンン?
ハハッ、どうやら“何か”が起きるらしいよォ?」
♥モーヴ:「──っ」
◇
アリス:「ここだね。」
暁人:「ああ、ここだな。」
満:「まさか、こんな身近にこんな場所があるなんてな。」
暁人:「建設当初から“廃工場”だった場所。
数年前にここで爆発事故が発生し、一度倒壊した。
が、また新しく建てられた。“また廃工場として”。」
満:「意味がわかんねーよなー」
アリス:「そうだね。
そもそも工場って何かを作ったり、作業したりする為にあるのに、
町の人たち皆、口を揃えて“元から廃工場だった”って言うし、
調べてみたけれど、何処かが所有しているワケでも無い。」
満:「それってもはや“ヤ”の付く人たちの何かじゃないの?」
暁人:「だったら尚の事、“表の顔”を用意しておくもんじゃないか?」
満:「んー……なんか、中には入んない方が良い気がするんだよなー……」
暁人:「そりゃ勿論だ。
流石に、勝手に中に入るのは何かしら問題になりそうだし、今回は外観をぐるっと回って観察する程度にしよう。
そして、可能であれば然るべき手続きを踏んで後日、中を見学だ。」
アリス:「了解!」
満:「……まあ、中に入らなきゃ良いか……。」
間。
アリス:「とは言っても、外観は勿論、工場が建っている場所も、特別変な事は無いしなぁ。」
満:「まさか、町の歴史調査が、半ば心霊スポット調査みたいになるとは思わなかったな。」
暁人:「まあ、“空白探し”って言っても、今の俺が調べられる範囲じゃ、どうしても“都市伝説を探ろう!”みたいになるよな。
俺は怪談とか好きだし、そういうのに首を突っ込みたい気持ちはあるけどな。」
満:「大学生の息抜きでやる自由研究なら、これくらいで良いのかもな。」
暁人:「ハハハ、違いない。」
♠フエゴ:他愛も無い、意味も無い時間。
♥モーヴ:換えの効かない唯一無二の尊い時間。
満:「……スタート地点に戻ってきたな。」
暁人:「そうだな。」
満:「ただ駄弁るだけで終わっちまったな。」
暁人:「特に何か起きるわけでも無く、な。」
満:「味気ないなー」
暁人:「仕方ないさ。
とりあえず、今日はここまでにして……」
間。(満と暁人、周りを見渡す。)
暁人:「あれ?」
満:「アリス?」
暁人:「……何処ではぐれたんだ……?
俺ら早歩き過ぎたか?」
満:「いや、結構ゆっくりだったと思うけど……」
暁人:「…………。」
満:「…………。」
暁人:「まさか、中に?」
満:「え?勝手に?
いやいや、アリスはそんな事する奴じゃない。」
暁人:「じゃあ勝手に帰ったのか?
もっとそんな事する奴じゃないだろ。」
間。
満:「……じゃあ、一応入るか。」
暁人:「一応ってか行くぞ!」
満:「お、おう!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♥モーヴ:ほんの少し、時間を遡る。
満:「んー……なんか、中には入んない方が良い気がするんだよなー……」
暁人:「そりゃ勿論だ。
流石に、勝手に中に入るのは何かしら問題になりそうだし、今回は外観をぐるっと回って観察する程度にしよう。
そして、可能であれば然るべき手続きを踏んで後日、中を見学だ。」
アリス:「了解!」
満:「……まあ、中に入らなきゃ良いか……。」
間。
アリス:「とは言っても、外観は勿論、工場が建っている場所も、特別変な事は無いしなぁ。」
♥モーヴ:ひらり、ひらり。
アリス:「……え?」
(アリス、後ろを振り向く。)
アリス:「…………。」
(アリス、満と暁人に声を掛けようとする。)
アリス:「ねえ──」
(少し遠くから二人の声がする。)
暁人:「まあ、“空白探し”って言っても、今の俺が調べられる範囲じゃ、どうしても“都市伝説を探ろう”みたいになるよな。
俺は怪談とか好きだし、そういうのに首を突っ込みたい気持ちはあるけどな。」
満:「大学生の息抜きでやる自由研究なら、これくらいで良いのかもな。」
暁人:「ハハハ、違いない。」
アリス:「…………。」
♠フエゴ:魔が差した。
アリス:「──っ。」
(アリス、気配がした方へ、工場の中へと駆けていく。)
アリス:ドキドキする。
何か、素敵な事が、そうきっと──
♠フエゴ:嗚呼。貴女を待っているヨ。
アリス:「はぁっはぁっはぁっ!」
♠フエゴ:おお、“躍る心(シャンゼリゼ)”。その心の趣くままに。
♥モーヴ:ひらり。ひらり。
アリス:「あ!蝶々!」
♠フエゴ:光り輝く蝶。
♥モーヴ:ひらり。ひらり。
光は漂い、扉の先へと向かう。
アリス:「待って!」
♠フエゴ:君を連れて、遊びに行こう。
皆が集まるあのクラブ。
アリス:「────え?」
~蝶の間~
(モーヴとフエゴ、椅子に座り、お茶を飲んでいる。)
アリス:「……ここは……どこ……?
あれ?さっきまで、工場の中に……」
♠フエゴ:「やア。初めましてェ。」
♥モーヴ:「……。」
アリス:「は、はじめ、まして……
……あ、貴方たちは……
あ……あたしはアリス。アリス・インサニティと言います。」
♠フエゴ:「うんうんうんうん~
自分から自己紹介してくれるとはァ、良い子だねェ~
デハデハ~それに応えてェ、
ワタシはフエゴ。フエゴ・ラドロン。ちょっとワルな紳士さ。」
♥モーヴ:「…………。」
♠フエゴ:「こらこらァ、君も挨拶くらいしたらどうだィ?」
♥モーヴ:「……モーヴ。」
♠フエゴ:「……マ。イイだろゥ。
すまないねェアリス嬢。彼女、モーヴ女史は人見知りで口下手なんダ。
勘弁しておくれ?」
アリス:「……うふふ。」
♠フエゴ:「お、笑った。可愛く笑うねェ。」
♥モーヴ:「……。」(紅茶を飲む。)
アリス:「……それで、あの、入ってきたあたしが言うべきでは無いのかもしれないのですけども、
ここはどこなんですか?」
♠フエゴ:「ン~?ここはねェ、“蝶の間”という場所だよォ。」
アリス:「蝶の間……?」
♠フエゴ:「そウ。資格ある者しか入る事の出来ない場所サ。」
アリス:「資格……?」
♠フエゴ:「そう資格さァ。
その資格ってェのはねェ……」
♥モーヴ:「フエゴ。」
間。
♥モーヴ:「そこまでよ。」
♠フエゴ:「……ハイハイ。了解しタ。」
アリス:「……?」
♥モーヴ:「貴女。」
アリス:「はっ、はい。」
♥モーヴ:「これ以上首を突っ込むのは止しておきなさい。」
アリス:「え?」
♥モーヴ:「それが貴女の、貴女の周りの為よ。」
アリス:「え?え?それは、どういう?」
♥モーヴ:「“Curiosity kills the cat(好奇心は猫をも殺す).”
貴女の“魔が差した”が、とんでもない事になるって事よ。」
♠フエゴ:「猫は九つ命があるそうじゃアないかァ。
だったらイイじゃないか。一度や二度、魔が差してもさァ。」
♥モーヴ:「その九つ全てを失うって言ってんのよ。」
アリス:「……ねえ、貴方たちは、もしかして……」
♠フエゴ:「ンン?おや?おやおやァ?その表情、もしや気付いたのかィ?
恐ろしいねェ、ワタシたちの会話の何処に気付ける要素があったのカ……
いや、雰囲気、オーラ、かなァ?」
♥モーヴ:「黙りなさい。
ともかく、今回は見逃してあげるわ。
貴方もそれで良いわよね。」
♠フエゴ:「モーヴ女史の仰せのままにィ。」
アリス:「え、ちょ、ちょっと、待ってよ。あたし、まだ何も──」
♥モーヴ:「『ウィキヌスズ・クラフト』。」
♠フエゴ:「『ウィッチクラフト』。」(ニヤリと笑いながら、ゆっくり言う。)
アリス:「ッ!!ねえ!!!」
(遠くから満と暁人の声が響く。)
満:「アリスー!」
暁人:「インサニティさーん!」
アリス:「──」
(アリス、振り向く。)
アリス:「…………あ……!」
(アリス、再び前を向く。)
アリス:「…………元の、工場……。」
間。
アリス:「こっちだよー!!」
(満と暁人、アリスが居る所に着く。)
満:「居た……!ダメじゃないかアリス!勝手に入っちゃ……!」
アリス:「えへへ……ごめんなさい……」
満:「……まあ、何事も無かったし、とりあえず、出よう。」
アリス:「……そうだね。」
満:「日も落ちてきたしなー」
間。
満:「アキヒト?」
暁人:「…………。」
満:「どうしたんだよアキヒト。」
アリス:「……?」
暁人:「……これ……」
満:「ん?」
間。
満:「……え?」
♥モーヴ:指先の向こう側に視線を移す。
そこにあったのは──
アリス:「────」
♠フエゴ:そこにあったのは、そこに広がっていたのは、無数の人型の“痕”。
パっと数えただけで20人分。それ以上の“痕”がある。
満:「なんだこれ……」
暁人:「そういうデザイン……な、ワケ無いよな……」
アリス:「……焼死体。」
暁人:「はあ?!」
満:「焼死体って、爆発事故でってやつの……?
でも、その時に倒壊して建て直したんだろ?
だったらこんな痕残ってる筈無いし、残す意味も無い筈。」
アリス:「『“讐(むくい)”を忘れない為に』」
満:「え……?」
アリス:「あそこ。」
(満と暁人、アリスが指差す方を見る。)
暁人:「……?
何を指差してんだ?」
満:「──ッ」
暁人:「……ミチル?」
満:「“魔族の文字(ウィッチストリング)”……。」
暁人:「ウィッチストリング?
ウィッチって魔女とかそういうのの?」
満:「……アリス……お前、これが読めるのか……?」
アリス:「うん。読めるというか、なんか“分かる”って感じがする。」
満:「……。」
暁人:「ウィッチストリング……魔女文字列……?
二人共何の話してんだ?」
満:「あ、ああ……ちょっとな……」
アリス:「ここは誰かの“讐(むくい)”の……復讐の感情が渦巻いているんだよ。
この“空白”を、空白にさせない為に。」
満:「アリス……?」
暁人:「“空白を、空白にさせない為”……。
だから“廃工場を建て直した”。」
アリス:「そう!そういうこと!!」
暁人:「なるほど……別段裏付けがあるわけでもないただの憶測だが、
わざわざこの状態で残している理由としては、まあ、あるのかもしれないな。」
アリス:「ああ……!なんだか気持ちが高揚してきた……!」
暁人:「なんか分かるぜ!」
アリス:「あたしも!」
(アリス、両腕を広げる。)
アリス:「あたしも復讐したいの!!!」
間。
暁人:「……え?」
満:「なんだよ急に……どうしたんだよアリス……」
アリス:「どうもしてないよ!
ずっと思ってたの!ずっとずっと思ってたの!!」
(アリス、くるくる周り出す。)
アリス:「分かるわ!分かるわ貴方の気持ち!
どうして“私”が生きてるの!!?どうして皆が死んでるの?!?
おお、“躍る心(シャンゼリゼ)”!!!」
♥モーヴ:少女は躍る。
己が内に秘めた“醜”悪を撒き散らす様に。
♠フエゴ:少女は謳う。
外の感情を、己の怒りと摺り替え、挿げ替えて。
♥モーヴ:その踊りはまるで儀式の様に。
♠フエゴ:その歌はまるで呪詛の様に。
アリス:「あたしは、“ウィッチ”。」
満:世界が、暗転する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
暁人:回想。
アリス:私の母は、皆に魔女と呼ばれていた。
多くの人を魅了し、多くの人に恨まれ、母が悪いと皆が攻撃した。
母は壊れた。
♥モーヴ:魔女だから。
♠フエゴ:悪だから。
アリス:私は母のこともあり、故郷から出ていかないといけなくなった。
♥モーヴ:私は、魔女の娘だから。魔女の娘も魔女だから。
アリス:「……あれ?これ、本当にあたしの記憶……?」
♥モーヴ:自分が魔女である事を隠して生きてきた。
♠フエゴ:ワタシは自分が悪であると生きてきた。
アリス:まだあたしが幼い時、親の都合で国を出て、極東まで来た。
そこであたしは彼と──
♥モーヴ:■■■■に出会った。
♠フエゴ:■■■■に出会った。
(■■■■は無音でもノイズでも良い。)
アリス:平和 満(ひらわ みちる)に出会った。
♠フエゴ:本物の“ウィッチ”。
♥モーヴ:本物の“ウィキヌス”。
アリス:彼が魔法を使う所を見ていた。
嗚呼。心が躍る。
アリス:良いな。
アリス:良いな。
アリス:良いな。
アリス:あたしも“ウィッチ”になりたいな。
♥モーヴ:だから貴女は彼に声を掛けた。
アリス:君は人前で魔法を使ってくれない。
いや、人前だと使えないんだ。
♠フエゴ:彼は“ウィッチ”を善とする。
アリス:だからあたしは良い事をする。
“ウィッチ”になりたいから。
♥群衆:「ありがとう!」
♠烏合:「ありがとう!」
アリス:嗚呼。嫌だ嫌だ。
♥モーヴ:だけど“ウィッチ”になりたいから。
アリス:善行なんかじゃない。
♠フエゴ:君は人を魅了する。
アリス:ただ当たり前に、ただ当然に、自分が楽しい方に舵を切っただけ。
アリス:「…………。」
間。
アリス:「“讐(むく)い”ないと。“終わり”にしないと。」
♥モーヴ:さあ、舞うよ。
♠フエゴ:さあ、咲くよ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(満と暁人、倒れている。)
満:「────う……うぅ……」
(満、起き上がる。)
満:「い……今のは……」
間。
満:「……アリス……」
間。
満:「あ……アキヒト……おい、アキヒト!」
暁人:「──う……はっ!」
満:「……はぁ、良かった……」
暁人:「今のは……インサニティさんの記憶……?」
満:「っ!アキヒトも見たのか!」
暁人:「……ああ。
なあ、ミチル。“ウィッチ”ってなんなんだ。」
満:「…………。」
暁人:「……。」
間。
暁人:「ま。言いたくない事の一つや二つ、誰にでもあるわな。
とりあえず、インサニティさんを探そう。」
満:「お、おう。」
暁人:「話せる範囲で良いから、必要だと思うこと、道すがら教えてくれ。」
満:「……ああ!」
(満と暁人、去る。)
間。
♠フエゴ:「──ああ~~~~……!やっと出られたァ~」
♥モーヴ:「…………。」
♠フエゴ:「久々の人間界、久々の肉体……ンン~……生きているというのは最高だァ。
なア?モーヴ女史?」
♥モーヴ:「『ウィキヌスズ・クラフト』。」
♠フエゴ:「ンン?」
♥モーヴ:「『“発火(ルージュ)”』」
(フエゴ、身体が燃え上がる。)
♠フエゴ:「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!!」
♥モーヴ:「……。」
♠フエゴ:「ぐあああああああああああ……!!」
間。
♠フエゴ:「────」(真っ黒焦げになって倒れる。)
♥モーヴ:「……。」
♠フエゴ:「あア。びっくりしたよォ。」
♥モーヴ:「──ッ!!」
♠フエゴ:「しかもワタシが生まれる原因たる炎で攻撃してくるだなんてェ……
タチが悪いじゃアないかァモーヴ女史。」
♥モーヴ:「いつの間に私の後ろに回っていたの。」
♠フエゴ:「そりゃもゥ、最初かラ。」
♥モーヴ:「っ。」
♠フエゴ:「君がワタシを殺したくテ殺したくテ仕方が無い事くらい分かっていたよォ。
待っていたんだろゥ?“蝶の間”、“ウィッチ”同士が攻撃出来ないあの空間から出られる瞬間を。
新たなる“ウィッチ”を迎え入れる為の扉が開く瞬間をォ!」
♥モーヴ:「貴方は“ウィキヌス”に至るべきでは無い“悪”。
消滅するべき存在、害悪よ。」
♠フエゴ:「ハッハッハッー!!
害悪と来たかァ!!!
その“悪”を除かんが為にワタシの企みに乗ったのかネ!!!」
♥モーヴ:「そうよ。
貴方は“サピエンス”に観賞も、干渉も出来ない。
けれども貴方を消す為に力を貸してあげた。」
(モーヴ、構える。)
♥モーヴ:「だから感謝の印として消えなさい。
『ウィキヌスズ・クラフト』、『“猛き炎(カメリヤ)”』。」
♠フエゴ:「おっとォ!!!!」
(フエゴ、背後に飛び退く。)
♠フエゴ:「先ほどよりも幾分も高い火力。
あんなものを食らってしまってはァ、一溜まりもォ無いじゃアないかァ。
『ウィッチクラフト』。」
♥モーヴ:「っ」
♠フエゴ:「『束縛の法(エス・クラヴィトゥ)』。」
♥モーヴ:「くっ!!」
♠フエゴ:「モーヴ女史はワタシの様に俊敏では無いからねェ。
簡単に捕まってしまゥ。
安心したまえェ、貴女はワタシを殺したい様だがァ、ワタシにその気は無いよォ。」
♥モーヴ:「『ウィキヌスズ・クラフト』!『“黒銀の翼(アントラシット)”』ッ!!!」
♠フエゴ:「『ウィッチクラフト』!『“縛りの弾丸(バラ・エスピニア)”』ァッ!!!」
♥モーヴ:「かはッ!!!」
♠フエゴ:「フッ」(銃口の煙を吹き消す様に。)
♠フエゴ:「今、モーヴ女史に撃ち込んだ弾丸はァ、成長し、無数の棘が体内から傷つけて行く。
無理に動かない方が良いよォ。」
♥モーヴ:「ぐ……あ……貴方らしい陰険な“ウィキヌスズ・クラフト”……ね……」
♠フエゴ:「最高の褒め言葉ダ。」
♥モーヴ:「『ウィキヌスズ・クラフト』。」
♠フエゴ:「おいおいおいィ。
もう辞めておけ……よォ!!」
(フエゴ、モーヴの顔面を蹴る。)
♥モーヴ:「うぅッ!!」
♠フエゴ:「ワタシは女性をいたぶる趣味を持ち合わせていないィ……
だがなァ……なんだか言って、ワタシの根源は“悪”。悪党だからねェ……」
(フエゴ、持っている杖でモーヴの傷口を抉る。)
♥モーヴ:「ああああ!!!あああああああああああ……!!!!!」
♠フエゴ:「ンンン~~~~……!
良い音色だァ……
全てが済むまで、奏で続けるのもォ……イイかもしれないなァ。」
♥モーヴ:「うあああ……は……!偽物の癖に……」
♠フエゴ:「………………アア!貴女からすれば、“サピエンス”から“ウィッチ”になった奴はみぃんな──」
♥モーヴ:「違うわよ。
貴方はフエゴ本人からこぼれ落ちた“恩讐の塊”、それが人の形を持った物でしかない。
それがフエゴ本人の、人間の真似事をしているのが滑稽ねって事よ。」
♠フエゴ:「──ッ!!」
(フエゴ、持っている銃でモーヴの太ももを撃ち抜く。)
♥モーヴ:「ぐああああああああああッ!!!!!」
♠フエゴ:「言葉を慎めよ魔女。
今優勢なのは──ワタシだァ。
ワタシの気分次第でアンタを“最後の魔女”から撃ち落とす事だって出来るんだぜェ?」
♥モーヴ:「頭に来たらまともに喋り出すそれ、それも本物フエゴさんの真似?──ぐッ!!」
(モーヴ、フエゴに首を締められる。)
♠フエゴ:「黙れよ。」
♥モーヴ:「っく──か……!!」
♠フエゴ:「復讐を成しえず、“讐(むくい)”を忘れた本体のハナシをワタシの前でするな。
散っていったワタシの仲間たちを空白に追いやった本体にはほとほと呆れるが、
それはイイ……世界線変動により生まれ変わった“本体様”が幸せになる為には必要な事だ……」
♥モーヴ:「──あ……ッ!あァ……ッ!!」
♠フエゴ:「ワタシはワタシだ。元になったフエゴ・ラドロンとの多少の差はあれど、
ワタシも“フエゴ・ラドロン”だ!
それを証明する為にも、ワタシは──」
♥モーヴ:「っか……顔の前で大きな声、出さないでよ……うるさいのよ……!!
あと珈琲の飲みすぎ!口臭いのよ……!!」
♠フエゴ:「…………失礼したァ……
こんな状況でもそんな大口を開けるとは、流石は魔女だねェ。」
♥モーヴ:「貴方もよ。こんな状況でよくそんな能書きダラダラ垂れ流せるわね。悪役の鑑だわ。」
♠フエゴ:「あァ?」
♥モーヴ:「私の“右目”は貴方を捕らえた。もう逃げられないわよ。」
♠フエゴ:「しまッ──」
♥モーヴ:「『ウィキヌスズ・クラフト』。『“故郷を滅ぼした紅(ルージュ・エクルヴィス)”』。」
♠フエゴ:「──ッ!!」
♠フエゴ:「ぐあああああああああああああああああッ!!!!!」
(モーヴを縛っていたウィッチクラフトが消える。)
♥モーヴ:「く……私を縛っていた魔法が消えた……
ちゃんと本物を焼けた様ね。」
♠フエゴ:「ウィ……!『ウィッチクラフト』ォ!!!!
『“鎮火の雨(ジュビア・ペサーダ)”』ァ!!!!!!!」
♥モーヴ:「あら、貴方。水を生成するなんて、そんな真っ当な“ウィキヌスズ・クラフト”も使えたのね。
吃驚だわ。」
♠フエゴ:「はぁ……はぁ……」
♥モーヴ:「必死で、無我夢中で、訳も分からず、だったのかしら。
“It’s never too late to learn(学問に遅すぎるはない).”
基礎から勉強するのも悪くないかもしれないわよ。そうしたらより早く対処出来る様になるわ。」
♠フエゴ:「……調子に乗るんじゃアないぞ!!!魔女!!!!!」
♥モーヴ:「あら……先程までの余裕は何処へやら。」
♠フエゴ:「『ウィッチクラフト』ォ!!!!!」
♥モーヴ:「『ウィキヌスズ・クラフト』。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(満と暁人、走りながら)
暁人:「──なるほどな……!“ホモ・ウィキヌス”……“ウィッチ”……
あの怪現象はそれの仕業かもしれないって事か……!」
満:「アキヒト……信じてくれるのか?こんなふざけた話を。」
暁人:「あ?俺のふざけた夢を笑わないでくれたんだ。
お前のふざけた話も受け止めるさ。」
満:「アキヒト……」
暁人:「それに、気絶してる時に見たアレとか、インサニティさんの様子とか、
どれもマジっぽいし、目の当たりにした事実だ。
──って……」
(暁人、足を止める。)
満:「ん?どうしたんだアキヒト?」
暁人:「ミチル……今、何時だ……?」
満:「え?19時を超えて…………」
(満、空を見る。)
満:「なんで、まだ明るいんだ……?」
暁人:「……これが……“ウィッチ”の力……なのか……?」
満:「分からない……けれど、どうして──」
アリス:その方が楽しいから!
満:「──え?」
暁人:「今の、インサニティさんの声?どこから?」
満:「……なんだか嫌な予感がする……急いで探そう!」
暁人:「ああ!」
◇
♠烏合:「急に明るくなったなー」
♥群衆:「どうしたんだろうね急に。」
♠烏合:「これも異常気象の一つなのかな。」
♥群衆:「……ん?なにあれ?」
♠烏合:「え……え……?」
(アリス、踊りながら、歌いながら町を跳ねる。)
アリス:「『街を、歩く♪心、軽く♪
誰かに会える、この道で♪
素敵な、あなたに♪声を、かけて♪
こんにちはあたしと行きましょう♪』」
♥群衆:「……アリスちゃん?どうしたのそのかっこ──」
アリス:「『オー・シャンゼリゼ!オー・シャンゼリゼ!!』」
(アリス、群衆の一人を潰して殺す。)
♠烏合:「え……?は……?ぇ……????」
アリス:「『いつも、何か♪素敵な、ことが♪
あなたを待つよ、“躍る心(シャンゼリゼ)”♪』」
♠烏合:「ああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
アリス:「『あなたを、連れて♪遊びに、行こう♪
みんな集まるあのクラブ♪』」
(逃げ惑う群衆と烏合たち。)
♥群衆:「いやああああああああああ!!!!助けてぇ!!!!!!!」
アリス:「『ギターを、弾いて♪朝まで、歌う♪
楽しく騒いで恋をする♪』」
♠烏合:「辞めてくれ!君はそんな事をする子じゃないだろ!
辞めてくれ!辞めてくれ辞めてくれ辞めてくれ辞めてくれ!!!」
アリス:「『オー・シャンゼリゼ!オー・シャンゼリゼ』~~~!!!!」
♠烏合:「やめてぇええええええええええええええええ!!!!!」
(烏合の一人が細切れに切り刻まれる。)
アリス:「『いつも、何か♪素敵な、ことが♪
“私(あなた)”を待つよ、“躍る心(シャンゼリゼ)”♪』」
間。(満と暁人、大通りに出て町の惨状を目の当たりにする。)
満:「──ッ」
暁人:「ッ!」
満:「な……なんだよこれ……」
暁人:「町の人たちが……殺されてる……」
満:「う゛……おええええええ……!!!!」
暁人:「ミチル!大丈夫か!?」
満:「これを……アリスが……?なんで……?」
暁人:「…………。」
満:「アリス……“ウィッチ”は人間を救う為に力を行使するんだ……
人間を殺す為なんかじゃない……こんな酷い事をする為なんかじゃない……」
暁人:「……インサニティさんの過去に、何か、あったのかもな。」
満:「過去……?」
暁人:「彼女も“ウィッチ”、“ホモ・ウィキヌス”だったって事だろ。
だったら、彼女の過去……それこそ、気絶した時に見た“母”が受けた酷い仕打ちとかが──」
満:「アリスのお母さんは今も生きてる……!」
暁人:「え?は?」
満:「アリスの両親は普通だ……!多分義理の両親とかでも無い……!」
暁人:「じゃあ、俺たちが見たのは一体……」
満:「分からない……わかんねーよ……!
アリス……!何考えてんだよ!!!」
(遠くから人々の叫び声が響く。)
♥群衆:「うわああああああああああああああ!!!!」
満:「ッ!!」
暁人:「ッ!!」
(満と暁人、駆け出す。)
◇
アリス:「『オー・シャンゼリゼ♪オー・シャンゼリゼ♪』」
♥群衆:「いやだぁああああ!死にたくないぃいいいいいいいいい!!!」
満:「アリス!!!」
アリス:「んー?」
(アリス、振り返る。)
アリス:「あ!ヒラワ君!!!」(満面の笑みを見せる。)
(アリス、群衆の一人から手を離す。)
♥群衆:「うわっ!」
暁人:「っ」
満:「アリス!何してんだ!!」
アリス:「ヒラワ君……ヒラワ君!ヒラワ君!!あたし!“ウィッチ”になれたよ!!」
満:「んな事はどうでもいい!何してんだって聞いてんだよ!!」
暁人:「今のうちに逃げましょう。」(小声)
♥群衆:「は……はい……!」
アリス:「何?何って、せっかく“ウィッチ”になったんだよ?
だったら何が出来るか試してみたくない?
ねえ、ほら!見て!この空!雲ひとつ無い!綺麗な青空!
これもあたしがやったんだよ!」
満:「何の為に!」
アリス:「ヒラワ君が好きだから!」
満:「は、はぁ……?」
アリス:「ヒラワ君好きでしょ!雲ひとつ無い晴天!」
満:「じゃ、じゃあなんで町の人たちを殺して回ってんだよ!!!!」
アリス:「……。」(真顔になる。)
間。
アリス:「“讐(むく)い”ないと。“終わり”にしないと。」
満:「え……?」
アリス:「これは、“ウィッチ”たちの想い。“ウィッチ”たちの悲しみ。“ウィッチ”たちの苦しみ。
彼女たちは人間たちに虐げられてきた。彼女たちは人間に追いやられた。“私”たちは人間たちに殺された。
……この恨み、晴らさでおくべきか!」
満:「“ウィッチ”の力はそんな事に使うもんじゃない!!!」
アリス:「じゃあ何に使うの?」
満:「平和の為だ!!」
アリス:「うん!“ヒラワ”君の為に使う!!」
満:「──ッ……ああ~~~~!!!もう~~~~~~!!!!
全っ然言葉通じないじゃん!!!!!!」
アリス:「あははははははは!!ヒラワ君のそういう顔!嘆きの顔!
初めて見た!!!!」
満:「……ッ!」(会話が出来無さ過ぎて慄く。)
(アリス、スンっと真顔になる。)
アリス:「かつて殺された“ウィッチ”たちの為に人間を殺してまわってるよ。」
(アリス、微笑を湛える。)
アリス:「ヒラワ君の為に皆を殺してまわってるのも本当だよ。」
満:「──え?」
アリス:「だって、人間たちの所為でヒラワ君は独りなんだもん。
人間たちの所為でヒラワ君の両親は居なくなったんだもん。
人間たちの所為でヒラワ君は“善行”に取り憑かれているんだもん。」
満:「善行に、取り憑かれてる……?」
アリス:「人間に奉仕して、認められて、仲間に入れて欲しいんだよね。」
満:「ッ!!」
アリス:「だけど大丈夫。」
(アリス、両手を広げる。)
アリス:「だってあたしが“ウィッチ”になったから!
もう独りじゃないよ!ヒラワ君!!」
満:「………………。」
アリス:「あたしたちが道を行けば世界は揺れるよ!!
作ろうよ!君とあたしの為の、二人きりの世界!!!!」
間。
満:「ウィッチクラフト……いいや、『ウィキヌスズ・クラフト』……。」
アリス:「……ヒラワ君……?」
満:「『転送』、古書『レメゲトン』。」
(満の周りに魔法陣が展開し、満の所有する古書が顕現する。)
満:「それは、“人を害する理由には成りえない”。」
アリス:「……。」
間。
アリス:「嗚呼……!ヒラワ君が“ウィッチクラフト”を使ってる……!!
人前では使えない筈なのに……あ!あたし!もう“人間”じゃないからだ!!
素敵!!!!!!!!!!!」
満:「……。」
アリス:「あははは!」
満:「『ウィキヌスズ・クラフト』。」
アリス:「『オー・シャンゼリゼ』ッ!!!!!!」
暁人:俺は、二人のやり取りを遠巻きに眺める事しか出来なかった。
“ウィッチ”同士の戦い。
人間に入り込む余地は無い。そう、確信した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
暁人:燃え盛る工場の中、もう一つの“ウィッチ”同士の戦いは佳境を迎えていた。
♠フエゴ:「『ウィッチクラフト』ォ!!!!!」
♥モーヴ:「『ウィキヌスズ・クラフト』!」
♠フエゴ:「『復讐鬼(フエゴ・ベンガンサ)』ァ!!!!!」
♥モーヴ:「『“断頭台の刃(アルドワーズ)”』!!!」
♠フエゴ:「くぉおおッ!!!!!」
♥モーヴ:「うああああッ!!!!!」
(モーヴとフエゴ、膝を着く。)
暁人:二人の“ウィッチ”は既に、ほとんどを出し尽くした状態だった。
先に立ち上がったのは、“終(おわり)”の魔女であった。
♥モーヴ:「はぁ……はぁ……!私の……勝ち、かしら……ね……」
♠フエゴ:「ハァ……ハァ……!
いやはやァ……!!まさかモーヴ女史にここまで粘られるとは……思わなかったぜェ……!!!」
♥モーヴ:「こっちの台詞よ……。
“人間上がり”の癖に……!」
♠フエゴ:「ハハハハ……!こんな時にまで差別とはァ……!
選民思想ここに極まれりってかァ?!
良いかァモーヴ女史ィ!何度でも言うがなァ!
現在の人類の大半が“ホモ・ウィキヌス”の遺伝子を継いでいるんだぜェ?!
誰だって“ウィッチ”になれる!資格は誰にでもある!!
それを……貴様がその扉を閉じ続けている!!!」
♥モーヴ:「……。」
♠フエゴ:「“この世界”にただ独りとなった“魔女(ウィッチ)”、モーヴ!!
“世界の為に”と使命を帯び、世界の恣意のままに誕生した“ウィキヌス”!
終焉の回避に必要なのは“サピエンス”ではなく“ウィキヌス”だ!!
その“純血”に!その“孤独”に執着する愚かさ!何為(なんす)れぞッ!!!!」
♥モーヴ:「……全ては“世界の為”よ。
別世界から来訪せし“恩讐(ウィッチ)”。
私は、世界の為に“ウィッチ”を滅ぼすの。
縋るだけでは駄目。己が力を開放しなきゃ。
だから私が最後の、“終(おわり)”の“ウィッチ”になるの。
……それでも、彼らが変わらないのなら……」
(モーヴ、天を仰ぐ。)
♥モーヴ:「“世界の為に世界を滅ぼす”の。」
♠フエゴ:「……ふふふ……ははははははははははははははははははは!!!!!」
♥モーヴ:「……。」
♠フエゴ:「破綻している!破綻しているな魔女!!
色々とごちゃごちゃと抜かしているが!その真意!
それは“憎悪”!!他責しているが結局は“滅ぼしたい”だ!!!
世界を滅ぼしたい癖に“何も起きるな”と願う!!!!
嗚呼!だから“俺”はこんな世界に呼ばれたのか!!!!煩わしい!!!!」
♥モーヴ:「何も起きなければ、緩やかにこの世界は終わっていた。
だのに、貴方の出現により、全てが狂ったわ。
貴方の目的は何?復讐じゃないの?」
♠フエゴ:「勿論復讐だ!
だが復讐を果たす前に、俺に……ワタシに与えられた仕事を終わらさなきゃアならなィ……
そういう“契約”なんでねェ……」
♥モーヴ:「そう。けど、貴方の都合なんて知ったことではないわ。
貴方を消して、新たな“ウィッチ”も消すわ。」
♠フエゴ:「ハハハ……アンタのその目ェ……ワタシの恋敵を思い出して辟易するぜェ……」
♥モーヴ:「あっそ。
『ウィキヌスズ・クラフト』。」
間。
♥モーヴ:「────え……?ぐはぁ!!!」(吐血する。)
暁人:魔女の身体の内側から、無数の茨が外へと飛び出してくる。
♥モーヴ:「な……これは……奴の……“ウィキヌスズ・クラフト”……!
消えた筈じゃ……無かったの……?!」
♠フエゴ:「悪いなァモーヴ女史ィ……
それはなァ……“ウィッチクラフト”、魔法の産物じゃア無い……
実弾だよォ。」
♥モーヴ:「な……なんですって……!」
♠フエゴ:「何故、ワタシの言った通りに成長せず、今になって急成長したか……気になるかイ?」
♥モーヴ:「弾丸の動きを……“ウィキヌスズ・クラフト”で止めていた……のね……」
♠フエゴ:「ご名答ゥ~流石はモーヴ女史だァ……」
♥モーヴ:「それ、よりも……これが、実弾……?
元の質量を無視して、棘が生成されるなんて……魔法じゃなきゃ、どういう技術……よ……!」
♠フエゴ:「とにかく……形勢逆転だァ……」
♥モーヴ:「く……!」
♠フエゴ:「安心しろよォモーヴ女史ィ……
ワタシはアンタを消滅させる気はなィ……
ただ、帰っていただくだけだァ……」
♥モーヴ:「……っ」
♠フエゴ:「また後で、“蝶の間”で。じゃあなァ。」
♥モーヴ:「────」
暁人:銃声が鳴り響く。
眉間を打ち抜かれた魔女の身体は力無く横たわる。
♠フエゴ:「……ハァ……ハァ……やっと終わったァ……
さァてェ……さっさとアリス嬢を回収してェ……」
間。
♠フエゴ:「……ハハハ……今回は共倒れェ……ってェ所かなァ……」
暁人:焼け落ち、倒壊し、落ちてくる天井を眺めながら、罪人は力無く笑う。
♠フエゴ:「あの魔女……ヤケに火炎系と斬撃系の“ウィッチクラフト”ばかり使うなァ……とは思っていたがァ……これを狙っていたかァ……
いやァ……用意周到だなァ……ハハハ……」
暁人:魔女の死体諸共、罪人も圧殺する。
これにて、互いの目論見も達成出来ず、勝者も無く、終わった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
暁人:そして──
満:「『ウィキヌスズ・クラフト』!『召喚』!獄炎の公爵『フラウロス』ッ!!!」
(『フラウロス』がアリスを灼熱の炎で包む。)
アリス:「きゃああああああああははははは!!!あつい!いたい!いたいいたいいたーい!!」
暁人:十数分。様々な超常現象が繰り返される。
アリス:「『オー・シャンゼリゼ』!!
こんな素敵な事があたしを待っていたなんて!“踊る心(シャンゼリゼ)”!!
あははは!あははははははははは!!!」
暁人:炭とかした怪物が瞬時に元の少女に戻る。
満:「く……!だったら──」
満:何故、何故オレは“ウィッチクラフト”を扱えているんだ。
満:「『召喚』!水淵の公爵『フォカロル』ッ!!!」
(『フォカロル』が大量の水を展開し、アリスを沈める。)
アリス:「おぼぉ!!」
満:「溺れ死ね。」
アリス:「あ──かは──……」
満:止めろッ!!止めてくれ!!!!!
(満、『フォカロル』を戻す。)
アリス:「う……げほっ!げほっ!」
満:「アリス!アリス!!大丈夫か?!」
アリス:「なんで……?なんで辞めたの?」
満:「は……?」
アリス:「見せてよ……ヒラワ君の魔法……もっと魅せてよ!!!!!」
満:「な……なんだよこの状況……
口は勝手に動くし、アリスもおかしいし……!
オレが?オレがおかしいのか?!」
♥モーヴ:考えるのを辞めれば良いのよ。
満:「え?!」
♠フエゴ:目の前に居るのは敵だ。
世界に仇なす悪だ。
満:「なに……?頭の中で誰かが……?!」
♥モーヴ:殺せ。
満:「嫌だ友達を殺すなんて……!」
♠フエゴ:殺せ。
満:「でも、このままじゃ……!」
♥モーヴ:殺せ。
♠フエゴ:殺せ。
満:「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
アリス:「邪魔しないでよ。」
満:「────ッ」
アリス:「ここはね。あたしと貴方だけのダンス会場なんだよ。
ヒラワ君もあたしみたいに心のままに振舞おうよ。」
(アリス、満面の笑みを浮かべる。)
アリス:「ね?」
間。
満:「あはは。」
間。
満:「あはははははははははははははははははは!!!!!」
アリス:「ウフフフ!!」
アリス:「『オー・シャンゼリゼ♪オー・シャンゼリゼ♪』
『いつも、何か♪素敵な、ことが♪あなたを待つよ♪“踊る心(シャンゼリゼ)”♪』」
(血塗れの満が、八つ裂きになって倒れているアリスを見ている。)
満:「…………。」
アリス:「オー……シャンゼリゼ……オー……シャンゼリゼ……」
暁人:“ウィッチ”は世界の為に、怪物を討伐した。
明るかった空は、夜を取り戻す。
満:「ああ……あああ……ああああああああああああ……!!」
アリス:「いつも……何か……素敵な……ことが……あなたを待つよ……シャンゼリ……ゼ……」
(アリス、事切れる。)
満:「なんで……なんでこんなことになったんだよ……!!」
(暁人、満の下へと駆ける。)
暁人:「ミチル!」
満:「アキヒト……」
(満、暁人の方へよろよろと近付く。)
満:「アキヒト……オレ……どうしちゃったんだろう……勝手に身体が動いて……勝手に口が動いて……ア……アリスを……」
暁人:「とにかく、落ち着けミチル。」
満:「アキヒト……アキヒト──」
♥群衆:「人殺し!!」
間。(満、大勢の群衆、烏合に囲まれている。)
満:「……えぇ?」
♠烏合:「アイツだ!アイツがアリスさんを殺したんだ!!!」
満:「え?え?」
♥群衆:「人殺し!」
♠烏合:「人殺し!」
暁人:「ちょ!ちょっと待てよ!アイツは皆を守る為に彼女を!
てか!彼女が沢山の人を──」
♥群衆:「アリスちゃんがそんな事する筈ないじゃない!!」
♠烏合:「そうだ!あんな良い子がこんな事をするはずが無い!!」
(群衆と烏合たち、満を指差す。)
♠烏合:「アイツだ!」
♥群衆:「アイツがやったんだ!」
♠烏合:「アイツが彼女を操って皆を殺して回ったんだ!!!」
満:「えぇ……?は……?え……な、なんで……」
♥群衆:「奴が何かする前に捕えろ!!!」
♠烏合:「目と口を塞げ!その後腕でも足でも折れば良い!!!」
暁人:「おい待て!皆!辞めろ!!!」
♥群衆:「邪魔する奴もコイツの仲間だ!」
♠烏合:「殺せ!全員殺せ!!」
満:「え……?!や……やめっ!!あああああああああああああ!!!!!」
♥群衆:抵抗する間も無く捕まる悪魔。袋叩きにされる信奉者。
♠烏合:きっとこの悪魔は簡単には死なないだろう。
♥群衆:だから──
♠烏合:だから──
◇
満:「……う……え……?前が見えない……目隠し……?」
♥群衆:「目が覚めたか悪魔。」
満:「え?」
♠烏合:「今からお前を火炙りにする。」
満:「は、はぁ?!」
♥群衆:「さあ火を放て!!」
満:「え?!え!?あッ熱い!!!熱い!!!!!!!」
♠烏合:「もっと薪を焼べろ!!!」
満:「あああああああああああああああああああああああ!!!!」
アリス:真っ暗な空を煌々と照らす炎。
その真ん中で悲痛な叫びを上げる磔(はりつけ)の人影。
暁人:燃え盛る炎によって目隠しが灰となる。
そして、“ウィッチ”の視界に広がる光景は──
満:「──────ッ」
暁人:“人間”たちは、目を爛々と輝かせ、口元は緩んでいた。
嗚呼。なんと醜悪か。
アリス:火の粉が舞い上がる。
満:「──あ」
(満、火の粉が光り輝く蝶に錯覚する。)
満:「蝶々。」
(満、目を輝かせる。)
満:「──嗚呼、綺麗。」
(満を拘束していた枷も燃え落ち、蝶を追うように手を伸ばす。)
満:「あははははは!!あはははははははははははははははははは!!!!!」
♥群衆:悪魔の高笑いが空に響き渡る。
♠烏合:人々は恐怖する。嗚呼、世界の終わりだ、と。
そして──
間。
♥群衆:「…………綺麗。」
暁人:こうやって、一夜にして起きた無差別大量虐殺事件は、幕を閉じた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~蝶の間~
♠フエゴ:「…………フゥ~……帰ってこれたァ……」
♥モーヴ:「おかえりなさい。貴方の分のお茶は用意してないわ。自分で注ぎなさい。」
♠フエゴ:「……アイアイサー。
ったくゥ……負けた癖によくそう横柄な態度を取れるねェ。」
♥モーヴ:「負けてないわ。引き分けよ。
むしろ、私の目論見通りに貴方を殺せたのだし、私の勝ちと言っても過言は無いわ。」
(モーヴ、紅茶を一口飲む。)
♥モーヴ:「けど、貴方の健闘を称えて、引き分けにしてあげる。」
♠フエゴ:「ハイハイ……
……あァ、ワタシは気が利く男だからねェ。
これからこの扉を開く“新入り”にお茶を淹れておこうと思ゥ。
……珈琲と紅茶、どっちが良いと思うモーヴ女史?」
♥モーヴ:「絶対に紅茶ね。」
♠フエゴ:「絶対に珈琲だネ。」
♥モーヴ:「……。」
♠フエゴ:「……。」
(フエゴ、珈琲と紅茶、両方のポッドを用意する。)
♠フエゴ:「デハ……勝負だねェ。」
♥モーヴ:「ええ、望むところよ。」
間。(扉が叩かれる。)
♥モーヴ:「ん。」
♠フエゴ:「オ。」
間。(扉が開かれる。)
♥モーヴ:「ようこそ、“蝶の間”へ。」
♠フエゴ:「新たなる“ウィッチ”、歓迎するよォ。
ササ、入って入ってェ。」
♥モーヴ:「ちゃんと扉を閉めるのよ。」
(■■■、扉を閉める。)
───────────────────────────────────────
END