[台本] スピカ・ロア─Spica・Lore/Roar
世界設定、場面情景
板上に繰り広げられる世界は、私たちの知らない、けれどちょっぴり知っている世界。
ホモ・サピエンスは居らず、動物たちが人類の形質を得て進化した世界観。
そんな世界で生き、演劇をする人々の物語。
登場人物
○スピカ
20歳、女性
ネブラスカオオカミの獣人。
劇団『コカブ』に10年程所属する女性。
気難しい性格で芝居に関しては人一倍に努力を重ねている。
小柄すぎて小学生、中学生によく間違えられ、
またその体躯のせいでやりたい役が出来ない事で内心鬱憤が溜まっている。
※最後にリウスと合わせる台詞があります。事前に話し合いをしておくことをおすすめします。
○リウス
17歳、男性
ホーランドロップの獣人。
身体が大きく、大らかな性格をしていて、基本的になんでもできる。
が、物事に深い関心を持てず、些か冷めた部分がある。
スピカの芝居を見て、胸の内に何かが生まれた。
※最後にスピカと合わせる台詞があります。事前に話し合いをしておくことをおすすめします。
○ムーリフ
25歳、女性
アライグマの獣人。
劇団『コカブ』の衣装係&広報係。
常に落ち着いている、というかのんびりした性格をしており、
劇団のお母さん、お姉さんという立ち位置にいる。
その存在が本番前のピリ付いた空気を緩和してくれたり、裏方のスケジュール管理など、縁の下の力持ち。
スピカと仲が良い。
※プロトと兼ね役。
○オリオン
19歳、男性
カンムリクマタカの獣人。
劇団『コカブ』の花形役者。
威風堂々とした佇まい、常に強者であるという自覚を忘れない。
筋骨隆々としていて背も高く、目付きも鋭い為怖がられる事もあるが基本的に優しい。
カメロパルダリスを“ボス”と呼び慕い、スピカの事を常にライバルの一人として見ている。
○カメロパルダリス
年齢不詳、性別不詳
首の短いアミメキリンの獣人。
劇団『コカブ』の座長。
飄々としており、何を考えているかわからない……というか演劇、劇団の事しか考えてない。
過去にある舞台を成功させる為だけに自分の首を物理的に切断し、くっつけて首を短くした。
観客側に唯一話しかけてくる。
○プロト
17歳、女性
チーターの獣人。
劇団『コカブ』のとある舞台に魅了されて半年前に入団した。
まだ若く気圧される事もあり、決して芯の強い女性というワケではないが、
譲れないモノは確かにある。基本的には人当たりが良い大人しめな性格。
※ムーリフと兼ね役。
スピカ ♀:
リウス ♂:
◆ムーリフ/プロト ♀:
オリオン ♂:
カメロパルダリス 不問:
(敬称略)
※ムーリフ/プロト役の方は「◆」を追うと読みやすいと思います。
↓これより下が台本本編です。
───────────────────────────────────────
~劇団『コカブ』~
(舞台の中心にピンスポが当たり、カメロパルダリスが現れる。)
カメロ:「……。」
(カメロパルダリス、お辞儀をする。)
カメロ:「レディース&ジェントルメーン!!」
間。(誰も居ないのに沢山の拍手の音が響き渡り、カメロパルダリスが方々にお辞儀を返す。)
カメロ:「今宵、“お魅せ”するのは、
皆さんの知らない、けれどほんのちょっぴり知ってる世界の物語。」
(普通の動物たちが上手から現れる。)
カメロ:「お、彼はカンムリクマタカだね!雄々しい~!
それに彼女はアライグマ!キュートだねぇ~」
間。(カンムリクマタカが滑空しながら下手側に行く途中で舞台の裏を通り、
オリオンに替わって、何か荷物を持ちながら舞台に現れる。)
(それに合わせてムーリフも何かを抱えて現れる。)
オリオン:「ん、どうしたんだボス。」
カメロ:「ん~?いやいや、なんでも無いよ~
あ、それは次の公演には使わないから奥の方にしまっといて~」
オリオン:「了解。」
(オリオン、去る。)
カメロ:「さっきの筋骨隆々で険しい顔をしていたのはオリオン君。
うちの花形、千両役者さ。」
◆ムーリフ:「…………誰に話してるんです?」
カメロ:「おっと……いたのかいアル・スハイル・アル・ムーリフ!」
◆ムーリフ:「ええ。割とずっと。あとフルネームで呼ばないでくれません?」
カメロ:「Oh、それは失礼。
何か用?」
◆ムーリフ:「いえ、今日も座長は元気だわねって思っただけですよ。」
カメロ:「ああ!勿論!ワタクシはいつも元気!それが取り柄だからね!」
◆ムーリフ:「それはそれは。」
(オリオン、姿を見せずに声だけ)
オリオン:「ムーリフ!その荷物を置いたらちょっと手伝ってくれ!」
◆ムーリフ:「はーい!」
(ムーリフ、去る。)
カメロ:「さっきの二人、そしてワタクシは、些か君たちと容姿が違う。
君たちで言う所の“ホモ・サピエンス”に、その他の動物の形質が顕(あらわ)れている。
所謂(いわゆる)、“獣人”というやつだ。」
間。(カメロパルダリス、舞台の上手に移動する。)
カメロ:「改めて、カンムリクマタカの獣人、オリオン!」
間。(下手側にもピンスポが当たり、オリオンとムーリフを照らす。
二人はなんかしている。)
カメロ:「彼は一見気難しそうな奴に思えるが、皆の事を良く見ていて良いやつだ。」
オリオン:「クシュン!」
◆ムーリフ:「風邪?」
オリオン:「いや、そんな筈は……」
◆ムーリフ:「気を付けてよねーマッスルボーイ。」
カメロ:「そして彼女は我が劇団の衣装係&広報係にしてアライグマの獣人、ムーリフ君。
フルネームは“アル・スハイル・アル・ムーリフ”って言うんだ。
素敵だよねぇ~~
ワタクシは大好きだからよくフルネームで呼ぶんだけど、何故か彼女は嫌がる……
アル・スハイル・アル・ムーリフ!アル・スハイル・アル・ムーリフ!アル・スハイル・アル・ムーリフ!」
◆ムーリフ:「ブェックシェェエエンッ!!!」
オリオン:「風邪か?」
◆ムーリフ:「ぐすっ……この感じは、また座長が私の名前を連呼してるんだわ……
たく!何が“まるで早口言葉の如く、けれど喉をするすると通る語感……呼びたくなる……”よ!意味も無く呼ぶな!!」
オリオン:「ああ……それはお気の毒に……」
カメロ:「そして、ワタクシ。この劇団の座長であり、アミメキリンの獣人。カメロパルダリスだ。
え?“キリンって言うには首が短い?”いやん、えっち。
まあ、それはともかく、どうだい?中々に賑やかな面々だろう?
けれどそれだけじゃないんだ!」
暗転。
カメロ:「おーい!リウス~!!」(声だけ)
明転。(舞台のセットがガラリと変わり、中心にリウスが立つ。)
~街中~
リウス:「おはようございますー!」
カメロ:「もしかして学校か~い?日曜日だってのに大変だね~!」(声だけ)
リウス:「今日はオレが花壇に水やる係ですから!」
カメロ:「え~~~?昨日もそうだったじゃな~い???」(声だけ)
リウス:「ははは!楽しいっすからね!じゃ!オレもう行くんで!」
カメロ:「いってらっしゃ~い!!」(声だけ)
間。(カメロパルダリス、上手から現れる。)
カメロ:「彼はホーランドロップの獣人、リウス君。まだワタクシたちとは既知(きち)の仲では無い。
んん~元気にぴょんぴょんと跳ねて可愛いね~」
間。
カメロ:「ん?“可愛いというには長身で強そう?”
確かに、うちのオリオン君くらいの体躯(たいく)があるねぇ。
けど若々しく瑞々(みずみず)しい好青年って感じで可愛いじゃないか~
さて、そろそろ……もういっちょ茶々を入れるか~」
間。(カメロパルダリス、再び上手に捌ける。)
カメロ:「よ~!リウス!そろそろバスケ部に入る気になったか~??」(声だけ)
リウス:「あははは、ごめんね!まだその気にはなれないかな。じゃ!」
カメロ:「おう!俺たちはいつでもお前の加入を待ってるからな~!」(声だけ)
リウス:「期待しないで~!待たなくていいから~!!」
カメロ:「ハハ~!リウスじゃないか~!どうだ???一緒に魚介類食の愚かさについて議論しないか!」(声だけ)
リウス:「オレ結構イカ焼きとかたこ焼きとか好きだから愚かと言われても食べる!
魚介類最高!以上!」
カメロ:「ああ!ちょっと!……イカとかってなんかお腹痛くならない~!!?」(声だけ)
間。
カメロ:「リウスは運動神経抜群、頭脳明晰、性格も良き良きの良き!
人々は言う“彼はなんだって出来る!!”と。
だけど……」
リウス:「はぁはぁはぁ……!」(学校に向けて走ってる。)
カメロ:「今ひとつ情熱に欠ける子だった。」
暗転。
間。
カメロ:「さて。そろそろ主役を紹介しないとね。
え?今までの子たちは脇役なのかって?まさかまさか。誰も彼も主役級さ。
けれど、今回の“主題”は、この子。」
明転。(ピンスポで中央に立つスピカが照らされる。)
スピカ:「…………。」
カメロ:「彼女はネブラスカオオカミの獣人、スピカ。
彼女もまた、ワタクシの劇団『コカブ』の団員。」
間。
カメロ:「えぇ?“私たちの世界ではネブラスカオオカミは世界一大きな狼”だって?
そうだね、ワタクシたちの認識でも一緒だとも。
けど。そう。彼女はとても小柄。
それ故の矛盾、そして葛藤がある。」
スピカ:「……。」(息を吸う。)
カメロ:「それこそがこの物語の“主題”であり、主役だ。」
間。
カメロ:「さて!長々とした前置きもこれくらいにして……ごゆるりと~~~……」
暗転。
間。
明転。
~劇団『コカブ』の舞台上~
(先程の舞台の上とは違い、彼女たちにとっての世界が広がる。)
スピカ:「はぁー……」
間。
◆ムーリフ:「スピカー!」
スピカ:「っ!どうしたのムーリフ!」
◆ムーリフ:「そこのセットの解体お願い出来るー?」
スピカ:「あ、うん!分かった!」
間。
スピカ:「えー……っと……釘抜き釘抜き……っと……うっ!おっも……!」
間。(スピカ、ちょっとバランス不安定気味に釘抜きを運ぶ。)
スピカ:「ふぅー……よしっ!よっ……うわああっ!」
(オリオン、釘抜きをスピカから取り上げる。)
スピカ:「ちょっと!オリオン!何すんのさ!!」
オリオン:「お前の身体じゃこの釘抜きは合わんだろうが。
こっち使え。」
(オリオン、スピカに小さめの釘抜きを渡す。)
スピカ:「……。
セクハラだぞクソ鳥!!」
オリオン:「言っとけチビ犬。」
スピカ:「犬じゃない!狼!!」
オリオン:「こんなの使ったって怪我するだけだ。
それに、明らかに手の届かない所の釘を抜こうとしてたろ。」
スピカ:「だからなんだよ。」
オリオン:「危ない。上は俺様がやる。スピカは下の方やれ。」
スピカ:「指図するな!」
◆ムーリフ:「こらこら~喧嘩しな~い」
スピカ:「ムーリフ~!またコイツがアタシの事馬鹿にした!!」
オリオン:「ばッ!?馬鹿になどしていない!!俺様はただ適材適所だってなぁ!!」
◆ムーリフ:「はいはいはいはい。いつものね。
スピカ~アンタの方がお姉さんなんだからちゃんと分別つけなさいよ~
オリオンもそんな羽毛逆立たせて声荒げないで、普通に怖いわ。」
オリオン:「…………。」
スピカ:「べーっだ。」
◆ムーリフ:「そういうところがガキって言われるのよ。」
スピカ:「ええ~ムーリフ~……」
◆ムーリフ:「目ぇうるうるさせてこっち見ない!さ!皆ちゃんと仕事しなさいっ!」
オリオン:「はい。」
スピカ:「は~い。」
カメロ:「おーい!オリオンくーん!ちょっと至急上に来てくれるか~い?」(声だけ)
オリオン:「ん?了解!
おいスピカ、俺様飛ぶから離れろ。」
スピカ:「え?」
間。(オリオン、両腕の羽をバサっと開く。)
スピカ:「うっきゃっ!!」
オリオン:「ほっ!はっ!!」
スピカ:「きゃあああああっ!!!」
間。
スピカ:「……いててて……
おいこらオリオン!アタシがちゃんと退避したの見てから羽広げてよっ!!」
オリオン:「悪いッ!!」(遠くから)
スピカ:「たく……」
間。
スピカ:「…………良いなぁ……
アタシも、あんな風に……」
◆ムーリフ:「無理でしょ。」
スピカ:「ぐ……」
◆ムーリフ:「私たちは鳥類系じゃないんだから、自力では飛べないわよ。」
スピカ:「それは分かってるけどさ。
けど、アタシたちは役者なんだよ?」
◆ムーリフ:「……。」
スピカ:「“役者は何にでもなれる。誰にでもなれる。”そういうモノの筈。」
間。
スピカ:「けど、アタシはお父さんやお母さんみたいな大きくて強いオオカミの役は貰えない……。」
◆ムーリフ:「……。」
間。
◆ムーリフ:「言ったってしょーがないでしょ。」
スピカ:「……そうなんだけどね。」
◆ムーリフ:「スピカ、今日はどうする?
今回の公演の打ち上げ。」
スピカ:「…………今回も行かない。ごめんね。」
◆ムーリフ:「ううん。じゃ、そう伝えとくからね。」
スピカ:「ありがと、ムーリフ。
今度一緒にご飯行こうね。勿論映画付きで。」
◆ムーリフ:「良いわよ~
こっちのスケジュール決まったら共有するわ。」
(ムーリフ、去る。)
スピカ:「……。」
間。(スピカ、落とした釘抜きを拾う。)
スピカ:「……適材適所……ね。
とりあえず、さっさと解体作業終わらせるかー……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~街中、夜~
リウス:「はあー……なんやかんやしてたら0時回っちゃった……
でも……まあ……」
間。(コンビニで買ったレジ袋の中身を見る。)
リウス:「今日から発売の人参プリンを買えたし、良しとしよう。」
カメロ:『よ~!リウス!そろそろバスケ部に入る気になったか~??』(声だけ)
カメロ:『ハハ~!リウスじゃないか~!どうだ???一緒に魚介類食の愚かさについて議論しないか!』(声だけ)
リウス:「……ハハハ……全然興味無い。」
間。
リウス:「はぁー…………分からないなぁ……」
間。
リウス:「なんで皆そんなに情熱を持ってられるんだろう。」
カメロ:「なんでだと思う~?」
リウス:「うわああああッ!!!!!!!!」
カメロ:「うわあ、驚き過ぎ。」
間。(リウス、尻餅を付いている。)
リウス:「……。」
カメロ:「おっと、失礼。大丈夫かな?」
リウス:「い、いえ……大丈夫です……。」
カメロ:「うん、それは良かった。」
(一拍間を置く。)
カメロ:「時に。“なんで皆そんなに情熱を持ってられるんだろう”。
どうしてそんな事を?」
リウス:「……。
いえ、別に……」
カメロ:「……。」
リウス:「…………。
……はぁー……
……“情熱”を持って、続けるって大変だと思うんですよね。」
カメロ:「ほうほう。」
リウス:「バスケ部……まあ、卒業までの三年間頑張るってのは出来るかもしない。
けれど、じゃあ、それからは?
続ける?情熱を持って?それでどうなるの?プロになる?
多分そこに至れる人はそんなに居ないと思います。」
カメロ:「ふむふむ。」
リウス:「他人の食文化に物申すのもよく分からない。
何を言われ様とも何を思われ様とも、結局自分がどうするかでしかなくて、
勿論、環境問題や倫理、宗教の問題とかなんだろうけどさ。
自分の在り方を人に押し付け……説得行為に情熱を注ぐって、傲慢だと思うんですよね。」
カメロ:「まあまあ言わんとする事は分かるね。」
リウス:「そう単純な話じゃないことも、若さ故の浅慮(せんりょ)である事も、まあ、分かるんですけどね。」
間。
リウス:「というか、あれですよね。“情熱”って“才能”ですよね。」
カメロ:「“若さ”とは“浅慮(せんりょ)である”事かな。」
リウス:「え?」
カメロ:「“情熱”とは、“複雑なモノ”かな。」
リウス:「……。」
カメロ:「そして、“人参プリン”は“情熱”に含まれないかな。」
リウス:「……あははは!なんですかそれ。」
カメロ:「いつか分かるさ。」
リウス:「……?」
カメロ:「フフフ。」
間。(カメロパルダリス、ある方向を指差す。)
カメロ:「あちらを見てごらん。」
リウス:「え。」
間。(視線の先は公園、そこにはスピカがいる。)
スピカ:「スゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……」(集中している。)
リウス:「……こんな時間に、女の子……?」
カメロ:「あれでも彼女は成人済みだよ。」
リウス:「えぇ!?ど……どうみても小学生……良くて中学上がりたてくらいの……」
カメロ:「ネブラスカオオカミの獣人だ。」
リウス:「ネブラスカオオカミ……って、あの凄く大きい……?」
カメロ:「そう、かつてはオオカミ種の中で最も大きい肉食動物として君臨していた、あの、だ。
けれど、彼女は見た通り小柄だ。」
リウス:「……一体彼女がなんだって言うんですか?」
カメロ:「……。」
間。
カメロ:「彼女は役者だ。」
リウス:「役者?」
カメロ:「ある劇団に所属していて、演技力に関して言えば一番だと思う。
きっと、演技……芝居に対する情熱は人一倍だろうね。」
リウス:「へー凄いじゃないですか。」
カメロ:「彼女は主役を張れない。」
リウス:「……。」
間。
リウス:「何故。」
カメロ:「身体が小さいからさ。」
間。
カメロ:「ワタクシたちは鳥類系じゃないから自力で空を飛べない。
ワタクシは君のようなウサギの獣人じゃないから身軽に跳ぶ事も出来ない。
それと同じさ。」
リウス:「形質の問題。」
カメロ:「そう。ワタクシは思うのです。
生まれ持った体躯(たいく)とは、形質とは、“才能”であると。」
間。
カメロ:「“情熱”とは、“才能”かな?」
間。
リウス:「一概にもそうとは言えない、ですね。」
カメロ:「うんうん。そうだね。」
リウス:「……彼女は何故、諦めないのでしょうか。“情熱”を持ち続けられるのでしょうか。」
カメロ:「それは、君自身が観て、考えてみると良いよ。」
リウス:「……。」
間。
カメロ:「それじゃ、ワタクシはこれで。」
リウス:「あ!あの!」
間。(カメロパルダリス、ある程度進んだ所で止まり、振り返る。)
カメロ:「また会えたら、その時に改めてお互い自己紹介しよう。」
(カメロパルダリス、去る。)
リウス:「……。」
◇
~公園~
(リウス、公園の外からスピカの事を見ている。)
リウス:「オレが観て……考える……。」
間。
スピカ:「“ああ……”」
間。
スピカ:「“いや違う……この様な音では無い。”」
スピカ:「“私が求めた音はこんなものでは無いッ!!”」
スピカ:「“もっと……歓喜に溢れる音を奏でようではないかッ!!”」
間。
リウス:「…………わあ、迫力あるなぁ。流石は一番上手いって言われるだけはあるのかも。」
間。
リウス:「でも、それだけって感じがする。」
間。
スピカ:「“そうだ!地球上にただ一人だけでも、心を分かち合う魂があると言えるならば歓呼せよ!!”」
間。(一拍置く。スピカ、時間が経ち、上のとは全く違う台本、全く違う役をやっている。)
スピカ:「“『情報戦に勝っているだけ』だろ??”
“君がこの間取った賞のインタビューの際にもそんな事を言っていたね!!”
“戯(ざ)れるな!!それこそが才能だろうがッ!!!”
“自分が当たり前に出来る事が他人にも出来ると思うなよクソが!!”」
間。(一拍置く。スピカ、時間が経ち、上のとは全く違う台本、全く違う役をやっている。)
スピカ:「“ジュリエット……遠く遥かな日から密かに強く深く……”
“誰よりも愛してきたんだ俺は!!!”
“それを……ッ!ロミオ……ッ!!あんなふざけた奴にッ!!!”」
間。
リウス:「あれから三時間。ずっとやってる……。
よくもまあ……意味無いかもしれないって自分が一番分かってるだろうに……」
間。
スピカ:「“私は────!!”」
間。(スピカ、十秒以上止まる。)
リウス:「…………ん?どうしたんだろう。」
間。
スピカ:「──“うっうぅ……”」(泣き出す)
スピカ:「“ああ……ああ……!ああ……!!”」
間。
リウス:「!?」
間。(リウス、スピカの下へと駆け出す。)
リウス:「君!大丈夫!?」
スピカ:「は?」
リウス:「……へ?」
スピカ:「アナタ誰?」
リウス:「あっ、えっと、オレ、ボクはリウスですっ!」
スピカ:「そう、何の用。」
リウス:「あ……いや、えっと、泣いてたから……つい……。」
スピカ:「…………。」
リウス:「……え?」
スピカ:「泣いてないよ、お芝居。」
リウス:「え?お芝居……えええ演技!?今のが!?」
スピカ:「ぅえっ、そ、そうだけど……。」
リウス:「今のが…………すご……」
(一瞬の間、スピカの耳がピンと立つ。)
スピカ:「そ、そう!今のお芝居!凄いでしょ!!
ま、アタシ?劇団で一番演技上手いからねぇ~!」
リウス:「はい!とっても……とってもとっても……!」
スピカ:「そ……そんなに……?」
リウス:「はい!」
スピカ:「う……ま、まぁ、悪い気はしないけれど……」
リウス:「ボクにも出来るでしょうか!?」
スピカ:「はぁ????」
リウス:「んん?」
スピカ:「出来るワケないでしょ。」
リウス:「えっ、ええっ!?
な、なんでですか!?」
スピカ:「……アナタ、演技の経験は。」
リウス:「ないですけど。」
スピカ:「スポーツ経験は。」
リウス:「学校の授業くらい、ですけど……。」
スピカ:「読書は?映画を観たりお芝居を観たりは?」
リウス:「……全然って感じです……。」
スピカ:「それでどんな役者になりたいの?」
リウス:「…………。」
スピカ:「やっぱり、出来るワケ無いね。」
リウス:「なんでそんな事分かるんですか。オレの事何も知らないのに。」
スピカ:「立ち方、発声が一切駄目。これは一目見て分かった事。
その上、その他に関心が無く展望も無い。」
リウス:「っ。」
スピカ:「だから──…………。」
リウス:「?」
スピカ:「なんでもない。
演技は、そんな人がイッチョーイッタンで出来る事じゃないんだよ。」
リウス:「……一朝一夕(いっちょういっせき)?」
スピカ:「……一朝一夕(いっちょういっせき)っ!!」
リウス:「そんな……すぐに出来るなんて思ってません!」
スピカ:「じゃあどれくらいで出来る様になるの。」
リウス:「…………えっと……」
スピカ:「そういうこと。」
リウス:「……。」
スピカ:「……あー……えっと、ごめん。言いすぎた。」
リウス:「え……あぁ……」
スピカ:「アナタ何歳?17……とかでしょ?」
リウス:「あ、ドンピシャです。」
スピカ:「ふふん。
……。
その、さっきの言葉を噛み砕くと……遅い……ってアタシは思ったの。」
リウス:「遅い?」
スピカ:「うん。
……アタシ、10年芝居してるの。
けど、全然ダメだった。
今二十歳で、10歳っていう凄く多感でまだまだ吸収力のある時期から始めたのに。」
リウス:「……じゃあ、貴方はなんで続けてるんですか。」
スピカ:「…………執着、かな。」
リウス:「執着……。」
間。
スピカ:「……じゃあね。」
リウス:「……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~翌日、劇団『コカブ』~
カメロ:「ということで!!突然ながら我らが劇団『コカブ』の門を叩いた新人くんの紹介だよ~!!
ホーランドロップの獣人!リウスく~~~~ん!!!」
リウス:「よろしくお願いします!!!」
スピカ:「え゛」
オリオン:「背高いな。」
◆ムーリフ:「アナタくらい……いや、アナタより高いんじゃないの?」
オリオン:「ふんっ」(胸を張って、頭の冠を立てる。)
◆ムーリフ:「そうやって羽逆なでて良いならあの子も耳立てちゃえば一緒よ。」
オリオン:「くっ!!」
スピカ:「な、なんで……」
カメロ:「さてぃ!!この新人くんの教育係は~~~~?」
スピカ:「は?教育係???」
カメロ:「スピカく~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!」
スピカ:「え……」
間。
スピカ:「え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!゛!゛?゛!゛?゛!゛」
リウス:「よろしくお願いします!!!」
◇
リウス:「改めて、よろしくお願いします。スピカさん!」
スピカ:「…………な、なんでウチに……」
リウス:「近場だったので。」
スピカ:「そんな理由で……!
……てか……どういうつもり……!」
リウス:「何がですか?」
スピカ:「アタシ、アナタの事かなり……いいえちょっと、ううんほ~んのちょっぴりだけ酷い事言ったよね???
それでなんでお芝居をしようだなんて……」
リウス:「………………なんででしょう?」
スピカ:「はぁ???」
リウス:「“出来るワケない”って言われたのに、もっとやりたいって気持ちになったんです。
……あ、これが“情熱”、なのかな。」
スピカ:「は?情熱???」
カメロ:「そうかもね~~でも早合点かもしれないからもうちょっと考えてみようね~リウス君~」
リウス:「はいっ!」
(カメロパルダリス、そのまま歩いて何処かへ行こうとする。)
スピカ:「ちょっちょっちょっと!座長!」
カメロ:「なにー?」
スピカ:「あの!リウスくんはアタシが教育係イヤみたいです!!」
リウス:「え!?そんな事一言も──むぐっ」
(スピカ、リウスの口を塞ぐ。)
スピカ:「なので!替えてください!!」
カメロ:「え~そうなのかーい?
じゃあ……お。オリオン君どう?」
(カメロパルダリス、近くに居たオリオンに声をかける。ムーリフも一緒にいる。)
オリオン:「俺様が?」
カメロ:「うん、新人くんの教育係、やってみる?」
オリオン:「そもそも教育係って制度初めて聞いたんだが。」
◆ムーリフ:「たーしかにー。オリオンが入った時は無かったわよね。」
カメロ:「リウス君は劇団はおろか、演技そのものが未経験らしくてね。
それらをサポートして欲しいんだ。」
オリオン:「はーなるほど。」
◆ムーリフ:「であれば、確かにここの花形役者で、背丈も似てるし、吸収出来る事は多そうね。」
(リウス、スピカから開放される。)
リウス:「はながたやくしゃ?」
◆ムーリフ:「この劇団の稼ぎ頭的な?一番上手?みたいな?」
リウス:「あれ?一番上手なのってスピカ先輩って──」
スピカ:「しーっ!黙ってて!
で!でしょ~~~???
オリオンの方が教育係向いてるって~~~~~!!」
オリオン:「無理だが?」
スピカ:「ええ??」
オリオン:「確かに俺様はここのスタァである自覚はある。
が、俺様はまだ若い。人に享受させられる自信は無い。
師事する、というのであれば、スピカ、お前の方が圧倒的に向いてるだろ。」
スピカ:「は????」
◆ムーリフ:「それも確かに~
スピカ~」
スピカ:「な、なに?」
(ムーリフ、何かの本を開く。)
◆ムーリフ:「上手(かみて)・下手(しもて)」
スピカ:「客席から舞台に向かって、右側が上手、左側が下手。」
◆ムーリフ:「板付(いたつき)。」
スピカ:「舞台の事。
または暗転後の明転時に主演者が舞台の上にいる事、あとはその役の事。」
◆ムーリフ:「ミザンス」
スピカ:「舞台上の人物の位置と動きのプランの事。」
◆ムーリフ:「あー……合ってるの?」
オリオン:「合ってるだろ。しっかりしてくれ。」
カメロ:「舞台の用語もしっかりと頭に入っている。
演技に関する考えも筋一本通ってる。
色んな人の演技を沢山見た事があって経験豊富。
スピカ君は適任じゃないかね?」
スピカ:「あ゛……ッ!!しまった……!!!」
カメロ:「“しまって”なくても替えるつもりなかったけどねぇ。」
オリオン:「つーわけだ。よろしくなスピカ。」(スピカの頭をくしゃくしゃする。)
スピカ:「ぐあっ!頭くしゃくしゃすんなクソバード!!!」
◆ムーリフ:「むっふっふ~♪
きっとスピカにとっても良い体験になるわよ~」
スピカ:「えぇ~」
オリオン:「もしもおんなじ舞台に立つ事になったら容赦しねぇから覚悟しろよ新人~」
◆ムーリフ:「後で採寸するから衣装班の所に来てね~リウスく~ん」
リウス:「はい!よろしくお願いします!!」
(オリオンとムーリフ、去る。)
スピカ:「…………押し付けられた。」
カメロ:「押し付けじゃないとも。
ワタクシは本当に、オリオン君の言うように君が適任であり、
アル・スハイル・アル・ムーリフ君が言うように君の為になると思ったから頼んでるんだよ。」
スピカ:「……。」
カメロ:「じゃ。スピカ君、リウス君。頑張ってね~」
(カメロパルダリス、去る。)
リウス:「……。」
スピカ:「……。」
リウス:「改めてよろしくお願いします、スピカ先輩。」
スピカ:「言っとくけどアタシ滅茶苦茶理不尽だし口悪いからね。」
リウス:「承知の上です!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
スピカ:「まずは腹式呼吸出来る様になれー!やれー!」
リウス:「はいっ!ひっひっふー!ひっひっふー!」
スピカ:「ラマーズ法やないかーい!ベタなボケするなー!!」
リウス:「すいませーん!!!」
◇
スピカ:「口形(こうけい)を意識してー!
あいうえお!いえうおあ!ういあおえ!えあおいう!」
リウス:「あいうえお!いえうおあ!ういあおえ!えあおいう!」(ほんのちょっぴりだけ雑に)
スピカ:「早口になるなー!雑になるなー!ぐちゃぐちゃになるなー!」
◇
◆ムーリフ:「は~い、全体練習よー
柔軟はしっかりやってねー」
リウス:「1、2。1、2。1、2。」
スピカ:「軽くじゃなくてちゃんとやる!」
オリオン:「ここ軽んじると大怪我の元だぞー」
スピカ:「そゆことっ!」
リウス:「はいっ!」
間。
カメロ:「ふふふ。結構しっかり馴染んでるし、しっかり面倒見てるねぇ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~数日後、劇団『コカブ』~
スピカ:「さて、今日から次の舞台の稽古が始まる。
今回リウスが何処に入れられるか分からないけれど、とりあえずアタシたちの見学してて。」
リウス:「見るだけですか?」
スピカ:「観るのも立派な学びだよ。」
間。(スピカ、台本を持ちカメロパルダリスたちの下へ行く。)
リウス:「……。」
カメロ:「は~い!座長のカメロパルダリスでェース!
今回もワタクシが演出を務めま~す。」
間。(カメロパルダリス、お辞儀をする。)
カメロ:「一応配役は決まってはいますが、いつも通り、
ワタクシが駄目だなって思ったらゲネ時点でも配役替えますからねー」
間。(周り、どよどよとする。スピカとオリオンは息を飲む。)
リウス:「ゲネ?」
◆ムーリフ:「本番前の最後の練習のことよ。」
(ムーリフ、気が付いたらリウスの隣にいる。)
リウス:「あ、ありがとうございます。
恐ろしい脅し文句ですね。」
◆ムーリフ:「脅しじゃないわよ、座長は本気。
実際、私が所属してからも結構やってるわよ。」
リウス:「えぇ……?」
◆ムーリフ:「厳しいって思う?でもこれって結構普通の事よ。
劇団で演劇するってごっこ遊びじゃない。
だから、ここの場所代や光熱費、衣装代や道具代、フライヤーの印刷代、デザイン代、それ以外でもお金が掛かってる。
そして更に私たちはお客さんからお金を取ってる。
仮にお金を取っていなくても、時間を奪っているんだもの。
雑なモノは出せないわ。」
リウス:「……でも、最後の練習で替えが見つからなかったら?
そのままやって、とりあえず済ませた方がビジネスとしては正しくないですか?」
◆ムーリフ:「むっふっふ~♪
それは私も思う時はあるわよ。
だってゲネの時点で衣装の調整も終わってるし。ふざけんなー!って感じ。
でも、座長は“とりあえず”済ませるくらいなら死んだ方が良いって思ってる派みたいよ~」
リウス:「…………。」
◆ムーリフ:「ま、それに。
取っ替えられるかもしれない、ていうのは、役を貰ってない子たちにとってはチャンスなんだから。」
リウス:「役を貰ってない子たちにとってはチャンス……」
間。(リウス、スピカの方を見る。)
カメロ:「さぁて~とりあえずまずは合わせから。
今回の脚本はコカブ名物の一つ、『アーサー王物語』。
プロローグは要約、省略するので……選定の剣(つるぎ)を抜くところから!」
間。
リウス:「『アーサー王物語』……ってエクスカリバー抜くやつですよね。」
◆ムーリフ:「抜いたのはエクスカリバーじゃないけれど、アーサー王と言えばエクスカリバーよねぇ。」
(プロト、カメロパルダリスの向かい側に立ち、全員の方を見る。)
リウス:「……あの人は……」
◆ムーリフ:「あの子はプロト。貴方と同じ17歳よ。
そして、少年アーサー役。」
リウス:「え!主役ですか。」
◆ムーリフ:「そ。あの子、ここの『アーサー王物語』を見て入団したらしくて、
とても情熱的だったわよ~」
リウス:「へぇ~……!」
間。(オリオン、“エクター卿”の代役で芝居をする。)
オリオン:「“アーサー!どうやって剣を抜いたのか教えてくれないか?”」
◆プロト:「“はい。兄さんの剣を取りに家に帰ってみると、みんな槍の試合を見に行っていて、”
“誰も取ってくれる人がいませんでした。”」
カメロ:「プロト君声が小さいよー
そんなんじゃ客席四列目より後ろには聞えない。もう一度。」
◆プロト:「は、はい!
……“はい!兄さんの剣を取りに家に帰ってみるとみんな槍の試合を──”」
カメロ:「台詞を流さない様に~
アーサー少年が育ての親であるエクター卿に“説明”をする場面。
だけどそれは同時に観客にも説明するシーンでもある。
そこを雑にするとお客さんおいてけぼりになっちゃうよー?」
◆プロト:「はい!
……“はい!兄さんの剣を取りに家に帰ってみると、みんな槍の試合を見に行っていて、”
“誰も取ってくれる人がいませんでした。”
“けれど兄さんが剣を持たずにいるのは気の毒だったので、”
“この剣の事を思い出し、引っ張ってみたらあっさりと岩から抜けたのです。”」
オリオン:「“本当にその通りなら、この国全土の王になるのはそなただ!”」
カメロ:「エクター卿!選定の剣(つるぎ)を抜くという事はこの国の王になる事だよね???
サブテキストにも書いてると思うけど、“とても”!驚いて。
代役だからって雑にしない。台詞を読むな。人間と会話して。板上(ばんじょう)のリアクションをしろ。」
オリオン:「はいッ!
“……ッ!?”
“…………本当に、その通りなら……この国全土の王になるのはそなただ……!”
“神の御言により、あの岩からこの剣を抜いた者だけが、この国の正統な王になるのだから……!!”」
間。
リウス:「うおお……あれから結構経ってますけど、中々進まないですね。」
◆ムーリフ:「そうねぇ。
いつも結構こんなんなのよねぇ。」
リウス:「…………スピカ先輩、一度も台詞発してないですね。」
◆ムーリフ:「今回のあの子の役は槍の試合を見に来た観客の一人。
“アーサー王万歳~”って言ったりする役よ。」
リウス:「それだけですか!?」
◆ムーリフ:「何言ってるのよ。
今、板上(ばんじょう)の緊張感を作ってるのはあの子達。
オリオンやプロトだけじゃないわ。」
リウス:「…………。」
◆ムーリフ:「台詞があってナンボ的なのはそうなんだけどね。
けど、スピカはそれで不貞腐れたり、軽んじる子じゃないわ。」
リウス:「……。」
間。(“エクター”、膝を着く。)
オリオン:「“陛下。”」
◆プロト:「“……。”」
オリオン:「“王になられましても、どうか、私や私の家族に温かい目を向けてくださいますよう……”」
◆プロト:「“そうしなければ、人の道に外れるというものでしょう。”
“何故なら貴方こそ、私がこの世で一番、ご恩のあるお方。”」
カメロ:「“ご恩のあるお方”である育ての親に目上の人扱いとは言え、突然他人行儀な態度取られているんですよ~?
落ち着き過ぎじゃない?もう王様として完成してるの~?」
◆プロト:「えっと……まだ……」
カメロ:「どーしてそう思うー?」
◆プロト:「……………………。」
カメロ:「……プロト君の他で分かる人。」
スピカ:「はい。」
カメロ:「お。スピカ君。」
間。(スピカ、立ち上がる。)
スピカ:「少年アーサーは優しく、騎士に必要なあらゆる修練を積み、敬虔深い“齢十五の少年”だからです。
アタシは“元々王の素質があって常に落ち着き払っている”アーサーも良いと思います。
が、彼は決して“王になるべく”剣を抜いたのではなく、あくまでも“兄の為に”。
つまり“家族への愛”が深いからだと思います。」
カメロ:「良いね。
そう、アーサー少年は別に王様になりたくて剣を抜いた訳じゃない。
ひょんな事から王様に“なってしまった”んだ。
勿論?星の導きや神の計らいで、運命付けられていたけれどね。
でもそれは、アーサー少年の知る由もない事だ。」
◆プロト:「…………。」(焦っている。)
オリオン:「……。」
間。
リウス:「……あの子、固まっちゃってる……。」
◆ムーリフ:「無理も無いわよ。あ。」
間。
◆ムーリフ:「あー座長~~~」
カメロ:「ん、なんだね~アル・スハイル・アル・ムーリフ君!」
◆ムーリフ:「フルネームで呼ばないでください……
時間。」
カメロ:「お、もうそんな時間か!
じゃあ今日はここまで!ちゃんと水分補給してね~!
あとアーサー役、我こそは~!って人は次までに固めてきてね~!」
オリオン:「ッ!」
スピカ:「ッ!」
◆プロト:「そっ!そんなっ!!」
カメロ:「ん。どうしたんだいプロト君。」
◆プロト:「わ、わたしやれます!なので!」
カメロ:「今日のが続くようじゃ駄目だね~
どうしてもアーサーを続けたいなら、もっと色々考えて、もっと色々観て、もっと色々やってみて。」
◆プロト:「…………ッ」
リウス:「あの!!」
カメロ:「ん?なんだいリウス君。」
リウス:「アーサー役って、ボクも立候補出来ますか。」
◆プロト:「え!?」
オリオン:「……。」
スピカ:「なんですって???」
カメロ:「勿論~
劇団『コカブ』の人間であればチャンスは平等にある。
それがたとえ最近入ってきた新人くんでもね。
でも、当然だけど新人くんだからって甘めに見たりしないぞ~?」
リウス:「はい!ありがとうございますっ!!」
カメロ:「ではでは~ワタクシはこれにて~」
間。
◆プロト:「……………………。」
オリオン:「何悄げてんだプロト。
お前がやりたがってた役なんだろ。
下を向いている暇は無いぜ。」
◆プロト:「……オリオンさん。」
オリオン:「お前が入団してきた日の“熱”は本物だと俺様は思ってる。
だから、こんな所でくじけるな。」
◆プロト:「……はい!」
オリオン:「言っとくが、俺様も“主役”、獲りに行くからな。
忖度や遠慮をする気は無いが、奪われない様にな。」
(オリオン、去る。)
◆プロト:「……。」(深々と頭を下げる。)
間。
リウス:「………………かっっっっっっこよ……」
スピカ:「流石は花形役者っていう感じのカリスマだね。
……てか、アナタ本気なの。」
リウス:「はい。本気です。」
スピカ:「…………アタシ、容赦しないから。」
リウス:「はい。」
間。
リウス:「………………もしかして、教育係やっていただけないのですか……?」
スピカ:「は?……いや、まあ、そうね。
それは大丈夫、ちゃんとやるし、嘘とか適当な事は言わないから、安心して。」
リウス:「ほっ…………改めてよろしくお願いします!!!」
スピカ:「はいはい。」
間。
スピカ:「ムーリフ!」
◆ムーリフ:「ん~何かしら~?」
スピカ:「第三稽古室を借りても良い?」
◆ムーリフ:「良いわよぉ。」
スピカ:「ありがと!リウス!行くよ!」
リウス:「はい!」
◆ムーリフ:「20時までよ~」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~第三稽古室~
(スピカ、リウスに脚本を渡す。)
リウス:「ありがとうございます!」
スピカ:「リウスは『アーサー王物語』はどれくらい知ってる?」
リウス:「まあ、なんとなーくって感じですかね。」
オリオン:「コカブの『アーサー王物語』は前編後編で分かれている。
今回やるのは前編だ。」
リウス:「え、あ、オリオンさんとプロトさん!」
(オリオンとプロト、現れる。)
オリオン:「よう。」
◆プロト:「どうもです……。」
スピカ:「何の用?」
オリオン:「ムーリフに稽古場貸してくれって言ったらここ使えってさ。」
スピカ:「えぇ?ブッキングってこと?」
オリオン:「そーじゃねぇだろ。俺様とお前、先輩としての役目を果たせって事だろ。」
スピカ:「なるほどね。ま、良いけどさ。」
リウス:「?」
◆プロト:「?」
スピカ:「プロトは復習になっちゃうけれど、良い?」
◆プロト:「あ!そういうことですか!
大丈夫です!むしろ改めてお願いします!!」
スピカ:「ん、ありがと。」
リウス:「?
どういうことですか?」
オリオン:「座学って事だ。」
間。(オリオン、上手に移動する。)
オリオン:「さて、リウス。
『アーサー王物語』はアーサー王の生前からアーサー王が死ぬまでを書いた物語。
前編は円卓設置まで。後編はそこから最期まで。
それは分かるな?」
リウス:「はい。」
オリオン:「じゃあ、『アーサー王物語』とは、何の為に書かれた物語だと思う?」
リウス:「え?」
間。
リウス:「何の為?」
オリオン:「そうだ。『アーサー王物語』に限らず、作成物・創作物には必ず作られた理由がある。
そして、演劇もまた作成物・創作物だ。」
スピカ:「その理由ってのは、その作品の根幹になるの。
アタシたち役者、延いては作品を借りて表現する者たちは“それ”を探る作業を怠ってはならないの。」
オリオン:「怠ってはならないっていうか、バックボーンを知った方が芝居に圧倒的な説得力が生まれるから、やった方が良いって感じだな。」
スピカ:「怠っちゃダメだからねっ」(リウスをビシっと指差す。)
リウス:「は、はいっ!」
オリオン:「プロト。」
◆プロト:「はい!」
オリオン:「お前はどう考察した。」
◆プロト:「はい!『アーサー王物語』は歴史書という側面も一応あるので、
イギリス、ブリタニアの権威の主張でしょうか。
キリスト教圏にとって“聖杯”が授けられたのは権威を主張するのに最も効果的だと感じますね。」
オリオン:「そうだな。アーサー王は聖杯探索に失敗したが、彼の騎士たちが獲得したというのもポイントだろうな。」
リウス:「ポイント?」
オリオン:「もしもアーサー王が聖杯探索に成功していたら、今も生き続けちまってるだろうからな。
”歴史書”としての側面では整合性がとれない。だから王と国の終わりを書く必要があったんだろうと予想できる。」
リウス:「なるほど……」
スピカ:「歴史書云々も大事だと思うけど、教訓的側面や歴史云々とは別に肉付けされたアーサーたちの生も大事にしないと。」
オリオン:「ああ。さっきボスも指摘していた、アーサーやエクターの感情を無いものと考えてはならない。分かったか?」
リウス:「はい!」
◆プロト:「うぅ……」
オリオン:「まあまあ、そう悄げるな。
ボスからあんな風に詰められちまったら考えてた事飛んじまうさ。」
◆プロト:「あはは……でも、それは答えられなかった理由にはならないですよ……。」
オリオン:「……。」
◆プロト:「……。」
スピカ:「……。」
間。
リウス:「あの、質問なんですけど。」
スピカ:「なに?」
リウス:「カメロパルダリスさん……演出家の言う事って、絶対なんですか?」
間。
スピカ:「そう思ってくれて良いよ。」
リウス:「じゃあカメロパルダリスさんの言う事聞いてれば良くないですか?」
スピカ:「……ハァー………………やっぱりアナタ役者向いてないね。」
オリオン:「おい。
……リウスがそう思うのも分からんでも無い。
ボスは舞台の成功の為だけに自分の首を物理的に切断して短くした様なキチガイだからな。」
◆プロト:「えぇ……ッ!?」
オリオン:「俺様はボスに全幅の信頼を置いている。
だがな。それが理由で何も考えなくて良いってコトにはならないんだ。
何故か分かるか。」
リウス:「……いいえ。」
オリオン:「俺様たち役者は、演出家・脚本家や監督、延いては舞台の為の駒、道具だ。
だが同時に、役者はクリエイター・表現者だ。
ボスに表現したい物がある様に、俺様たちにも表現したい物がある。
……ま、これに関しちゃあ割と意地とか情熱みたいなもんだな。」
(オリオン、リウスの胸をトンと軽く叩く。)
オリオン:「お前が板上(ばんじょう)で表現したい物、見つけられりゃ分かるさ。」
リウス:「……はい。」
スピカ:「………………。」
(オリオン、手をパンと叩く。)
オリオン:「さァさッ!続きやるぞ!続き!」
リウス:「はい。」
◆プロト:「はいっ!」
暗転。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(上手にピンスポが当たり、カメロパルダリスが現れる。)
カメロ:「いやはや、若さ溢れる良い空間だったね~」
(カメロパルダリス、舞台の中央まで歩く。)
カメロ:「せっかくなら彼らの努力、四苦八苦、切磋琢磨……二週間分全てを皆さんにお見せしたかったのですが、
泣く泣くチョキチョキと……」
間。(カメロパルダリス、下手までゆっくり歩く。)
カメロ:「さァて。二週間後の彼らはどうなったのかな。」
(ピンスポ、消える。)
明転。
(稽古中。カメロパルダリス、エクター役の代わりをしている。)
カメロ:「“王になられましても、どうか、私や私の家族に温かい目を向けてくださいますよう……”」
リウス:「“……ッ”(膝を着き、エクターの手を取って立たせる動きをする。)
“そうしなければ、人の道に外れるというものでしょう。”
“何故なら貴方こそ、私がこの世で一番、ご恩のあるお方。”
“そしてやさしい母上、あなたの奥さまは、実の息子同然にわたくしを慈しみ、育ててくださいました。”」
間。
スピカ:「……………………。」
◆ムーリフ:「機嫌悪そうね。」
スピカ:「別に。」
◆ムーリフ:「新人くん、どんどんどんどん上手になっていくわねェ。」
スピカ:「…………。」
間。
スピカ:「フンッ。」
◆ムーリフ:「あ~拗ねてるかわいい~」(スピカをつつく。)
スピカ:「拗ねてないもん!」
◆ムーリフ:「むっふっふ~♪
だったら眉間に皺寄せないの。
せっかく可愛いんだから。」
スピカ:「……。」
◆ムーリフ:「ま。新人くんがアーサー少年役の第一候補だもんねぇ。
実力主義とは言え、複雑な気持ちなのは分かるわ。」
スピカ:「何も言ってないんだけど。」
◆ムーリフ:「一番最初の候補だったプロトなんか、ショック過ぎて練習に身が入ってないわねぇ。」
スピカ:「リウスの勢いに完全に飲まれちゃったね。
せっかく良い芝居するのにもったいない。」
◆ムーリフ:「……あ、アンタの優秀な生徒さんが来るわよ。」
(リウス、スピカの下へ駆け寄る。)
リウス:「スピカ先輩!どうでしたか!?」
スピカ:「あ?良いんじゃない。」
◆ムーリフ:「ん。」(肘でスピカの脇を突く。)
スピカ:「あうっ!
…………エクターを立ち上がらせる様に手を差し出すのは次の台詞に繋げる上で正解だと思う。
だから、良いんじゃない。」
◆ムーリフ:「んふふ。」
リウス:「ありがとうございますっ!」
スピカ:「…………。」
リウス:「ボク、スピカ先輩のおかげでお芝居が楽しいです!」
スピカ:「あっそ。」
(オリオン、現れる。)
オリオン:「良い事じゃねェか!
そんなひねくれた態度とんじゃねぇよー」
スピカ:「うるさい!」
間。(スピカ、去る。)
オリオン:「あーあ。行っちまった。
まあ、ピリピリすんのは分かんだけどな……」
リウス:「……ボク、なんかスピカ先輩の気に障る事したんでしょうか。」
◆ムーリフ:「気にしなくて良いわよぉ。
スピカは何かとプリプリしてるから、まあ、いつも通りよ。」
リウス:「…………ボク、先輩の所行ってきます。」
オリオン:「おー」
間。(リウス、去る。)
オリオン:「ありゃあ、相当だな。
俺様には分かんねぇな。」
◆ムーリフ:「なーに言ってるのよぉ。
スピカは可愛いんだからこうなってもおかしくないわよ?」
オリオン:「そういうモンか?」
カメロ:「やーやーやー青春のお話~?」
オリオン:「ボス。」
カメロ:「あ。なんか邪魔しちゃった?」
◆ムーリフ:「いいえ、大丈夫です。
何か用です?」
カメロ:「用だなんて。我が劇団員と交流を深めようと思っただけだとも。」
オリオン:「そうか。
それにしても、今回の脚本、巨人リヨンを出さず、ロット王を前編のラスボスに据える構成。
中々大胆な事考えたな。」
カメロ:「そう?まあ、“オトナノジジョウ”ってやつさ。」
◆ムーリフ:「いままでリヨン役をやってくれてた“スティーブンソン”が引退しちゃったからねぇ。」
カメロ:「ああ……“スティーブンソン”君以上にリヨン役が似合う人材は早々見つからないからねぇ。
いやはや……是非も無し……
……あー……もしもワタクシが首を短くしていなければ或いは……!」
オリオン:「ボスのマーリン好きだからそれはもったいねぇなぁ。」
カメロ:「く~~~~こちらを立てればあちらが立たず……」
◆ムーリフ:「いやいや、こちらもあちらも立ってないわよ。」
カメロ:「ははは!これは一本!」
オリオン:「けど、ボス。俺様、この脚本好きだぜ。」
カメロ:「おや、そうかい?」
オリオン:「アーサー王が屠るはずであったリヨンを、反逆の六王の一人であり、アーサー王の義兄、ロット王が倒し、
まず名剣マルミアドワーズを彼が手にする。」
(一拍間を置く。)
オリオン:「エクスカリバーVSマルミアドワーズ。アーサー王VSロット王の構図は素直に燃える!
今後の二人の関係的にもな!」
◆ムーリフ:「たしかにぃ。」
オリオン:「そして──」
(オリオン、カメロパルダリスに向く。)
オリオン:「そのロット王の役を俺様に与えてくれて、感謝している。」
カメロ:「……。」(にこりとする。)
◆ムーリフ:「むっふっふ~♪」
カメロ:「それはそれは。
けれど、油断してると、奪われちゃうかもよ~」
オリオン:「奪われないさ。俺様は……トップスタァだからな。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~劇場内廊下~
リウス:「スピカ先輩!」
スピカ:「……。」
リウス:「スピカ先輩!!」
スピカ:「……なに。」
リウス:「……あの、ボク何か気に障る事しましたか?」
スピカ:「…………別に、アナタのせいじゃないよ。」
リウス:「……そう、ですか。」
間。
リウス:「ボク、本当にスピカ先輩のおかげでお芝居が好きになったんです。」
スピカ:「……。」
リウス:「先輩の芝居への真面目さ。脚本への直向(ひたむ)きさ。舞台への情熱。」
スピカ:「……。」
リウス:「とても純粋で眩しくて……」
(一拍間を置く。)
リウス:「あ!まさに、スピカ先輩の名前の通りですね!」
スピカ:「うるさいッ!!!!!!!」
間。
リウス:「せんぱい……?」
スピカ:「……アタシが純粋?笑わせないで。」
リウス:「……。」
スピカ:「アナタが頑張ってアタシが嬉しいと思う?」
リウス:「……え?」
スピカ:「……アナタが望むのは主役。」
間。
スピカ:「アタシが欲しいのも主役!この舞台の主役はただ独り!!!」
間。
スピカ:「アタシの次の舞台は?アタシの次の出番は?アタシの次の台詞は?」
リウス:「……。」
スピカ:「全てッ!アナタが奪っていくのッ!!」
間。
リウス:「……………………。」
間。
スピカ:「……あ……。」
間。
スピカ:「………………じゃあ……。」
(スピカ、去る。)
間。
リウス:「……。」
(プロト、現れる。)
◆プロト:「……リウス……?」
リウス:「……あ、プロトさん。」
◆プロト:「もう、プロトで良いよ。同い年なんだから。」
リウス:「ははは……」
◆プロト:「……?
あ、さっきのアーサー少年良かったよ!」
リウス:「……。」
◆プロト:「……リウス?」
間。
リウス:「……ごめんなさい。」
◆プロト:「え?」
リウス:「…………ボクが君からアーサー少年を奪った……。」
◆プロト:「……は……?」
リウス:「ボクが君から舞台を、出番を、台詞を奪った……。
“役の奪い合い”をちゃんと理解していなかった。」
◆プロト:「…………何言ってんの……?」
リウス:「ボクが役を“勝ち取る”事は、誰かが役を“失う”事だった……。」
(プロト、リウスをぶん殴る。)
◆プロト:「調子に乗るな!!!!」
リウス:「え……?」
(プロト、倒れ込んだリウスにマウントを取る。)
◆プロト:「“役を奪い合う”事は誰かが勝ち取り誰かが失う!?
そんなの百も承知に決まってるじゃんッ!!!!!!!!」
リウス:「……。」
◆プロト:「リウスは凄いよ。この二週間でわたし、思ったよ、君は“なんだって出来る”んだって。
……リウス、君のその言葉は“出来る人の傲慢”であり、“座席からの罵倒”だよ。」
リウス:「……。」
◆プロト:「上には上がいる事くらい私にだって分かる!
在り方の理不尽な押し付け合いだって事くらい分かってる!
わたしは憐れみが欲しくて舞台に立とうとしてるワケじゃないッ!!!!!」
リウス:「……。」
◆プロト:「今の君にはわたしがみっともなく縋る“愚か者”に見えるかも知れない。
傲慢に第三者を気取るなら……それでもわたしを愚弄して憐れむのなら……」
(プロト、リウスの胸ぐらを掴む。)
◆プロト:「中央を明け渡して舞台から降りろ。
その上で、わたしが“全て”捨ててやる。」
間。
リウス:「………………やだ…………」
◆プロト:「……。」
リウス:「……だって……欲しくなったんだもん……
ボクは……オレは舞台の暗闇の中で照らされるスポットライトが欲しくなった……」
間。
リウス:「………………ああー……」
間。
リウス:「“人参プリン”は“情熱”だ……。」
暗転。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(上手にピンスポが当たり、カメロパルダリスが現れる。)
カメロ:「“情熱”とは、“複雑なモノ”かな。
答えは、“一概にもそうとは言えない”。」
(カメロパルダリス、舞台の中央まで歩く。)
カメロ:「新人くん……いや、リウス君はついに、役作りを完了し、役者になった。
『アーサー王物語』が持つ単純な、誰もが持つ、持っていた“願望”に至った。」
間。(カメロパルダリス、下手までゆっくり歩く。)
カメロ:「“主役”には試練を、誘惑を、悪魔を。
さあ、あとは君だ。“小さなネブラスカオオカミ”。」
(ピンスポ、消える。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
明転。
(稽古中。“アーサー王”VS“ロット王”。)
カメロ:「……。」
◆ムーリフ:「……。」
オリオン:「“……。”」
リウス:「“……。”」
オリオン:「“巨人の首を打ち落とし、ホエル卿の下へ持って行き、仇は打ったと言うが良い。”
“ここにある財宝は、お前たちが欲しいだけ持っていくが良い。”
“こんな物、俺はどうでもいい……だが……”」
間。(“ロット王”、“アーサー王”にマルミアドワーズを向ける。)
オリオン:「“俺と戦え!アーサーッ!!”
“俺はお前を下(くだ)しッ!真の王であると証明するッ!!”」
リウス:「“良いだろう……我が義兄、ロット王。貴方と鍔迫り合い、今一度、王を決めよう。”
“だがッ!!”」
(リウス、構える。)
リウス:「“今の曇りし眼の貴方に私は絶対に負けはしないッ!!!!”」
オリオン:&リウス:「「“はぁッ!!!”」」
(“アーサー王”と“ロット王”、鍔迫り合う。)
間。
◆ムーリフ:「実際に動きで見ると本当に変わったわねぇ。
中々革新的で良いんじゃないですか?」
カメロ:「そうかい?
それよりも、ワタクシはリウス君の変わりように痺れるねぇ。」
◆ムーリフ:「それは分かりますねぇ。
公演の宣伝で出した稽古風景の動画でも最近、彼への注目度が凄いですよ。」
カメロ:「ふむふむ。
オリオン君とリウス君で二大スタァって所かな。」
◆ムーリフ:「あら、良く栄えそうな宣伝文句だこと。
でぇも。」
カメロ:「ん?」
◆ムーリフ:「二大スタァが誰になるかは、まだ分からないですよねぇ?」
カメロ:「…………。
それ、衣装係兼広報係の君たちが大変じゃないかい?」
◆ムーリフ:「むっふっふ~♪
それをどうにかするのが私たちの仕事ですから。」
カメロ:「そう。
じゃ、ワタクシは思う存分悩んでおくからねぇ。」
◆ムーリフ:「はぁい♪」
間。
◆ムーリフ:「……全く……一体どこで何をしているのやら……」
オリオン:「本当だよな。
連絡着かないのか。」
◆ムーリフ:「うん。オリオンは?
行き先知らない?」
オリオン:「知らん。
ムーリフが無理なら俺様はもっと無理だろ。」
◆ムーリフ:「ま~~~~~~~…………そうよね。」
(ムーリフ、遠くのリウスに向かって。)
◆ムーリフ:「新人くんはー?」
リウス:「え?」
(リウス、ムーリフたちの下へ行く。)
リウス:「なんですか?」
◆ムーリフ:「貴方の先生とは連絡取れてない?」
リウス:「…………いいえ。
というか、連絡先も知らないです。」
◆ムーリフ:「あらあら。いけずな子ねぇ。
……。
はい、スピカの連絡先。」
リウス:「えっ。良いんですか?」
◆ムーリフ:「良いの良いの。試しに連絡してみて。」
リウス:「はい。」
間。
リウス:「出ません。」
◆ムーリフ:「あらら。」
オリオン:「そりゃそうだろ。」
◆ムーリフ:「ふぅ~ん……
さって……そろそろ今日も行こうかしらねぇ。」
オリオン:「また行くのか、スピカの家。」
◆ムーリフ:「えぇ。」
間。
◆ムーリフ:「ねえ、オリオン。」
オリオン:「なんだ。」
◆ムーリフ:「ほんとーに、知らないの。」
オリオン:「……知らんな。」
◆ムーリフ:「あそ。
座長~~~~」
間。
オリオン:「…………。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~夜、人気の無い丘~
(スピカ、星を眺めながら体育座りをしている。)
スピカ:「………………。」
間。
スピカ:「“誰かが、200万の星の中にも二つとない、どれか一輪の花を好きになったんなら、”
“その人はきっと、星空を眺めるだけで幸せになれる。”」
間。
スピカ:「“『あのどこかに、ぼくの花がある……』って”──
…………………………。
……“おもえるから。”」
間。(スピカ、星を眺めるのを辞めてしまう。)
スピカ:「…………。」
オリオン:「『星の王子さま』か。」
スピカ:「…………オリオン……。何の用。」
オリオン:「お前、嫌な事があったらよくここに来てたよな。
……ま、前座長……お前の親父さんとの思い出の場所だもんな。」
スピカ:「ねえ、何の用なの。」
オリオン:「そういや俺……も、座長によくここに連れてきてもらったっけか。
それで、色んな劇の相手役をしてくれて……」
スピカ:「何一人でべらべらべらべらと……」
オリオン:「ああ、『星の王子さま』も……なんならそれが一番多かったな。
そういや、お前の名前もここで決めたらしいな。
“スピカは真っ直ぐで綺麗に”──」
スピカ:「何の用なんだよっ!!!」
オリオン:「………………こんな所で何している。
皆お前の事を心配してるぞ。」
スピカ:「あっそ。
別にアタシが居なくてもどうにかなるでしょ。」
オリオン:「てめェ……!何ガキみてぇな事言ってんだッ!!!!!!」
スピカ:「事実でしょ!?」
オリオン:「事実なワケがあるかッ!!!!!!」
(オリオン、スピカに詰め寄る。)
オリオン:「スピカ、今のそのみっともねェ姿が“なりたかった”未来かッ!?」
スピカ:「っ!」
オリオン:「……スピカ、お前忘れてないよな?
座長がよく言ってた言葉を!ここで魅せてくれた輝きを!!」
間。
オリオン:「“役者は何にでもなれる。誰にでもなれる。”
座長たちの……お前の両親の口癖だったろうが……!」
スピカ:「くッ!そんなの綺麗事だよッ!!
キリンの様に首が伸びるっての!?」
オリオン:「短くしたヤベェ奴が居るんだから伸ばしてやるよッ!!!」
スピカ:「魚みたいに何時間も水中に潜れるっての!?!?」
オリオン:「何時間だって潜ってやるよッ!!!!!」
スピカ:「アンタみたいにアタシは空を飛べないッ!!!!!!」
オリオン:「諦めてんじゃねぇよッ!!!!!!!」
間。(スピカとオリオン、肩で息をしている。)
スピカ:「そんな事言えるのは……アンタが特別だからだよ……」
オリオン:「ああ、俺は“トップスタァ”になりたかったからな!
俺が空を飛べるからトップスタァになったのか?違う!
俺がでけぇからトップスタァになったのか?違う!
俺以外のカンムリクマタカがトップスタァになれるか?」
スピカ:「……。」
オリオン:「無理だ。
これからも“俺様”がトップスタァだからな。」
間。
オリオン:「お前は、どんな役者になりたいんだ。」
間。
スピカ:「アタシは…………」
間。
スピカ:「主役になりたいの。」
間。
スピカ:「でもアンタが居るならそれは叶わない。」
オリオン:「…………。」
スピカ:「……超えてみろ、とか言わないんだ。」
オリオン:「俺様が今のお前に超えられるわけがないだろ。
それともお前は“譲られた”主役が欲しいのか。」
スピカ:「………………欲しい……」
間。
スピカ:「欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しいッ!!!欲しいに決まってるじゃんッ!!!!!」
オリオン:「ッ」
スピカ:「オリオンもプロトもリウスもみんなみんな!怪我して出れなくなっちゃえば良いっていっっっっつも思ってるッ!!!!
喉から手が出る程欲しいッ!!
でもッ!!!!!!!」
オリオン:「……。」
スピカ:「でも…………そんな舞台……絶対に楽しくないよ……誰も喜ばないよ……」
間。(スピカ、目に涙を浮かべる。)
スピカ:「でもアタシじゃアンタどころかプロトからもリウスからも役を奪えない……!
なんなのアンタたち……!
アタシの方が先に始めてたのに……!リウスなんか……!この間っ、始めたっ、ばかりのっ、癖にぃいっ!
うあああ……!うあああああああああああ……!!」
(スピカ、暫く大泣きする。)
オリオン:「……。」(唖然としている。)
スピカ:「なんだよぅ!何見てんだよぅ!どっか行けよ~~~~!!!!!」
(スピカ、泣きながら走って何処かへ行く。)
間。
オリオン:「……ど……」
間。
オリオン:「どっか行けって言いながら!!!!!なんでお前がどっか行くんだよッ!!!!!!!!
…………ッ(オリオン、膝を突く。)
……ッはぁー…………」
(カメロパルダリス、現れる。)
カメロ:「ダメだったかい。」
オリオン:「……ええ……やっぱりダメでした……」
間。
オリオン:「何故、ボスがここにいるんですか。」
カメロ:「君なら、彼女の居るところが分かるんじゃないかって思ってね。
いやはや、とりあえず病気や怪我をしていなくて良かったよ。」
間。
カメロ:「まあ、それ以上に重症なワケだけどね。」
オリオン:「……俺の言葉は、やっぱり響かないのでしょうか。やっぱり無駄なのでしょうか。」
カメロ:「……ははは。トップスタァじゃないオリオン君を見るのは久しぶりだ。
大丈夫だよ、オリオン君。
響かないのなら、泣くことはない。
響かないのなら、苦しむことはない。
響かないのなら、逃げ出すことはない。
大丈夫。大丈夫。君の感情は、彼女にちゃんと響いている。」
オリオン:「……。」
カメロ:「響いたから、彼女は動き出した。
君の激情は、きっと“皆”が無駄にはしない。
だから、大丈夫だよ、オリオン君。
君は立ちなさい。誰よりも真っ直ぐ立ってなさい。
だって君は、“完全無欠(オリオン)”。トップスタァだろ?」
間。(オリオン、ゆっくりと立ち上がる。)
オリオン:「……ああ、そうだな。俺様は、トップスタァだ。」
暗転。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ピンスポがスピカとムーリフを照らす。何処かの映画劇場の椅子に座っている。)
スピカ:「……。」
◆ムーリフ:「……。」
間。(劇場内には二人しかいないが、一応声抑え気味に話す。)
◆ムーリフ:「ここに映画のオールナイト興行やってる場所があるだなんて初めて知ったわねぇ。」
スピカ:「…………ねえ、なんでここにいるの。」
◆ムーリフ:「映画を見る為よ。そしたらアンタがここに居た。」
スピカ:「……。」
◆ムーリフ:「自由席で良かったわ。」
スピカ:「ま、アタシたちしかいないけどね。」
◆ムーリフ:「中々この作品に興味持つ人なんていないものねぇ。」
スピカ:「……。」
◆ムーリフ:「上演時間の三分の二がスクリーンから見た客席視点。
あまり動きのある映画だと思えない上に、映画館で観ると、お互いがお互いを観察してるみたいで変な気分になるものねぇ。」
スピカ:「……じゃあ、なんでムーリフはこんなの観に来てるの。」
◆ムーリフ:「……私はスピカたちみたいに役者じゃないから、滅多に板上(ばんじょう)の客席を見ることは無いわ。」
間。
◆ムーリフ:「……アンタから見た景色って、どんなんなのかなって気になったの。
どう?こんな感じなの?客席からの距離とか。」
スピカ:「……もっと近くに感じるかな。
あ、でも。今みたいにあくびしてる人とか、出ていこうとしてる人とか、
そういう人たちは、よく目につくかな。」
◆ムーリフ:「なーるほどねぇ。」
間。
◆ムーリフ:「アンタたちに熱中してる子たちの視線は、感じないのかしら。」
スピカ:「……あ~……」
間。(ピンスポがリウスを照らす。)
スピカ:「アイツの視線、ずっと感じてたな……。」
◆ムーリフ:「アイツ?」
スピカ:「リウス。」
◆ムーリフ:「ああ~」
スピカ:「……アタシは、“主役”になりたかったの。」
◆ムーリフ:「そうね。」
スピカ:「皆の視線を釘付けにする、“主役”になりたいの。」
間。
スピカ:「……でも、アタシのこの“身体”じゃ……皆に隠れちゃう……」
間。
スピカ:「だから……みっともなく泣いたり……情けなく喚く事でしか……」
◆ムーリフ:「じゃあ私たちを頼ってよ。」
間。
スピカ:「え……?」
間。(ムーリフ、首だけスピカの方を向いている。)
◆ムーリフ:「私は、ずっとアンタに釘付けよ?
きっと新人くんも……オリオンだって……」
スピカ:「頼るって……?」
◆ムーリフ:「アンタの身長が問題ならオリオンやプロトや新人くんよりも背が高くなる衣装を作る。
アンタの輝きが埋もれるってんならギラギラ眩くなるメイクをする。
アンタ一人じゃ無理ってんなら……私たちを使ってよ。」
スピカ:「……。」
◆ムーリフ:「私は演技の事は分からないけれど、
それでも私たちは劇団『コカブ』の仲間なの。
オリオンたちだってそう。ライバルかもしれないけれど、敵なんかじゃないわ。」
間。(リウスを照らすピンスポの中に皆が現れる。)
◆ムーリフ:「忘れないで。
私たちは、劇団皆で、舞台をやってるの。」
スピカ:「……っ」
(スピカ、ムーリフに抱き着く。)
暗転。
(映画の終わりを告げる音が鳴る。)
明転。
◆ムーリフ:「……。」
カメロ:「……。」
(カメロパルダリス、ムーリフを軸にスピカが座っていた席の反対側に座っている。スピカはもう居ない。)
◆ムーリフ:「舞台の上の景色って、こんなに怖いんですね。」
カメロ:「ああ。怖いとも。とてもとても怖い。
ワタクシはかれこれ何十万回と舞台の上に立ったが、一度たりとも緊張しなかった舞台は無いね。」
◆ムーリフ:「それでも、舞台に立てたのは何故ですか。」
カメロ:「皆が居たからさ。」
間。
カメロ:「ワタクシたちをじりじりと焼く照明も、ワタクシたちを追い立てる音響も、
皆、皆皆、敵ではなく味方だ。仲間だ。
“劇団『コカブ』”という共同体を生かすための細胞だから、怖くても立てるのさ。」
(ムーリフ、どんどん自分が嫌になって涙が溢れそうになる。)
◆ムーリフ:「…………。
……はぁー……そういう言葉を、私は、なんでもっと早く、あの子に……
勝手に、”あの子は強い子だから”ってどんな事があっても負けないってあの子の事を分かってる気になって……
あの子がここまで抱え込む前に、もっと早く……」
カメロ:「でも、今言えた。」
◆ムーリフ:「……。」
カメロ:「過去は変えられない。
ワタクシたちは神様でもなければ完璧でも無い。
どうあがいても間違えるし、見落とす。
後から悔やむことはいくらでも出来る。
けど、行動に起こせるのは、君が見落としに気付けたからだ。
君が彼女の激情に響くことが出来たからだ。」
◆ムーリフ:「……。」
カメロ:「“未知を見つめ光る瞳(アル・スハイル・アル・ムーリフ)”。
君の開いた路はきっと輝いていると、ワタクシが保証すると誓うよ。」
◆ムーリフ:「……私も、あの子の無限の可能性を広げると誓います。」
暗転。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
明転。
~夜明け前、公園~
スピカ:「…………。」
リウス:「“はい!兄さんの剣を取りに家に帰ってみると、みんな槍の試合を見に行っていて──”」
スピカ:「え?」
(スピカ、声がする方を向く。リウス、“アーサー少年”と“エクター卿”の一人二役している。)
リウス:「“……ッ!?”
“…………本当に、その通りなら……この国全土の王になるのはそなただ……!”
“神の御言により、あの岩からこの剣を抜いた者だけが、この国の正統な王になるのだから……!!”」
間。
スピカ:「リウス?なんでアイツが……」
カメロ:「毎日何処かしらで夜が明けるまでやっているよ。」
スピカ:「きゃあああああッ!!!!!!!!」
カメロ:「うわあ、驚き過ぎ。」
間。(スピカ、尻餅を付いている。)
スピカ:「か……カメロパルダリス座長……」
カメロ:「おっと、失礼。大丈夫かな?」
スピカ:「い、いえ……大丈夫です……。」
カメロ:「うん、それは良かった。」
(一拍間を置く。)
カメロ:「最近はよくこの公園でやっているよ。
たまにオリオン君やプロト君と一緒にやってるね。」
スピカ:「……熱心ですね。」
カメロ:「早く君みたいになりたいんだろうね。」
スピカ:「え……?」
カメロ:「その証拠に──」(リウスの方を見るように目配せをする。)
間。
リウス:「“ああ……”」
間。
リウス:「“いや違う……この様な音では無い。”
“私が求めた音はこんなものでは無いッ!!”
“もっと……歓喜に溢れる音を奏でようではないかッ!!”」
間。
スピカ:「え、あれは……」
カメロ:「君が以前ここで練習していたのだね。」
間。
リウス:「“そうだ!地球上にただ一人だけでも、心を分かち合う魂があると言えるならば歓呼せよ!!”」
間。
カメロ:「……今の彼を見て、君はどう思う?」
スピカ:「…………とても楽しそうです。
……輝いて、見えます……」
カメロ:「彼には君がそう見えているんだよ。」
スピカ:「……。」
カメロ:「彼は、“なんだって出来る”人だ。
そんな彼のなりたい役者は、君なんだ。
彼は君が居たから“主役”になれたんだ。」
スピカ:「アタシが、居たから?」
カメロ:「勿論、君だけじゃないだろうけどね。
オリオン君のカリスマ性は彼にもよく響いているし、
最近プロト君にぶん殴られて喝を入れられていたからねぇ。」
間。(リウス、時間が経ち、上のとは全く違う台本、全く違う役をやっている。)
リウス:「“『情報戦に勝っているだけ』だろ?”
“君がこの間取った賞のインタビューの際にもそんな事を言っていたね……。”
“戯(ざ)れるな!!それこそが才能だろうがッ!!!”
“自分が当たり前に出来る事が他人にも出来ると思うなよクソが!!”」
間。
カメロ:「ははは。今のは本当に酷かったね。
どういう台詞か理解していない、説得力が無い音まみれだ。
元々の脚本を調べず、ちゃんと考察せず、ただただ君の真似をしてるだけだねぇ。」
スピカ:「…………。」
カメロ:「このままではあまり良い育ち方しない気がするなぁ。」
間。(スピカ、既にカメロパルダリスの傍に居ない。)
カメロ:「……あれ???」
間。
リウス:「“ジュリエット……遠く遥かな日から密かに強く深く……”
“誰よりも愛してきたんだ俺は!!!”」
スピカ:「ストップ!ストップ!ストーーーーーーップ!!!!」
リウス:「えッ!?えっ、えっ?えぇッ!?す、スピカ先輩ッ!?
なんでここに!?」
スピカ:「さっきの芝居は何???
どういう風に“『情報戦に勝っているだけ』だろ?”って言葉が湧いてきたか考えた????」
リウス:「えぇ!?えー……っと……分かんないです……」
スピカ:「“理由を探る作業を怠ってはいけない”ってアタシもオリオンも言ったでしょ!!!」
リウス:「はいぃ!!すいませんー!!!」
間。
カメロ:「…………ははは、いやはや。
やっぱり君を教育係にして正解だったよ。」
間。(スピカ、持っていたカバンから使い古された台本を出す。)
スピカ:「ほら!アナタが今やってた話!」
リウス:「ああ、ありがとうございます。」
スピカ:「良い?芝居ってのはね。“アクション”というよりは“リアクション”のラリーなの。
なんでこういう台詞が出ているのか、一人でやるより誰かとやった方が絶対に良い。」
リウス:「お相手してくださるんですか!?ありがとうございます!!」
間。
スピカ:「……ごめんなさい。」
リウス:「……え?お相手して頂けないのですか?」
スピカ:「そうじゃなくて。
……酷い事言って、酷い事ばかり言って、ごめんなさい。」
リウス:「…………。」
スピカ:「……アタシは、この名前が嫌いなの。
アタシの両親は、“真っ直ぐで綺麗な星のように”なって欲しかったらしいけれど、
実際のアタシはそんなのとは程遠い。」
リウス:「……。」
スピカ:「主役を狙う人皆怪我してしまえば良いって思ってるし、お情けでも良いから主役が欲しいって思ってる。
……滅茶苦茶嫉妬深いし、情けないの。」
間。
スピカ:「アナタが真似するに値するような、凄い人なんかじゃないの。
…………アタシ、こんなんで、ごめんなさい……」
間。
リウス:「やっぱり。」
間。
リウス:「先輩は“真っ直ぐで綺麗(スピカ)”ですよ。」
スピカ:「……え?」
リウス:「オレが、スピカ先輩に眩(くら)んだのは、まさにその強欲な“慟哭(じょうねつ)”でした。
きっと、10年の執着や、体躯(たいく)・形質で曇り阻まれた、だのに輝くそれに惹かれたんだと思います。」
スピカ:「……。」
リウス:「“そんなに欲しくなるのか、じゃあオレも”と欲しくなりました。
まるで人参プリンです。」
スピカ:「人参プリン……?」
リウス:「はい。“それが欲しい”、の“それ”の事です。
オレは“人参プリン”、スピカ先輩は“主役”。」
(一拍、間を置く。)
リウス:「そして、オレが板上(ばんじょう)で表現したい物です。」
間。
スピカ:「……あはは……完敗だよ。君は“主役”だ。」
リウス:「はい。」
スピカ:「でも。今回はそうってだけだから。」
リウス:「はい。」
スピカ:「君の進む速さには驚かされるよ。」
(一拍、間を置く。)
スピカ:「でも、積み重ねた足跡の多さは絶対に負けない。」
リウス:「それでも、オレは次も主役を取りに行きます。
だって、スピカ先輩のライバルですから。」
スピカ:「そうやってアナタが、皆が、アタシを昂めるの。
そして、アタシが主役を勝ち取る。」
リウス:「そうしたら、終わるんですか?」
スピカ:「いいえ。」
間。(スピカ、近くの棒きれを剣のように振り、リウスに鋒を向ける。)
スピカ:「次の主役も取りに行く。次も。次も。次も、次も、永遠に。」
リウス:「はい。永遠に魅せてください。スピカ先輩。」
間。(リウス、近くの棒きれを剣のように振り、スピカに鋒を向ける。)
リウス:「続きは──」
暗転。
明転。
(スピカとリウス、棒きれから剣に変わり、相手を斬らんと駆ける。)
スピカ:&リウス:「「次の舞台でッ!!!」」
(鍔迫り合う。)
暗転。
(剣が激しくぶつかり合う音が響き続ける。)
───────────────────────────────────────
END