[台本] ブラッディ・オンシジューム
登場人物
○朱染 紅(あけぞめ べに)
??歳、女性
戦闘センスが高く、“殺し殺し(ころしごろし)”と呼ばれる雇われの殺し屋の女性。
だが別に殺し屋である事を望んでない、彼女の本当の夢は“台本作家”だが、
台本作家としての才が無く、苦悩している。
殺し屋にされて、ある戦いで銃弾を頭に受けてから死ぬほど口が悪くなった。
○虚聞飛鳥馬華蔵閣 一(きょぶんあすまけぞうかく はじめ)
??歳、男性
“殺し殺し”を雇っており、彼女に衣食住を提供している人物。
いつも和服を身にまとっており、軽快に下駄を鳴らしながら歩く。
その発言は常に適当、だが何故か納得できてしまう言い分を必ずくっつけてくる。
○刀銘 霧色(とうめい きいろ)
25歳、??
シオンを買い飼っている、普段は中学校の教諭をやっている人物。
一に恨みを持っており、彼と“殺し殺し”を殺すべくシオンをけしかける。
妄想癖があり、“殺し殺し”を元恋人だと思い込んでいる。
○半 シオン(はした しおん)
15歳、女性
とある組織で殺し屋として育てられ、一と“殺し殺し”を殺す為に霧色に買われた。
戦闘能力において“殺し殺し”に迫る程の力と技術を持つ。
言動が少なく、感情も乏しい。
○殺し屋A
??歳、??
刀銘 霧色が兼任。
○殺し屋B
??歳、??
半 シオンが兼任。
朱染 紅 ♀:
虚聞飛鳥馬華蔵閣 一 ♂:
♠刀銘 霧色/殺し屋A 不問:
♦半 シオン/殺し屋B ♀:
↓これより下が台本本編です。
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♠霧色:“殺し殺し(ころしごろし)”。
どんな殺し屋も殺人鬼も、彼女に狙われてしまえば必ず殺される。
♦シオン:“殺し殺し(ころしごろし)”。
彼女は史上最強の殺し屋、史上最強の殺人鬼。
♠霧色:だが彼女はそんな物騒なモノに興味は無い、成りたかったワケではない。
故に──
♠霧色:元恋人のボクが救わねばであろうよ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~紅の家~
(紅、暗い部屋、椅子の上でヤンキー座りをしてPCに向かっている。)
紅:「『その二人は対峙し、剣の柄に手をかける。』」
一:「…………。」
紅:「『そして──』」
紅:「『キンキンキンキンキンキン!!!』」
一:「…………。」
(紅、エンターキーをッターン!とする。)
紅:「…………どうだ?」
一:「コメディ台本かね?」
紅:「ちげー!!アクションだ!!
今の描写の何処にコメディの要素があるってんだゴミ!!」
一:「はっはっはっ、馬鹿、ボケ、カス、塵、ダニ、ノミ、その次はゴミと来たか。
暴言の“えれくとりかるぱれぇど”だな。」
紅:「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
良いな!!オレも使お!!!!」
一:「やめたまえ、淑女がはしたないではないか。」
紅:「ああ~~~~~~~~~~~~~~~????
オメーがオレをこういう風にしたんだろうがよォ???」
一:「……まあ、それには一切の反論が出来ない故。」
紅:「クッソ~~~~~~~~~~~~~~!!
あの時のオレ!!許せねぇ~~~~~~~~~!!!」
紅:「そう、あれはオレがまだフツーの大学生をやってた時……」
一:「なんだ、回想に入るのか。」
◇
紅:学校から帰る途中、何気なしにいつもと違う道を通ってみたら、
死にかけのこのゴミが転がっていた……
一:「ぐ……」
紅:「だ……大丈夫ですか……!!
えっと……わ、私、絆創膏持って……ああ……!全然傷口の方が大きい……!!」
一:「わ……私の事は……気にしないでくれたまえ……
そ……それより……」
♦殺し屋B:「居たぞ!!」
(殺し屋A、Bが駆けてくる。)
紅:「え……ッ!」
一:「くっ!
君は、無関係だ!!逃げろ!早く!!!!!」
紅:「出来ません!!」
一:「はァ……!?」
紅:「私は傷ついている人を見過ごせる程、薄情になんかなれません!!」
一:「……!!」
(紅、殺し屋たちの前に立ちはだかる。)
♠殺し屋A:「な、なんだお前!!」
♦殺し屋B:「この男の仲間!?」
紅:「いいえ!初対面ですっ!」
♠殺し屋A:「だったらどけ。
我々はお前に用は無い。さっさと立ち去れ。」
紅:「いやです……!」
♦殺し屋B:「……だったらアンタも殺す。」
♠殺し屋A:「おい!一般人を殺すのはマズイだろ!!」
♦殺し屋B:「もう知られちまっている、どの道だ。」
紅:「……!」
(紅、持っていたカッターを構える。)
♦殺し屋B:「ほら……この子もカッターを構えてる……。」
♠殺し屋A:「……おい!悪いことは言わない!!
我々が用あるのはそこで死にかけている男、
虚聞飛鳥馬華蔵閣 一(きょぶんあすまけぞうかく はじめ)!!
お前とは無関係な世界の話だ!
だからさっさとどっかに──」
(紅、一瞬で殺し屋Bとの間合いを詰め、カッターで首を刺す。)
♦殺し屋B:「カッ……ヒュアッ……!?」
♠殺し屋A:「──……え……?」
一:「……ッ!?」
紅:「このまま……カッターを動かしたら、死にます……
動いたら殺します、喋っても殺します、敵意を向けても殺します。
持っているその銃を捨てる以外の行動は、敵意とみなします。
お願いします。退いてください。」
♠殺し屋A:「お……お前……何も──」
♦殺し屋B:「グエッ……」
(紅、殺し屋Bを殺す。)
♠殺し屋A:「えぇ……?」
紅:「言いましたよね?
“動いたら殺します、喋っても殺します、敵意を向けても殺します。
持っているその銃を捨てる以外の行動は、敵意とみなします。“
……って……アナタ……アナタのせいでこの人は死にました……。
アナタは……人殺しです……!」
♠殺し屋A:「え……は、はぁ……??」
紅:「許せませんッ!!」
(紅、殺し屋Aを刺し殺す。)
♠殺し屋A:「ぐああああッ!!!」
一:「……。」(唖然としている。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
紅:「あれからオメー……厄介事を持ってきやがって……
おまけにこの頭ン傷!!どう落とし前付けてくれンだァ!?!?」
一:「だからこうやって君の衣食住を面倒見ているのではないか。
脳天に銃弾を受けても死なないどころか、依頼を完了させたのは恐れ入ったよ。」
紅:「全部……全部全部オメーのせいだ!!」
一:「否否、確実に紅(べに)君には元より素質があったであろうよ。
殺人鬼の素質が、しかも多分に。
あれは私が唾を付けずとも、そのうちいつか、開花したであろうな。」
紅:「あああ~~~~~???
ンなワケねェだろう!!オレ程の平和主義者!!
早々いねェって!!」
一:「ハハハ、面白い面白い。」
紅:「それにだなァ~オレは別に殺し屋とかしたくねェんだわ。
オレは皆を笑顔にする台本作家になりてぇ。
だから早く良いモン書いて、こんなクソみてぇな世界からおさらばしなきゃだ。」
一:「……時に、何故(なにゆえ)、ベニ君は台本作家を志すのだ。」
紅:「…………感動したんだ。昔出会ったある作品に。」
一:「ほう。」
紅:「それは偶々適当に開いていたネットの配信で出会ったんだ。
“声劇”ってー遊びで使われていた台本。」
一:「声劇……?」
紅:「ネット上でやる舞台劇とでも思っておけ。
その台本の登場人物は、
解離性同一性障害を患っている絵本作家の女とその彼氏って感じの男で、
その絵本作家が本当に表情豊かで、けれどそれは傍から見たら痛々しくて仕方ねェんだ。
……まあ、最終的にその絵本作家は死んじまうんだけど、
その話を初めて聞いたオレは強い衝撃を覚えたんだ。」
一:「ほうほう、大分端折られたが、確かに面白そうだ。
……だが、君の書く話はどれも喜劇に思えるが、本当は悲劇が書きたいのか?」
紅:「いいや、ハッピーエンドが書きてぇ。
オレはその絵本作家が死ぬのが悲しくて悲しくて仕方がなくて、
今でも思い出すくらいには刻まれてんだ。
……けど、オレは未だにアレを払拭できる程の良い話が書けてねぇ……。」
一:「……ふむふむ、声劇というのは、アマチュア演劇の更にアマチュア版といったところか。
ベニ君はこういうモノで心動かされたのか。」
紅:「あ?悪ィかよ!?
ンだよ!?プロが作ったモノでしか感動しちゃいけねェのか?
素人が作ったモノは全部茶番でお遊びだって言いてぇクチか?
ブッ殺すぞ。」
一:「ハハハ、そんな狭量(きょうりょう)な感性では無いと自負しているつもりだ。
むしろベニ君がそう言った豊かな感受性があるとは思っていなかった故、
私の中の君という世界が広がったというだけの話だ。」
紅:「ブッ殺すぞ。」
一:「……しかし、だ。
であれば、その衝撃を払拭するのは別に台本で無くても良いのではないか。
君は殺し以外にも、絵、芝居、エトセトラエトセトラと、
他にも長けているモノがあるんじゃあないかね。」
紅:「ブッッッ殺すぞ!!!
じゃあ物書きでやっても良いだろうがカスゥ!!!!!!」
一:「ハハハ、それはそうだ。
いやはや、今日は君の神経を逆なでしてばかりだ。」
紅:「全くだ!
で、だ。
何の用だよハジメ。オメーがオレの所に来てする話題。
まだしてねェだろ。」
一:「ん、そういえばそうであったな。」
一:「閑話休題(かんわきゅうだい)。それはさておき。ともかく、だ。」
一:「“殺し殺し(ころしごろし)”、仕事だ。」
紅:「……。」
一:「ターゲットは、私たちを殺そうとこれから現れるヤツらだ。」
紅:「は?」
一:「さ、構えたまえ、“殺し殺し(ころしごろし)”。」
紅:「ッ!!」
(シオン、窓を割り入ってくる。)
♦シオン:「ッ」
(シオン、一を狙う。)
一:「おっと、私か。」
(シオンのナイフを一の刀が弾く。)
♦シオン:「……ッ
武器を携帯しているという情報は無かったのに。」
一:「ははは、偶々弟子の刀を拝借していて良かった。」
紅:「オメー弟子とかいんの!?カッケー!!」
一:「こらこら、言ってる場合ではなかろうよ。
敵が君の部屋に飛び込んできたのだぞ。」
紅:「ッ!!
おいガキ!!オレのPCに傷付けてみろ!!!
ブッ殺すかんな!!!!」
一:「そういう問題では無いのだがなぁ……」
♠霧色:「そう。だったらこの家ごと爆破しようかな。」
紅:「ッ!!」
一:「!」
♦シオン:割れた窓から爆弾が投げ込まれる。
そして瞬く間も無く炸裂し、爆破した。
(一、紅を抱えて家の外に退避している。)
一:「ふう、今のは流石に吃驚した。
ベニ君、大丈夫かね?」
紅:「あ…あ……あああ……!
オレの……オレのPCが……オレの書いた作品たちが……!!」
一:「……まあ、大丈夫そうで何よりだ。」
紅:「大丈夫なワケあるかボケ!!!!!!!」
一:「だから“くらうど保存”というのを勧めていたのに……」
紅:「ちくしょーーーーー!!!」
♦シオン:「隙有り……!」
(シオン、上から降ってきて一たちを攻撃する。)
一:「おっと。」
♦シオン:「……っ!」
一:「ベニ君……いや“殺し殺し(ころしごろし)”、好い加減に働き給え。」
紅:「……くっそ~~~~~~~~!!
お前を殺して焼肉を食う!!」
(紅、シオンに銃口を向ける。)
♦シオン:「……ッ!!」
紅:「ばーん!!」
(紅、発砲する。)
♦シオン:「──。」
紅:「ふぅ。(硝煙を吹き消す。)
しゃー終わりっ!ハジメ!焼肉連れてけ!!」
一:「まだだ。」
紅:「あ?」
♦シオン:「……。」
(シオン、歯で銃弾を白羽取りしている。)
紅:「あ~~~~~~~~~~~~~~~???」
一:「銃弾を歯で止めるとは、いやはや、人間離れが隣の以外にもいるとは。」
紅:「ハジメも大概だろ。」
♠霧色:「はははは、流石はベニちゃんだね。
簡単には死んでくれない。
そして“半(はした) シオン”ちゃんも。本当に良い買い物をしたよ。」
一:「……。」
(霧色、姿を現す。)
♠霧色:「やあ、ベニちゃん。
久しぶり♥」
♦シオン:「……。」
一:「なんだね、ベニ君の知り合いかね。」
紅:「あ?知らねェよ。」
♠霧色:「そんな……意地悪言わないでくれよ。
ほら、ボクだよ、刀銘 霧色(とうめい きいろ)だよ……!
ボクたち、あんなに愛し合った仲じゃないか。」
紅:「はぁあああ~~~~~~~~~~~~~~????」
一:「なんだね、元恋人かね。」
紅:「だから知らねェってェ!!!」
♠霧色:「………………そうか、全部そこのキョブンアスマうんたらかんたらとか言うヤツの所為なんだな……」
一:「んんん?」
♠霧色:「アンタが、彼女を殺しの世界に連れてきた所為で、
ベニちゃんがボクの事を忘れちゃったじゃないかッ!!
ハシタちゃん!!!やれッ!!!!!」
♦シオン:「了解。」
(シオン、一との間合いを詰め、攻撃する。)
一:「おっと、これは一撃で身体を真っ二つにされかねない切れ味、技術だ。
ベニ君、良い所の焼肉連れて行くから、迎え撃ってくれ。」
紅:「はいはい!死ね!高級焼肉ッ!!」
♦シオン:「遅いよ。」
(シオン、紅の懐に素早く入り込み、脇腹に膝蹴りをかます。)
紅:「なッ!!?ぐはッ!!!」
一:「なんと、ベニ君が初手で劣勢とは。」
♠霧色:「アハハハハハ!本当に凄いね!
これが、“バンデラ・アラニャ”が育てた殺し屋かぁ。
良い、良い仕事をする。」
一:「“バンデラ・アラニャ”……最近スペイン地区で噂のマフィアか。
して、何故(なにゆえ)、私だけでなく、“殺し殺し(ころしごろし)”の命まで狙う。」
♠霧色:「……アンタの所為でベニちゃんが汚れたからだろ……。
もう彼女は台本作家にはなれやしない……」
一:「っ!」
♠霧色:「だから、救わないと……
この世界から消す事で、殺す事で、彼女を救済するんだ……!!」
紅:「ああ!?何勝手な事言ってんだ!?
うわっと!!」
♦シオン:「よそ見してる場合じゃないよ。」
紅:「あああ~~~~だりぃ!だりぃ!だりぃ!!」
♠霧色:「ベニちゃんには申し訳ないけれど、
君じゃハシタちゃんには勝てないよ。」
紅:「ンだァ???テメェ?????」
♠霧色:「確かにベニちゃんの殺しのセンスは凄いと思うよ。
事実、いままで多くの凶悪な殺人鬼や凄腕の殺し屋を処してきた。
けれども、それでも、君は人殺しを楽しめていない。」
紅:「こんなの楽しめるワケねェだろダボがァ!!」
♠霧色:「だから彼女には勝てない!!
だってハシタちゃんは殺ししか知らないからね!!」
一:「……。」
♠霧色:「でも安心してくれベニちゃん……!
ボクは絶対に君の事を忘れないし、
君の死体は、ボクが責任持って全部食べるから……!!」
紅:「げ!!カニバリストかよ!!!」
♠霧色:「君はボクの血となり肉となり、一つとなるんだ……!
嗚呼……!君も嬉しいだろ……!?」
紅:「オメーの糞になって出てくるなんざゴメンだね!!!」
♠霧色:「……………………。
嗚呼……こんなに変わってしまって……
本当に、許せないよ……キョブンなんとかかんとか……!!」
一:「恨むならせめて名前を覚えといてもらえないかな。」
♠霧色:「アンタはボクが直々に殺してやるよ……!!」
一:「嗚呼、面倒千万(めんどうせんばん)な事に……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
紅:「クッソ!!全然弾当たんねぇ!!」
♦シオン:「銃口の方向をちゃんと見て、気を付ければ当たらない。」
紅:「フツーそんなんできねェもんなんだよッ!!
うらァ!!」
♦シオン:「ッ!」
紅:「オレの蹴りを軽々と避けやがった……!!」
♠霧色:『確かにベニちゃんの殺しのセンスは凄いと思うよ』
紅:「そんなん褒められても嬉しかねェよ……!」
♠霧色:『けれども、それでも、君は人殺しを楽しめていない。』
♠霧色:『ベニちゃんには申し訳ないけれど、
君じゃハシタちゃんには勝てないよ。』
紅:「……クソッ!楽しくねェんだから仕方ねェだろうがッ!!!」
♦シオン:「……。」
(シオン、武器を下ろし、動きを止める。)
♦シオン:「ねえ、“殺し殺し(ころしごろし)”。」
紅:「あ?」
♦シオン:「なんで楽しくないの。せっかく才能があるのに。」
紅:「ああ???殺しの何が──」
♦シオン:「違うよ。」
紅:「っ。」
♦シオン:「貴女を殺すにあたって、貴女の事を調べたの。
貴女はこの国で最高峰の絵画コンクールで最優秀賞を獲ってた。
貴女のお芝居は沢山の人の心に影響を与えていた。
貴女は殺す以外にも沢山の素敵なモノを持っている。」
紅:「……。」
♦シオン:「なのに、どれでも満足していない。嬉しそうじゃない。楽しそうじゃない。
どうしてなの。」
紅:「…………別に、絵も芝居も楽しくないワケじゃない。
それらで褒められて嬉しくないワケじゃない。」
間。
紅:「──けどな。
オレが一番大勢の人に影響を与えてェのはな……物書きでだ。」
♦シオン:「物書き……。」
紅:「それ以外の才が無駄だとか邪魔だとかは思ってねェよ。
けれどな、オレの心を強く、大きく動かしたのは絵でも芝居でも殺しでもねェ!!
声劇の台本だ!!!
だからオレはそれで満足する為に生きている!!!」
♦シオン:「……。
ずるい……アタシは……アタシは殺ししかないのに……
それで生きていくしかないのに……
貴女は恵まれてるのにワガママ言って……!」
紅:「人生は一度きりなんだからワガママ言って当然だろうが!!」
♦シオン:「ッ!!」
紅:「……だから……仕方ねェが……
オレがここで生き残り、最高で最強の、完全無欠のハッピーエンドを書き上げる為だ……
オメーの得意な舞台で踊ってやるよ。」
♦シオン:「……は……?」
紅:「楽しんでやるよって言ってんだよ口無し陰キャ。
オメーのそれしかないっていう“殺し”でさ……。
この血みどろの舞台で!
さあ!一緒に踊ろうぜェ!!」
(シオン、紅の発言に苛立ちを覚える。)
♦シオン:「……生意気……!」
紅:「言ってる場合か?」
♦シオン:「なッ!?」
♠霧色:一瞬たりとも彼女から目を離していなかった。
だのに、後ろから彼女の声が響く。
♦シオン:「あの一瞬で?!」
紅:「バーストォ!!!!」(射撃)
♦シオン:「くっ!舐めるなっ!!」
♠霧色:後ろに退く、否。逆に“殺し殺し(ころしごろし)”に向かっていく。
その方が彼女の攻撃を躱し、仕留めに行ける。
紅:「舐めちゃアいねェよ。」
♦シオン:「ぐあッ!!」
(シオン、蹴りを喰らう。)
紅:「分かっていたぜ?オメーが逃げず、向かってくる事。
オレの構え的に、隙だらけの腹を狙う事もよォ。
そこまで分かってたら俊敏なオメーにも、攻撃当てられるってェ事よォ!!」
♦シオン:「……くっ」
紅:「どうだよ、オレの足はよォ。効くだろ?
結構評判良いんだぜ?“良い足だ”ってな。」
♦シオン:「ぺっ……!(口の中の血を吐く。)
そんな事より、今のどういう事。」
紅:「あ?」
♦シオン:「どうやって一瞬でアタシの後ろを取ったの。」
紅:「…………。」
間。
紅:「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
♦シオン:「……!」
紅:「教えてやんねぇよッ!!」
♦シオン:「──ッ!!!!!!」
一:駆け出した“殺し殺し(ころしごろし)”。
一直線にシオンに向かってくる。
だのに。
♦シオン:「何!?なんなの……!?」
一:一切目を離していないのに視覚外から走ってくる。
再び視覚内に捉えても、再び視覚外に移動している。
♦シオン:「人間の動きじゃ、ない……!」
紅:「せっかく踊ってやってんだ。
ぼっ立ちじゃなくてせめてリズムくらい刻んでくれよ。」
♦シオン:「ッ!はあッ!!」(声の方へ攻撃する。)
紅:「そうそうそんな感じだ!!」
♦シオン:「はあッ!ふッ!!はッ!!はあああッ!!!」
(シオン、出鱈目に攻撃を繰り出す。が、どれも当たらない。)
紅:「アハハハハハハ!!!!楽しいぜ!楽しいぜ楽しいぜ“半(はした) シオン”!!!
オレの本気度60%に対応してくれてよォ!!!!!」
♦シオン:「本気度……60%……?!
そ、そんな……!」
紅:「ほらほらほらほら!もっと!もっと踊ろうぜェ!!!!!」
♦シオン:「くッ!!!!」
紅:「あら、後ろがマジにガラ空きだぜ?」
♦シオン:「────あっ」
紅:「おやすみ。ばーん。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♠霧色:「ハハハハハハ!!爆ぜろ爆ぜろ!!」
(霧色、爆弾をバラ撒きまくる。)
一:「いやはや、まさか私が戦う羽目になるとは。
しかもよりにもよって、こんな爆弾魔が相手とは。
もしや普段はテロリストでもやっているのかね。」
♠霧色:「ボクは中学校のセンセーをやっているよ~~~!!」
一:「ハハハ、生徒諸君らが可哀想で仕方が無い。」
♠霧色:「言ってる場合かなぁ!!」
(霧色、爆弾を投げる)
一:「ッ!!」
(一、自分の後ろに一般人がいる事に気づき、爆発を受ける。)
一:「……くっ……危ないではないか。
危うく、罪無き人々が理不尽に傷付く所であった。」
(一、一般人に向かい。)
一:「大丈夫かね。
……そうか、大丈夫であれば御の字だ。
さ、ここから離れなさい。ここは危険だ。」
(一、 一般人が去るのを見送り、霧色に向き直る。)
一:「……。
刀銘 霧色(とうめい きいろ)と言ったか。
貴様、わざとあの御人を狙ったな。」
♠霧色:「ああ、ボクにとってはどうだって良いモブだからね。」
一:「……そうか。であれば仕様が無い。
本来であれば“殺し殺し(ころしごろし)”に任せるつもりだったが、
私が切るしかない様だ。」
♠霧色:「君に出来るかな!?ばくはぁつッ!!」
一:「ッ!!」
(一、 自身の刀に爆弾がくっついているのに気付き投げ捨てる。)
一:「いやはや、危ない危ない。いつの間に私の刀に爆弾を……
はぁ、弟子に泣かれてしまうなぁ。」
♠霧色:「どのタイミングだと思う????
特別に可視化してあげるよ!!」
♦シオン:そう言うと、ハジメの周りに、無数の赤い光が点灯する。
一:「おやおや、私の周りにこんなに。
しかもこんな極小の爆弾が漂っているとは。」
♠霧色:「この子たちはアンタを自動追尾し、ある程度集まった時、爆弾は機能し、炸裂するッ!
ボクの最高傑作さ!」
一:「一介の中学校教諭とは思えんな。」
♠霧色:「言っとくけど、高校の科学教諭しているボクの同期はもっと凄いよ!!」
一:「貴様の話をしているんだがな。」
♠霧色:「アンタの為に開発したのさ。
掴みどころの無い、どんな攻撃も避けてしまう君の為にね!」
一:「それはそれは。私も人気者になったものだ。しかし。」
(一、霧色に急接近する。)
一:「────」
♠霧色:「なッ!一瞬で!!」
一:「まずは足だ。」
(霧色の足消失する。)
♠霧色:「な?!何が起きたんだ……?!
ボクの足が消えた?!」
一:「痛みは無いだろう?
私なりの優しさだ。」
♠霧色:「クソ!!どうやった!!!もう武器も無いのに!!!!」
一:「理解する必要は無い。ただ、曖昧に、消失していけば良い。」
紅:足。右腕。左腕。胴体。どんどんキイロの身体が消失していく。
♠霧色:「なんだ!!なんなんだ!!!!
何が起きている!!!!!!」
一:「貴様の今までも、これからも、もう曖昧で、何も無い。
さようなら。刀銘 霧色(とうめい きいろ)。」
♠霧色:「────……」
♦シオン:意識が途切れる最中(さなか)。ただ一つの執念がキイロを繋ぎ留めた。
♠霧色:「────ベニちゃんは、ボクのだ!!!!」
一:「ッ!!」
♠霧色:「炸裂しろ!!!」
一:「なッ!!!」
間。(無数の爆弾が爆破する。)
一:「ふうー……危ない。間一髪だ。
よもや自身ごと爆発しようとは……」
♠霧色:「はは……ははははははははははははははははははは!!!!」
一:「……なに?」
♠霧色:「なるほどなるほど!!幻術、催眠の類か!!
故の唐突感か!だがどのタイミングで掛かったんだ……?」
一:「何故あれほどの爆発を受けて生きている。」
♠霧色:「んー?自身の攻撃を自身が受ける想定をしないわけないだろ?」
一:「優秀だ。」
♠霧色:「どういう風に幻術を掛けられたかはまだ分からないが、
突破口は見つかった……!」
一:「ははは、面倒だ……。」
間。
一:「……“是非も無し”か。
私も少し、本気を出さねばかな。」
紅:「その必要は無いぜ。」
♠霧色:「ぐああ……!!!」
(霧色、紅に両肩を撃たれる。)
♠霧色:「ぐ……腕が動かない……肩を打ち抜かれた……か……!!」
一:「おや、もうそっちはカタがついたのかね。」
紅:「ああ、この通り。」
(紅、シオンを放り捨てる。)
♦シオン:「……。」
一:「うーん?まだ生きているではないか。」
紅:「何、気まぐれだ。」
間。
紅:「だが、コイツに気まぐれを起こす必要はねェよなァ。」
♠霧色:「べ……ベニちゃん……」
紅:「オレの名前を気安く呼ぶんじゃねェ気色悪いッ!!!」
(紅、霧色を蹴る。)
♠霧色:「ぐあッ!!」
♠霧色:「ひ……ひどい……元恋人にこんな仕打ち……」
紅:「オメーだって設定上の元恋人を殺そうとしてたじゃねェかよ。」
♠霧色:「全部、全部全部アンタが悪いんだ!!」
一:「はぁ……堂々巡りだ……」
♠霧色:「ボクは昔から君を見ていた……!君だけを見ていた……!!
ボクが教育実習で君が通っていた高校に来た時から!!
お淑やかで可愛くて!こんなボクにも優しくて!でも決して弱い訳では無い!まるで雀蘭の様な君……!」
紅:「は?急に何きめェ事語りだしてんだ?」
一:「はは~さては、此奴、ベニ君の“すとぉかぁ”で、妄想癖の持ち主なのだろう。
実は私の後輩にもこんなのが居たから、ちょっと懐かしさを覚えたぞ。」
紅:「うわ、尚の事殺さねェと。」
♠霧色:「ベニちゃん!!だったら一緒に死のう!!
もう殺しを知ってしまったら!こんな世界じゃ!
台本作家になんかなれないよ!!!
だから死んで、やり直そう!!!!!」
間。
♠霧色:「な……何故爆発しない……?」
一:「君の爆弾なら全て処理したよ。」
♠霧色:「な……!?なぁ……!!?!?!?」
紅:「ナマ言ってんじゃねェぞ。
オレは死なねェ。
死んでオレのこの感動を忘れて新しく生きて、それで良い話を書いたところで、オレはぜってェ満足出来ねェ。
オレはオレとして生きて、傑作を作るんだ……!」
一:「……。」
紅:「あー後、テメーがオレの人生を誰かの所為にすんじゃねェ。
自分の人生が外れた事を誰かの所為にして良いのは自分だけだ。
自分の責任で誰かに責任転嫁する、それ以外は認めねェ。」
一:「ははは、君は面白い事を言う。
そも、人の所為にしないようにしたまえよ。」
紅:「っるっせー!!
んじゃ、そろそろ……
すぅ~~~~……
オレはテメーの妄想のお姫様じゃアねェんだ!!一人で死ね!!!」
♠霧色:「ベニちゃ──」
(霧色、脳天を撃ち抜かれて絶命する。)
紅:「……よしっ、おーわりっ。」
一:「お疲れ様。」
紅:「ハージメっ、焼肉行こーぜー」
一:「否否、ここの処理をせねばならない故。
申し訳ないが、焼肉はまた今度だ。」
紅:「ちぇー」
一:「で、その子はどうするんだね?」
♦シオン:「…………。」
紅:「んー?そりゃア決まってンだろ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一:そして、後日
♦シオン:「それで……あ、アタシも、焼肉の席に座ってて……良いのか、な……」
紅:「あ?オレが良いって言ったんだから良いだろ。
良いよな?」
一:「構わないとも。」
紅:「さ、食え。全部ハジメの奢りだから、破産させちまおう。」
♦シオン:「え……え……」
紅:「そして、これから殺し以外の事を知れ。」
♦シオン:「え……?」
紅:「ハジメ。教えてやれ。」
一:「ベニ君の頼みだ。相分かった。
ハシタくん。君は今日から私の弟子だ。」
♦シオン:「え?え?え?」
紅:「お前、オレの事ずるいって言ったろ?
あれ、フツーにイラついたらから、お前も色々と知れ。
そしてオレに謝れ。」
♦シオン:「……。」
紅:「まずは、焼肉はうめェって事を知れ!な!」
♦シオン:「……うん!」
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END