[台本]企鵝 すずらんの思い出荷造り
〇九地 壱佳(くぢ いちか)
24歳、男性
卑屈でやさぐれた青年。
普段から斜に構えた発言が多く、ニヒリスト。
高校生の時に自身の性格が災いして虐められていた過去があり、
卑屈さに磨きが掛かっている。が、根底は善人のゲーム好き。
擬似的に高校生の姿になる。
〇企鵝 すずらん(きが すずらん)
24歳、女性
高校生時代に壱佳、透里と仲が良かった現在無職。
将来の夢がヒーローだった明朗快活な性格で声がでかい……風を装っている。
表向きの明るく素直な性格とは裏腹に自身の事に関しては秘密主義で、あまり話したがらない。
とある事を悔やみ続けている。
擬似的に高校生の姿になる。
〇藍薔薇 透里(あいばら とおり)
24歳、男性
探偵をしている壱佳の昔馴染みの友人でゲーム仲間。
いつも飄々としていて掴めない人間で適当な人物。
それでも人を助ける事を善しとし、友人たちの幸福を切に願っている。
擬似的に高校生の姿になる。
男性の声と兼ね役。
〇燦 イトコ(きらめく いとこ)
年齢不詳、女性
透里の探偵事務所に所属している謎の女性。
博識で知らない事が無いが、それを鼻にかけることは無く、マイペースな口調で話す。
普段は瀟洒で知的だが、時折快楽主義者的一面が顔を出すいたずらっ子。
透里をサポートする為に様々な埒外異端技術を提供している。
擬似的に高校生の姿(?)になる。
女性の声と兼ね役。
九地 壱佳♂:
企鵝 すずらん♀:
♠藍薔薇 透里/男性の声♂:
♦燦 イトコ/女性の声♀:
※それぞれのマーク(♠、♦)を追うとやりやすいかもです。
↓これより下が台本本編です。
───────────────────────────────────────
~病院の個室~
(すずらん、ベッドでスマホを眺めている。)
すずらん:「…………。」
間。
すずらん:……え……?
間。
すずらん:私たちの母校が廃校になる……?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
壱佳:高校生時代、良い思い出はあまり無い。俺は虐められていた。
それは偏に相手だけが悪いという話ではない。
性格が悪く、社交性の低い自分自身にも悪かった部分があったのは、大人になった今なら分かる。
間。
壱佳:「それでも、嫌なもんは嫌だ。」
間。
(壱佳、ゲームに没頭している。)
壱佳:「……。よしっ、B坂クリア……!……くっ……ちっ……!今のは味方のカバー必須だろ!!
ちゃんとしろよ!!!
……ああ!?!?」
♦女性の声:『“前に出過ぎ”』
『“引くことを覚えろカス”』
壱佳:「──だぁ!?!?!?
お前らがキル全然取れてねぇからだろうが!!!!!!」
♦女性の声:『“頑張って”』
壱佳:「──じゃねぇんだよコノヤロー!オメェも頑張んだよ!」
間。
壱佳:「っだぁ~~~~~~~~イライラするー!!」
♠透里:『壱佳(いちか)ーお疲れー』
壱佳:「お、藍薔薇(あいばら)!待ってたぜー!
聞いてくれよ!マジさっきの試合、味方が全員ふざけててさ~~~~」
♠透里:『はいはい、いつものな。
お前もお前でよくそんな精神テンションでFPS続けられるよなァ。』
壱佳:「確かに毎度毎度、ムカつく事は多い。
だが敵をぶちのめす痛快さ……勝利した時の快感……だからFPS辞められない……!」
♠透里:『快感よりも不快感ゲージの方が溜まってそうだけどなァ。』
壱佳:「でもFPS辞められないんだけどな!
ま、それにアイバラが来たなら百人力だ!
お前の探偵ヂカラで完璧な索敵してくれよな!」
♠透里:『別にオレの職業関係無ェだろ……
ま、やるからには全力だけどよォ』
壱佳:「よし!ランク潜るか!!」
♠透里:『おう。』
壱佳:「お、このステージか。
……ん?
このステージにスナいらなくない???いらねぇよなーアイバラー!」
♠透里:『スナイパー持ってんのオレなんだけど。』
壱佳:「……。」
間。
壱佳:「お前の探偵ヂカラ&スナスコで完璧な索敵してくれよな!」
♠透里:『任せろ。』
◇
壱佳:「──っよし!勝った~~~~!!
やっぱアイバラが居ると安定するな!!」
♠透里:『ははは。でもお前は引くことを覚えろ。』
壱佳:「あれー?」
♠透里:『あ、そういやさー』
壱佳:「んー?」
♠透里:『オレらが通ってた高校、廃校になるってさ。』
間。
壱佳:「あそう。」
♠透里:『冷てェ反応だなァ。』
壱佳:「当然……って訳でも無いかもしれんけど……
俺にとってはどうでもいい。」
間。
壱佳:「あんな所、サッサと無くなっちまえ。」
♠透里:『……。』
(透里側の通話から遠くから声がする。)
♦イトコ:『アイバラ所長~』
♠透里:『んー?』
壱佳:「え?女の声?もしかして……お前の……?」
♠透里:『ちげェよ。オレの部下だ。』
壱佳:「え?仕事場でゲームしてんの?」
♠透里:『探偵事務所兼オレの家だからな。』
♦イトコ:『アイバラ所長~お仕事の依頼ですよ~』(遠くから)
♠透里:『わーったー!』(イトコに向けて。)
(透里、壱佳に向けて。)
♠透里:『そういうこったァ。
わりィけど、今日はここまでだ。』
壱佳:「こんな夜更けに仕事とはご苦労様だ事。
了解。」
♠透里:『じゃあなー』
壱佳:「おー」
間。(通話切れる。)
壱佳:「……はぁー……」
間。
壱佳:三年間通っていた場所が無くなる。
あんな良い思い出が少ない場所、無くなってしまえば良いと本気で思っている。
間。
壱佳:「ふあぁ……
…………元気かな……アイツ。」
間。
壱佳:……だが、それでも悪いだけの思い出じゃなかった。
すずらん:『イチカくん!!』
壱佳:「…………寝るか。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~回想~
(高校時代、放課後、教室の窓を眺めている壱佳と透里とすずらん。)
すずらん:「私の夢はね!正義のヒーローなの!」
(すずらん、ポーズを取る。)
壱佳:「…………。」(呆れている。)
♠透里:「イイじゃーん。」
すずらん:「へへへ~!」
壱佳:「おいアイバラ、あんま企鵝(きが)を甘やかすなよ。」
すずらん:「甘やかすって何さー!」
♠透里:「オレぁマジにイイって思ってるぜ?」
すずらん:「ありがとう透里(とおり)くん!」
壱佳:「で?正義のヒーローって何すんの?」
すずらん:「そりゃあ勿論人助け!」
壱佳:「具体的には?」
すずらん:「人助けに具体性なんて要る?」
壱佳:「どーやって助けんの?」
すずらん:「困ってる人が居たらその人の下へ駆けつけて、困ってる事を解決する!」
壱佳:「具体性無ェ~~
もっとこうさあ~“パワーでなんとかします!”とか、“金の力で!”とか、“科学の力ってすげー!”って感じになんか無いのかよ~」
すずらん:「ええ~~~~~仕方なくなーい???
私はどんな人のどんな困り事も助けたいんだもん!」
壱佳:「人間一人に出来る事なんて高が知れているだろ。」
すずらん:「でも……」
♠透里:「だったら仲間を作れば良いじゃん。
一人で出来ない事なら二人、二人で出来ない事なら三人、五人、十人~ってさ。」
すずらん:「イイネ!それ素敵!」
壱佳:「アイバラに乗っかってるだけだし。」
♠透里:「すずが思いつかん事、出来ない事をオレたちがやる、それで良いだろ。」
すずらん:「トオリくん!!!」
壱佳:「……たち、って俺もか?!」
すずらん:「え、イチカくんはやんないの!?」
壱佳:「やらん!」
すずらん:「そんな~~~~」
壱佳:「俺は他人を助けるなんてアガペー的行動など出来ん!
まあ?俺に助けを乞うと言うのなら?
……銭ですよ~~~~!ジェニを積んでもらわんとですな~~~~~!!」
すずらん:「イチカくんの意地悪!」
壱佳:「意地悪で結構!」
すずらん:「イチカくんが困っても助けてあげないもんだ!べーっだ!!」
壱佳:「俺が困る時にお前みたいな小娘の助けでなんとかなるわけないだろ!べろべろべ~~~~だっ!!!」
すずらん:「キッ!」
壱佳:「お?なんだ?やるのか?言っとくが俺は蔵にあった古文書を読んで我流剣術が使えるぞ!
剣道の試合では勝てないけど実戦なら竹刀使っても剣道の達人ボコボコにできるぞ????
実戦に反則はないからなぁ!!!」
すずらん:「デカ定規ふりまわさないでよ!」
♠透里:「古文書なら流派あるだろ。読んで覚えたンなら我流じゃねェだろ。」
すずらん:「イチカくんはすーぐ虚勢張るんだから。」
壱佳:「虚勢じゃねーし。」
すずらん:「そんな虚勢張りなイチカくんは──」
壱佳:「虚勢じゃねぇし!!」
すずらん:「特別に、さっきの発言を撤回して──」
(すずらん、くるっと回って手を後ろに組みながら微笑む。)
すずらん:「困った時は助けてあげます!」
壱佳:「…………。」(呆気にとられる。)
♠透里:「ふふ……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~壱佳の部屋~
(壱佳、目を覚ます。)
壱佳:「…………んぁ……?」
間。
壱佳:「……やべ……椅子に座ったまんま寝ちまった……
身体痛ェ……」
(壱佳、立ち上がる。)
壱佳:「ふあああ……朝飯朝飯……」
♦イトコ:「朝飯朝飯とか言ってますけどもう夕方ですよ。」
壱佳:「うっせーなー細かいこたぁどうでも良いんだよ……」
♦イトコ:「冷蔵庫の中何もありませんでしたよ。」
壱佳:「うわ……そうだったわー……」
間。
壱佳:「……ん?」
(壱佳、振り向く。)
♦イトコ:「どうもどうも~」
壱佳:「だ……誰。」
♦イトコ:「“我わ──”……わたくし、燦 イトコ(きらめく いとこ)と申します。
以後お見知りおきを。」
壱佳:「え?なんか声聞いた事ある気がしたけれど、マジで全然知らない人なんだけど……」
♦イトコ:「ええ、わたくしたち、初対面ですからね。」
壱佳:「…………警察呼びます。」
♦イトコ:「貴方の携帯はこちらですよ。」
(イトコ、壱佳のスマホをつまみ上げる。)
壱佳:「なっ!?」
♦イトコ:「九地(くぢ)サマで遊ぶのはここまでにしておきますかね。
本題に入ります。」
壱佳:「ほ、本題?」
♦イトコ:「実は、わたくしはある方の依頼で貴方を──」
すずらん:「イチカくん!!!」
(すずらん、突然何処からともなく現れる。)
壱佳:「うっうわぁあああ!つ、次は誰!?」
すずらん:「イチカくん!!私だよ!私!!」
♦イトコ:「あ、依頼主サマ。」
壱佳:「私私詐欺は間に合って──……キガ……?」
すずらん:「えへへ……そうだよ、イチカくん。
……久しぶり……。」
壱佳:「お、おう……。」
すずらん:「……。」
壱佳:「……。」
♦イトコ:「朋友との久々の再会で何から話せば良いか分からず、気恥ずかしかったり気まずかったりで無言になってしまっている所申し訳ないのですが。」
壱佳:「きききき気恥ずかしいとか思ってねぇし!!!!
キガ!お前一体何処から出てきた!てかいままで何で連絡寄越してくれなかったんだよ!俺は──」
♦イトコ:「まぁまぁ!これでは話が進まない。
故に、僭越ながらわたくしが進行させて頂きます。」
すずらん:「お願いしますっ!」
♦イトコ:「クヂさんはこれから、貴方たちの母校に向かっていただきます。」
壱佳:「ぼ、母校ってまさか……」
♦イトコ:「お察しの通り、貴方たちが通っていた高校です。」
壱佳:「嫌なんだけど。」
♦イトコ:「そこで懐かしき学友たちと会いましょう。」
壱佳:「嫌なんだけど!!!」
♦イトコ:「それが今回の依頼主、企鵝(きが) すずらんさんの要望です。」
壱佳:「…………キガの……?」
すずらん:「……。」
壱佳:「何を企んでやがる。」
すずらん:「ただの思い出作りだよ。
それと、“思い出荷造り”、かな。」
壱佳:「思い出、荷造り……?
どういうことだ?」
♦イトコ:「言葉で説明したとて理解は難しいと思います。
故に、目的地に向かいましょう。」
壱佳:「嫌だ!思い出作りだろうが“思い出荷造り”だろうが、奴らと会うなんて真っ平御免こうむる!!
キガ!お前俺が高校でどんな目に遭ったか知らねぇのか!?」
すずらん:「……。」(困った様な悲しい様な顔をする。)
壱佳:「──あっ…………チッ!とにかく!俺は──」
♦イトコ:「時間の無駄ですので。」
(イトコ、壱佳の顔面をノーモーションでぶん殴る。)
壱佳:「ぶべらぁーーーーッ!!!!」
♦イトコ:「眠っていただきます。」
すずらん:「イチカくん?!?!」
壱佳:何が起きたか分からない。一瞬の強烈な痛みの後、俺は気を失った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
壱佳:「…………──────あれ……俺……」
♠透里:「お、目が覚めたか。」
壱佳:「アイバラ……?
なんでお前が俺の部屋に……」
♠透里:「お前の部屋?
よく周りを見ろよ。」
壱佳:「……?
…………学校の、教室……?」
♠透里:「ああ。お前、説明受けてないのか?」
壱佳:「…………。」
(壱佳、気絶する前の事を思い出す。)
壱佳:「あ~~~~~!!!!!
アイバラ!俺!拉致られたんだ!!!」
♦イトコ:「それはそれは、物騒ですね。」
壱佳:「(声にならない悲鳴)」
♦イトコ:「どうもどうも~。」
壱佳:「あッ、アイバラ!!たッ助けてくれ!!!」
♠透里:「おーおー縋るな縋るな。
キラメクゥ~お前またなんかやったのか。」
♦イトコ:「そんなそんな。
クヂサマあんまりにも話を聞かないので鉄の拳が乗ったマッハなパンチを発動しただけですよ。」
♠透里:「威力1.2倍かァ。
イチカ、痛いところは無ェか?」
壱佳:「え?いや……無いな……」
♠透里:「じゃア、良いか。」
壱佳:「て、てかお前とこの女、どういう関係なんだよ。
なんか親しげだけど……」
♠透里:「んー?ウチの従業員。」
壱佳:「えっ」
♦イトコ:「以後お見知りおきを~」
壱佳:「じゃ、じゃあ、お前ら……グルって事……?」
♠透里:「悪意のある言い方だが、まあ、そうだな。」
♦イトコ:「ですね。」
(すずらん、教室の中に入る。)
すずらん:「トオリくん、イチカくん起きた?」
壱佳:「キガ!」
♠透里:「おーちょうどさっきなァ。」
♦イトコ:「アイバラ所長。全員集まった事ですし、始めますか?」
壱佳:「全員?たった3人?」
♦イトコ:「一応わたくしを含めて4人ですね。」
♠透里:「ああ。残念ながら、他のヤツらは連れてこられなかった。
だから3人だ。」
♦イトコ:「あらあら、所長ってばいけず。」
壱佳:「……ほっ」
♦イトコ:「では、依頼主サマ。貴女のタイミングで始めますので、合図をよろしくお願いします。」
すずらん:「分かりました……!」
壱佳:「おいキガ!なんの説明も無しに始めんのかよ!
てか俺は参加するなんて一言も──」
すずらん:「“思い出荷造り”!開始!」
壱佳:キガの合図と同時に、強烈な光が放たれ、思わず目を瞑る。
間。
壱佳:そして、目を開くと、視界の景色は一変していた。
間。(4人、高校生の姿になる。)
壱佳:「な、なんだ……?
さっきまで真っ暗だったのに、昼になった……?」
♠透里:「おいおい、それだけかよォ。」
(壱佳、透里の方を向く。)
壱佳:「え?
……えぇ????」
♦イトコ:「さあ、今思った事を端的に口にしてくださいませ。」
壱佳:「アイバラ……高校生の時の姿になってる……?」
♦イトコ:「とりあえず成功です。」
♠透里:「だな。
ほらよ、鏡。」
壱佳:「わっ!か、鏡投げんなよ!
……えぇ????俺も????」
すずらん:「そう、私たち。あの時の姿に戻ったんだよ。」
壱佳:「え……えぇええええええええええええ!?!?」
♦イトコ:「まあ、厳密には違うんですけどね。」
♠透里:「ただその時の姿……というよりは記憶を投影しているだけだ。
要はプロジェクションマッピングみてェなモンだな。」
壱佳:「えぇ……?言ってる事はなんとなく分からなんでも無いけど……
これ、どうやってんだ……?え?どういう科学力?現代の科学力を凌駕してないか……?」
♠透里:「……あァ~一般だとそんなモンだったか。」
♦イトコ:「所長の発明力、科学が進んだ並行世界とかでも埒外異端技術に手を伸ばしてますよ。」
♠透里:「ンな事言われてもなァ~」
壱佳:「へぇええ……?」
♠透里:「まァ、その話は置いといて、
ちゃんとした説明頼むぜ、すず。」
すずらん:「はい!」
(すずらん、高校生時代の様に元気に返事をする。)
壱佳:「声でか。」
すずらん:「私たちはこれから学校探索をします!
その過程で思い出を振り返ります!」
壱佳:「……はぁ?
それってただの思い出作りじゃん。“思い出荷造り”ってなん──」
すずらん:「まずはプール!」
壱佳:「っていきなりプール?!
こういうのって始業式とかから振り返らない?!」
♠透里:「すずがそうしたいって言ってんだからいーじゃねェか。
ほら、行くぞ。」
壱佳:「アイバラはこの状況に動じなさすぎだろ。
……あれ?いつの間に水泳バッグ持ったんだ?」
♠透里:「ほら、お前の分。」
壱佳:「おう……え?説明無し?」
♠透里:「さっきお前が言った通り、オレらもグルなんだ。
準備くらいしてるさ。」
壱佳:「……それもそうか。」
♦イトコ:「さーさー“クヂくん”も行きましょー」
間。(すずらんと透里とイトコ、去る。)
壱佳:「自然な流れで混ざってるけどキラメクさんも同級生みたいになってんのちょっと恐怖だかんな。」
(壱佳、3人を追いかける。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~プール~
(すずらんとイトコ、プールで遊んでる。)
すずらん:「きゃっきゃ!」
♦イトコ:「ウフフー」
すずらん:「水ばしゃーん!」
♦イトコ:「水鉄砲ぴゅっぴゅー」
すずらん:「ビートバンアターック!」
♦イトコ:「それ当たったら結構かなり痛いんですからね。」
間。(壱佳と透里、2人を遠くから眺めてる。)
壱佳:「……。」
♠透里:「……。」
壱佳:「……なんか、良いな。」
♠透里:「スケベだなァ。」
壱佳:「それもあるけど。」
間。
壱佳:「キガがプールに入ってるの、初めて見たかも。
……というか、体育に参加してるの自体。」
♠透里:「……そうだな。」
間。
♠透里:「故に、思い出“荷造り”、なんだろうな。」
壱佳:「え?」
♠透里:「荷造りってよォ。引越しの前とか旅行の前にすんだろ。
その際、昔買った本とかゲームとかに触れる機会が生まれるよな。」
壱佳:「……おう。」
♠透里:「それでさ、ぱらぱらっと読み始めたり、ちょっと起動してみたりしてさ。」
♦イトコ:「それでついついしっかり読んでしまったり、熱中してしまったりと、夢中になってしまう事、ありますよね。」
♠透里:「キラメク。もう良いのか。」
♦イトコ:「ええ。“すずらんちゃん”が50m平泳ぎに挑戦し始めたので休憩をば。」
♠透里:「そうか。」
壱佳:「……水飛沫上げずにあんな泳げるもんなのか?」
♦イトコ:「失礼、話の続きを。」
♠透里:「おう。
……で、そうやって過去に触れていると、当時には出来なかった事が出来たり、理解出来ていなかった事が理解出来たりするだろ。」
壱佳:「…………だから、“荷造り”。」
♦イトコ:「とは言え、今言った部分は貴方たちにとっては微妙かもしれませんがね。」
壱佳:「……。」
♠透里:「依頼主は、すずだからな。
主体はアイツだ。」
♦イトコ:「すずらんちゃんの場合、所謂“積みゲー”や“積み本”と言った方が正しそうですね。
買ったは良いけれど、やらなかった読まなかった……いいえ、やれなかった読めなかった。」
壱佳:「……。」(必死に泳ぐすずらんを眺めている。)
♠透里:「なァ、イチカ。」
壱佳:「ん。」
♠透里:「どうする。」
壱佳:「……。」
(すずらん、遠くから。)
すずらん:「イチカくーん!トオリくーん!イトコちゃーん!
私!50m!泳ぎ切ったよー!!」
壱佳:「どうするも何も無いだろ。
そういう事ならそう言えば良いだろ。
……たく、回りくどい。」
♠透里:「はは、それは同感だ。」
(壱佳、自分の頬をパシンと叩く。)
壱佳:「よーし!キガ!次はバタフライで泳げ!!」
(すずらん、遠くから。)
すずらん:「ば、ばたふらい?!どうやるの!?」
壱佳:「わかんねーのか!?じゃあ俺が見本見せちゃる!!」
(壱佳、プールサイドを走る。)
♦イトコ:「そこープールサイド走らないでくださーい。」
壱佳:「とぅ!」
(壱佳、プールに飛び込む。)
すずらん:「きゃっ!」
♦イトコ:「飛び込まないでくださーい。危険ですからー。」
♠透里:「…………ホント、回りくどいよなァ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~廊下~
壱佳:「バッッッッッッッッッッッチクソに疲れた……!」
すずらん:「あはは!いっぱい遊んだもんねー」
壱佳:「いや……なんかそういうんじゃなくて……
……あ……あれだ……見た目は若いけど、別に若返ってるわけじゃないから普通に体力とか元のまんまなんだ……」
すずらん:「言ったって24歳とかでしょ?
そんなに致命的に体力落ちたりするかな?」
壱佳:「高校時代の俺と今の俺の体力と筋力差舐めんなよ。
逆にキガが無尽蔵過ぎんだよ。全然疲れてねぇじゃん。」
すずらん:「えーへへー……」
壱佳:「……てか、アイバラとキラメクさんは?」
すずらん:「え?そういえば……」
♦女性の声:『キガちゃん。』
すずらん:「え?」
壱佳:「今の声、どこから?」
♦女性の声:『キガちゃんとクヂくんって仲良いよねぇ~』
すずらん:「……これ……もしかして、あの時の……」
間。
壱佳:“あの時の”。
俺にも朧げながら記憶にある。
この廊下でキガと駄弁っていたら同じクラスの女子だか別のクラスの女子だかに突然絡まれた覚えがある。
♦女性の声:『2人って付き合ってるの?』
壱佳:そうだ。そんな感じの、よくあるヤツだ。
それに対してキガは──
すずらん:「え…………えっと……つ、付き合ったりとか全然無いよ!」
壱佳:あの時と同じ返し。
厳密にはちょっと違って、言葉に詰まらずに即答していたが。
♦女性の声:『あ~だよね~クヂくんって性格終わってるからちょっと心配してたんだよねー』
壱佳:「っ。」
壱佳:思い出した。
そういう流れだった。あの女子は突然俺の事を貶してきたんだ。
正直カチンと来ていたが、俺の性格が終わっているのは事実なので、俺は黙っていた。
すずらん:「そんな事無いよ!!!!!!!!」
壱佳:「っ!き、キガ……?」
すずらん:「イチカくんはひねくれてるし意地悪だけど、本当は優しいもん!
学校休みがちな私に対しても普通に接してくれて──」
壱佳:なんだ?何が起きている?
あの時、キガはこんな風に否定したりしなかった。
俺と一緒に黙って、その女子が去るのを、予鈴が鳴るの待っていた。
すずらん:「イチカくんは……悪い人なんかじゃ……うっう……」
(すずらん、泣き出す。)
壱佳:「き、キガ?!どうしたんだよ急に!!」
(イトコとなんかボロボロの透里、2人の下に駆けつける。)
♦イトコ:「あーいたいたー」
♠透里:「イチカ!すず!やっと見つけたァ。」
壱佳:「キラメクさん!アイバラ!……なんでお前ボロボロなの?」
♠透里:「まあ、色々とな。で、お前ら何処に…………どうしたんだ?」
壱佳:「そ、それが……」
♦イトコ:「記憶の再演に会いましたか。」
壱佳:「記憶の再演?」
♦イトコ:「所長が言ったでしょう。今のわたくしたちの姿は“記憶を投影”している、と。
この学校そのものと、わたくし……はともかく、貴方たちの記憶を再演する事で成り立っている空間なのです。」
壱佳:「すまん。ちゃんとさっぱり分からん。」
♠透里:「場所と人物に関連した“思い出が投影”されるんだ。
……だから、この場所と、イチカとすずにとって印象深い思い出がリプレイされたんだろうよ。」
壱佳:「……印象深いって……この廊下だったら、同級生のキノサキが背中刺された時の方が印象強いんだけど。」
♠透里:「ンなこともあったな。
……てェ事は、すずにとって、って事だろうな。」
壱佳:「キガの……」
すずらん:「うっうっ……」
壱佳:「そんな泣くなよ。実際に今言われた事でも無いし、てか泣きたいのは貶された俺だし……」
すずらん:「イチカくん……ごめんね……その場ですぐに否定出来なくて……」
壱佳:「……えー……あー……何、ずっとこの事を気に病んでたって事?」
すずらん:「だって……イチカくんは本当に優しい人なのに……咄嗟に言えなくて……」
壱佳:「こんなん気にする事でも無いのに……」
間。
壱佳:「……ま。ありがとな……。」
間。
♠透里:「……。」
♦イトコ:「……ここは一旦落着ですかね。」
♠透里:「そうだな。」
♦イトコ:「で、なんで所長はそんなにボロボロなんです?わたくしと合流する前に一体?」
♠透里:「ちょっと“記憶の再演”で言い合い……あの時出来なかった喧嘩を改めてしただけだ。」
♦イトコ:「滅茶苦茶気になるんですけど。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~教室~
壱佳:「落ち着いたか?」
すずらん:「うん……ごめんね……」
壱佳:「…………なあ、その記憶のなんたらってどうにかなんないの?」
♠透里:「無理だな。
そもそも、すず自身のご要望でな。」
壱佳:「キガが?」
すずらん:「……。」
♦イトコ:「依頼主サマであるすずらんちゃんの荷造りが主目的ですからねぇ。
彼女の心残りを晴らしたい、といった所でしょうか。」
すずらん:「…………巻き込むなって思う……?」
壱佳:「……。」
間。
壱佳:「思うに決まってるだろ。」
すずらん:「……。」
壱佳:「……が、それはそれだ。
もう巻き込まれた。だから付き合ってやる。」
すずらん:「えへへ……ありがとう。」
♠透里:「さァて、趣旨は大体分かったワケだし。
すず。次はどうする?
同級生全員は叶わなかったが、俺ら2人──」
♦イトコ:「わたくしも数に入れてくださいませ。」
♠透里:「出来る限りの事はやるぜ。」
すずらん:「皆……。」
♠透里:「そもそもそういう仕事だしな。」
♦イトコ:「さ、すずらんちゃん。次はどちらへ。」
壱佳:次に行ったのは運動場だった。
体育祭を経験してみたかったらしい。
♦イトコ:4人しか居ないので、4人で徒競走をやったり、2チームに分かれて玉入れしたり。
すずらんちゃんは楽しそうだった。
♠透里:次に行ったのは家庭科室。
4人班で調理実習をした。
すずらん:記憶の再演で、イチカくんが色んな人に怒られていた。
間。
壱佳:そうやって思い出を旅する。
懐かしい事もあれば、新しい事もあった。
間。
壱佳:高校生時代、良い思い出はあまり無い。俺は虐められていた。
それは偏に相手だけが悪いという話ではない。
性格が悪く、社交性の低い自分自身にも悪かった部分があったのは、大人になった今なら分かる。
間。
壱佳:「本当にな。」
すずらん:「?
どうしたの?」
壱佳:「いや?ただ……俺、同学年の奴ら嫌いだったけど、そんなに悪い奴らじゃなかったなって思っただけ。」
すずらん:「そっか。」
♠透里:「まア、大人になったから言える事だろうがな。」
♦イトコ:「今のわたくし達にとっては些事に思えても、当時の貴方たちにとってはそうではなかった。
その感覚は、蔑ろにしないであげてください。」
壱佳:「そんな大切な話じゃねぇよ。」
♦イトコ:「大切ですよ。
居るのですよね。過去の自分の想いを嘲る人。
大切にしてあげてください?その時の気持ちや……ああ。それこそ、その時の“将来の夢”とか。」
壱佳:「将来の夢……。」
♦イトコ:「どうです?クヂくん。当時の夢は叶いましたか?」
壱佳:「うっせ。」
♠透里:「オレはなんだかんだ叶ったな。」
すずらん:「確かに!トオリくん昔から探偵さんになりたいって言ってたもんね!」
壱佳:「今の状況はどう考えても探偵の域を超えてるけどな……」
♦イトコ:「して、すずらんちゃんの夢は──」
すずらん:『私の夢はね!正義のヒーローなの!』
間。
すずらん:「え?」
壱佳:「ははは、そういやそうだったな。」
♠透里:「変わらないな。」
すずらん:「わ、私何も言ってないよ!」
壱佳:「え?」
間。
♠透里:「つー事は。」
壱佳:『…………。』(呆れている。)
♠透里:『イイじゃーん。』
すずらん:『へへへ~!』
♦イトコ:「“記憶の再演”の声、ですね。」
壱佳:『おいアイバラ、あんま企鵝(きが)を甘やかすなよ。』
すずらん:『甘やかすって何さー!』
♠透里:『オレぁマジにイイって思ってるぜ?』
すずらん:『ありがとうトオリくん!』
壱佳:「なんか……自分の声を三人称視点で聞くのキツいな。」
♠透里:「そうか?慣れりゃどうってことなくなるぜ。」
壱佳:「あーアイバラは職業柄自分の声の入った録音とかもよく聞いてそうだわ……」
♦イトコ:「でも同じ空間で同じ声がするのは結構混乱しますね。」
壱佳:『で?正義のヒーローって何すんの?』
すずらん:『そりゃあ勿論人助け!』
壱佳:『具体的には?』
すずらん:『人助けに具体性なんて要る?』
壱佳:『どーやって助けんの?』
すずらん:『困ってる人が居たらその人の下へ駆けつけて、困ってる事を解決する!』
壱佳:『具体性無ェ~~
もっとこうさあ~“パワーでなんとかします!”とか、“金の力で!”とか、“科学の力ってすげー!”って感じになんか無いのかよ~』
すずらん:『ええ~~~~~仕方なくなーい???
私はどんな人のどんな困り事も助けたいんだもん!』
壱佳:『人間一人に出来る事なんて高が知れているだろ。』
すずらん:『でも……』
♦イトコ:「うわ、クヂくん意地悪ですねぇ。」
♠透里:「こればかりは……なァ……」
壱佳:「うぅ……。」
すずらん:「……。」
間。
すずらん:「でも、イチカくんが言う事は正しいって思う。」
壱佳:「……キガ?」
すずらん:「“どうやって”っていう具体性も無く、行動にも起こせないのに、口だけは一丁前で……」
壱佳:「キガ、どうしたんだよ。」
♠透里:『だったら仲間を作れば良いじゃん。
一人で出来ない事なら二人、二人で出来ない事なら三人、五人、十人~ってさ。』
すずらん:『イイネ!それ素敵!』
壱佳:『アイバラに乗っかってるだけだし。』
♠透里:『すずが思いつかん事、出来ない事をオレたちがやる、それで良いだろ。』
すずらん:『トオリくん!!!』
すずらん:「そうやって人任せで自分では何も考えないで……あの時も今も……」
壱佳:「……。」
間。
壱佳:「今のキガの、将来の夢は何だ。」
すずらん:「……え?」
♠透里:「……。」
すずらん:「将来の夢って……もう24だし……」
壱佳:「まだ24だろうが。
将来を諦めるにはまだまだ早い。」
間。
壱佳:「俺は。」
間。
壱佳:「漫画家を目指してる。」
すずらん:「え。」
壱佳:「そうだ、あの時と同じだ。
今も目指してる。
……そりゃ、まあ……諦めてた時期はあるけど……
それでも、改めて、志している。」
間。
すずらん:「私は……」
間。
すずらん:「正義のヒーローになりたい……」
間。
すずらん:「イチカくんを笑顔に出来る、そんな人に……なりたかったの……。」
♠透里:「……。」
すずらん:「イチカくんが困った時に助けに行きたかった……。」
♦イトコ:「……。」
すずらん:「それが……ずっと心残りで……」
壱佳:「……。」
壱佳:キガが“正義のヒーロー”になりたいと言った日。困った俺を助けると言った日。
その次の日からキガは学校に来なくなった。いや、来れなくなった。
元々身体が強かったワケでは無いが、更に悪化し、二年の梅雨の時期から、ついに卒業まで学校に来ることは無かった。
壱佳:「……。」
壱佳:俺が虐められ始めたのはその後からだった。
今思えば、キガが居なくなって、荒れていたのだと思う。
当時は、今でこそ仲良くしてくれているアイバラに対しても酷い態度を取っていた。
壱佳:「……。」(チラっと透里の方を見る。)
♠透里:「ん。
……気にすんな。過ぎた事だ。」
壱佳:ナチュラルに思考を読むなよ探偵。
すずらん:「……でも、私の夢は──」
壱佳:「叶えさせてやるよ。」
(壱佳、すずらんの腕を掴もうとする。)
すずらん:「え?」
(すずらん、避ける。)
壱佳:「…………なんで手を掴もうとしたら逃げる。」
すずらん:「え、えっと……。」
壱佳:「……まあ、良いけど。とにかく、着いてこい。」
すずらん:「う、うん……。」
壱佳:「あ!アイバラとキラメクさんは来んなよ!!」
♦イトコ:「え~~~」
♠透里:「あいよ。」
壱佳:「よし、行くぞ。」
すずらん:「……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~校舎裏~
壱佳:「ここら辺……だったよな。」
すずらん:「ここは……校舎裏?」
♠男性の声:『おいクヂィ。』
♦女性の声:『お前ふざけんなよ。』
すずらん:「え?」
壱佳:「そら来た!」
壱佳:二年の秋。
自身の性格が災いし過ぎてクラスの半数の反感を買い、
校舎裏で囲まれた事があった。
理由は……あえて語るまい。
♠男性の声:『俺たちを悪者にした漫画なんか描きやがって!!』
♦女性の声:『しかもそれを文化祭の展示に出すってどういう頭してんの?!』
すずらん:「えぇ?」
壱佳:「……。」
♠男性の声:『許さねぇからな!』
♦女性の声:『“クラスの女子は全員俺のオンナ”ってどんな気持ちで書いてんの!?』
すずらん:「普通にドン引きなんだけど……」
壱佳:「スゥーーーーーーーーーーーーー……」
壱佳:昔の俺。最低過ぎる。
壱佳:「そっ、それはともかく!大勢で囲んでタコ殴りにするのは卑怯だと思うなぁ~~~~~~!!
たっ!助けて~~~~~~~~~~~~!!!!」
すずらん:「……え?」
壱佳:「誰か~~~~~~~~~!!!正義のヒーロー助けて~~~~~~~~~~~~~!!!!」
すずらん:「……。」
(すずらん、ポーズを取る。)
すずらん:「イチカくんの所業が悪過ぎるのはともかく!
寄って集ってっていうのは良くないよね!
イチカくんはイチカくんでちゃんと謝ってもらうとして!
弱い者いじめ!正義のヒーローは見逃さないよ!トゥ!」
♠透里:当時出来なかった事を成し遂げる。
別に過去が変わるわけではない。ただ後出しで言い訳しているに過ぎない。
それは、虚しい事かもしれない。
♦イトコ:それでも、少しでも気が晴れるのであれば、きっと無意味ではない。
◇
すずらん:「ふぅー……」
壱佳:「助けてくれてありがとう~!正義のヒーロー!」
すずらん:「……ちゃんと皆には謝ったんだよね?」
間。
すずらん:「黙らないでくれる?」
(透里とイトコ、現れる。)
♠透里:「大丈夫だ。先生とかにもこっぴどく怒られたし、ちゃアんと謝罪行脚したぜ。」
♦イトコ:「先生方が怒るタイミング、遅いと思いますけどね。
せめて文化祭で展示する前とか、確認の段階で……」
♠透里:「別に漫画研究会とかのアレで展示したんじゃなくて勝手にばら撒いてたぜ。」
♦イトコ:「…………苛められて当然では?」
♠透里:「だからと言って虐めを許容してイイ理由にはなンねェからなー」
♦イトコ:「それはそうですけどねぇ。限度というものが。」
壱佳:「わーってるよ!ちゃんと反省してるって!!」
すずらん:「あははは!」
♠透里:「……ふふ、気ィ晴れたか。」
すずらん:「……うん。ありがとうトオリくん。」
♦イトコ:「時間的にも、そろそろ終わりです。
どうします?」
すずらん:「……じゃあ、卒業式、やりたいな。」
♠透里:「良いぜ。」
♦イトコ:「“思い出荷造り”の締めくくりには良いかもですね。」
壱佳:「だったらよ。」
(壱佳、すずらんに再び手を伸ばす。)
すずらん:「あ──」
♦イトコ:九地 壱佳(くぢ いちか)が企鵝(きが) すずらんに向かって突然手を伸ばす。
しかし、その手は、彼女に触れる事は無く、彼女を貫通する。
壱佳:「直接会ってやろうぜ。」
♠透里:「……。」
♦イトコ:「……。」
すずらん:「イチカくん……いつから気付いて……」
壱佳:「キガに実体が無い事か?
そりゃついさっきだ。キラメクさんとは普通に触れ合ってるのに、俺には触らせない。
最初はただただ嫌われてるだけかと思った。」
すずらん:「……。」
壱佳:「けど、よく考えたらお前の体力無尽蔵だしなんか変だなって思ったんだよ。
最初は、身体良くなったんだーって思った……いや、思おうとした。」
すずらん:「……イチカくん。」
壱佳:「だから、今から会いに行くわ。」
すずらん:「え?」
壱佳:「頼めるよな?アイバラ?」
♠透里:「おう。」
♦イトコ:「では、記憶の投影を終了させますか。」
すずらん:「え、ちょ、まっ──」
(すずらん、消える。)
♦イトコ:記憶の投影を終了させると同時に、昼の明かりが夜闇へと変わり、わたくしたちの姿は戻り、投影されていた彼女の姿が消える。
♠透里:「今は…………4時か。
すずの居る病院に着く頃には9時って所か。」
壱佳:「え゛。そんなに掛かんの?」
♦イトコ:「そんなに掛かります。故にさっさと向かいますか。」
壱佳:「おう。アイバラ!道案内頼むぞ!」
♠透里:「了解。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~病室~
すずらん:数時間後。
(壱佳、ノックする。)
壱佳:「キガ。入るぞ。」
間。
壱佳:「…………久しぶりだな。」
間。
壱佳:「なんであんな回りくどい事やってたかって理由、一応アイバラから道中で聞いてたけど、実際に見てちゃんと理解した。」
間。
♠透里:すずの病状は、悪化する一方だった。
今では、自力で呼吸する事がままならず、声を出すことも叶わない状況だった。
壱佳:「…………そういや、卒業式をやるって話だったな。
奇遇だな。実は俺も卒業式出なかったんだよ。
だから、一緒にやろうぜ。卒業式。」
すずらん:「……。」(頷く。)
壱佳:「じゃあ、早速卒業証書授与からやるか。ん?すっとばしすぎ?うっせ……コホン。
卒業証書。キガ すずらん殿。
あなたは…………そうだな……“思い出荷造り”をやり遂げた事を証する。」
すずらん:「……。」
壱佳:「……あー……こういう時に気の利いた事言えたらカッコイイ校長だよなー……
あ、てか定番の奴があるわ。」
間。
壱佳:「……今のキガの、将来の夢は何だ。」
♦イトコ:彼女はペンを取り、メモ帳に文字を書く。
すずらん:『クヂ イチカさんのお嫁さん。』
壱佳:「…………急だな。てっきり正義のヒーローって言うのかと思ったわ……。」
すずらん:「……。」(首を振る。)
壱佳:「急じゃない?じゃあ俺の何処が好きなんだよ。
滅茶苦茶性格の悪い俺サマの、さっ。」
♠透里:茶化すように言葉を連ねるイチカ。
動揺と不安。それを表に出さない様に。
すずらん:「……。」(サラサラと文字を認める。)
壱佳:「…………。」
すずらん:「……。」(筆を止め、メモ帳を壱佳に見せる。)
すずらん:『性格がひん曲がってる所も好き。
けれど優しい所も大好き。
私なんかと仲良くしてくれたのが嬉しかった。
私のことを避けずに、面倒くさがらずに一緒に居てくれてありがとう。
私が入院する事になってから、何度も面会しようとしてくれたり、
お見舞いの手紙やメールを送ってくれて嬉しかった。ありがとう。』
壱佳:「……へ、返事くれなかったけどな……!
ま、まあ、理由は不問としてやる。」
すずらん:「……。」(困ったような微笑む。)
(すずらん、ペンを取る。)
すずらん:『私の状況を知られて、イチカくんの対応とか変わったら嫌だなって思ったから。
でも、杞憂だった。
今、私に会って、いつも通りに接してくれて、嬉しい。』
壱佳:「……。
まぁな。俺性格悪いから。
お前なんかに同情とかしてやんねー。」
すずらん:「……。」(微笑む。)
壱佳:「…………。
これで、心残りは完全に無くなった感じか。」
間。
すずらん:『うん。本当は卒業式の日に告白したかったの。』
壱佳:「なるほどな……。」
間。
壱佳:「言っとくが、俺は性格悪い。」
すずらん:『知ってる。』
壱佳:「全然亭主関白するからな。」
間。
壱佳:「それは流石に時代錯誤だけど……
……そんなんでも良いか。」
すずらん:「……!」(微笑みながら頷く。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~病院廊下~
♦イトコ:「一件落着ですね。」
♠透里:「ああ。」
♦イトコ:「わざわざわたくしたちに言わなくても良いですけども、
最終目標はあれだったのですね。乙女ですねぇ。」
♠透里:「まア、そういうモンだろ。」
♦イトコ:「……あの2人、幸せになれるでしょうか。」
♠透里:「大丈夫だ。医者が言うにはすずの症状も好調の兆しが見えているらしい。
そもそも、そういう事が無くてもアイツらなら大丈夫だ。」
♦イトコ:「そうですか。そうである事を祈ります。」
間。
♠透里:「ふあぁ……
とりあえず、帰るか。オレたちの仕事は終わりだ。」
♦イトコ:「了解です。お疲れ様です。」
間。
♦イトコ:「所長がボロボロになった件、語ってくれません?」
♠透里:「秘密。」
───────────────────────────────────────
END