[台本]アタシは魔法少女を辞められない
一年前、魔法少女たちは世界を救った。
だがその代償は大きく、残った魔法少女は一人だけだった。
彼女はあの時から変わらず、散っていった仲間たちが守りたかった町を、世界を、守り続けている。
これは、魔法少女を”辞められなかった”少女たち、残った魔族たち、守った町・世界。
”残された”側の物語。
登場人物
○朱間宮 椛(あかまみや もみじ)/死神系魔王少女アンゴル★モア
17歳、女性
普段は普通の女子高生で、裏では魔法少女。
おとなしい性格で消極的だが、正義感は人一倍強い。
が、魔法少女を辞めたいと思っている。
大鎌を携えた紅の魔法少女。
○カリオストロ伯爵/ジュゼちゃん
年齢不詳、男性
稀代の詐欺師であり錬金術師であり変装の名手であり吸血鬼……だったドッペルゲンガー。
異端である不死者でありながら、表社会でも顔が広い。
妙に傲慢で上からな印象な物言いが多いが、根はとても良いヤツで仲間に対して情に厚い。
……が、色々あってアンゴル★モアのお供的小動物(コウモリ)“ジュゼちゃん”になる。
ジュゼちゃんの語尾は「~じゅぜ!」
○黛 光沙(まゆずみ ありさ)
17歳、女性
闇落ちした魔法少女。
元々は三人組の魔法少女の黄色担当だったが、
一年前に他の二人が死に、すべてが終わった後、姿を消してしまった。
無数の短剣を魔力で操る黄の魔法少女。
○ヴァスタ
年齢不詳、男性
カリオストロをジュゼちゃんに変身させた張本人。
所謂“神様”的存在だが、非常にひねくれ者で皮肉屋。
かつては光沙や椛たちと敵対し、世界を滅ぼしかけた。
○女魔族
年齢不詳、雌
場面毎に違う魔族。
光沙と兼ね役。
○男魔族
年齢不詳、雄
場面毎に違う魔族。
ヴァスタと兼ね役。
♥朱間宮 椛/死神系魔王少女アンゴル★モア ♀:
♠カリオストロ伯爵/ジュゼちゃん ♂:
♦黛 光沙/女魔族 ♀:
♣ヴァスタ/男魔族 ♂:
※それぞれのマーク(♥、♠、♦、♣)を追うとやりやすいかもです。
↓これより下が台本本編です。
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~町中~
(カリオストロ、誰かから逃げている。)
♠カリオストロ:「ハァ……ッ!ハァ……ッ!ハァ……ッ!ハァ……ッ!」
♠カリオストロ:何故僕が逃げている!
何故僕が顔を歪めている!
何故僕が劣勢を強いられているッ!!
♠カリオストロ:「ハァ……ッ!ハァ……ッ!
クソッ!クソッ!クソォ!!
この僕がァ!!!」
(ヴァスタ、カリオストロの右腕を指差す。その瞬間、カリオストロの右腕が千切れ飛ぶ。)
♠カリオストロ:「……なっ──」
♣ヴァスタ:「ほう、右腕を千切り飛ばしたのに悲鳴の一つもあげないか。
じゃあ次は左。」
(カリオストロの左腕、千切れ飛ぶ。)
♠カリオストロ:「ぐああああ!!!
なッ!なんだ!!?さ、再生しないだとォ!?
不死身の僕の身体がァ!!」
♣ヴァスタ:「うんうん♪
その反応が欲しかった。
なんだ、悲鳴をあげなかったんじゃなくて、あげる暇が無かったんだ。
次、両足~」
(カリオストロの両足が急に千切れ飛び、その場で倒れる。)
♠カリオストロ:「ぐああッ!!が……あ……?あああ???」
♠カリオストロ:(なッ!なんだ!?何が起きている!?
ま、まさか……僕はここで死ぬのかッ!?)
♣ヴァスタ:「大丈夫、殺しはしないよ。
ま、不死身なのに殺されるってのも変な話だけどね。」
間。
♣ヴァスタ:「さて、交渉だ。終わりの先を識りたがる“不死身伯爵”の設立者。
吸血鬼……いや、元・吸血鬼。カリオストロ伯爵。
とは言え、答えはYESだけなんだけどね。」
♠カリオストロ:「……ッ!!」
♣ヴァスタ:「君はこれから──」
◇
♣ヴァスタ:「……ふぅー……これで、準備はOKかな……
……後は椛(もみじ)、君が頑張るんだよ。」
(ヴァスタ、遠くを見据える。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♦光沙:今から一年前。
私たち魔法少女は闇の軍勢に敗北した。
魔法少女のエリとリオも、光の精霊たちも殺されてしまった。
残ったのは私と途中から入ってきた員数外だったモミジ。
♥モア:「──ッ」
♦光沙:それでも、彼女は、モミジは諦めていなかった。
♥モア:「アタシは……この世界を守る……ッ!!」
♣ヴァスタ:「吠えるじゃないかモア。
いいや……モアの模倣品!!
模倣品の分際で“終焉の魔王”の力を振るうなんて不遜だねェ!!」
♥モア:「魔王だとか魔法少女だとか関係ない!
アタシが何者であろうと!アタシはアナタを止める!!」
♣ヴァスタ:「……チッ!モアと同じ顔で……モアを否定した世界を守るなどと……
不愉快だァ!!!!」
♥モア:「きゃあっ!!」
♦光沙:「モミジ!!」
♣ヴァスタ:「…………。」
♥モア:「う……く……っ!」
♦光沙:「モミジ!もう辞めよう……!
アンタじゃアイツにかないっこないよ!!」
♥モア:「嫌だっ!!!」
♣ヴァスタ:「──ッ」
♥モア:「諦めるもんか……辞めるもんか……負けるもんかッ!!」
♦光沙:「──ッ」
♥モア:「アタシは彼女と……“モア”さんと約束したんだ……!この世界を守ると……!!
はぁあああああッ!!」
(モア、大鎌でヴァスタに斬りかかる。)
♣ヴァスタ:「……。」
♦光沙:「モミジ……。」
♥モア:「アナタが言った通り……!
この世界は造りもので、偽物なのかもしれない……!!
けれど!アタシたちが笑って!泣いて!怒って!
生きてきた時間は造りものじゃない!偽物じゃない!!」
♦光沙:「……!」
♣ヴァスタ:「……ッ!!」
♥モア:「『─”死神は告げる、終焉の始まりを(デッドカウンター・スタート)─”ッ!!』」
♣ヴァスタ:「何ッ!!?」
♥モア:「この世界はッ!!“アタシたちの世界”だッ!!!!!!!
はああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
♣ヴァスタ:「ぐああああああああああああああああああああああッ!!!」
間。
♦光沙:こうして、モミジは世界を救った……。
……そして──
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♥椛:時は経ち、現在。
(モア、建物の上から町を見下ろしている。)
♥モア:「……。」
間。
♥モア:「見つけた。」
間。
♦女魔族:「キェーキェッキェッキェッキェッ!!!
こんな真夜中に闊歩しているバッドボーイは私様の良いエサねぇ~~~!!!」
♥モア:「チョコレートとかの方が美味しいと思うけど。」
♦女魔族:「ッ!!」
(古の女幹部の様な女魔族、後ろを振り向く。モア、暗がりから姿を表す。)
♦女魔族:「げげッ!!?“死神系魔王少女アンゴル★モア”!!」
♥モア:「こんばんは。」
♦女魔族:「わ、私様はまだ何も──」
♥モア:「嘘。」
♦女魔族:「──ッ」
♥モア:「そこのコンビニに居た人たちの精気を奪ってきたでしょ。」
♦女魔族:「そッ、そんな事は──」
♥モア:「『─”死神は告げる、終焉の始まりを(デッドカウンター・スタート)”─』。」
♦女魔族:「まッ、待て!!悪かった!だから──」
♥モア:「『─“判決・断頭刑(エグゼキュシオン・ギロチン)”─』。」
♦女魔族:「────あッ」
(古の女幹部の様な女魔族、目にも止まらぬ速さで首を刈り取られる。)
♥モア:「……ふぅ……吸われた精気は戻っていってるみたいだし、ここはもう大丈夫。
12件……今日はこれで終わり……かな。」
♦光沙:彼女は未だに魔法少女として、この町を守り続けていた。
♥モア:「……あーあ。」
間。
♥モア:魔法少女辞めたいなぁ……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~朱間宮の家~
♥椛:「ただいまー……
……ふふ……返事は来ないのになー……」
♠ジュゼちゃん:「お……おかえりなのだ……」
間。
♥椛:「……え?」
♠ジュゼちゃん:「……。」
間。
♥椛:「あなた……誰?」
♠ジュゼちゃん:「僕は……カ……カ……カァ~~~~??????」
♥椛:「……か?」
♠カリオストロ:(なんだ!?僕の名前を言えない!!!何故だ!?!?)
♠ジュゼちゃん:「カ……!!ぎぐえぇッ!!!
ボクハジュゼダジュゼ!!!」
♥椛:「じゅぜ?」
♠カリオストロ:(口が勝手にッ!!!クソッ!!!これで通せということかッ!!!)
♠ジュゼちゃん:「そ、そう!ボクはジュゼだじゅぜ!!よろしくじゅぜ~~!!!」
♠カリオストロ:(語尾じゅぜってなんなのだッ!!?さっき普通だっただろうがッ!!!!)
♥椛:「それで……ジュゼ……ちゃんは」
♠ジュゼちゃん:「ジュゼちゃん!?」
♥椛:「アタシに何の用?」
♠ジュゼちゃん:「あっ」
♥椛:「ん?」
♠ジュゼちゃん:「そ……それが……」
♥椛:「……。」
♠ジュゼちゃん:「よく分からないじゅぜ……」
♥椛:「えぇ?」
♠ジュゼちゃん:「気が付いたら、ここに居たじゅぜ……」
♥椛:「…………そっか。」
♠ジュゼちゃん:「……。」
♥椛:「じゃあ色々と説明しないとね。」
♠ジュゼちゃん:「た、たすかるジュゼ。」
♥椛:「けど、ごめんね。今日はもう疲れたから、明日でも良い?」
♠ジュゼちゃん:「構わないじゅぜ!」
♥椛:「ありがとう。」
間。(椛、ジュゼちゃんを優しく持つ。)
♠ジュゼちゃん:「じゅっ!じゅぜ!?」
間。(椛、ジュゼちゃんを部屋の一角に移す。)
♥椛:「ジュゼちゃん、とりあえず今日はここで寝てね。」
♠ジュゼちゃん:「ぼ、ボクのサイズに合ったベッド……
何故こんなものがあるじゅぜ?」
♥椛:「……。」
間。
♥椛:「それ、前の子のなの。」
♠ジュゼちゃん:「前の子?」
♥椛:「うん。そういうのも、明日起きたら話すから。」
間。(椛、あくびをする。)
♥椛:「だから……おやすみ……。」
♠ジュゼちゃん:「あ!ちょっ!シャワーくらい浴びた方が……」
間。
♠ジュゼちゃん:「…………もう寝たじゅぜ?」
間。
♠ジュゼちゃん:「……スゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……
作戦開始だじゅぜ……!」(小声)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~回想~
♣ヴァスタ:『さて、交渉だ。終わりの先を識りたがる“不死身伯爵”の設立者。
吸血鬼……いや、元・吸血鬼。カリオストロ伯爵。
とは言え、答えはYESだけなんだけどね。』
♠カリオストロ:『……ッ!!』
♣ヴァスタ:『君はこれから……』
♠カリオストロ:『ごくり……』
♣ヴァスタ:『とある魔法少女のサポートをして欲しい。』
♠カリオストロ:『“魔法少女”というシステム自体、僕は嫌悪している……だのに“それ”のサポートとは……
それに、僕は、元とは言え吸血鬼。そうであっても不死者として世界の裏側に居着く者。
彼女たちが排除する対象である“魔の者”に属していると自認しているが?』
♣ヴァスタ:『ああ、そうだね。
だから……』
♠カリオストロ:『ッ!!!なッなんだッ!!?身体がッ!?!?』
♠ジュゼちゃん:『ちッ、小さくなった!?』
♣ヴァスタ:『…………ブッ!!!!!!!!』
♠ジュゼちゃん:『なんだ!?』
♣ヴァスタ:『ブワッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!!!』
♠ジュゼちゃん:『なッ!何を笑っている!!!!』
♣ヴァスタ:『アーハッハッハッハッハッ!!!!!
ほら、鏡!クククッ!!!』
(ヴァスタ、ジュゼちゃんに鏡を渡す。)
♠ジュゼちゃん:『な……なんだこの姿は!!!!!!
なんで僕がこんなぷりちーに!?!?
こうもりか!?この姿こうもりなのか!?!?!?』
♣ヴァスタ:『ギャ~~~~~~~ハッハッハッハッハッハ~~~~~~~~ッ!!!!!』
♠ジュゼちゃん:『ええい!!笑うな笑うな!!!』
♣ヴァスタ:『ギハハハハッ!!!!
あ~笑った笑った……とにかくよろしく頼むよ。』
♠ジュゼちゃん:『なんでも良い!!魔法少女のサポートとやらをしてやる!!
具体的な最終目標はなんなのだ!!!』
♣ヴァスタ:『最終目標は“現在この町を渦巻く災厄の兆しを摘み、世界を救う事”だ。』
♠ジュゼちゃん:『…………この町にも……か。』
♣ヴァスタ:『そういう事、じゃ、よろしく。』
♠ジュゼちゃん:『……相分かった。』
♣ヴァスタ:『ああ、元に戻る方法はもう一つあるよ。
それはターゲットの子の力を奪い、魔法少女を辞めさせる事。』
♠ジュゼちゃん:『え。』
(ジュゼちゃんの足元に穴が開き、落ちていく。)
♣ヴァスタ:『魔法少女の所まで直通、開けといたよ。』
♠ジュゼちゃん:『は!?何!?あ!あああ!?なッ!何故落下形式なのだァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』
♣ヴァスタ:『……さ、作戦開始だ。』
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~翌朝~
(ジュゼちゃん、すやすやで寝言を言う。)
♠ジュゼちゃん:「作戦……開始じゅぜ……作戦開始じゅぜ……」
♥椛:「ジュゼちゃん、ジュゼちゃん。」
♠ジュゼちゃん:「……ん……じゅ……じゅぜ……?」
♥椛:「おはようジュゼちゃん。」
♠ジュゼちゃん:「んあ……?」
間。
♠ジュゼちゃん:「もう、朝じゅぜ……?」
♥椛:「もう朝じゅぜ。(優しく微笑する。)
ぐっすりだったね。」
♠ジュゼちゃん:「じゅ……じゅぜ~~~~……!!」
♥椛:「おはよう。」
♠ジュゼちゃん:「おはようじゅぜ……」
♥椛:「朝ごはん出来てるよ。一緒に食べよ。」
♠ジュゼちゃん:「……。」
間。
~朱間宮家、一階~
(椛とジュゼちゃん、朝食のパンとハムと目玉焼き、サラダ、コーンスープを食べている。)
♠ジュゼちゃん:「……ボクのサイズに合った食器…………」
♥椛:「おいしい?」
♠ジュゼちゃん:「おいしいじゅぜ。
……時に、君の父上や母上はどうしたじゅぜ?」
♥椛:「居ないよ。」
♠ジュゼちゃん:「ぁ……」
♥椛:「さて、何から話そうか。
……あ、そうだ。まだアタシ、自己紹介してなかったね。」
(椛、ナイフとフォークを置く。)
♥椛:「アタシは朱間宮 椛(あかまみや もみじ)。
一応、魔法少女みたいな事をやってる。
……自分で言っても変な事言ってるなぁっていつも思うけれど、分かってくれる、よね?」
♠ジュゼちゃん:「うむ、じゅぜ。
魔法少女。“魔の者”を滅する為に、可能性の塊たる若き少女たちを寄り代とし、
少女自身の可能性を力として顕現させた“擬似的な光の救世主”じゅぜな。
その存在は“表”の世界では秘匿され、“裏”で重宝されているじゅぜ。」
♥椛:「……。」
♠ジュゼちゃん:「……“大宇宙”を消費せず、個人の“小宇宙”のみを燃やす、
だのにその“熱量”は……ああ、君たち風に言うと“魔力”は、
“瞬間的”とは言え、大宇宙の“魔力”さえも凌駕する……」
一拍、間を置く。
♠ジュゼちゃん:「実に、“効率の良い”システムじゅぜ……。」(皮肉気味に)
♥椛:「…………詳しいね。」
♠ジュゼちゃん:「え?これくらいは流石のジュゼでも知ってるじゅぜ。」
♥椛:「そっか。それは色々と助かるよ。
じゃあ、何が分からないの?」
♠ジュゼちゃん:「……ボクは使命を帯び、君の……モミジの前に現れたじゅぜ。
その使命とは、“現在この町を渦巻く災厄の兆しを摘み、世界を救う事”だじゅぜ。」
♥椛:「……。」
♠ジュゼちゃん:「……けれど、この町の“裏側”は安定している、と感じているんだじゅぜ。
モミジは、何か知っているじゅぜ?」
♥椛:「…………もう、終わったよ。」
♠ジュゼちゃん:「終わった?」
♥椛:「うん。一年前に“災厄の華”が開花したんだけど、それはもうアタシたち魔法少女が摘み取って解決したの。」
♠ジュゼちゃん:「な…………」
♥椛:「今はちょっとやりすぎてる魔族を退治しているくらいかな。」
♠ジュゼちゃん:「な、なにィ!?
で、ではボクは一体何をすれば良いじゅぜ!?!?」
♥椛:「んー……夜のパトロール?」
♠ジュゼちゃん:「なぁ……ッ!!!!」
間。
♠ジュゼちゃん:「は!ま、待つじゅぜ!
じゃあ何故モミジは未だに魔法少女をやっているじゅぜ!?」
♥椛:「……まあ、色々とね。」
♠ジュゼちゃん:「……色々とは何だじゅぜ。」
♥椛:「んー……説明がややこしいんだよねー……」
間。
♥椛:「あ、もう時間だ。アタシそろそろ学校に行くから、また後でね。」
♠ジュゼちゃん:「あ!ちょ!待つじゅぜ!ちゃんと説明するじゅぜ!!」
♥椛:「詳しくは夜にパトロールしながらねー!」
(椛、去る。)
♠ジュゼちゃん:「……行ってしまったじゅぜ。
…………ふむ、ボクはどうすれば良いじゅぜ……?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~昼、町中~
♣男魔族:「私は昼間でも力が減衰しない強い魔族!
憎き魔法少女、“死神系魔王少女アンゴル★モア”が活動していない時間帯に暴れてやるぜ!
クッフッフッフ……これって……」
(なんか目が綺麗な男魔族、両腕をバッと上げる。)
♣男魔族:「嗚呼!私の勝ちだ!
“最強”の戦跡、ここに刻──────────」
間。
♣男魔族:「──む??」
(なんか目が綺麗な男魔族、腰の辺りから真っ二つにされ、上半身が後ろに倒れる。)
♣男魔族:「な!何があった~~~!?何故私が真っ二つに~~~~!?!?
ま!まさか!アンゴル★モアが!?」
♦光沙:「アンゴル……モア……?」
♣男魔族:「ッ!!」
♦光沙:「今……アンゴル☆モアって言った……?」
♣男魔族:「な……!?アンゴル★モア以外の魔法少女……だと!?」
♦光沙:「ああ……まだ居るんだ……」
♣男魔族:「ひ!ひぃ!お!お助けを……!!」
一拍、間を置く。
(なんか目が綺麗な男魔族、消える。)
♦光沙:「アンゴル☆モア……モミジ……まだ魔法少女続けていたんだね……
ああ……愚かしい……厚かましい……」
間。
♦光沙:「偽物の癖に……」
間。
♦光沙:「待っててね……エリ、リオ……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~同日、夜~
(モアとジュゼちゃん、建物の上から町を見下ろしている。)
♠ジュゼちゃん:「で、例の、夜のパトロールの時間じゅぜが……
何故モミジは……いや、その姿だと何と名乗っているのだじゅぜ?」
♥モア:「…………。」
♠ジュゼちゃん:「……モミジ?」
♥モア:「……え、あ。ごめん。
えっと、一応、“死神系魔王少女アンゴル★モア”って事になってるよ。」
♠ジュゼちゃん:「じゅぜぇ???」
♥モア:「長いから“モア”で良いからね。」
♠ジュゼちゃん:「いやいやいや。流そうとするなじゅぜ。
何?死神?魔王?魔法少女じゃないのかじゅぜ???
しかもアンゴル・モアって……」
♥モア:「まー……魔法少女だけど、魔王で死神なんだってさ。」
♠ジュゼちゃん:「“なんだってさ”って……
モアは自分の“在り方”を理解しきれて無いのかじゅぜ?」
♥モア:「こんな濃ゆいのを理解しきれって方が難しいよ。
……そんなことより……今日は魔族の動きが異様に少ない……。」
♠ジュゼちゃん:「そうかじゅぜ?他の町だったら大体こんなもんだと思うじゅぜが……」
♥モア:「……ねえ、ジュゼちゃんはさ。
やっぱり“光の精霊”じゃないの?」
♠ジュゼちゃん:「違うじゅぜ!なんかよく分からん奴にこの姿に変えられたじゅぜ!
元々はきゅう──……」
(ジュゼちゃん、“吸血鬼”と言ったら消されかねないと気付き留まる。)
♥モア:「……きゅう……?」
♠ジュゼちゃん:「きゅ……きゅ、究極に!カッコイイ!イケメンな人間だったじゅぜ!!
元に戻るには、朝言った通り!使命を果たす事じゅぜ!」
♥モア:「それでもちゃんと“光の精霊”としての力、というよりは役割?なのかな。
“椛(アタシ)”と“死神系魔王少女アンゴル★モア”をより強く繋ぐ力はあるんだね。」
♠ジュゼちゃん:「その様じゅぜね……
確かにモミジの“小宇宙”と、この世界とのパスを開いている感覚はあるじゅぜ。」
♥モア:「その“よく分からん奴”って何者なの?」
♠ジュゼちゃん:「分からん!
が、とりあえず。ボクは飽くまでも、“偽物”の光の精霊じゅぜ。
もしかしたら突然パスが閉じるかもしれないから、ボクの力を過信しない方が良いじゅぜよ。」
♥モア:「……にせもの。
……ふふ……貴方って不思議だね。」
♠ジュゼちゃん:「じゅぜ?」
♥モア:「今言った事や朝に言った事って、そんなべらべら喋っていいものなのかなって。
正直、こんな赤裸々に明かしてくれると思ってなかった。」
♠ジュゼちゃん:「フフフ……ボクはこれでも長生きじゅぜ。
長く生きていると、変に嘘を吐いたり、隠し事をしても、思いの外意味が無い事を知るじゅぜ。
それに、ボクの使命には、モア。君が必要不可欠じゅぜ。」
♥モア:「……。」
♠ジュゼちゃん:「しかもボクの使命は“世界を救う事”
であれば尚の事、ボクの事を信用してもらい、信頼出来る関係を築くべきなのだじゅぜ。」
♥モア:「……ふふふ!そうだね!
じゃあ……アタシも……──」
間。
♥モア:「ッ!!」
♠ジュゼちゃん:「ッ!!
なんだじゅぜ!?この異様な闇の気配は!!」
♥モア:「分からない……とにかく、行こう。
ジュゼちゃん、アタシの肩に乗って。」
♠ジュゼちゃん:「分かったじゅぜ!」
(モア、ジュゼちゃんを肩に乗せて空を駆ける。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~機能停止している交差点~
(妙に鼻の高い男魔族、光沙に追い詰められている。)
♣男魔族:「辞メテクダサーイ!ワタシ!悪イ魔族、違イマース!!」
♦光沙:「悪くない魔族は表世界に顕われない魔族だけだよ。」
♣男魔族:「ソレハソウデース!」
(妙に鼻の高い男魔族、首を掻っ切られる。)
♣男魔族:「ぐぇ──」
間。
♦光沙:「…………あ、来た。」
(モアとジュゼちゃん、到着する。)
♥モア:「これは……!」
♠ジュゼちゃん:「表と裏の境界が曖昧になってるじゅぜ……!
この感じ、多分一過性のものじゅぜが、それでも世界全体に及ぼす悪影響、皺寄せは計り知れないじゅぜ!」
♥モア:「ヴァスタ……ミクトラン・テクウトリの力……」
♠ジュゼちゃん:「ッ!!」
♦光沙:「こんばんは。モミジ……いいえ、アンゴル☆モア。」
♥モア:「光沙(ありさ)さん……!!」
♠ジュゼちゃん:「っ!魔法ッ、少女……ッ!?」
♦光沙:「あら……?新しい光の精霊まで連れて……
見た目を繕って、相変わらず一丁前に魔法少女ぶってるんだね。」
♠ジュゼちゃん:「魔法少女ぶってる……?」
♥モア:「アリサさん!いままで何処にいたんですか!?心配したんですよ!」
♦光沙:「…………。鬱陶しいなぁ……。」
♠ジュゼちゃん:「ッ!!モア!右に避けるじゅぜッ!!!」
♥モア:「ッ!!」
(モアが立っていた場所に深い斬撃跡が出来る。)
♥モア:「ッ!?斬撃どころか攻撃のモーションすら無かったのに……!」
♠ジュゼちゃん:「不可視の斬撃……!これは──」
♦光沙:「今の攻撃を察知するなんて……今回の精霊はただの木偶では無いんだね。」
♠ジュゼちゃん:「魔法少女が有する力にしては些か物騒じゃないかじゅぜ???」
♦光沙:「物騒さじゃ、そこの紛い物には勝てないよ。ね。モミジ。」
♥モア:「……ッ
何故攻撃するんですか!アリサさん!!」
♦光沙:「不思議な事を聞くね。
私、元々アンタの事が嫌いだったの。気付かなかった?」
♥モア:「──っ」
♦光沙:「あ~気付いてたんだ~
じゃあ尚の事不思議だし白々しい。
そういう所が嫌いなの!死んでッ!!!」
♠ジュゼちゃん:「モアッ!!」
♥モア:「今度のは見えるッ!!来て!『─”死告の天秤(デス・サイズ)“─』ッ!!」
(モア、大きな鎌を顕現させ、斬撃をいなす。)
♠ジュゼちゃん:「か、鎌!?魔法少女の武器が!大鎌ッ!?」
♥モア:「死神系なので!」
♦光沙:「嗚呼……忌々しいッ!!」
(光沙、大量の短剣を召喚する。)
♠ジュゼちゃん:「あっちは無数の短剣が出現したじゅぜ!?」
♦光沙:「『─”白銀流星雨(クラウ・ソラス)”─』ッ!!!」
♠ジュゼちゃん:「なッ!!モア!!!これはいなしきれないじゅぜ!!
逃げるじゅぜ!!!!」
♥モア:「ッ!!……くッ!!
『─”死神は告げる、終焉の始まりを(デッドカウンター・スタート)”─』ッ!!」
(大鎌が紅く光り、形を変える。)
♥モア:「『─“判決・銃殺刑(エグゼキュシオン・ガンダウン)”─』ッ!!!」
(二挺拳銃が両手に、無数の銃弾が備えられたベルトが腰に顕現する。)
♠ジュゼちゃん:「大鎌が二挺拳銃に変わったじゅぜ!!?」
♦光沙:「たった二丁で一億を超える刃の雨を捌ききろうっていうの!!
まだ大鎌の方が勝算あったんじゃない!?
蜂の巣になれッ!!!」
♥モア:「はあああああああああああああああッ!!!!」
(モア、銃を連射して短剣を弾き続ける。)
♦光沙:「何ッ!?本気で捌き切る気ィ!?」
♥モア:「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!!」
(モア、弾が切れても瞬時にリロードし、弾き続きける。)
♦光沙:「ちィ!!!ならダメ押しにッ!!『─八尺瓊(やさかにの──」
♠ジュゼちゃん:「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!」
(ジュゼちゃん、光沙の顔目掛けて突進する。)
♦光沙:「きゃっ!!何っ!?
なっ!?光の精霊が前線にッ!?」
♠ジュゼちゃん:「身体がちっこくなったからって非戦闘員になったつもりはないじゅぜからなぁ!!!!」
♦光沙:「非力で何の役にも立たない癖に!!」
♠ジュゼちゃん:「役に立たないかどうかはこの後の展開で決めるじゅぜ!!」
(光沙の背後からカチャッと、銃を構える音がする。)
♦光沙:「──ッ!!」
(モア、少しボロボロで息が上がっている。)
♥モア:「本当に、はぁ……はぁ……ありがとう……ジュゼちゃん。」
♦光沙:「……私がこの小動物に気を取られてるほんの一瞬の間に抜け出したというの……ッ!?」
♥モア:「これで……アタシの勝ち、ですよね……」
♦光沙:「…………ははは……だったら!アンタ諸共──」
♥モア:「ッ!!」
♣ヴァスタ:「おっと。」
♠ジュゼちゃん:「ッ!?」
♦光沙:「ッ!!」
♣ヴァスタ:「それはダメだよ黛 光沙(まゆずみ ありさ)。
そも、まだまだ“魔力”が足りてないぜ。」
(ヴァスタ、光沙の影から突如出現する。)
♦光沙:「ちっ……」
♥モア:「ヴァスタ……ッ!!」
♠ジュゼちゃん:「アイツはッ!!ぐむっ!!」(口が開かなくなる)
(ジュゼちゃん、自分の今の状況に若干困惑する。)
♠ジュゼちゃん:「むぐっ!?むぐぐぐッ!?!?」
♣ヴァスタ:「いやぁ……相変わらず強いねぇモミジ。
あの“さばき”は流石の俺も惚れ惚れしたよ。」
♥モア:「どうして貴方が!!貴方はアタシが確かに──」
♣ヴァスタ:「倒した?」
♥モア:「──っ」
♣ヴァスタ:「そうだねぇ。“モア”の大鎌で一刀両断。
しっかりと殺しきれてたよ。
けれどねぇ……忘れちゃあいけない。俺が“冥界の王”、ミクトラン・テクウトリでもあるという事を。」
♥モア:「……また世界を壊すの。」
♣ヴァスタ:「いいや……?俺は……そうだね。
今の俺は、アリサにとっての、そこの面白生物だよ。」
♠ジュゼちゃん:「むぐじゅぐぇ!?」(※ボクじゅぜ!?)
♥モア:「ジュゼちゃんと一緒……!?」
♣ヴァスタ:「そう。“光の精霊”ならぬ、“闇の精霊”的なものかな?
ま、今日はこの子の“試験起動(テストドライブ)゛だったんだ。
結果は……上々って所かなぁ。」
♥モア:「ッ!!何を企んでるの!!!」
♣ヴァスタ:「……さあ???なんだろうねぇ。」
♦光沙:「ヴァスタ。今日はもうここまでなんでしょ。
じゃあお喋りなんか辞めて、帰ろうよ。」
♣ヴァスタ:「あら。楽しく会話していたってのに、わがままなご主人様だこと。」
(ヴァスタ、指を鳴らす。影が広がり、ヴァスタと光沙を包む。)
♥モア:「待って!待ってくださいアリサさん!!」
♦光沙:「気安く呼ばないで。」
♥モア:「──ッ」
♣ヴァスタ:「おっとぉ、これ以上は近づかないでおくれよ。」
(ヴァスタ、風を起こしてモアを吹き飛ばす。)
♥モア:「きゃっ!!!」
♠ジュゼちゃん:「むぐーーーっ!!!」
(ジュゼちゃん、モアを支えようと背中から押すが──)
♠ジュゼちゃん:「むぐっ……!!むぐ~~~~~!!!」
(モアと共に一緒に飛ばされる。)
♣ヴァスタ:「ああ、モミジ。」
♥モア:「っ!」
♣ヴァスタ:「この町二人目の魔法少女だ。
良かったね。やっと“魔法少女を辞められる口実”が出来たね。」
♥モア:「ッ!!!!」
間。(ヴァスタと光沙、去る。)
♠ジュゼちゃん:「……。
む……口が……」
♠カリオストロ:(なるほど。僕と奴……ヴァスタの関係は口外してはならないのか。
……ヴァスタ……アステカ神話における冥界の主、ミクトラン・テクウトリ……。
そして、もう一人の魔法少女……。)
間。(ジュゼちゃん、顎と腰に手を当てて思考を巡らしている。)
♠カリオストロ:(“魔法少女を辞められる口実”……。
僕に課せられた使命。“世界を救う。”、或いは“モミジに魔法少女を辞めさせる”……。
現状、後者がメインに感じられる。その上、あの様な事が出来るのなら僕なんぞ使う必要も無い筈……。
……奴は一体何を考えている?)
間。(ジュゼちゃん、呆然としているモアを見る。)
♠ジュゼちゃん:「……。」
♠カリオストロ:(まあ、とりあえず、今はそんな事よりも──)
♠ジュゼちゃん:「モア!大丈夫じゅぜか!!」
♥モア:「…………ジュゼちゃん。……うん、アタシは大丈夫だよ。」
♠ジュゼちゃん:「じゃあ今日のところは帰ろうじゅぜ!
表と裏の境界も元に戻ったみたいだし、“魔の者”たちはあの魔法少女に減らされたからなのか、
他の者たちは警戒して今日は何もしなさそうじゅぜ。
そして何より、モアの消耗が激しいじゅぜ!」
♥モア:「…………うん。そうだね。ありがとう、ジュゼちゃん。」
(モア、糸が切れたかの様に倒れる。)
♠ジュゼちゃん:「ッ!!モア!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~何処かの裏路地~
(影が隆起し、そこから光沙とヴァスタが現れる。)
♦光沙:「……くっ!」
(光沙、膝をつく。)
♣ヴァスタ:「おっと、大丈夫かい。」
(ヴァスタ、光沙に手を差し伸べる。)
♦光沙:「触らないでッ!!」
(光沙、ヴァスタの手を払い除ける。)
♦光沙:「貴様がエリとリオを殺した奴らの頭目だった事実は変わらない……!!」
♣ヴァスタ:「……。
とは言ってもねェ。俺は君に力を貸している立場なワケで、一蓮托生なんだぜ?
そんな風に睨まれちゃ困るなぁ。」
♦光沙:「貴様は私を魔法少女にして何かを企んでいる。私はそれを利用しているだけ。
貴様と馴れ合う気なんて毛頭無い……!図に乗る──んぐッ」
(ヴァスタ、光沙の口元を掴んで黙らせる。)
♣ヴァスタ:「図に乗るなはこっちの台詞だ、黛 光沙(まゆずみ ありさ)。
冥界にまで堕ちて来て膝を折った君の執念に免じて、俺は取り引きをしてやったんだぜ?
君は大人しく下賜(かし)してやった“力”を振るえば良い。」
♦光沙:「そしてやる事が“また”魔法少女ごっこか!!悪趣味な神め!!!!」
♣ヴァスタ:「だが君が欲するのも“魔法少女”だ。“それ”を嘲るのは違うんじゃないか??」
♦光沙:「……くっ!!」
♣ヴァスタ:「……ま、お互い頑張ろうよ。」
♦光沙:「……。」
♣ヴァスタ:「君の“魔法少女たち”の為にもさ。」
♦光沙:「──ッ」(ヴァスタを睨む。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~数日後、朱間宮の家~
(椛、ベッドで眠っている。)
♥椛:「………………。」
間。(椛、起きる。)
♥椛:「……あれ……アタシ……」
(椛、ベッドの隣の椅子に座り、何かを読んでいる男を目にする。)
♠カリオストロ:「起きたか。おーい、もう一人の──……あ。」
♥椛:「…………え?」
(椛、目を擦る。)
♠ジュゼちゃん:「大丈夫かじゅぜ?」
(椛の視界には先程の男は居らず、ジュゼちゃんが居る。)
♥椛:「……ジュゼ……ちゃん?」
♠ジュゼちゃん:「なんだじゅぜ?」
♥椛:「…………ううん、なんでもない。
……あの後アタシ、寝ちゃったんだ……。」
♠ジュゼちゃん:「そうだじゅぜ。
まるで糸が切れた人形の様に倒れたから驚いたじゅぜ。
多分ボクとのパスを繋いで以前よりも魔法少女としての出力は上がったものの、
ちゃんとチューニングしきれていない状態で繋いでいたから過負荷だったんだと思うじゅぜ。
……申し訳ないじゅぜ……。」
♥椛:「そんな、謝らないで。
アリサさんの攻撃を捌き切る為に無茶したアタシも悪かったんだと思うし……。」
(椛、スマホを見る。)
♥椛:「……アタシ、結構長いこと寝てたんだね。」
♠ジュゼちゃん:「そうじゅぜ。
……だから、モミジお腹空いてるんじゃないかじゅぜ?」
♥椛:「……確かに。何か、食べないと……」
(椛、ベッドから起き上がろうとする。)
♠ジュゼちゃん:「ああ~!起き上がるなじゅぜ!安静にしとくじゅぜ!
ご飯ならボクが持ってくるじゅぜ!」
(ジュゼちゃん、椛の部屋から飛んで出ていく。)
♥椛:「…………あ、良い匂いがする……。」
(ジュゼちゃん、お盆に何品か乗せて飛んでくる。)
♠ジュゼちゃん:「おまたせじゅぜー!」
(ジュゼちゃん、椛の膝辺りにお盆を置く。)
♥椛:「わ……クリームパスタにトマトのスープ……それにオレンジ。」
♠ジュゼちゃん:「そうじゅぜ!
急にガツガツ食べると胃がびっくりするからまずはスープを飲んで、
食べれそうだったら他のも食べるじゅぜ!
残しても大丈夫じゅぜからな!」
♥椛:「うん、ありがとう。いただきます。」
間。(椛、トマトのスープを飲む。)
♥椛:「……おいしい。」
♠ジュゼちゃん:「当然じゅぜ!」
♥椛:「ジュゼちゃん、小さいのにこんなちゃんとした料理が出来るなんて凄いね。」
♠ジュゼちゃん:「ぎくっ」
♥椛:「……?」
♠ジュゼちゃん:「……ふ……ふっふっふっ……ボクは大天才だからなじゅぜ!
こんな身体になっても工夫次第でやれることはいくらでもあるじゅぜ!
ボクの事は気にせず、ご飯食べるじゅぜ。」
♥椛:「……うん。」
間。(椛、しばらくご飯を食べる。)
♥椛:「ねえ、ジュゼちゃん。」
♠ジュゼちゃん:「どうしたじゅぜ。」
♥椛:「町の様子は、どう?」
♠ジュゼちゃん:「……。平和じゅぜよ。
この間の、アリサという魔法少女が、モミジの代わりに町を守ってくれてるじゅぜ。
世界の境界を曖昧にしたのもあの時の一回きりで、特に危険があるとは思えないじゅぜ。」
♥椛:「………………そうなんだ。」
間。
♥椛:「良かった。」(笑みを浮かべる。)
♠ジュゼちゃん:「……。」
間。
♠ジュゼちゃん:「モミジ。一つ質問があるじゅぜ。
……いいや、その前に説明をしてもらうじゅぜ。」
♥椛:「なに?」
♠ジュゼちゃん:「モミジ、君のいままでを説明して欲しいじゅぜ。」
♥椛:「……。」
♠ジュゼちゃん:「無論、話したくないことは話さなくて良いじゅぜ。」
♥椛:「……でも、変に嘘を吐いたり、隠し事をしても意味が無いし、良い信頼関係を築けないんじゃない?」
♠ジュゼちゃん:「何事にも加減が大事じゅぜ。
ボクは君と共有すべきだと思った事を、話せる事を隠さずに話したじゅぜ。
それでも例えば、ボクの出身や趣味とか、あまり話したくない事まで話した覚えはないじゅぜ。」
♥椛:「…………分かった。
少し、長くなるよ。」
◇
♥椛:「──そして、今に至るって感じ。」
♠ジュゼちゃん:「…………なるほどじゅぜ。
元々は四人組の魔法少女で、ヴァスタはかつて屠った闇の軍勢のボス。
二人は戦死し、一人は離脱して敵対関係、そしてモミジ。」
♥椛:「うん。」
♠ジュゼちゃん:「アリサの言っていた“魔法少女ぶっている”というのも、
ボクが以前話した魔法少女の仕組みとは違うからじゅぜか。」
♥椛:「そう。アタシは、“今の世界”のずっと前に存在した世界の、“終焉の魔王”の少女。
“アンゴル=モア”さんの力を借り受けているの。」
♠ジュゼちゃん:「…………ここに来て“終焉の魔王”じゅぜか……。」
♥椛:「知ってるの?」
♠ジュゼちゃん:「うむ、じゅぜ。
ボクの友人だった“ミシェル”が“星の記憶”を解析して本にしたモノに記述されていたじゅぜ。
なんでも、“先のない世界を終わらせる為に顕現する、世界の自殺機構”だとか……」
♥椛:「わ、物騒。
……でも、そうみたい。」
♠ジュゼちゃん:「……擬似とは言え“光の救世主”でありながら“終焉の魔王”の力を振るうとは、中々に規格外じゅぜな。」
♥椛:「えへへへ……」
♠ジュゼちゃん:「ま、そんな事、今は瑣末な事じゅぜ。
さて……ここからが本題じゅぜ。」
♥椛:「……。」
間。
♠ジュゼちゃん:「モミジは、魔法少女を辞めたいじゅぜか。」
間。
♥椛:「そんなの、許されないよ。」
♠ジュゼちゃん:「何故じゅぜ。」
間。
♥椛:「この町は誰かが、魔法少女が守らないと。」
♠ジュゼちゃん:「今はアリサが居るじゅぜ。」
間。
♥椛:「でも、一人じゃ──」
♠ジュゼちゃん:「ボクはモミジが魔法少女を辞めたいのかどうかを聞いているじゅぜ。」
♥椛:「……。」
♠ジュゼちゃん:「ボクに“辞める口実”を喋らせようとするなじゅぜ。
モミジの気持ちを聞いているじゅぜ。」
間。(長めの沈黙が生まれる。)
♥椛:「アタシは、魔法少女を辞めたい。
……今でこそ魔族たちを沢山倒して、力を貰って、経験を積んで、強くなったけれど、
それでも、いつかは負けて、死んじゃうかもしれない。
仲間が居ないのも辛い。こんな事を孤独で続けていくなんて、苦しいよ。
世界のバランスは常に揺れ続けている……アタシに、魔法少女に終わりは無い……。」
♠ジュゼちゃん:「……。」
♥椛:「……それに、魔族たちを倒すとね。どんどん自分じゃなくなる感覚があるの。」
♠ジュゼちゃん:「それは、どういうことじゅぜ。」
♥椛:「さっき言ったでしょ。アタシはかつて存在した“アンゴル=モア”さんの力を、
つまり“モア”さんの貌(かたち)をアタシの身体に顕現させてるの。
……アタシは魔法少女になる度に“モア”さんに変質していっている。」
♠ジュゼちゃん:「……。
であれば、モミジ。君はもう──」
♥椛:「それでもアタシは魔法少女を辞められない。」
♠ジュゼちゃん:「……。」
♥椛:「だって──」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~真夜中、町中~
(男魔族と女魔族たちが次々と狩られていく。)
♦女魔族:「嗚呼!終末がやってく──ぐああ!!!」
♣男魔族:「アルトとエゴが交差──しぇあああッ!!!!」
♦女魔族:「終わらない歌を歌おう!僕が終わ──ったぁあああ!!!!!」
♣男魔族:「宇宙銀河リズムにオ──はぁあああああああッ!!!」
間。
(光沙、流石に疲れて膝をついている。)
♦光沙:「──はぁ……はぁ……毎日毎日とんちき魔族ばかり現れて……名曲で遊ぶな……!!!」
(光沙、立ち上がる。)
♦光沙:「とは言え、それなりに強い魔族たち……それらの力を狩り、蓄えても、モミジにはまだまだ届かない……。
恐ろしい子……。」
(ヴァスタ、現れる。)
♣ヴァスタ:「まあまあ、一年間欠かさず魔法少女やっていたのが相手だ。一朝一夕でどうにかなるとは思ってないよ。」
♦光沙:「そんな事言ったって、私たちには時間が無いじゃない!!」
♣ヴァスタ:「大事なのは慌てない事だぜ、アリサ。」
♦光沙:「でも……」
♣ヴァスタ:「幸い、この間の君の頑張りによってモミジは未だに動けない様だし。
……いっそのこと、このまま身を引いてくれるのが一番なんだけど。」
♦光沙:「……貴方は“モア”に関しては詳しそうだけど、“モミジ”の事は何も分かってないね。」
♣ヴァスタ:「……何?」
♦光沙:「私やモミジよりも強かったエリとリオが、貴方に目の前で倒されたのに止まらなかった子。
エリとリオの“諦めない、辞めない、負けない”の精神を受け継いだ彼女が、魔法少女を辞める訳が無い。」
♣ヴァスタ:「……。」
♦光沙:「だから私が──あ……ッ!くッ!!ああああああああああああッ!!!!」
(光沙、膝をつく。)
♣ヴァスタ:「ッ!!“魔力”が……アリサの“小宇宙”が膨張しているッ!?」
♦光沙:「あああああああああッ!!!ぐぅッ!!!!
……は……ははは……」
(光沙、よろよろと立ち上がる。)
♦光沙:「成功した様ね……!」
♣ヴァスタ:「アリサ……君は一体……!」
♦光沙:「はぁ……はぁ……貴方が、私が“黄の魔法少女”になる前、“鏡の魔女”として付与した“性質”を忘れたワケ……?」
♣ヴァスタ:「“反射と増幅”……ッ!!」
♦光沙:「そう……私の短剣が無限増殖する力の源……かつてエリとリオを傷付けてしまった忌々しい罪……
それを利用して、私の力を、“小宇宙”を鏡合わせに反射させ、“魔力”を増幅させた……」
♣ヴァスタ:「しかしそれじゃあ君の身体が!!」
♦光沙:「言ったでしょ!!
……私たちには……時間が無い……。」
間。
♣ヴァスタ:「……はぁ……わがままなご主人様だ……。
だが、今の俺は君の“闇の精霊”。仕方が無い。」
♦光沙:「……待っててね、エリ、リオ……。」
間。
♣ヴァスタ:「…………すまない。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~朱間宮家、椛の部屋~
♠ジュゼちゃん:「──なるほどじゅぜ……散っていった仲間たちの想いが故に、魔法少女を辞められないじゅぜか……」
♥椛:「うん。辞めたい気持ちは本当だし、不安なのも本当。
でも、エリちゃんとリオちゃん……仲間たちが守りたかった世界を、アタシが守りたいのも本当なの。」
♠ジュゼちゃん:「……人とは、二律背反の生き物じゅぜ。
真反対な気持ちが同時に発生してしまうのも是非もないことじゅぜな。」
♥椛:「あはは、そうだね。
それに、今はジュゼちゃんが居るし。」
♠ジュゼちゃん:「……。」
間。
♠ジュゼちゃん:「ボクは、使命を果たしたら、多分、モミジの前には二度と現れないじゅぜ。」
♥椛:「……。」
♠ジュゼちゃん:「……。」
♥椛:「ありがとう、正直に言ってくれて。
それでも、大丈夫だから。これからも魔法少女を辞めないから。」
♠ジュゼちゃん:「……。」
♥椛:「でも、その時まではよろしくね。」
(椛、手を差し出す。)
♠ジュゼちゃん:「それは、もちろんじゅぜよ!」
(ジュゼちゃん、椛の手を取ろうとする。……が──)
♠ジュゼちゃん:「ッ!!」
♥椛:「ッ!!」
♠ジュゼちゃん:「この町全体を覆う程の闇……いや!誰かの“小宇宙”がこの世界を侵食し始めているじゅぜッ!!」
♥椛:「……まさか……アリサさん……?」
(椛、立ち上がる。)
♠ジュゼちゃん:「っ!!モミジ!まだ安静にしてないと──」
♥椛:「アリサさんを助けないと!」
♠ジュゼちゃん:「……モミジ、多分だけど、アリサはわざとこの事態を起こしているじゅぜ。
黒幕はヴァスタだとしても、実行犯はアリサ。
そのアリサを助けるのかじゅぜ。」
♥椛:「そうだよ。だって、アタシの仲間で、友達だもん。」
♠ジュゼちゃん:「──っ」
♥椛:「“幻想接続(ファンタズム・コネクト)”ッ!!」
(椛から“死神系魔王少女アンゴル★モア”に変身する。)
♥モア:「──さあ、行こう。ジュゼちゃん。」
♠ジュゼちゃん:「……分かったじゅぜ!
けど、以前も言おうと思ってたじゅぜが、魔法少女ならちゃんと変身バンクと変身口上を言うじゅぜ!!」
♥モア:「あははは!それエリちゃんにも言われた!!」
♠ジュゼちゃん:「そういう諸々を考える為にも、とりあえず世界を救うじゅぜ!!」
♥モア:「うん!!!」
(モア、ジュゼちゃんを肩に乗せて窓から飛んでいく。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~町中~
♣男魔族:「おいおいおいおい!なんか急に力が沸いてきたぞ……!!」
♦女魔族:「まだ定着しきっていないけれど、この町全体の存在テクスチャーが闇側に上書きされている影響かしら……!」
♣男魔族:「おいおいおいおい!これならにっくき魔法少女、“死神系魔王少女”をやれるんじゃないか!?」
♦女魔族:「ワタクシたちってば、アンゴル★モア最強の敵になっちゃうのかしら~!?」
♣男魔族:「おいおいおいおい!そうなったらよぉ!!」
(妙に連携が取れてそうな男魔族と女魔族、ビシっとポーズを決める。)
♣男魔族:「幹部昇進!」
♦女魔族:「支部長就任!」
♣男魔族:&♦女魔族:「「スピード出世で良い感じー!!」」
間。
♦女魔族:「……幹部昇進、支部長就任……ワタクシたちってば何処かに所属してたかしら?」
♣男魔族:「もう“ツィツィ・ミトル”も無くなったし、テクウトリ様居ないしなぁ……」
♦女魔族:「いっそのこと!ワタクシたちで何か組織を、“ツィツィ・ミトル”を超える組織を立ち上げるなんてどうかしら!?」
♣男魔族:「おいおいおいおい!それ良いな!!
よし!まずは今話題な剣を使う魔法少女を倒そう!!」
♦女魔族:「それが良いかしら!!そして、行く行くはアンゴル★モアの最大のライバルになって二次創作でもワタクシ×モア本が……」
(妙に連携が取れてそうな男魔族と女魔族、腰に手を当てて大笑いをする。)
♣男魔族:&♦女魔族:「「はーっはっはっはっ!!」」
♥モア:「そこ邪魔!!」
(妙に連携が取れてそうな男魔族と女魔族、疾走するモアに轢かれてぶっ飛ばされる。)
♣男魔族:「やな感じ~~~~~~~!!!」
♦女魔族:「かしら~~~~~~~~!!!」
♠ジュゼちゃん:「ん?今何か轢いたじゅぜか?」
♥モア:「多分悪いもの!そんなことよりジュゼちゃん!警戒態勢!!」
♠ジュゼちゃん:「ッ!!」
(モアとジュゼちゃんの眼前に、光沙とヴァスタの姿を視認する。)
♣ヴァスタ:「……本当に来た。」
♠ジュゼちゃん:「……。」
♦光沙:「言ったでしょ。この子はこういう子だって。」
♥モア:「アリサさん……!」
♠ジュゼちゃん:「どういうことだじゅぜ……この間とは比較にならない程の“熱量”をアリサから感じるじゅぜ……!」
♥モア:「ヴァスタ!アリサさんに一体何をしたの!!!」
♣ヴァスタ:「俺じゃないぜ。彼女が勝手に……いや、彼女の努力の賜物さ。」
♠カリオストロ:(モアの熱量は、乱暴に扱えば、この星をさくらんぼサイズまで圧縮できる程ある。
それだけでも超……超超超超規格外。僕たち“魔の者”が立ち向かおうとする様な相手じゃあない。
……が。
アリサからは“大宇宙”にも匹敵する熱量……!“魔法少女”!これ程の物なのか……!!)
♠ジュゼちゃん:「モア!勝ち目はあるのかじゅぜ!!」
♥モア:「正直、分からない……!」
♠ジュゼちゃん:「そうじゅぜよな……!なら──」
♣ヴァスタ:「おっと。」
♠ジュゼちゃん:「むぎゅっ!?」
(ジュゼちゃん、虚空から穴が空き、そこから出たヴァスタの手にモアと引き離される。)
♥モア:「ジュゼちゃん!!!」
♠ジュゼちゃん:「モアー!!!」
(ジュゼちゃん、穴の中に引き込まれて消える。)
♥モア:「ヴァスタ──って、居ないッ!」
(ヴァスタの姿が無く、空から声が響く。)
♣ヴァスタ:『この面白生物は油断出来ないし、俺のご主人様は一対一をご希望だ。
じゃあ、後は元・仲間同士、ごゆっくり~』
♥モア:「ヴァスターー!!!」
♦光沙:「よそ見しないでよ!」(短剣をモアに飛ばす。)
♥モア:「くっ!!」(避ける。)
♦光沙:「はあああッ!!!」(モアに斬りかかる。)
♥モア:「『─”死告の天秤(デス・サイズ)─”ッ!!』」(大鎌を出して応戦する。)
(モアと光沙、鍔迫り合う。)
♦光沙:「私の方が力は遥かに上なのに拮抗してるなんてッ!最悪ッ!!」
♥モア:「たとえアリサさん相手だとしてもッ、アタシは諦めないッ、辞めないッ、負けないッ!!」
♦光沙:「──チッ!」(回し蹴りをする。)
♥モア:「きゃっ!!!」
(モア、遠くに吹っ飛ばされる。)
♥モア:「……くっ……!」
♦光沙:「アンタが……エリとリオの真似事なんて……反吐が出るッ!!!!」
♥モア:「アリサ……さん……」
♦光沙:「……ねえ、モミジも、エリとリオに会いたいよね?」
♥モア:「……え?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~ジュゼちゃんサイド~
(ジュゼちゃん、虚空から吐き出されて床に激突する。)
♠ジュゼちゃん:「じゅぜッ!!」
(ジュゼちゃん、起き上がる。)
♠ジュゼちゃん:「いててじゅぜ……ここはどこじゅぜ……?」
♣ヴァスタ:「モミジたちが居る場所からは幾ばくか遠い所だよ。」
♠ジュゼちゃん:「っ!!」
(ジュゼちゃん、影から現れたヴァスタから距離を取る。)
♣ヴァスタ:「……カリオストロ伯爵……いや、今はジュゼちゃん、だったっけ?
君、一体何を考えている。何故モミジはまだ魔法少女をやっている。」
♠ジュゼちゃん:「これでもイタリア伊達男じゅぜ。
女の子の思いは尊重する派じゅぜ。」
♣ヴァスタ:「あっそ。
じゃ、ここから俺で頑張るから、君はもう用済みだ。」
(ヴァスタ、手を上に掲げる。すると巨大な剣が出現する。)
♠ジュゼちゃん:「なッ!!アリサが使っていた剣!……のクッソでっかい版!?
この町のどの建物よりもでっかいじゅぜ!?!?」
♣ヴァスタ:「ダメ押しにもう一本追加だ。先にも言ったけれど、君は油断できない。
この二振りでここら一帯ごとぺしゃんこだ。
元の君であればどうにか出来たかもしれないが、今の無力な君ではどうしようも無い。じゃあね。カリオストロ伯爵。
『─神話再演・“山海を両断せし二振(イガリマ・シュルシャガナ)”─』。」
(二振りの巨大な剣がジュゼちゃん目掛けて振ってくる。)
♠ジュゼちゃん:「じゅ!じゅぜ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
(大きな土埃が起きる。)
♣ヴァスタ:「さて……最悪な展開になる前に──」
♠カリオストロ:「ふはは……」
♣ヴァスタ:「──ッ!?」
♠カリオストロ:「フハハハハハハハハハッ!!!」
(土埃の中からカリオストロが現れる。)
♣ヴァスタ:「何ィ!?」
♠カリオストロ:「稀代の詐欺師であり錬金術師であり変装の名手であり、“真の不老不死゛を探求する者!!!
僕!カリオストロ伯爵様!大復活ッ!!!!」
♣ヴァスタ:「カリオストロ!!どうやって元の姿に戻ったッ!!
俺との契約を果たせていないのにッ!!!」
♠カリオストロ:「フハハハハハッ!!!見たかったぞ!お前のその顔を!!!
特別だ!教えてやろう!!
どうやって僕が君の、『─神話再演・“九層の契約書(ミクトラン・テクウトリ)”─』を打ち破ったのかを!!!」
♣ヴァスタ:「チッ!俺の事もッ!いいや、モミジに聞いたか……ッ!!」
♠カリオストロ:「お前の能力の詳細は確かにモミジに“先程!!”、聞いたが、
能力を打ち破ったのは“三日程前!!”、だ!!!
さて、解答編だ。
お前が“この世界”の住人、いや、“神”では無い事を一週間前に察した。」
♣ヴァスタ:「……。」
♠カリオストロ:「“ミクトラン・テクウトリ”。実は以前、彼とは不老不死“探索”の折に交流があってね。
彼は凄まじい愛妻家である。故に、何処かの小娘にうつつを抜かす様な事は絶対にしない。
だからお前が“彼”本人じゃない事も、その能力も借り物……いいや、“再演”だという事も分かった。」
♣ヴァスタ:「……“真のミクトラン・テクウトリ”による契約の上書き……!」
♠カリオストロ:「フハハ、察しが良い。
そう!モミジが眠っている間に僕は“冥界下り”をしてきた!!
そして僕に課せられた新たな元に戻る条件、それは、“殺される事”だ。」
♣ヴァスタ:「しかし君はずっとこの町に────いいや……そうか……
ははは……!まんまと詐欺られたってワケか!!」
♠カリオストロ:「大天才であり!不死者であり!“色々あった”僕だからこそ出来る方法である!
そして何よりも!世界の境界が曖昧な場所だからこそ出来た“黄泉還り”だッ!!」
♣ヴァスタ:「くっ!」
♠カリオストロ:「そして!」
(カリオストロ、ヴァスタをビシッと指差す。)
♠カリオストロ:「お前の力が万全では無い事も分かっているッ!
せいぜい制限付きの“神話再演”、アリサの力の一端を借りる程度!」
♣ヴァスタ:「だとしてもだ。油断できない君相手だとしても、これで十分だ。」
♠カリオストロ:「おっとッ!」
(カリオストロ、左に避ける。立っていた場所に深い斬撃跡が出来る。)
♠カリオストロ:「不可視の攻撃を見るのはこれで三度目だ!もう既に対策済みである!」
♣ヴァスタ:「面倒臭いッ!!」
♠カリオストロ:「フハハハハハ!!お前相手に手加減などしている余裕など無い!!
見よ!我が“詐技(さぎ)”を!」
(カリオストロ、手を前に突き出す。)
♠カリオストロ:「『─偽装・“死告の天秤(デス・サイズ)゛─』ッ!!!」
(カリオストロの手元に色違いのモアの大鎌が顕れる。)
♣ヴァスタ:「な……ッ!!?“アンゴル=モア”の大鎌だと!?!?」
♠カリオストロ:「“偽装”ではあるが、紛い物なりに“光の精霊”としてパスが繋がってるが故に、力の再現度は真に迫る勢いだぞ?」
(ヴァスタ、激昂する。)
♣ヴァスタ:「アレッサンドロ・ディ・カリオストロッ!!!
それは只人が犯していい代物では無いぞおおおッ!!!!!
『─神話再演!!“山海を両断せし二振(イガリマ・シュルシャガナ)”─』ァアアアアッ!!!!!!」
♠カリオストロ:「只人では無いッ!大天才!カリオストロ伯爵様だッ!!
『─”死神は告げる、終焉の始まりを(デッドカウンター・スタート)─”ッ』!!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~モアサイド~
♦光沙:「『─”白銀流星雨(クラウ・ソラス)”─』ッ!!!」(無数の剣がモアを襲う。)
♥モア:「『─“判決・火刑(エグゼキュシオン・ステイク)”─』!!!」
(大鎌が火の塊になり無数の剣を焼き払う。)
♦光沙:「はあッ!!『─”山脈を分かつ巨剣(イガリマ)”─』ッ!!」(巨大な剣をモアに向かって振るう。)
♥モア:「はッ!くぅッ!!」(避ける。)
♥モア:「『─“判決・断頭刑(エグゼキュシオン・ギロチン)”─』!!!」
(複数の巨大なギロチンの刃が光沙に落ちてくる。)
♦光沙:「そんな鈍い攻撃!薙ぎ払うまでッ!!『─”大海を分かつ巨剣(シュルシャガナ)”─』ッ!!!」
(光沙、顕現させた巨大な剣でギロチンの刃を薙ぎ払う。)
♦光沙:「ねえ!どうしてエリとリオが蘇るのを拒むの!!」
♥モア:「アリサさんのやり方じゃ!触媒になるアタシだけじゃなく、アリサさんもいなくなっちゃうじゃないですか!!」
♦光沙:「仕方が無いじゃない!私の膨張した“小宇宙”とアンタの規則破りな“小宇宙”を合わせても足らないんだから!!」
♥モア:「そんな事したってエリちゃんとリオちゃんは喜びません!!」
♦光沙:「それでも必要なの!この世界には魔法少女が!!私たちの様な“偽物”じゃない、“本物の魔法少女”がッ!!!!」
♥モア:「──ッ」
♦光沙:「分かってるでしょモミジ?
私の様な無理矢理な魔法少女も、アンタの様な貌(かたち)だけの魔法少女も、世界は求めていないの。
だから私たちの下に“本物の光の精霊”がやってこない。
だから私たちは世界を歪めるしか出来ない。」
♥モア:「…………え?世界を歪める……?アタシが……?」
♦光沙:「何故、この町の魔族が、こんなにも多いのか気付いてなかったの?
アンタの“魔王”の部分に呼応して魔族が顕れているの。
それをアンタ自身で狩り続けているだけ。」
♥モア:「な……え……?」
♦光沙:「理由は単純。寄ってきた魔族の“魔力”を取り込み、力を蓄える為。」
♥モア:「…………。」(呆然としている。)
♦光沙:「そうだろうとは思っていたけれど、やっぱり無意識だったんだ。
そして、私が言った事が嘘ではないって心の何処かで確信している。」
♥モア:「で……でも……!なんでアタシがそんな事を──っ!!」
(光沙、一瞬で間合いを詰めてモアを掴む。)
♥モア:「きゃ……っ!何……!アリサさんの”魔力”がッ、アタシに流れてきて……!は、離して……ッ!
あああああああああああああああ……ッ!!!」
♦光沙:「そんな事、決まってるじゃない。
だってアンタは──」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~カリオストロサイド~
♠カリオストロ:「これで終いだッ!!」
♣ヴァスタ:「ぐああああああああッ!!!」
(ヴァスタ、後ろに吹き飛ばされる。)
♠カリオストロ:「……ふうー……不死身でなければ18回は殺されていた。
いやはや、ヴァスタ……いや、ミクトラン・テクウトリの扱えるであろう“不死殺し”が使えない状態で助かった。」
♣ヴァスタ:「ははは……俺自身……まだこんなにすっからかんだったとは……
双子の魔法少女に受けた傷は想像以上に深い様だ……」
♠カリオストロ:「さて、ヴァスタ。僕が勝ったのだから洗いざらい吐くが良い。
安心しろ。慈善活動として“災厄の兆し”とやらを摘んで世界を救ってやろう。
ささ、曖昧な言葉ではなくはっきりと標的を言いたまえ。」
♣ヴァスタ:「言わなくても……もう分かるさ……」
♠カリオストロ:「?
…………ッ!!なんだ!?この寒気は……!」
♣ヴァスタ:「躊躇も無くプラン2を実行したか……本当に、恐ろしい子だよ……」
♠カリオストロ:「プラン2!?どういう事だ!」
♣ヴァスタ:「……アリサの目的は、ある“二人の魔法少女”の復活。
プラン1では、“偽物”と定義された魔法少女を寄り代に、“本物の魔法少女”を顕現させる事……。
プラン2では、“世界の危機”を起こし、“救世主”を呼び出す……。
生憎、俺の提示した平和的なプラン3は日の目を見なかったなぁ……。」
♠カリオストロ:「“悪魔の存在証明による逆説的な神の存在証明”……!それの応用か……!!
なるほど……故に、アリサはこの町のテクスチャに自分の“小宇宙”を被せたのか……!」
♣ヴァスタ:「ご名答……ただ“世界の危機”を起こしたって当然、彼女が望む“救世主”なんか顕われない。
だからこの町に“彼女のルールを敷いた”んだ。
“魔法少女”のシステムを拡大させ、町全体に反映させたって感じかな。」
(ヴァスタ、立ち上がる。)
♣ヴァスタ:「さて……大天才のカリオストロ伯爵様。自分の過ちに気付いたかな?」
♠カリオストロ:「……ッ!」
♣ヴァスタ:「君が、魔法少女を辞めさせられていたら、アリサはただただ自滅して終わりだった。それでハッピーエンドだった。
災厄の兆しを摘まれ、世界も、彼女も救われていた。」
間。
♣ヴァスタ:「そう、此度の“災厄の華”は“朱間宮 椛(あかまみや もみじ)”。
完成した偽物の“終焉の魔王”だ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~モアサイド~
(光沙の目の前に、モアが変性した巨大な華が咲いている。)
♦光沙:「モミジの罪悪と絶望の感情と、私の“魔力”を糧として“揺籃”に、災厄の華が咲く……
……この景色、この絶望感……嗚呼……一年前と同じ……」
(光沙、両手を天に掲げる。)
♦光沙:「エリ……!リオ……!貴女たちが……本物の魔法少女が必要なの!!
さあ!帰ってきて……!!私たちを絶望から救って!!あの時みたいに!!!!」
(カリオストロ、光沙たちの下へ飛んでくる。)
♠カリオストロ:「モアーッ!!!」
♦光沙:「……誰?ん……?この気配……モミジにくっついてた小動物……?」
♠カリオストロ:「な……この短期間でこんなに成長しているだと……!!」
♦光沙:「どうも、モミジの元・小動物さん。」
♠カリオストロ:「アリサ……!貴様モアに何をしたッ!!」
♦光沙:「別に?ただ開花を早めただけ。遠くない未来にあの子はこうなっていたよ。」
♠カリオストロ:「チィッ!!!」
♦光沙:「『─“山海を両断せし二振(イガリマ・シュルシャガナ)”─』ッ!!!」
(光沙、巨大な剣でカリオストロを通せんぼする。)
♠カリオストロ:「どわぁっ!!壁!?」
♦光沙:「壁呼ばわりとは不躾な……剣だ!
モミジの所になんか行かせる訳ないでしょ。
小動物状態でも邪魔されたんだもの、人間体だったらもっと油断出来ない。」
♠カリオストロ:「フハハハハハ!!その判断や良し!だがな!!」
(カリオストロ、頭からどんどん砂に変化していく。)
♦光沙:「砂……!?いや、塵に変化した!?」
(カリオストロ、遠くに現れる。)
♠カリオストロ:「フハハハハハハハ!!!
僕は吸血鬼でもあったが故にこんな芸当をお茶の子さいさいなのだ!!」
♦光沙:「七面倒臭い!!!
『─”白銀流星雨(クラウ・ソラス)”─』ッ!!!」
(カリオストロ、蜂の巣になる。)
♠カリオストロ:「ぐおおお……!!!が……ッ!!不死身なので死ぬことは無い……!!」
♦光沙:「だったらッ!!!『─八尺瓊(やさかにの──」
♠カリオストロ:「『─偽装・“死告の天秤(デス・サイズ)゛─』。」
♦光沙:「ッ!?」
♠カリオストロ:「『─“判決・銃殺刑(エグゼキュシオン・ガンダウン)”─』」
(カリオストロ、光沙の後ろで銃を構える。)
♠カリオストロ:「そこまでだ。」
♦光沙:「な……!?元・小動物が二人!?いやッあっちは偽物か!!!」
♠カリオストロ:「いいや、あっちで串刺しになって這っているのも、この僕も、本物である。」
♦光沙:「はぁ!?」
♠カリオストロ:「君は僕の詳細を知らないだろうから手短に。
吸血鬼の能力の一つであり、ドッペルゲンガーに仕立て上げられた事があるからこその芸当、とだけ言っておこう。
何!僕が大天才であるが故、と思っておけば良い!!」
♦光沙:「アンタもモミジも無茶苦茶でムカッ腹が立つ!」
♠カリオストロ:「とにかく、もう動くな黛 光沙(まゆずみ ありさ)。
君が“大宇宙”に匹敵する“熱量”……“魔力”を有するとしても、こちらはそれを無力化する術(すべ)がある。」
♦光沙:「そんな心配する必要ないよ。
あの子が“災厄の華”になった時点で、私が育て、膨張させた“魔力”ごと、この空間の支配権も彼女に奪われてるんだもの。
私を止めた所で“世界の危機”は止まらない。
止めるのは、止められるのは“本物の魔法少女たち”だけ!!」
♠カリオストロ:「フハハハハハ!僕は、僕たちは“探求者”である!!
可能性を狭めるなど愚の骨頂!!
故に!僕たちは諦めない!辞めない!負けないッ!!」
♦光沙:「────ッ!!」
♠カリオストロ:「道を作る!行け!もう一人の僕!!
『─偽装・“山脈を分かつ巨剣(イガリマ)”─』!!」
(南米帰りのカリオストロ、小動物になっていたカリオストロの足元から“災厄の華”までの道を巨大な剣で作る。)
♦光沙:「私の剣!?道路みたいに使うな!!!」
♠カリオストロ:「行けーーッ!!」
◇
(カリオストロ、よろよろと立ち上がる。)
♠カリオストロ:「助かったぞ……もう一人の僕……!」
(カリオストロ、モアの下へと走り出す。)
♠カリオストロ:「待っていろ!!モミジ!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~災厄の華~
♥椛:意識が溶けていく。
いままでアタシは何をしていたんだろう。
アタシが守りたかった町は、アタシ自身が脅かしていた。
♦光沙:『あら……?新しい光の精霊まで連れて……
見た目を繕って、相変わらず一丁前に魔法少女ぶってるんだね。』
♥椛:“偽物”だ。アタシは偽物だ。
“魔法少女”の体を装って、エリちゃんとリオちゃんの思いを口実に、世界を貪食しようとしていた“偽物”だった。
間。
♥椛:嗚呼。“本物の魔法少女たち”。早くアタシを摘み取って。
じゃないと“災厄の華(アタシ)”がどんどん肥大化して世界を終わらせてしまう。
♥椛:エリちゃんとリオちゃん……二人に……後を──
(災厄の華の外側からカリオストロの声がする。)
♠カリオストロ:『……──ア……!──モア……!!モアー!!!』
♥椛:……誰……?
♠カリオストロ:『目を覚ませモア!!』
♥椛:……。
♥モア:「ジュゼ……ちゃん……?」
♠カリオストロ:『っ!!聞こえるかモア!!聞こえるんだったら返事をするのだ!!』
♥モア:「聞こえる……聞こえるよジュゼちゃん!
……!ここは……どこ……!?」
♠カリオストロ:『モアは今“災厄の華”の中にいる!!
僕の力では摘む事は出来ない!モア!君がやるんだ!!』
♥モア:「……摘んだ後はどうするの。」
◇
~災厄の華の外側~
♠カリオストロ:「……え?」
♥モア:『アタシが存在するだけで魔族たちは集まる……
またアタシは魔法少女のふりをして、新たな“災厄の華”を育てるの……?』
♠カリオストロ:「っ!何を考えているモア!」
♥モア:『アタシは、これから自分の“魔力”を利用して“災厄の華”と一緒に圧縮されながら“宇宙(そら)゛に飛ぶ。
そして、誰にも迷惑のかからない所で消滅する。』
♠カリオストロ:「何故そんなコズミックな方法で消えようとする!!
散っていったモアの仲間たちはそんな事望んでいないだろ!!」
♥モア:『でも!アタシじゃ二人が守りたかった町を守れない!!』
♠カリオストロ:「く……!
『─偽装・“死告の天秤(デス・サイズ)゛─』!!
うおおおおおッ!!」
(カリオストロ、大鎌で“災厄の華”を切りつける。)
♠カリオストロ:「チッ!一撃では大したダメージにはならないか……!
なら!『─偽装・“白銀流星雨(クラウ・ソラス)”─』!!
物量でッ!!はああああああああああああッ!!!!」
(無数の短剣が“災厄の華”を切りつける。)
♠カリオストロ:「これなら!!……ッ!!再生……いや、急速に成長しているッ!!?」
♥モア:『今はなんとか“災厄の華”の防衛機構を抑えているけれど、このままじゃ……!
それにこの近さじゃジュゼちゃんも圧縮に巻き込まれちゃう!逃げて!ジュゼちゃん!!』
♠カリオストロ:「断わる!!『─偽装・“山海を両断せし二振(イガリマ・シュルシャガナ)”─』!!!
はぁッ!でやぁッ!!!」(二振の巨剣で“災厄の華”を切りつける。)
♥モア:『なんで……』
♠カリオストロ:「仲間たちの世界を守りたいと思った気持ちは偽物かッ!!!」
♥モア:『あれはアタシが世界を──』
♠カリオストロ:「今の君に守りたい気持ちは無いのかッ!!!!!!」
♥モア:『────ッ』
♠カリオストロ:「君は何故わざわざ“災厄の華”が再び咲く事を危惧して自滅しようとした!!!
この世界を守りたいからじゃないのか!それも嘘か!?偽物かッ!!!」
♥モア:『それは……!!偽物なんかじゃない!!』
♠カリオストロ:「そうだ!偽物なんかじゃない!本物だ!!
僕は今!“光”の側!!“善き人”を見捨てはしない!!」
(カリオストロ、モアの声の方向へと手を差し出す。)
♠カリオストロ:「そして君は“魔法少女”だッ!!共に世界を救うぞッ!!!」
◇
~災厄の華の内側~
♥モア:「でもアタシは……“本物の魔法少女”じゃ──」
(災厄の華の外側から“古の女幹部の様な女魔族”の声がする。)
♦女魔族:『貴様は“死神系魔王少女”だろ!!!』
♥モア:「え……っ!?だ、誰!?」
♠カリオストロ:『誰この魔族!?』
♦女魔族:『キェーキェッキェッキェッキェッ!!!私様よ!!!!!!!』
♥モア:「貴女は……この間倒した魔族……!?」
♦女魔族:『そうよ!!』
(災厄の華の外側から“なんか目が綺麗な男魔族”の声がする。)
♣男魔族:『私は昼間でも力が減衰しない強い魔族!尚今はあまり関係ない!!
クッフッフッフ……久しぶりだな憎き魔法少女、“死神系魔王少女アンゴル★モア”!!』
♥モア:「この声……記憶にないかも……」
♣男魔族:『初めましてだからね!!!』
♥モア:「え……さっき久しぶりって……」
♦女魔族:『もうアンタは黙っときなさい!!
“死神系魔王少女アンゴル★モア”!!』
♥モア:「!」
◇
♦女魔族:「私様が負けたのは!私様が倒したいのは本物の魔法少女でも、偽物の魔法少女でも無いわ!!
貴女よ!“死神系魔王少女アンゴル★モア”!!
貴女を倒して世界滅茶苦茶にしたいのよ!私様は!!!」
♥モア:『っ!!』
♣男魔族:「だというのになーぜ貴様が世界を滅茶苦茶にしている!!
私を両断したしかめっ面の魔法少女ならいざ知らず、なーぜ貴様なんだ!!」
♦女魔族:「そうよ!!“死神系魔王少女アンゴル★モア”ッ!!
さっさとそこから出て!私様と戦えーッ!!!」
♥モア:『──ッ!!』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(光沙と南米帰りのカリオストロ、魔族たちが“災厄の華”に向かっていく光景を見る。)
♦光沙:「一体何が起きてるの……?魔族たちが、どんどん“災厄の華”に向かっている……?
もしかして自ら“災厄の華”の糧として取り込まれに行ってるの……?」
♠カリオストロ:「“災厄の華”に居る僕からの情報だと魔族たちがモアを説得しているそうだ。」
♦光沙:「説得??何故???」
♠カリオストロ:「くくく……僕には分かるぞ……
何せ、何だかんだ言って僕も“魔の者”……」
♦光沙:「そうなの!?」
(南米帰りのカリオストロ、高揚している。)
♠カリオストロ:「外法に堕ちたとて矜持はある。いや、その矜持に縋り、その矜持の為に存在し続けている!!
今彼らは正に!その矜持が踏みにじられ様としている!!
しかもよりにもよって今まで“阻んできた者”に!!!
耐えられぬ!許されぬ!!黙ってはいられぬッ!!
そうであろう……!同胞たち……!!」
♦光沙:「…………。」
(光沙、呆気に取られていたが正気に戻る。)
♦光沙:「はっ、で、でも!あんな数!しかも中には私が倒した奴も居る!
大体は存在ごと霧散して復活出来ない。強いやつならまた持ち越せるかもだけど、何故こんな短期間で復活出来たの……!!」
♠カリオストロ:「それは────」
(南米帰りのカリオストロ、ある方向を見る。)
♠カリオストロ:「“神(やつ)”のイタズラだろうな!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♣ヴァスタ:「……ふぅー……すっからかんだったけど……“誰かさん”たちのおかげで……なんとかなったな……
メインの力が、“ミクトラン・テクウトリ”……冥界と繋がりが近くて良かったよ……本当に……」
(ヴァスタ、よろよろと立ち上がる。)
♣ヴァスタ:「さあ……この世界は、“君たち”の世界なんだろ……。
頑張って、守りきってくれ……
……カリオストロ伯爵……モミジの事は……たのん──」
間。(ヴァスタ、倒れる。)
♣ヴァスタ:「……だ、ぜ…………がんば……れ…………」
(ヴァスタ、力を使い果たして気を失う。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~災厄の華~
♠カリオストロ:「そういう事だ!モア!!
“僕たち”が求めているのは誰でも無い!本物とか偽物とか関係ない!!
君だ!“死神系魔王少女アンゴル★モア”!!!
そうそう簡単に死ねると思うなよ!!」
♦女魔族:「キェッキェッキェッキェ!そういう事よ!!!」
(カリオストロと“古の女幹部の様な女魔族”、“災厄の華”に攻撃をする。)
♥モア:「…………。」
♥モア:「……ッ!」(目に光が戻る。)
♥モア:「『─“死告の天秤(デス・サイズ)”─』。」
♥モア:「『─“死神は告げる、終焉の始まりを(デッドカウンター・スタート)”─』!」
♥モア:「『“大鎌(だいれん)”!!─“終焉の魔王(アンゴル=モア)”─ッ!!!』」
(大鎌が光輝き、巨大な大鎌の像になる。)
♥モア:「はあああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!」
(モア、大鎌で内側から“災厄の華”を斬る。)
◇
♠カリオストロ:「“災厄の華”が両断された!!!」
(“なんか目が綺麗な男魔族”、ガッツポーズをとる。)
♣男魔族:「やったか!?」
(“古の女幹部の様な女魔族”、警戒を解かない。)
♦女魔族:「いいえ!まだよッ!!」
◇
♥モア:「え!?斬ったそばから再生していく!?
そんな!一年前のよりもしぶといの!?!?」
◇
♠カリオストロ:「モア一人では足らないのか……!
…………ッ!くっ!!四の五の言ってる場合では無いか!!」
(カリオストロ、手を前に突き出す。)
♠カリオストロ:「“偽装”では確実に出力が足らない……ならばッ!!
世界コードハック!僕とモアの個体情報をコリジョンさせ、世界を騙すッ!!
成功しろッ!!『─”死告の天秤(デス・サイズ)“─』ッ!!」
(カリオストロの手元に“モア”の大鎌が顕現する。)
♠カリオストロ:「ぐッ!!!ぐああああああああああああああああああああッ!!!!!
魂ごと焼却されるッ!!!これ程なのかッ!!!“終焉の魔王”の武器とはッ!!!!」
(カリオストロ、全身から血を噴き出す。)
◇
♥モア:「ジュゼちゃん!?
ジュゼちゃんの存在が消えかかってる!?どうしたの!!何があったの!!?」
◇
♠カリオストロ:「気にッするなあッ!!
ぐぅうううッ!!!これでは!!!!どの道ッ、“熱量”が足らないッ!!!」
(妙に連携が取れてそうな男魔族と女魔族が現れる。)
♣男魔族:&♦女魔族:「「はーっはっはっはっ!!」」
♣男魔族:「カリオストロ様!」
♠カリオストロ:「様!?」
♦女魔族:「ワタクシたちの力を使ってくださいませ、かしら!!」
♣男魔族:「おいおいおいおい!そうしたら我ら消えちゃうぜ~~~~!」
♦女魔族:「でもでも!この世界が消えちゃうよりは全然良いかしら~~~!」
♣男魔族:「それもそうだぜ!カリオストロ様!もしも我らが生まれ変わったら、貴方の組織にいれてください!そして!」
(妙に連携が取れてそうな男魔族と女魔族、ビシっとポーズを決める。)
♣男魔族:「幹部昇進!」
♦女魔族:「支部長就任!」
♣男魔族:&♦女魔族:「「スピード出世で良い感じー!!」」
(妙に連携が取れてそうな男魔族と女魔族、エネルギー体になりカリオストロに溶ける。)
♠カリオストロ:「おい!何を勝手なことを!!
だが……!」
(カリオストロ、ボロボロだが少しだけマシになる。)
♠カリオストロ:「『─“死神は告げる、終焉の始まりを(デッドカウンター・スタート)”─』ッ!!!!!!」
♠カリオストロ:「おかげで少々マシになった!組織入り!特等席を用意しておこうッ!!」
(なんか目が綺麗な男魔族、両腕をバッと上げる。)
♣男魔族:「私も君に託そう!我が同胞!
そして!“最強”の戦跡、ここに刻────」
(なんか目が綺麗な男魔族、言い切る前に上半身がエネルギー体になりカリオストロに溶ける。)
♠カリオストロ:「……なんだ……?僕に溶けていく力が一人や二人じゃないぞ……?」
(カリオストロ、周りを見る。)
♠カリオストロ:「っ!!
沢山の我が同胞が……“魔の者”たちが僕の力へと変わっていく……!!」
♦女魔族:「キェッキェッキェッキェ!!」
♠カリオストロ:「っ!」
(カリオストロ、“古の女幹部の様な女魔族”の方を見る。“古の女幹部の様な女魔族”、既に胸からしたが消えている。)
♦女魔族:「私様たちの意思、考えは全員一緒という事よ!」
(“古の女幹部の様な女魔族”、モアの方をビシッと指を差す。)
♦女魔族:「“死神系魔王少女アンゴル★モア”!!
私様が復活するその時まで!この世界を守り続けなさいッ!!!
すべては!!この世界を手にする私様の為にッ!!!」
◇
♥モア:「……分かった……!
けれど!貴女たちにこの世界は渡さない……!」
◇
♦女魔族:「キェーキェッキェッキェッキェ……
……それでこそ……“死神系魔王少女アンゴル★モア”よ……ッ!!」
(“古の女幹部の様な女魔族”、エネルギー体になりカリオストロに溶ける。)
♠カリオストロ:「……受け取ったぞ……我が同胞たち……お前たちの“矜持(おもい)”を!!
モア!!やるぞッ!!」
◇
♥モア:「うん!!」
(モア、構える。)
♥モア:「…………。」
♥椛:ごめんね。エリちゃん、リオちゃん。
♥モア:「『─“死告の天秤(デス・サイズ)”─』。」
♥椛:やっぱり、アタシは魔法少女を辞められないみたい。
♥モア:「『─“死神は告げる、終焉の始まりを(デッドカウンター・スタート)”─』!」
◇
♠カリオストロ:「『“大鎌(だいれん)”!!─“終焉の魔王(アンゴル=モア)”─ッ!!!』」
(カリオストロ、斬りかかる。)
♠カリオストロ:「はあああああああああああああああああああああああああッ!!!」
◇
♥モア:「はあああああああああああああああああああああああああッ!!!」
(“災厄の華”、伐採される。)
♣ヴァスタ:二人の斬撃が“災厄の華”を伐採し、世界を侵食していたテクスチャは剥がされ、元の町に戻っていく。
こうして、世界は救われた。
♥モア:「はぁ……はぁ……はぁ……やった……やったよ……ジュゼちゃ──」
間。
♥モア:「……ジュゼちゃん……?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♠カリオストロ:「ああ……駄目だったか……魂の焼却が止まらない……
これは……もう……」
間。
♠カリオストロ:「すまない……僕の組織入りを志願してくれた同胞たち……
すまない……モミジ……別れの言葉くらい、送りたかったが……」
間。
♠カリオストロ:「……まあ……なんだ……たった数日だったが……とても……楽しかったぞ……」
間。
♠カリオストロ:……誰だ……あれは……赤と……青の……魔法少女……?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♦光沙:あれから、三ヶ月後。
~真夜中、町中~
(妙に鼻の高い男魔族、何かをばら蒔いている。)
♣男魔族:「コノ町ニ、毒撒キマース!!
明日、コノ町ノ住人、一日中、オ腹イタイイタイネー!!」
(妙に鼻の高い男魔族、転ぶ。)
♣男魔族:「アウチッ!
イェテェテェ……ッテ!ワタシノ両足ガ切ラレテルデース!!」
(光沙、現れる。)
♦光沙:「アンタ。」
♣男魔族:「ヒィ!!」
♦光沙:「滅茶苦茶悪い魔族じゃない。」
♣男魔族:「オーノー……ワ……ワタシ……ニホンゴ、ワカリマ──」
♦光沙:「『─”白銀流星雨(クラウ・ソラス)”─』。」
(無数の剣が“妙に鼻の高い男魔族”を蜂の巣にする。)
♣男魔族:「オウ!ソーリ~~~~~~~~~!!!」
(妙に鼻の高い男魔族、消える。)
♦光沙:「はあー…………あ、普通に力を受け取っちゃダメなんだっけ。
……あー……面倒くさいし──」
♥モア:「ダメですよ!」
(モア、光沙の下へ降りてくる。)
♦光沙:「ちっ……」
♥モア:「ちゃんとこのペンダントでろ過して余分な“魔力”を世界に還元しないと、また“災厄の華”が咲いちゃいます!」
♦光沙:「もっと七面倒臭い奴が来た……。
私とアンタとは別行動。それが、私がこの町で魔法少女を続ける条件でしょ。しっしっ。」
♥モア:「そんな事言わないでくださいよ……
それに、アリサさんが魔法少女続けてるのは罪滅ぼし的な面の方が──」
♦光沙:「魔法少女になるくらいなら潔く死刑で良いって言ったのにアンタが死ぬなって食い下がってきたんでしょうが!
あと、続けてるのは“私の目的”の探索に都合が良いからだから。」
♥モア:「“あの子たち”の言ってる事が本当なら可能性はありますもんね!」
♦光沙:「はぁ……まさか、あの後に本物の“光の精霊”たちがやってきて、裁判に掛けられるとは思わなかった……。」
♥モア:「あはは……“あの子たち”、小柄でマスコットっぽいのにマッチョで甲冑着た子たちとか居て、普通に怖かったですね……」
♦光沙:「そうね……
それにしても、このペンダント凄いね。“光の精霊”たちも大絶賛だった。
ねえ、アンタ、本当に何者なの?」
(ジュゼちゃん、ひょこっとモアの後ろから現れる。)
♠ジュゼちゃん:「大天才ということだけ言っておくじゅぜ……
君たち、“正規ではない”魔法少女は、本来あるはずの循環システムが無かったじゅぜから、それを外付けしただけじゅぜ……
安全装置として、そのペンダントを身につけていないと変身出来ない様にもしといたじゅぜ……」
♥モア:「ねえ、ジュゼちゃん。なんでずっと機嫌悪いの?」
♠ジュゼちゃん:「どうしても何も……またこの姿に戻ってるからじゅぜ!!
魂が九割くらい焼却されてたのに生きていられたのは僥倖(ぎょうこう)じゅぜが、なんでじゅぜー!」
♥モア:「あはは……で、でもその姿も可愛いよ?」
♦光沙:「その姿でも役に立つんだから良いじゃない。」
♠ジュゼちゃん:「そういう問題じゃないじゅぜ!」
(ジュゼちゃん、天を仰ぎながら叫ぶ。)
♠ジュゼちゃん:「おのれー!ヴァスターーー!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~町のどこか~
♣ヴァスタ:「へっくしょん!」
間。
♣ヴァスタ:「え?いや、風邪じゃないさ。どっかの面白生物が愚痴ってんだろ。
……ところでさ……この部屋、簡易的に冥界化してるけれどさ、現し世なの。
なんで君たちまだ居るの?」
間。
♣ヴァスタ:「は?アリサとモミジの今の様子と、“今回の件の話”を聞かせろ???
知らない知らない。」
間。
♣ヴァスタ:「ちっ!!うるさいなぁ!!!良いよ!分かったよ!!
……君たちが弱っていた俺に力を貸してくたから解決出来たワケだしね……ほら、そこ座れよ。」
間。
♣ヴァスタ:「話してやるよ。
君たちの仲間、“魔法少女を辞められなかった”少女たちの、物語を。」
───────────────────────────────────────
END