[台本]黎明─再翻訳版─
○糸女 輝美(いとめ きみ)
19歳、女性
大人しくしてた恋する乙女。
○冬台 輝美(ふゆうてな てるみ)
19歳、女性
一人しか見てない男前少女。
○山路 凪子(やまじ なこ)
19歳、女性
有象無象、ナレーションの役割。
糸女 輝美♀:
冬台 輝美♀:
山路 凪子♀:
※1.終盤に“きみ”でも“てるみ”でもある“輝美”という表記があります。
きみ役、てるみ役の方はどうするか事前に話し合っておく事を推奨します。
※2.こちらの「緩々百合心中─再翻訳版─」を読んでいただくと、より理解がしやすいかもしれません。
↓これより下が台本本編です。
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~大学構内、講義中~
(きみ、てるみ、講義を受けている。)
てるみ:「…………。」
きみ:「……。」(きみ、てるみの事を見ている。)
凪子:どんな時でもカッコイイあなた、誰にも曲げられないあなた。
てるみ:「……ん。なに、きみ。」
きみ:「ううん、なんでもないよ。」
てるみ:「そ、だったらちゃんと先生の話聞きな?
きみは阿保なんだから。」
きみ:「え、ひっどーい。」
てるみ:「事実じゃん。
ほら、集中して。」
きみ:「はーい。」(少しすね気味。)
(きみ、前を向く。)
てるみ:「……。」(てるみ、きみの事を見ている。)
凪子:誰からも愛されているのに、誰からも嫌われているきみ。
てるみ:「ホンット……キッショイなぁ……」(小声)
間。
凪子:「……………………。」(ハッとした顔で二人を見ている。)
間。
てるみ:なんでこんなにも、上手く行かないんだろうなぁ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(きみ、てるみ、陽が昇る前、何処かの屋上で肩を寄せて座っている。)
きみ:「…………。」
てるみ:「…………。」
きみ:嗚呼──
てるみ:また朝が──
きみ:──来てしまう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~朝、大学構内~
(きみ、廊下を歩いている。)
凪子:「糸女(いとめ)さーん!」
きみ:「あ、おはよう!」
凪子:「おはようイトメさん。
……あ……眼鏡辞めたんだね。」
きみ:「あ、うん。
鼻の上の所が痛いのがちょっと悩みだったし、
イメチェンしようと思って──」
凪子:「眼鏡有った方が可愛いよ。」
きみ:「え……そ、そうかな。」
凪子:嘘。
凪子:「そうだよ!
せっかくだし新しい眼鏡にしようよ。
あ、そうだ!今度一緒に眼鏡選びに行かない?」
きみ:「え、え、え。」
凪子:「じゃあ決まりね!!」
きみ:「え、ま、まだ私──」
てるみ:「きみは行くって言ってないじゃん。」
(てるみ、割って入ってくる。)
きみ:「あ……」
凪子:「ふ、冬台(ふゆうてな)さん……。」
てるみ:「で、どうするの、きみ。」
きみ:「あー……えっと……かんがえとく……かな?」
てるみ:「そ。
アナタもそれで良い?」
凪子:「え、まあ……うん。」
てるみ:「ヨシ。
ついでにきみ借りてくから、じゃ。」
(てるみ、きみの手を引いて去る。)
きみ:「わ!」
凪子:「…………。」
間。
凪子:“糸女 輝美(いとめ きみ)”と“冬台 輝美(ふゆうてな てるみ)”。
高校からの仲で、名前の漢字が同じだから──
凪子:『“あれ?どっちがてるみさんで、どっちがきみさんだっけ?”』
凪子:──そんなやり取りがよくあった。
とても仲の良い二人。二人はいつも一緒。
(てるみ、きみの手を引いて歩いてる。)
きみ:「……。」
てるみ:「……。」
きみ:「て……てるみちゃん……」
てるみ:「ウチは良いと思うよ。」
きみ:「……?」
てるみ:「目。」
きみ:「め?」
てるみ:「眼鏡外した今のきみの事。」
きみ:「あ、ああ!
ありがとう!てるみちゃん!!」
てるみ:「ふふ。」
凪子:けれど、彼女たちを周りは、その関係を良しとはしなかった。
間。
凪子:何故か?
間。
凪子:「なんか気に食わないから。」
間。
凪子:ただそれだけ。
間。
凪子:「えぇ?ひどい??」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
てるみ:「人間なんてそんなもんでしょ。」
きみ:「そうかなー?
私はもっと善性の生き物だと思ってるけどなー」
てるみ:「ふーん、好意的に考えてるんだね。
なんでそう思うの?」
きみ:「え、な、なんで……
う~~~~~~~ん……」
間。 ~真夜中、何処かの屋上~
きみ:「そうであって欲しいから?」
てるみ:「…………はぁー……まあ、そうであっては欲しいは欲しいけどねぇ……」
凪子:二人はいつも一緒。
大学が終わって夜も更け、真夜中、別に示し合わせるワケでも無く、
同じビルの屋上で肩を寄せ合ってお喋りをする。
毎日、毎日毎日。
てるみ:「…………てか。」
きみ:「ん?」
てるみ:「結局眼鏡に戻したんだ。」
きみ:「あー……うん。
皆がこっちの方が良いって言うからさ。」
てるみ:「皆……か……。
ま、どっちにしても、きみは似合ってるよ。」
きみ:「えへへーありがとー」
てるみ:「…………。」
てるみ:「なんて煽(おだ)てられたの。」
きみ:「おだて……誰に?」
てるみ:「はあ?そりゃ“皆”に決まってるでしょ。
なに?“眼鏡の方が知的に見えるよー”とでも言われた?」
きみ:「…………うん!そう!そんな感じ!」
てるみ:「……。
別に眼鏡しようがしまいがきみは阿保のまんまだけどね。」
きみ:「もー!ひどーい!!
眼鏡してる時の方がやっぱり頭良い気がするもん!」
てるみ:「そう思うんだったら来週の経営学の小テストでウチより良い点採れ。」
きみ:「え~てるみちゃんいつも満点じゃーん。
むーりーでーすー」
てるみ:「せめてポーズだけでも取って見せろって言ってん、の。」(きみにデコピンをする。)
きみ:「あいたっ!
うぅ……てるみちゃんのデコピン痛すぎるよ……。」
てるみ:「ウチのデコピンはピストルより強いぞ。」
きみ:「それデコピンしちゃダメなやつだよ。」
てるみ:「ああ、それ知ってるんだ。」
きみ:「え?」
てるみ:「きみってこういうの疎いイメージなんだよねー
てか、きみの趣味ってよくわかんないな。
何が好きなの?」
きみ:「え、えぇ……っと……」
間。
きみ:「分かんないや。」
てるみ:「はぁー?」
きみ:「でっ、でもでもっ、てるみちゃんとお話するのは好きだよっ?」
てるみ:「あ?ん?ああ??
そういうのじゃなくて趣味の話。」
きみ:「わ、わかってるよぉ!
……でも……趣味……
……てるみちゃんは身体動かすの全般好きだよね。」
てるみ:「そだね。
特にバスケ。」
きみ:「部活に入ってたもんね。
私は帰宅部だったからなー」
間。
きみ:「私、何も無いなー……」
てるみ:「…………。」
間。
てるみ:「そろそろ、日が昇るね。」
(きみ、立ち上がる。)
きみ:「そうだね。」
(てるみ、立ち上がる。)
てるみ:「じゃ。」
きみ:「またね。」
凪子:そうやって二人は別々に、散り散りになっていく。
非日常から、日常に引き戻されていく。
二人だけの世界が、陽の下に晒されてしまう前に。
間。(てるみ、町を歩いている。)
てるみ:「……。」
きみ:『あー……うん。
皆がこっちの方が良いって言うからさ。』
てるみ:「……。」
きみ:『でっ、でもでもっ、てるみちゃんとお話するのは好きだよっ?』
てるみ:「…………ハァーーーーーーー……」(頭をガジガジと掻く)
間。
てるみ:「…………あーあ。」
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~大学構内、講義中~
きみ:「…………。」
凪子:「…………眼鏡に戻したんだね。」
きみ:「え?……あ、うん。」
凪子:「…………やっぱりそっちの方が良いよ。」
きみ:「ありがと。」
凪子:「…………。」
間。
凪子:「……ねえ。」
きみ:「……なに?」
凪子:「フユウテナさんってどう思ってるの。」
きみ:「…………え?それは、どういう……。」
凪子:「イトメさんとフユウテナさんってセットって感じがするから。」
きみ:「…………み、皆と一緒、だよ……普通……。」
凪子:「………………そう。」
間。
凪子:「イトメさん。」
きみ:「……なに?」
凪子:「今日さ、フユウテナさん借りても良い?」
きみ:「……え?」
間。
きみ:「なんでわざわざ私に聞くの?」
凪子:「んー?さっきと一緒。
イトメさんとフユウテナさんってセットって感じがするから。」
間。
きみ:「…………。」
凪子:「…………。」
きみ:「そ、そんなこと、ない、よ。
……そうだとしても、てるみちゃんに直接言った方が良いと思うよ。」
凪子:「……。」
間。
凪子:「そうだね。そうするよ。」
きみ:「……うん。」
間。(予鈴が鳴る。)
凪子:「あ、講義終わったね。
じゃあね、イトメさん。」
きみ:「…………。」
間。
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~どこかの喫茶店~
凪子:「来てくれてありがとう、フユウテナさん。」
てるみ:「……で、何の用?」
凪子:「…………。」
てるみ:「……。」
凪子:「ただ一緒にお茶して欲しいなって思っただけ。」
てるみ:「そ。」
間。
てるみ:「“ストジェビューなブレンドコーヒー”を一つ。」
凪子:「私はダージリンティーをお願いします。」
てるみ:「……。」
凪子:「…………ねえ、何考えてるの。」
てるみ:「店長さん、胸でっかいなぁって。」
凪子:「……。」(店長を見る。)
凪子:「あれは胸は胸でも胸筋、雄っぱいだよ。」
てるみ:「そこはどうでもいいよ。」
凪子:「……。」
凪子:嘘つき。
てるみ:「改めて、何の用。」
凪子:「だから、ただ一緒にお茶して欲しいなって思っただけだってば。」
てるみ:「じゃ、珈琲飲んだら帰るわ。」
凪子:「そんな事言わないでよ。」
間。
凪子:「つれないなー」
てるみ:「ウチは魚じゃない、当然じゃん。
……にしてもアナタ、良い店知ってるんだね。」
凪子:「え?」
てるみ:「ここ、調べたけど、特別評価が良いってワケじゃないのに、
内装は綺麗で落ち着いてて…………
……店長さんは胸でかいし。」
凪子:「男だけどね。」
間。
凪子:「まあ、たまたま、ね。」
てるみ:「ふーん
……あ、ありがとうございまーす(店員に向かって)」
間。
てるみ:「…………。」
凪子:「……またよそ見してる。」
てるみ:「……いや、マジででかいなって。」
凪子:「よく鍛えられてるよね。」
てるみ:「ちがうちがう、あっち。」
凪子:「……。」(てるみが指差した店員を見る。)
凪子:「あれは………………凄いね……。
というかフユウテナさん、さっきからおじさん臭いよ。」
てるみ:「何か問題が?」
凪子:「……いや、意外だなって思ったかな。
フユウテナさんってもっとクールなイメージだったから。」
てるみ:「ハッ……クール……笑わせてくれるじゃん。」
間。(てるみ、ふーふーして珈琲を一口飲む。)
てるみ:「ま、人からの印象とか、どーでもいいけど。」
凪子:“糸女 輝美(いとめ きみ)”以外……でしょ。
凪子:「ふふ、やっぱりクールだね。」
てるみ:「好きに思ってれば。」
凪子:「…………。」
凪子:「私、思うんだよね。
フユウテナさんって特別な人だなって。」
てるみ:「……。」
凪子:「そんなフユウテナさんに思われてる人って、きっと特別な人なんだろうなって。」
てるみ:「……フッ……ウチは特別なんかじゃないよ。
アナタが勝手に特別視してるだけ。」
凪子:「…………。」
凪子:この人は、ずっと糸女 輝美(いとめ きみ)の事を考えてた。
店長さんの胸に言及してた時も、このお店の事を聞いた時も。
──嗚呼、何も無い人なのに。
間。
凪子:……あ、そうだ。
間。
凪子:「ねえ、イトメさんはフユウテナさんのこと──」
てるみ:「じゃ、飲み終わったし、帰るわ。」(立ち上がる。)
凪子:「な……っ!本当にっ──」(立ち上がる。)
てるみ:「良いお店教えてくれてありがとう。
ここの会計済ませとくよ。」
(てるみ、伝票を持って去る。)
凪子:「…………。」
間。
凪子:「……ああー…………」
(凪子、力無く座る。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(きみ、てるみ、陽が昇る前、何処かの屋上で背中を合わせて座っている。)
きみ:「ねえ、神様ってどんな見た目だと思う?」
てるみ:「なにその質問。」
きみ:「気になっちゃって。」
てるみ:「う~~~~ん、そうだなー」
間。(きみ、てるみ、向かい合う。)
てるみ:「例えば、旧約聖書の中の神様は自分に似せてアダムを作ったらしいから、
ウチらと似てるだろうなぁ。」
きみ:「うんうん。」
てるみ:「日本やギリシャ、ローマの神様のほとんども人型だし、
北欧神話やインド神話のもなんだかんだで人っぽいの多いなぁ。」
きみ:「なんだ、結構人型なんだね。」
てるみ:「そだねー
強いて言えばアニミズム的思想やら、
現存神話のアンチテーゼでのクトゥルフ神話、スパモンとかは人型じゃないけど。」
きみ:「すぱもん?」
てるみ:「世界は広いな。」
きみ:「????」
てるみ:「気にしないの。」
(てるみ、きみの頭をわしゃわしゃする。)
きみ:「うわああ~~~」
てるみ:「ははは……!
ホント、きみは色々な事が気になるなぁ。阿保なのに。」
きみ:「うるさいなぁ。
色々と考えちゃう年頃なのっ。」
てるみ:「へぇ~~~
ウチは──」
間。
てるみ:「……いつもぼーっとして生きてるけどなぁ。」
きみ:「そうなの?てるみちゃん、いつも考え事してるってイメージだったけどなぁ。」
てるみ:「実はそんなに何も考えてないなぁ。」
きみ:「……じゃあ、神様も何も考えてなかったのかなぁ。」
てるみ:「……。」
きみ:「……。」
てるみ:「そうかもだなぁ。
天地創造なんて、七日っていうか、六日でやったらしいし。」
きみ:「えぇ!いい加減!!」
てるみ:「でしょ~~~?
しっかりと計画立てて時間掛けてやれやって思うわぁ。」
きみ:「あーあ、神様がもっとしっかり者だったらなぁ~」
てるみ:「…………。」
きみ:「…………ねえ、てるみちゃん。」
てるみ:「なに。」
きみ:「……。」
てるみ:「……。」
きみ:「……私がいつか皆に軽蔑されて、否定されて、死にたくなったら、どうする。」
てるみ:「その時は、ウチも一緒に死ぬ。」
きみ:「……。」
てるみ:「……。」
きみ:「……。」
てるみ:「……。」
きみ:「……日が昇るね。」
(きみ、立ち上がる。)
てるみ:「…………そうだね。」
(てるみ、立ち上がる。)
きみ:「じゃあ。」
てるみ:「また。」
凪子:そうやって二人は別々に、散り散りになっていく。
非日常から、日常に引き戻されていく。
二人だけの世界が、陽の下に晒されてしまう前に。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~大学構内~
凪子:「…………。」
間。
てるみ:「きみー三限の西洋史の小テストの勉強ちゃんとしたー?」
きみ:「え!?しょしょしょ小テスト!?するって言ってたっけ!?」
てるみ:「言ってないよー」
きみ:「もお~~~~!!」
間。
凪子:「…………。」
凪子:嗚呼、気持ち悪い。
きみ:どんな時でもカッコイイあなた、誰にも曲げられないあなた。
凪子:気持ち悪い。
てるみ:誰からも愛されているのに、誰からも嫌われているきみ。
凪子:気持ち悪い。
間。
凪子:「気持ち悪いなぁ……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~大学構内~
凪子:「ねえ、イトメさん。」
きみ:「なに?
…………こんなに人が沢山……なに……?。」
(きみの周りを大勢の人が囲む。)
凪子:「イトメさんってフユウテナさんと仲良いよね。」
きみ:「え……あ、う──」
凪子:「でもフユウテナさんはそうは思ってないみたいだよ。」
間。
きみ:「……………………え……?」
凪子:「フユウテナさん言ってたよ。“本っ当にきっしょいなぁ”って。」
きみ:「う、うそ──」
凪子:「嘘じゃないよ、本当の事。
フユウテナさんは…………てるみさんは貴女の事気色悪いってさ。」
きみ:「…………。」
凪子:「なんでそう言われてるか、イトメさん分かる?」
きみ:「わ……わかんないよ……」
凪子:「イトメさん、てるみさんの事、好きなんでしょう。」
間。
きみ:「……えぇ……ッ」
間。(周りの人達がざわつく。)
凪子:「へーやっぱり否定しないんだ。」
(周りの人達が騒ぎ出す。)
凪子:騒ぎ出す有象無象。
そんな有象無象が“糸女 輝美(いとめ きみ)”に向ける視線。
それは好奇、それは侮蔑、それは嘲笑、それは──
凪子:「けれど、てるみさんは貴女の事嫌いだよ。」
きみ:「……ッ」
凪子:「大体、女同士なのに、しかもいつも仲良しな子に、性的に、愛欲を向けるなんて、
本っ当に気持ち悪いね。」
きみ:「……あ……ああ……」(狼狽して嗚咽を零す。)
凪子:有象無象の声は更に大きく、激しく姦しくなる。
誰からも愛されていたのに、誰からも嫌われて嘲笑われるきみ。
何も持っていない癖に、彼女と居る時は満たされている様な顔をする女。
凪子:「あ、でも、そうだった。
イトメさんはてるみさんのこと、“皆と一緒で普通”とも言ってたね。」
間。
凪子:「どっち?」
きみ:「……。」
凪子:さあ、何も無い、特別でもなんでも無いきみ。
安全に流されて、安心に落ちて、有象無象になろう。
きみ:「わ……私は……」
凪子:「えぇ?なにぃ?」
きみ:「私は……てるみちゃんが……好き……」
凪子:「…………え……。」
きみ:「私は、てるみちゃんが好き……!」
(周りの人達が静まり返る。)
凪子:「…………。」
凪子:なんで?
何も持っていない貴女は、いつもみたいに私たちに流されて、彼女を否定する。
……そういうものでしょ?そういう流れでしょ?
きみ:「あなたたちに笑われても……嫌われても……!
私がてるみちゃんのこと好きなことは否定出来ない……!!」
てるみ:「そういうことは本人に直接言うもんだよ。」
(てるみ、現れる。)
凪子:「て……てるみさん……。」
きみ:「あっ……てるみ……ちゃん……。」
てるみ:「……。
なにー?そんな怯えた顔して。」
きみ:「…………ご、ごめ──」
てるみ:「ウチもだよ。」
凪子:「ッ!!」
きみ:「…………え……?」
てるみ:「ウチも、きみの事が好き。」
間。
凪子:静まり返っていた有象無象は、再び騒ぎ出す。
嘲る者、問い質す者、嫌悪する者、様々な声への返答は無く、ただ鳴り続けるばかり。
てるみ:「あ~~~も~~~うるさいなぁ~~~~
てか、なんなのアンタら?」
凪子:「ねえ!!」
てるみ:「あ?」
凪子:「貴女コイツの事“ホンットキッショイ”って言ってたじゃん!!
なのになんで!!!?」
きみ:「……っ」
てるみ:「はぁ?何の話をしてんのアンタ。」
間。(てるみ、きみの方を見る。)
てるみ:「まあ、きみはいつもうじうじしてるし、
ウチの言うことより他人の言うことの方を優先する事が多くて、
ホンットにキッショイけどねぇ。」
きみ:「……。」
凪子:「じゃあ!なんで!!」
てるみ:「それでもだ。」
凪子:「ッ」
てるみ:「それでも、ウチはきみが好き。」
凪子:「……ッ」
凪子:どんな時でもカッコイイあなた、誰にも曲げられないあなた。
色んなものを持っているのに、彼女と居る時しか笑わないあなた。
けれど、有象無象にはそんなあなたの在り方など関係無い。
有象無象の攻撃は二人に向かう。
それは好奇、それは侮蔑、それは嘲笑。それは──否定。
凪子:『気持ち悪い。』
凪子:『馬鹿みたい。』
凪子:『消えろ。』
間。
きみ:「……てるみちゃん……。」
てるみ:「………………。」
凪子:“糸女 輝美(いとめ きみ)”は震えていた。
拒絶、悪意、蔑視。
彼女が想像していた通り、世界は彼女たちを軽蔑し、否定した。
てるみ:「……そうだね。
きみ、行こ。」
(てるみ、きみに手を差し伸べる。)
きみ:「…………うん、行こう。」
間。(きみ、てるみ、去る。)
凪子:「……え。」
凪子:「……あ。」
凪子:二人が居なくなっても、有象無象は姦しく彼女たちを嘲笑う。
これから起こる事を想像せず、想像出来ずに日常へ帰っていく。
凪子:「…………そんな……私……そんなつもりじゃ……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
凪子:二人は今日も何処かの屋上で集うだろう。
だけど、今日はなるべく高い、高い、高い所に。
これで、これまでを最期にする為に。
きみ:「……最初はそんなてるみちゃんさえ居てくれれば生きていけるって思ってた。
けれど、この世界は私とてるみちゃんだけの世界じゃない。
他の人がいる。他の物がある。
私たち以外が拒絶してくるこの世界で生きて行ける自信が無い……
……ごめんね……私、弱くて……」
てるみ:「別に良いよ。」
きみ:「……てるみちゃんは良いの……?私に付き合って死んじゃって……」
てるみ:「いいよ。」
凪子:私はただ魔が差しただけだったのに。
きみ:「……えへへ……ごめんね。
…………てるみちゃん、ありがと。
てるみちゃんのおかげで少し怖くなくなった。」
てるみ:「……そか。」
きみ:「…………。」
てるみ:「きみ。」
きみ:「……なに?」
てるみ:「俯くな。
ウチらは今から死ぬけど、楽しいこれからの為だからさ。」
きみ:「……うん。終わるんだね。」
てるみ:「ちがうよ。始まるんだ。」
きみ:「あはは!そうだね。
じゃ、始めよっか。」
てるみ:「おう。」
きみ:「…………ねぇ、てるみちゃん。手、握って?」
てるみ:「……相分かった。」
凪子:一人と一人では欠けたままの二人。
なのに、その欠けた部分を埋める様に一緒に居る。
私はそれが、なんとなく、嫌だった。気持ち悪かった。ずるいと思った。
(きみ、てるみ、陽が昇る前、何処かの屋上で手を繋いで下を見ている。)
きみ:「…………。」
てるみ:「……なあ!せっかくだし思いっきり飛ぼ!」
きみ:「思いっきり?」
てるみ:「おん!なんだっけ?なんかアニメだか漫画で見たんだけど、
きらきらジャンプってやつで行こうよ。」
きみ:「あっはっは!何それー
何?それってどうやるの?」
てるみ:「まぁ、とにかく楽しそうに飛べばいいんだよ。」
きみ:「ふふふ、分かった!」
てるみ:「よし!じゃあ準備良いか?」
きみ:「うん!」
てるみ:「行くぞ~~!」
きみ:「1!」
てるみ:「2の!」
きみ:、てるみ:「「3!!」」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
凪子:嗚呼、私は愚かな有象無象と一緒だ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~摩天楼と地上の狭間~
きみ:私は怖かった。世界に否定されるのが。
けれど、貴女は私の“好き”を受け入れてくれた。
てるみ:本当にうじうじしていたのは自分だ。上手く行かない理由は自分だった。
貴女に否定されるのが怖くて、自分から彼女の手を引く事が出来なかった。
きみ:いつも貴女は私を受け入れてくれていた。
今更、やっと気付いたんだ。私は愛されていたんだ。
てるみ:こんな事になる前に、ウチが彼女への愛を口にしていれば。
すべては変わっていたのだろうか。
きみ:嗚呼──
てるみ:嗚呼──
きみ:何もかも──
てるみ:遅すぎたんだ。
きみ:世界がとか皆がとかがじゃない。
てるみ:自業自得なんだ。
間。(きみ、てるみ、抱き合う。)
てるみ:「きみ。」
きみ:「てるみちゃん。」
きみ:&てるみ:「「好きだよ。」」
間。(■■、■■■、■■■■■■。)
輝美:嗚呼──どうしても、どうしても──
輝美:もしもを想像してしまう──
輝美:世界に否定されなかった日々を──
輝美:何もかも都合が良い未来を──
輝美:貴女と一緒の食事。
輝美:貴女と一緒の旅。
輝美:知らない町を歩く貴女。
輝美:海辺ではしゃぐ貴女。
輝美:星空に見惚れる貴女。
輝美:幸せそうに笑う貴女。
きみ:てるみちゃん──
てるみ:きみ──
間。
てるみ:じゃあ──
きみ:またね。
間。
きみ:出来れば──
てるみ:本当は──
輝美:死んで欲しくなかったなぁ。 輝美:生きていて欲しかったなぁ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~夜明け前~
凪子:「ハァ……ハァ……ハァ……!」
(凪子、ボロボロになりながらも休みなく二人を探して走り回っている。)
凪子:後悔とは何故いつだって事後なのだろうか。
何故事前に察知出来ないのだろうか。
いいや、むしろ、だからこそ、“後に悔やむ”と書くんだろう。
凪子:「ハァ……ハァ……ハァ……!」
凪子:自業自得で、私が欲しかったものを全て失う事になるんだ。
凪子:「ハァ……ハァ……ハァ……!」
(何かが勢い良く落ちてくる音がする。)
凪子:「ッ!!!」
間。
凪子:「あ……………………ああ…………あああ……!」
間。
凪子:朝日が、昇る。
───────────────────────────────────────
END