[台本]海嘯(かいしょう)を前に、一杯。
あらすじ
直径約13kmの巨大隕石が迫ってくる。
理論を凌駕する。狙撃が無に帰す。
隕石地上落下まで、約5分。
長い5分間だった。
再計算する。再装填する。
削った。
逸らした。
────隕石は、地上ではなく海上へ。
そして────
〇操縦士
年齢不詳、性別不問
〇理論屋
年齢不詳、性別不問
操縦士 不問:
理論屋 不問:
※口調や一人称は演者様のやりやすいように変更してくださって構いません。
↓これより下が台本本編です。
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操縦士:全てを割らんばかりの衝撃波の後、轟音が耳を劈く。
理論屋:それは、この星を巨大隕石から救うべく健闘していた私たち二人の、敗北の報せであった。
操縦士:隕石は海へ落ち、世界中を飲み込まんとする高波を上げる。
理論屋:私たちは、隕石降下地点から最も近い人類。
波がここを飲み込むまで、約20分。
操縦士:絶望の最前線。地獄から真っ先に抜け出せる位置に居る。
だから僕たちは────
間。
理論屋:「おぉ~」
(操縦士、隣から気の抜けた音が聞こえ、ゆっくりとそちらを見る。)
操縦士:「…………。」
理論屋:「すごいな。」
(理論屋、ビーチチェアを出して深々と座る。)
理論屋:「……っしょ。」
操縦士:「…………何やってんだ……アンタ……。」
理論屋:「ん?
…………。
思ったよりも良い景色で、つい。」
間。
理論屋:「ねぇ。話そ。」
間。
理論屋:「もう助からないんだしさ。」
操縦士:「………………それもそうか。」
理論屋:「ビーチチェアもう一つあるから。」
操縦士:「うん。」
(操縦士、ビーチチェアを組み立て、座る。)
理論屋:「お酒飲む?冷えてるよ。」
(理論屋、クーラーボックスを操縦士に見せる。)
操縦士:「準備良いな。」
理論屋:「まぁね。
世界救ったら一緒に一杯しようと思ってたからさ。」
操縦士:「ぷっ……なるほどね。」
(操縦士、理論屋から酒を受け取る。)
理論屋:「んじゃ。」
操縦士:「おう。」
(操縦士と理論屋、同時に。)
操縦士:「完敗。」
理論屋:「完敗。」
(操縦士と理論屋、同時に飲む。)
操縦士:「……っふはぁー……
…………いやぁ~~~~……世界救いたかったなぁ。」
理論屋:「分かりみだわぁ。
どうすりゃ良かったのかなぁ。」
操縦士:「僕たち全力尽くしたし、仕方なかったんじゃない。」
理論屋:「……そうだねぇ。
たった二人で、よく頑張ったよね。」
操縦士:「……予測じゃ、人が居る所に落ちる筈だったモンを、海に落とせたんだ。十分さ。」
理論屋:「…………ま~~~~……そのままの方がマシだった可能性も無くはないけれどね。」
操縦士:「けど、地上に落ちてたら、衝撃波と熱波が一瞬で世界を巡ってたんだろ?
多少はマシさ。」
理論屋:「一瞬で終わるか、時間を掛けて終わるか、それだけの違いだもんねぇ。」
操縦士:「…………そもそも、あれに対処してるのが僕たちだけなのおかしいって。」
理論屋:「それはそう。
けども、まぁ……。」
(理論屋、伸びをする。)
理論屋:「私たち2人だけでも、80億の全人類が協力していても、
多分あんま変わんないって。」
操縦士:「……。」
間。
操縦士:「そっかぁ。」
間。(操縦士と理論屋、椅子に深く座る。)
操縦士:「僕さ。人類滅亡が確定したらもっとパニックになると思ってた。」
理論屋:「私も。
もう涙と鼻水で顔面ビシャビシャになってムンクの叫びLv.五十垓くらいなるって想像してた。」
間。
理論屋:「あれが近付いて来るにつれて、沢山想像して、シミュレーションしちゃってたからかな。
だから、思ったよりも平静だったって感じ。」
操縦士:「分かる。僕も沢山考えてた。失敗した後のこと。
けど、実際失敗してみると、何も出来ねぇーって思ったね。」
間。
操縦士:「でも、失敗する時ってこんなもんだよね。
思ったより冷静というか、頭が冴えているというか。」
理論屋:「想定してなかった失敗だったら本当に頭真っ白になるけれど、
今回みたいな場合はそういうもんだよ。」
間。
理論屋:「……あー…………でも、一回だけ。想定してたのに、頭が真っ白になった失敗があったな。」
操縦士:「え。今よりも悲惨な事あったの?」
理論屋:「いいや?全然しょうもないよ。
大学を中退した時は頭が真っ白になった。」
操縦士:「あ~~~~……人によっては世界が終わるより悲惨だったりするし。」
理論屋:「はははは!そうかもね!
けど、私にとってはそうでも無くて。
中退しそうだなぁって時に、中退してしまった後の事を色々考えてた。
どうやって生活するかとか、仕事はどうするか、とか。」
間。
理論屋:「だけど、大学中退した事、両親に言った時、
頭が真っ白になって泣いちゃったんだよねぇ。」
操縦士:「……。」
理論屋:「……そんな私が、世界を救う最前線に居るなんてねぇ。」
操縦士:「もう失敗した後だけどね。」
理論屋:「うるさいなぁ。」
操縦士:「でもまあ、世界滅亡でも大学中退でも、”何もできねぇー”ってなるのは一緒だ。」
理論屋:「そうだねぇ。」
(操縦士と理論屋、同時に飲む。)
操縦士:「…………両親……両親……
……あー……この事態って、世界中でどう取り沙汰されてるのかな。」
理論屋:「んー…………一応秘密扱いだったし。
案外……んなワケ無いか。」
操縦士:「流石にね。
あの巨大さだし、世界中揺れてたんじゃない?」
理論屋:「じゃあ世界中大パニックかぁ。」
操縦士:「そうだな……。
…………うーん、当然だけれど、圏外で何も映んないわ。」
理論屋:「圏外じゃなくてもあの衝撃波の後じゃ電波死んじゃってるよ。」
操縦士:「そっか。」
間。
理論屋:「なんで両親で引っかかってたの。」
操縦士:「ん?別に。
ただただ、父さんも母さんも助からないんだよなぁって思っただけ。」
理論屋:「それを考えちゃうと苦しいね。」
操縦士:「うん。苦しい。
嗚呼、失敗したんだなってより強く実感する。」
理論屋:「…………。
一応、再計算してみる?
もしかしたら世界終わんないかもよ。」
操縦士:「ん~~~~……良いかな。
この光景を見ちゃったら、ね。」
理論屋:「……まぁねぇ~~~~~……」
間。(操縦士、酒を飲む。)
操縦士:「……っぷはぁー……これが最後の一杯か……。」
理論屋:「乙なモンだねぇ。
終末の訪れを見ながらの一杯。」
間。(理論屋、酒を飲む。)
理論屋:「いやぁー……悍ましくも美しい光景だ。」
操縦士:「世界の終わりはもっと慌ただしくて騒がしいものだと思ってた。」
理論屋:「ははは。私特製のノイズキャンセラーが無きゃ、そんな感想は出なかったぞ。」
操縦士:「あ。そっか。これが無かったら轟音塗(まみ)れで鼓膜が飛んでたのか。」
理論屋:「そ。だから、実際は慌ただしくて、騒がしい、地獄の最後だよ。
こうやって穏やかに会話出来ているのも、奇跡であり、頑張った私たちへの報奨さ。」
操縦士:「報奨……か。
僕たち失敗しちゃったのに、申し訳ないな。」
理論屋:「”申し訳ない”訳あるか。
君が先に言ったように、私たちは頑張った。私たちが成せる事は全てやった。」
操縦士:「……。」
理論屋:「世界を救う事には失敗した。けれど、私たちの行動に失敗は無かった。」
間。
操縦士:「じゃ。紛う事なき敗北だ。」
理論屋:「そうだね。全力を出しても尚、敗北。完敗だ。」
(理論屋、伸びをする。)
理論屋:「誇れはすれど、恥じることはないよ。」
間。
理論屋:「それに、ずっと張り詰めていたんだしさ。最期くらい肩肘張らずに行きたくない?」
間。
操縦士:「それはそうだな。」
理論屋:「有難いよ。こういう時に同意してくれる相棒が居てくれて。」
操縦士:「ああ。僕たちは、僕たちだからここまで来れた。」
理論屋:「ふふふ……。」
操縦士:「くくく……。」
理論屋:「よせやい。」
操縦士:「そっちこそ。」
間。
操縦士:「…………お。」
理論屋:「雨だ。」
操縦士:「隕石で打ち上げられた水飛沫と雨ってちゃんと違うんだな。」
理論屋:「急速な気候変動。本当に終わるんだって実感が増したね。」
操縦士:「怖くなった?」
理論屋:「ずっと怖いよ。」
操縦士:「それでも平静で居られるのは?」
理論屋:「なんでこうなったか理解していて、やれることはやったっていう達成感というか脱力感からかな。」
操縦士:「そうだな。
後は、まあ、何だかんだ言って独りじゃないからかな。」
理論屋:「うん。一人だったらもう暴れ散らかしてた。」
操縦士:「分かる……。」
間。
操縦士:「あ~怖いなぁ~~~~!」
理論屋:「びっくりした。どうしたのさ急に大きな声を出して。」
操縦士:「最期だし、もしも自分の気持ちを押し殺してたら嫌だなって思って。
大きな声出したら恐怖が飛び出すかなぁって。」
理論屋:「どうだった?」
操縦士:「まぁまぁ声震えてた気がしない?」
理論屋:「震えてた気がする。」
操縦士:「ははは。うん。僕もちゃんと怖いわ。
こんな状況でも身体は”生きたい”って警鐘を鳴らすんだなぁ。」
理論屋:「そりゃそうだよ。
私たちは生きる事が目的なんだからさ。」
操縦士:「最後まで働いて偉いねぇ本能。」
理論屋:「本能と心臓と括約筋ほど勤勉なものは無いよ。」
操縦士:「本能と心臓だけで良かったんじゃない?」
理論屋:「いやいや、こんな時までいないものとするのは”ひどい”を超えて”むごい”だよ。」
操縦士:「はははは。」
間。
理論屋:「ねえ、やり残した事とか無いの。」
操縦士:「沢山あるに決まってんじゃん。」
(操縦士、酒を飲む。)
操縦士:「僕、一軒家が欲しかったんだ。」
理論屋:「ほう。」
操縦士:「二階建てで、中庭があって、広いキッチンがあって……ああ、広めのベランダとかも欲しいなぁ。
天気が良い休日に布団とか毛布とか洗濯して、干して……木陰で昼寝をするんだ。」
理論屋:「んん~牧歌的。」
操縦士:「春は中庭で花見をして、夏はベランダで花火を見て、
秋はおいしい料理を沢山作って、冬はこたつでゆっくりする。」
理論屋:「あ。だからこの船の厨房広かったのか。」
操縦士:「正解。」
理論屋:「ははは。船の設計を丸投げしてて良かった。
充実したひと時だったよ。」
操縦士:「そりゃ良かった。
……ともかく。そんな、滅茶苦茶な贅沢って訳じゃないけれど、満ち足りた幸せが待っている一軒家を建てたかった。」
理論屋:「…………良いね。」
操縦士:「…………。」
(操縦士、前を見る。)
操縦士:「…………ま。僕が作った船で、最恐の絶景を肴に酒を飲んでんだ。
3割は叶った様なモンか。」
理論屋:「良いねぇー!」
操縦士:「…………そろそろ”水平制御機構”も役に立たなくなりそうだな。」
理論屋:「確かに揺れが激しくなってきたね。転覆する?」
操縦士:「まぁー波に飲まれるまでは大丈夫じゃないかな。」
理論屋:「ヒュ~~君の技術さまさまだね。」
操縦士:「よせやい。」
間。
操縦士:「飲まれたら、どんな感じに何のかなぁ。」
理論屋:「そりゃあ波に色んな方向に流され引っ張られて身体ばらばらじゃない?」
操縦士:「うぅ~……!聞かなきゃ良かった!」
理論屋:「はははは!」
操縦士:「せめて苦痛が短く済む事を祈る他ないな。」
理論屋:「本当にねぇ。」
間。
操縦士:「一軒家欲しかったなぁ。」
理論屋:「私は大学再受験からの卒業~」
操縦士:「だけど?」
理論屋:「何より?」
(操縦士と理論屋、同時に。)
操縦士:「世界救いたかったなぁ。」
理論屋:「世界救いたかったなぁ。」
間。
操縦士:「くくく……まあ、これに尽きるよね。」
理論屋:「うん。その為に頑張ってきたんだもの。」
操縦士:「でも出来ない時は出来ない。」
理論屋:「無情な現実。是非も無いねぇ。」
間。
理論屋:「ねぇ。」
操縦士:「んー?」
理論屋:「なんだかんだ言って再計算してたんだけどさ。」
操縦士:「えぇ?」
理論屋:「波の高さとかさ、ここまで到達するまでの時間とかを鑑みるに。
君がアドリブで隕石をある程度削って、落下方向ズラせたので、ほんのちょっぴりだけ運動エネルギーが減少してそうなんだよね。」
操縦士:「……。」
理論屋:「案外滅亡とまで行かなかったりして。」
操縦士:「おぉ?」
理論屋:「なんなら被害も各大陸の沿岸部辺りで収まるかも。」
操縦士:「えぇ!?」
理論屋:「なんなら被害は私たち二人だけで済んだりして。」
操縦士:「それは余りにも希望的観測過ぎるんじゃない?」
理論屋:「流石に?」
操縦士:「どんな計算したらそうなったのさ。」
理論屋:「暗算。」
操縦士:「……ンフフっ」
理論屋:「やりたい事、やり残したことをχとして、全人類がこれから最効率の動きをする式で演算した。」
操縦士:「暗算で?」
理論屋:「暗算で。」
操縦士:「はははははは!」
理論屋:「まあ、良いじゃん。そんな正確性を重視しなくたって。大学中退した人の暗算だし。
ただ、そうだったらいいなって。」
操縦士:「ふーん……君は面白い!」
間。
操縦士:「…………でもまぁ、そうだったらいいね。」
理論屋:「ねぇ~」
間。
操縦士:「ノイキャンでもなんとかならないくらいになってきたな。」
理論屋:「うん。それに滅茶苦茶寒くて震えちゃう。」
操縦士:「確かに。」
理論屋:「…………ハグして暖でも取る?」
操縦士:「この揺れじゃ立ち上がれないだろ。」
理論屋:「確かに。立とうとした瞬間、足の骨が砕けちゃうかもね。」
(操縦士、理論屋の顔を見る。返す言葉を、一度飲み込む。)
操縦士:「…………。
手、繋ぐか。」
理論屋:「……え?」
操縦士:「握手だよ。この距離ならちょうど届くじゃん。」
間。(操縦士、理論屋に向かって手を差し出す。)
理論屋:「………………うん。」
間。(理論屋、操縦士に向かって手を差し出す。)
理論屋:「ありがとう。」
操縦士:「おう。」
間。
操縦士:「……ふっ……ガタガタ震えすぎでしょ。」
理論屋:「ははっ、そっちこそ、ガッチガチに手が冷えてて全然暖かくないよ。」
操縦士:「うるせ。」
間。
操縦士:「ここまで共に走り抜いてくれた貴方に。」
理論屋:「私の妄言に付き合ってくれた君に。」
間。
操縦士:「安寧を。」
理論屋:「感謝を。」
間。
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END