[台本]絵描きには熱さがない!
世開瞳 東美(せかいどう はるみ)
性別不問、高校三年生
受験生。希にこういうヤツ居る。
意問屋 月光(いとうや つきみつ)
性別不問、高校三年生
受験生。一人称が独特。
世開瞳 東美 不問:
意問屋 月光 不問:
↓これより下が台本本編です。
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~作業部屋~
(月光、真面目に作品制作をしている。
東美、椅子を三つ並べてその上で寝転がりながらスマホで動画を見ている。)
東美:「絵を描くって陰キャか意識高いだけのヤツしかしないですよね。」
月光:「やめたまえ。」
間。
月光:「なんだ唐突に。」
東美:「唐突なんかでは無いですよ。
常々思っていた事がついに漏れ出てしまっただけに過ぎません。」
月光:「じゃあせめて絵描きの前で漏らさないでくれ。」
東美:「もう過ぎた事を注意されたとて、どうしようも無いです。
それでですね。ワタクシはただいまとある動画を見ていまして、
その内容は所謂オーケストラアレンジ、というモノなのですが。」
月光:「ふむふむ、今のところ絵描きを貶すに至る動機が見えないな。」
東美:「ワタクシにはこの動画に出てくる人々はとても輝いて見えるんです。
楽器に曲に真剣に向かい合い、時には目が合って笑い合い、指揮者さんも笑顔で、
共に協力して作り上げる煌くシンフォニア……。
それはもう人類が積み上げ、作り上げた“善性の頂点”の一つと言って差し支え無いでしょう。」
月光:「ほお、それは確かに善いものだ。
あとで”吾(ワシ)”にも見せてくれ。」
東美:「良いですよ。URLを送っておきます。」
月光:「感謝。
それで、そんな善性の塊を見て、何故、斯様な悪性塗れの呪詛を吐ける。」
東美:「それを見て、ワタクシは思いました。
“音楽はこんなにも輝かしく賑やかなのに、絵とはなんて孤独で静かなのだろう”、と。」
月光:「…………………………。
し、仕方ないだろ。」
東美:「そう、仕方が無いのです。
よよよよ、絵を描くというのはどこまで行っても孤独なモノ。
所謂“合作”なるモノは、ありはするものの、
“なんかちゃうんだよなぁ……スゥーーーーーーー……チャウンダヨナァ……”
ってなって仕方が無いのです。」
月光:「絵を描いてる時に近くで騒がしいのはシンプルに迷惑だからな。」
東美:「そうでしょうそうでしょう。」
月光:「貴様の事を言っているんだがな。」
東美:「いやはや、何故絵を描くというのはこうなのか……
事、芸術の世界においてここまで孤独なのは絵や書道といった分野くらいです……。」
月光:「他の分野にまで飛び火させるな。
というか、孤独なのはもっとあるだろ。
彫刻だって──」
東美:「他の分野にまで飛び火させないでくださいよ。話がややこしくなります。」
月光:「ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
東美:「はあ、ワタクシは何故絵を描く事を指針に人生の殆どを費やしてしまったのか。
もしも時を巻き戻せるのなら赤ん坊までやり直したいです。」
月光:「戻り過ぎでは?
……いや、まあ、”吾(ワシ)”もそうであれば赤ん坊の頃まで戻すかもしれぬなぁ。」
東美:「おやおや、まさかまさかのアナタからの同意。
やはり絵を描くってクソですもんね!!!!」
月光:「何を言う。
赤ん坊の頃から絵を描く事に全てを注ぐつもりだ。」
東美:「正気を疑いますね。」
月光:「むしろ”吾(ワシ)”は、そんな精神状態でよくもまぁ未だに絵を描いていられるなと、貴様の正気を疑っている。」
東美:「全く、何を言うのですか。
今まで寝てる時、いやなんなら寝てる間ですら絵の事を考えていた人間ですよ?
辞められるワケないじゃないですか。
“絵の方が逃がしてくれない”んですよ。
Do you understand what I mean(ドゥーユーアンダースターンドワッダーミーン)??????」
(東美、月光の頬に指をぐりぐりする。)
月光:「”吾(ワシ)”の頬に指を突きつけるな。
では並行して楽器でも始めれば良いだろう。」
東美:「別に楽器を始めたとて、絵を描くのが孤独じゃなくなるワケでは無いじゃないですか。」
月光:「それはそうだが、貴様も先に言った様にどうしようもないだろう。
“絵を描く”とはそういうモノだ。
貴様が如何に貶し、駄々をこねようとも、何ら変わりはしない。
”吾(ワシ)“らは孤独であり、その過程も、その結果も、等しく己が抱えるしかない熱だ。」
東美:「熱……ですか。」
間。
東美:「絵描きには熱さがない!」
月光:「いきなり大声を出すな。」
東美:「由々しき事では無いですか。これは。」
月光:「先程”吾(ワシ)”が、過程や結果に己が抱える熱があると言っただろうが。」
東美:「ワタクシの言う熱は、炎天の灼熱の如くふつふつと燃え上がる炎の様な、見て分かるモノです。
アナタが言っているのは、石炭の様な触ったら“ウァアッチィ!!!!”ってなるタイプのやつです。」
月光:「一体全体何の問題があるというのだ。」
東美:「その熱では、人々に気づかれない。」
月光:「…………んん??」
東美:「アニメや漫画で考えてもそう思うワケですよ。
例えば、先程の音楽というジャンルのアニメや漫画。
何があります?」
月光:「……『金色のコルダ』。」
東美:「ニッチ過ぎでは?」
月光:「黙れ。」
東美:「……まあ、良いでしょう。
他にも『響けユーフォニアム』や『のだめカンタービレ』、『けいおん!』。
最近では『ヒプノシスマイク』や『ぼっち・ざ・ろっく!』などなど。
ええ、どれも面白いし泣けるし熱いです。」
月光:「そうだな。どれも良い。」
東美:「では絵は?」
月光:「『バクマン』、『ハチミツとクローバー』、『かくかくしかじか』、『アオイホノオ』、『左ききのエレン』、『ブルーピリオド』、少々ズレるが『かくしごと』も良いな。」
東美:「出すぎでは?」
月光:「分野だからな。」
東美:「ま、まあ……これらの作品ってどうしても孤独ではないですか。」
月光:「『バクマン』」
東美:「ぐ……しかし熱さが……!!」
月光:「『アオイホノオ』、『左ききのエレン』、『ブルーピリオド』」
東美:「ぐぅ……。」
月光:「無駄だ。如何に貶そうとも、世界は貴様の思っているよりも広い。
”吾(ワシ)”ら浅学な学徒の及ぶ思想で批判しようと、全て言い返せる。」
東美:「……。」
間。
月光:「……。」
東美:「……。」
間。
東美:「まだ終わらないのですか。」
月光:「うるさい。まだ一時間しか経ってないだろ。」
東美:「一時間ッ!!」
(東美、ガバっと立ち上がる。)
東美:「絵は時間が掛かる!!」
月光:「絵に限らず作品の製作は、差はあれど時間が掛かるものだろ。」
東美:「そうではございません。
その時間に見合った最低限の成果があると言えますか?」
月光:「それは……
…………まあ……。」
東美:「そうでしょうそうでしょう。
事、面次元的媒体以下というものは線次元的媒体も含め──」
月光:「線次元的媒体は文字、面次元的媒体は絵、そして立体次元的媒体は映像だったか。」
東美:「如何にも。」
月光:「何故わざわざそんなややこい言い方をするのか。」
東美:「より物事を理解する為に大事な事ですので。」
月光:「はっ」
東美:「嘲笑するな。」
月光:「脱線させてしまったな。続けてくれ。」
東美:「はい。
事、面次元的媒体以下というものは、能動的な情報処理が無い限り、基本的に入ってくる事はありません。」
月光:「広告はどうだ。」
東美:「なに。」
月光:「立体次元的媒体たる映像作品、また音を用いた作品は受動的であっても情報が入ってくる。
故に面次元的媒体以下よりも優れており、時間に見合った成果が発揮される可能性が高い。
そう言いたいのだろ。」
東美:「うむ、如何にも。」
月光:「だが広告はどうだ。
あれはターゲット層を絞るケースが基本だが、“見られる事”、“知られる事”を意識された技法。」
東美:「いやしかし──」
月光:「確かに映像や音声を扱った流動的な広告の方が効果的だな。
だが、線次元的媒体・面次元的媒体が立体次元的媒体に優れている点。
コストパフォーマンスだ。」
東美:「ぐっ」
月光:「無論、コストパフォーマンスの中には“時間”も含まれている。
さて、“時間に見合った最低限の成果”。
つまりそれは、コストパフォーマンス。」
間。
月光:「何かあるか。」
東美:「…………。」
間。
月光:「……で、貴様は何故そうも“絵”を貶すのだ。」
東美:「…………。」
間。
東美:「第一志望の芸大に落ちて憂鬱なので貴方も道連れにしようかと。」
月光:「最低だな。今の間は完全にエモい何かが起きるヤツだったでは無いか。」
東美:「絵描きの人生が!そんな劇的なワケが無いじゃないですか!!!!!」
月光:「やめたまえ。」
東美:「絵描きには友人はいません。」
月光:「やめたまえ。」
東美:「ワタクシも貴方しか友人がいません。」
月光:「ただの同級生だが?」
東美:「このままではワタクシと貴方は大学で離れ離れです。」
月光:「友人の体で話を進めるな。」
東美:「絵描きはコミュニケーション障害を患っていますので、」
月光:「やめろ。」
東美:「大学の講義などで教授に“では仲の良い人とグループを作ってください”と、
実質“死ぬがよい”と同義の呪文を唱えられたが最後。」
(一拍、間を置く。)
東美:「死にそうな顔でただ座っている事しか出来ません。」
月光:「大学に入ってから人間関係の努力をしろ。」
東美:「不可能です。何故なら──」
(一拍、間を置く。)
東美:「絵描きには熱さがない!!!」
月光:「いきなり大声を出すな!」
東美:「由々しき事では無いですか。これは。」
月光:「先程よりも由々しき事ではあるが。
では、貴様も”吾(ワシ)”の志望校を志せば良いでは無いか。
まだ受け付けているぞ。」
東美:「貴方の志望している所とはどこなのですか?」
月光:「ユカリヒサ芸大だ。」
東美:「ちゃんとしてる所じゃないですか。無理です。
それより、トメモリ総芸(そうげい)にしましょうよ。
あそこのデッサン試験の用紙、A4コピー紙な上に、何も描かなくても受かるらしいですよ。」
月光:「何の為に大学に行くのだ阿呆。」
東美:「じゃあワタクシは終わりですね……」
月光:「勝手に終わってしまえ。」
間。
東美:「バンドやりません?」
月光:「やらん。」
間。
東美:「結構邪魔しましたけれど、進捗はどうですか?」
月光:「お陰様で、全然進んでいないな。」
東美:「どれどれ。拝見。」
間。
月光:「立ったまま白目を向くな。」
東美:「ちゃんと進んでるじゃないですか、嘘つき。」
月光:「貴様が邪魔しなければもう終盤辺りの筈だったんだがな。」
東美:「今ワタクシの頭の中、『アオイホノオ』10巻・第59章の主人公みたいになってます。」
月光:「何もしてない貴様と、しっかりと作品を一本完成させた焔 燃(ほのお もゆる)氏を同列にするな。
……てか待て。貴様、”吾(ワシ)”の絵を愚作扱いしてないか????」
東美:「絵描きには熱さがない!!!!」
月光:「大声で誤魔化すな。」
東美:「だが本当に熱さが無いのは──」
間。
東美:「ワタクシだった……!!!」
間。(東美、月光に向き合う。)
東美:「貴方のおかげで、勇気が湧きました。」
月光:「馬鹿にしてるのか。」
東美:「ええ。貴方の言う通りですね。
貴方が志せるのであれば、ワタクシもユカリヒサ芸大を志します。」
月光:「馬鹿にしているな。」
東美:「一緒に頑張りましょう!受験戦争!!」
月光:「勝手にしろ。」
間。
東美:「時に、ワタクシとは友人では無いのは本当ですか?」
月光:「本当だ。」
間。
月光:「無表情で涙を流すな。」
東美:「とりあえず大学でも貴方に寄生する為にも、
ワタクシもお絵かきごっこをしましょう。」
月光:「ごっことか言うな。」
間。(東美、イーゼルを準備し、スケッチブックを出す。
対して月光、スケッチブックを仕舞い、イーゼルを片す。)
東美:「えっ?」
月光:「え?」
東美:「えっ?」
月光:「ん?」
東美:「えっ???」
月光:「なんだ?」
東美:「なななな、なんでイーゼルを片付けているのですか。」
月光:「”吾(ワシ)”は陰キャで意識高いので、絵を描いている人の隣では描かん。」
(月光、去る。)
東美:「えぇ?」
間。
東美:「ここは青春っぽく切磋琢磨して時が流れて受験日、或いは合否発表日にドキドキし、熱く涙するところでは????」
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END