[台本]手を組む。
○徒花 トジ(あだばな とじ)
22歳、男性
○時和 青空(ときわ そら)
年齢不詳、女性
徒花 トジ♂:
時和 青空♀:
↓これより下が台本本編です。
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~渋谷~
(トジ、項垂れながら歩いている。)
トジ:「はぁ~~~~~~……」
トジ:世界というのは何故(なにゆえ)こうも“俺”に厳しいモノなのか。
努力というのは何故(なにゆえ)こうも無駄に終わるモノなのか。
トジ:「はぁ~~~~~~~……」
トジ:何もかも上手く行かない。溜め息が漏れても仕様が無い。
間。
トジ:ので、本日は自棄酒(やけざけ)をしようと思い渋谷に来ているのだが。
トジ:「………………どこもかしこも満席……。」
トジ:よくよく考えれば土曜日の夜。
なんなら考えなくともこの展開は想像出来て然るべきであろう。
トジ:「はぁ~~~~~~~……」
間。
トジ:「ので、コンビニで酒買って家で飲む事にしたワケで……。」
(青空、トジの目の前に倒れる。)
青空:「ぐえ……っ」
トジ:「うわぁあああっ!!」
青空:「うぅぅぅ……」
トジ:「……っ」(警戒している。)
トジ:奇っ怪。俺の目の前で酔った女の人が進路を阻むように倒れてきた。
厭々、そんな事を言っている場合では無い。
目の前に人が倒れたのだぞ!徒花 トジ(あだばな とじ)!!!
トジ:「そういう時は──」
(トジ、倒れた青空の上を飛ぶように無視して進もうとする。)
トジ:無視一択だ!!!
声を掛ける?否否否、そんな事をしたら最後、
どんな因縁を付けられ、更なる不幸に見舞われるか、想像するのも──
(青空、逃げるトジの足をガシっと掴む。)
トジ:「ぐえぇッ!!!」
青空:「う゛ぅ゛……」
トジ:この女ァッ!!!!!!!!
足を掴んで転ばしてきやがったァッ!!!!!!!
青空:「み゛……み゛す゛……くやさい゛……」
トジ:「…………。
分かりました。そこのコンビニで買ってきます。
ので、まずその手を離してください。」
青空:「て……手を離したら……帰って来ない予感がするので……い゛や゛て゛す゛……」
トジ:思いの外聡いなこの女。
トジ:「そ、そんな事ありませんよ。
ので離してください……はなしtよじ登らないでください!!」
青空:「見捨てないでく゛た゛さ゛い゛~~~……」
トジ:「うわっ!酒臭っ!!
このッ!離れろッ!!くそッ!力強いなこの人ッ!!」
青空:「あ゛あ゛……そんなっ……ゆ……
ゆ゛ら゛さ゛な゛、い、で……うっ────」(吐く寸前)
トジ:「はッ!!」
トジ:この表情。俺は知っている。この女──
青空:「お゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛~゛~゛~゛~゛~゛~゛」(思いっきり吐く)
トジ:「…………。」
トジ:世界というのは何故(なにゆえ)こうも“俺”に厳しいモノなのか。
間。(青空、トジをガッチリ掴んだまま膝を崩す。)
青空:「ごめんなさぁい……ごめんなさぁい……ごめんなさぁい……」(上の空)
トジ:「この服…………おニューだったんだけどなぁ…………」
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~時和家、風呂場~
(トジ、シャワーを浴びている。)
トジ:「…………。」
トジ:いやはや困ったものだ。
どんな因果か、ゲロ女の家が近いという事で、加害者宅のシャワーを借りている。
(青空、洗面所から。)
青空:「あのぉータオルと替わりの着替え、ここに置いておきますぅ」
トジ:「はーい。」
間。(シャワーの音のみが響く。)
トジ:「はぁ……。」
◇
トジ:「お風呂、ありがとうございました。服も──」
間。
トジ:「……インクの香りとアルコールの匂いに……紙が沢山散らばってて……」
間。(トジ、部屋を見渡し、椅子に座る青空に気付く。)
トジ:「って……」
間。(青空、酒を開けてる。)
青空:「ん。先程は申し訳ございませんでしたぁ。」(家に帰ってから四本目くらい)
トジ:「…………まだ飲むんですか。」
青空:「はいぃ、迎え酒です。」
(青空、酒を飲む。)
青空:「あと、助けていただいて感謝です。」
トジ:俺は貴様に捕縛されただけなのだが。
トジ:「いえいえ、お気になさらず。
では、俺はこれで。」
青空:「あら、お洋服は良いのですか?」
トジ:「あ。」
トジ:汚物で穢れてしまったとは言え、“お気に”且つそこそこ高かった。
トジ:「……。」
トジ:故に、失うのは惜しい……。
青空:「お詫びというワケではありませんが、貴方もお酒をお持ちの様ですし、
洗濯乾燥終わるまで一緒にお酒飲みませんか。」
トジ:「…………ぐっ!」
青空:「ぐ?」
トジ:「お゛……お゛こ゛と゛は゛に゛あ゛ま゛え゛て゛……!゛」
青空:「すごく嫌そうですねぇ。」
間。(トジ、ビニール袋かロング缶を出す。)
青空:「ではではぁー……」
(トジ、プシュッとプルタブを開ける。)
トジ:「乾杯。」
(トジ、青空、酒を飲む。)
トジ:「ぷはぁ~~~~」
青空:「良い飲みっぷりですね。」
トジ:「……恐縮です。」
青空:「……“ストロングゼロ無糖”、ですか。
何か嫌な事でもあったんですか。」
トジ:「ええ、とっても。」
青空:「いえ、私関連では無く。」
トジ:「ええ、とっても。」
青空:「それはそれは、大変でシュねぇ。」
トジ:「そういう貴女も、相当飲んでいる様ですが、何か嫌な事でもあったんですか。」
青空:「分かりますか。」
トジ:「ええ、自棄酒は酒好きがやる事では無いので。」
青空:「それは………………中々に痛い言葉ですねー」
トジ:「で、何があったんですか、貴女は。」
青空:「青空(そら)。」
トジ:「え?天気が気になるんですか。」
青空:「いえ、私の名前です。
時和 青空(ときわ そら)ですぅ。」
トジ:「………………。
……トキワさんは何があったんですか。」
(青空、酒を飲む。)
青空:「原稿を落としてしまったのです。」
トジ:「ゲンコー?……ああ、原稿。
トキワさんは物書きか何かですか。」
青空:「ドンピシャ物書きですね。
いやはや、久しぶりにダメにしてしまったので編集さんにバチボコにカチキレられましてね。」
トジ:「それは……(一口飲む。)
大変ですね。」
青空:「自業自得ですけどね。
実はつい昨日までイタリアの方へ身を隠していたのですが、
編集さんに見つかってしまって連れ戻されてきたんです。」
トジ:その編集凄過ぎるだろ。
青空:「携帯とか解約してて持ってないですし、
GPSの類いのものは取り付けられていないハズですし、
足がつかない様に四つくらい経由して飛行機取ったりしたのに、
それでもダメでしたねぇー」
トジ:「何故そこまでして……」
青空:「ちょっと編集さんと編集長さんの首を飛ばしたく……いえ、ちょっと困らせたくて。」
トジ:そんなんで自棄酒とは、本当にちゃんとクズだ。
(青空、酒を飲む。)
青空:「っぷはぁー……へへへぇ……」
トジ:「逆にそこまでの事をしといてよくクビ……というか慰謝料とか請求されませんでしたね。」
青空:「ん~~~?何故、だと思います?」
トジ:「え?」
(青空、目線はトジに向けたまま机にうつ伏せになる。)
青空:「なんでこんな好き放題、なんなら明確な不利益を意図したのに、
何故許されてるんだと思いますぅ?」
トジ:「…………。」
青空:「ふふふ、訝しんでらっしゃいますねぇ」
トジ:「ええ、俺はもしかしたら何かヤバイ人の巣窟に来てしまったのではと。」
青空:「ははは、ただ必死に謝っただけですよ。」
トジ:「それでなんとかなっているこの世界に驚愕です。」
青空:「世界とは思いの外、寛容なモノですからねぇ。
ついでに言えば、私の努力の積み重ね、その結果でしょうねぇ。」
トジ:「…………。」
間。
青空:「おや。おやおやおやぁ。」
トジ:「なんですか。」
青空:「何か、引っかかるみたいですねぇ。」
トジ:「……別に、引っかかったとかそういうのじゃ……」
青空:「話してみてくださいよ。
無論、私に話したところで事態が好転する事も暗転する事も無いと、保障しますよぉ。」
トジ:「…………。」
間。
トジ:「……世界というのは何故(なにゆえ)こうも俺に厳しいモノなのか。
ですが……世界は貴女に甘い様で、羨ましく恨めしく、憎たらしいなと。」
青空:「……フフ。フフフ……。」
トジ:「何が可笑しいんですか。」
青空:「ンフフフ~~~~!
青臭いなぁと思っただけですぅ~~~~~~!!」
トジ:ウザァ!!!!!
青空:「いやぁ、笑いました笑いました。」
トジ:「そうですか。」
青空:「そんなスネないでくださいよぉ~
……でも──」
間。(青空、酒を呷る。)
青空:「……ふぃー……
良いんじゃないですか。そういうのも。」
トジ:「……。」
青空:「人は他者に怒りをぶつけるのは良くないと説きます。
ですが、この世界は人一人ではどうしようも無い理不尽が非常に多いです。
その度に毎度毎度、怒りや憤りを自分に向けていては、当然ですがガタが来てしまいます。」
間。(青空、トジの方を見る。)
青空:「だから、私に当たっても許しますよ。」
トジ:「……は?」
青空:「まあ、私ってば、SかMかと言えばドのつくタイプのマゾですので、
多少の痛みも許容できますよぉ。」
トジ:「いや、俺にそんな資格は──」
青空:「世界は私に、貴方と違って甘いですよ。」
トジ:「そんなの理由に──」
青空:「自分の為だけに人間二人を失職に追い込もうとする人間ですよ。」
トジ:「それは本当にどうしようもないクズですけど、だからと言って──」
青空:「貴方のお気にの服をゲロまみれにしましたし、今、貴方が買ったお酒を開けました。」
トジ:「え。あ!いつの間に!!」
青空:「どうです?私になら、何しても良い気がしませんか?」(蠱惑的に笑う。)
トジ:「……っ」
間。
トジ:「貴女がどんなにクズで俺に危害を加えていようと、それを免罪符に傷付けて良い理由には出来ません。」
間。
青空:「美徳だと思います。」
間。
トジ:「え?」
青空:「情けは人の為ならず。多分そういう人なんだろうなぁとは思っていました。
理性的、とも違う。そんな善性を持っていらっしゃるのなら、それを忘れないでいられる事を祈っております。」
トジ:「……まさか、これを引き出すために?」
青空:「まさか。善い人なんだろうなとは思っていましたが、本当に顔面陥没するまで殴られるくらいは覚悟していましたよ。
でも、貴方がそれを良しとしないのであれば──」
間。(青空、酒を呑む。)
青空:「──無理強いは良くないですからねぇ。」
トジ:「……そう、ですか。」
青空:「まあ、創作者は傷を持て、斯くあるべき、とも言いますからねぇ。
どちらとも言えませんかねぇ。」
トジ:「そうかもで……あれ、俺自分の素性話しましたっけ。」
青空:「フフフ……私が何者か、言ってみてください。」
トジ:「クズ。」
青空:「それ以外で。」
トジ:「作家さん。」
青空:「そう、作家、物書きです。
私たちは、まあ、少なくとも私は“人”を書く物書き。
所謂人間観察はお手の物なのです。」
トジ:「はぁ。」
青空:「手のゴツゴツ具合、発達した上半身、貴方の目が留まるモノの関連性から、
彫刻をやっている事、そしてパキっとした色彩を好む事までは分かります。」
トジ:「おぉ。」
青空:「何より、学生証に“ユカリヒサ芸術大学、芸術学部彫刻科、徒花(あだばな) トジ”、と書かれてましたからねぇ。」
(トジ、青空にアイアンクローをする。)
青空:「いたいいたいいたいいたいいたい……!」
トジ:「人間観察とか関係ないじゃないですか、なに人の荷物物色してるんですか。」
青空:「ひ……暇だったので……つい……!!」
トジ:「倫理観。」
青空:「貴方の美徳が……貴方の美徳が……!!」
トジ:「黙れクズ。」
青空:「いたいいたいいたいいたいいたいちょいきもちい!」
トジ:「うわっ」
(トジ、青空を離す。)
青空:「いててて……」
トジ:「……そういうの隠せば良いのに……」
青空:「えぇ?そういうのぉ?」
トジ:「貴女の汚点、隠しとけば、もっと楽に、上手く生きていけるんじゃないですか。」
青空:「どうでもいーですよ、そんなの。」
(トジ、酒を呑む。)
トジ:「その心は。」
青空:「私は自分を隠して生きたいワケじゃないですし、上手に生きていく為に生きてるワケでもありませんので。」
トジ:「……」
青空:「貴方は……」
間。(青空、酒を飲む。)
青空:「トジくんは、世界に優しくされたいのですか。」
間。(トジ、酒を飲む。)
トジ:「……よくよく考えたら、そういうワケでは無い……気がします。」
青空:「そうですか。
でも、不満はどうしても募るモノです。」
間。
青空:「良いんですよ。捌け口を作って。」
トジ:「え。」
青空:「良いんですよ。私を使ってくださって。
免罪符とかでは無く、貴方の不満や不安を吐露する場所として。」
トジ:「……何故初対面の俺にそんなことを。」
青空:「袖振り合うも多生の縁、というやつですよぉ。」
トジ:「微妙に誤用している気がするんですが。」
青空:「まあまあ、細かいことは気にせず。
眉間の皺が濃ゆくなりますわよ。」
トジ:「大きなお世話です。」
青空:「せっかく出来た縁、私は手放したくないと思ってしまったんです。」
トジ:「はあ。まだせいぜい二時間程度の縁で何故そう思ったのですか。」
青空:「ん~~~……何故でしょうねぇ。」
トジ:「じゃあ何かメリットがあるんですか。」
青空:「メリット?それなら幾らでもあげれますよ。」
トジ:「ほう。」
青空:「とりあえず大きい二つをあげましょう。
私の友達に彫刻家で大学生の子はいないので私の知らないことを知ってそうですし、
見た感じお酒も強そうですし、
私とよく侃々諤々(かんかんがくがく)してくださりそうだなーって思ってます。」
トジ:「俺は服を人質ならぬ物質(ものじち)にされて、仕方無く喋ってるだけですよ。」
青空:「だから私から提示出来るメリットを示してるんじゃないですかぁ。」
トジ:「それで、“不満や不安を吐露する場所”ですか。」
青空:「そうですそうですー
あ、私の柔肌でも……きゃっ」
トジ:「薄ら寒い冗談は良してください。」
青空:「到底大学生男子とは思えない返答。
トジくん性欲無いタイプです???」
トジ:「貴女に対してそういう気が起こるわけ無いでしょう。
大体、普通に接するだけでも何かしら不運が巻き起こりそうです。」
青空:「酷いことをおっしゃる。
これでもか弱き女の子ですよ?傷ついてしまいます。」
(青空、お酒を飲む。)
青空:「ですが、どうです?
互いの素性も曖昧で名前しか知らない。特別深堀をしてくる事は無い。トジくんの日常生活になんら影響は無い。
そんなに悪い関係じゃないと思いますよ?」
トジ:「…………。」
青空:「なんならお酒、最初の三杯まで私が奢っちゃいます。」
トジ:「俺の酒を既に飲まれている状況なんですけど。」
青空:「今後の話。今後の話ですから。」
トジ:「……。」
青空:「あー……」
間。(青空、床に置いてある酒瓶を手に取る。)
青空:「では、トジくんにはこちらの、高値でアルコール度数も高い“百年の孤独”を進呈しましょう。
はい、こちらグラスです。」
トジ:「ほう。それはそれは………………もう半分以上無いじゃないですか。」
青空:「中身見えないのになんで分かるんですか。」
トジ:「持ったら分かるに決まってるでしょう。」
青空:「………………。」
トジ:「……。」
青空:「……。」
トジ:「……。」
青空:「駄目、ですかねっ☆彡」
トジ:「駄目だろ。あざとぶるな。」
青空:「駄目でしたかー」
トジ:「……ですが──」
青空:「?」
間。(“百年の孤独”を開け、グラスに注ぐ。)
トジ:「──お酒ご一緒する時は基本、割り勘で。」
(トジ、グラスを掲げる。)
青空:「……フフフ、交渉成立ですかね。」
トジ:「“互いの素性も曖昧で名前しか知らない。特別深堀をしてくる事は無い。俺の日常生活になんら影響は無い。”のであれば、
それなりに面白そうだなと思ったので。」
(青空、ロング缶を掲げる。)
青空:「そうですか。ではでは。」
トジ:「乾杯。」
(トジと青空、酒を飲む。)
トジ:「ぐああああッ!!!!!!」
青空:「あーはははは~
“百年の孤独”はストレートで飲むもんじゃないですよぉ~」
トジ:「そ゛……!そ゛れ゛を゛は゛や゛く゛い゛っ゛て゛く゛た゛さ゛い゛」
青空:「アルコール度数高いって言ったじゃないですかぁ。
ほらほら、お水ですよぉ。もうペットボトルに口つけちゃっていいので~」
(トジ、青空からペットボトルを受け取って飲む。)
トジ:「……くはぁ……」
青空:「ふ~ふ~ふ~やはり面白いですねぇトジくんはぁ」
トジ:「やはりって、たかだか二時間で一体何が分かるというのですか。」
青空:「分かりますとも。
貴方が苦悩している事も、それを故(ゆえ)として人を傷付けない事も。」
トジ:「……。」
青空:「あまり口が宜しくない事や、微妙に融通が利かない事も分かりました。」
間。(青空、酒を飲む。)
青空:「……とても面白いです。素敵ですよ。」
トジ:「それはどうも。」
青空:「はいぃ~」
間。(青空、トジに向かって手を差し出す。)
青空:「握手です。手を組む記念に。」
トジ:「手を組むって……そんな何かを企むみたいな……」
間。(トジ、青空の手を握る。)
トジ:「まあ、良いでしょう。握手を送ります。」
青空:「はいぃ~これからよろしくお願いしますねぇ。」
───────────────────────────────────────
END