Research
量子線による励起状態の物理化学
当研究室では、光や放射線により生じる電子励起状態の制御を通じ、主に放射線センサーとなる光学材料を開発しています。開発した放射線センサーの用途としては、核医学診断やがんの量子線治療などの医療現場におけるものや、セキュリティ、非破壊検査、環境モニタリングに加え、放射光科学や素粒子物理実験での基礎科学における検出器を想定しています。開発している材料は、下記のように、大きく2種類に分類されます。
シンチレータ (リアルタイム型蛍光体)
放射線に入射後、即時に蛍光を提示する材料です。適切な光検出器との組み合わせにより、リアルタイムで動作する検出器を構成します。より高い精度での放射線計測を行うために、あるいは多様な計測対象に対応するための材料開発を進めています。例えば、放射線入射後の即時の蛍光(シンチレーション)の収率のより高い物質や、より短時間でシンチレーションの生じる物質、さらには高エネルギー光子や中性子との相互作用確率の高い物質などの開発を進めています。代表的な応用例としては、医療用のX線CTやレントゲン検査、PET装置、手荷物検査装置、サーベイメータなどが挙げられます。
ドシメータ (記録型蛍光体及び光学材料)
一定期間に照射された放射線の積算線量の記録と評価を可能とする材料です。放射線入射により生じたエネルギーを、準安定的な化学形態の分子や、電子正孔対の分離状態として蓄積し、その蓄積されたエネルギーを、何らかの形で読み取ることにより、線量の情報を得ることができます。例えば、放射線照射後に、熱や光の刺激により生じる蛍光(熱蛍光および輝尽蛍光)を通じ、あるいは照射後に生じるフォトルミネッセンス(ラジオフォトルミネッセンス)を通じて線量を計測します。この他にも、照射後の色調変化(ラジオクロミズム)を利用した線量計測もあります。また、読み出し方法の工夫により、レントゲン写真のような線量分布画像を取得することも可能です。このようなドシメータ材料は、放射線を利用するあらゆる分野の現場で作業する研究者や技術者の安全を維持しています。
これらの材料で高い性能を実現するために、当研究室では、無機単結晶やセラミックス、ガラス、有機物、あるいは有機無機ハイブリッド材料など、多様な材料系を用いています。また、蛍光に関与する励起状態として、発光中心となるイオン内励起状態や内殻正孔、電荷移動状態、ワニエ励起子やフレンケル励起子、あるいは自己束縛励起子などの多様な励起状態を制御します。
本研究室では、多くの大学や研究機関との共同研究を通じ、材料開発や性能評価、あるいは基礎過程の解明を進めています。最近の論文や学会発表で共著となった機関として、秋田大学、量子科学技術研究開発機構(高崎量子応用研究所、放射線医学総合研究所)、九州大学、高エネルギー加速器研究機構、産業技術総合研究所(つくばセンター、関西センター)、東京都立大学、静岡大学、東京大学、横浜国立大学、名古屋大学、名古屋工業大学、奈良先端科学技術大学院大学、金沢工業大学、大阪大学、広島大学、フランス原子力庁、水原大学校(韓国)が挙げられます。
Equipment
合成装置
マッフル炉 (~1200℃)・・・焼結体やガラスの合成, アニール処理
横型管状炉 (~1200℃)・・・焼結体やハロゲン化物結晶の合成
ポット炉 (~1200℃)・・・ガラスの合成やアニール処理
2ゾーン縦型ブリッジマン炉 (~1100℃)・・・ハロゲン化物結晶の合成
昇降炉 (~1600℃)・・・焼結体やガラスの合成
合成反応装置 (-20~160℃, -30~200℃)・・・酸化物やハロゲン化物結晶の合成
ミキサーミル・・・原料粉末の混合, 試料の粉砕, メカノケミカル反応による試料合成
評価装置
粉末X線回折装置 (Ultima IV@Rigaku)
・・・結晶構造解析, 不純物相の同定
紫外可視分光光度計 (UV-2700@SHIMADZU)
・・・透過率, 吸光度, 正反射, 拡散反射および拡散透過スペクトルの測定
フーリエ変換赤外分光光度計 (FT/IR-4100+ATR PRO410-S@Jasco)
・・・透過法及びATR法での赤外吸収スペクトルの測定 (7800~350cm−1 )
蛍光分光光度計 (FP-8200DS@Jasco, F-7000@Hitachi High-Tech)
・・・蛍光/励起スペクトルの測定, 時間変化や燐光の測定も可
蛍光量子収率測定装置 (Quantaurus-QY@Hamamatsu Photonics)
・・・蛍光内部量子収率の評価
蛍光寿命光度計 (DeltaFlex+LED光源@Horiba)
・・・蛍光寿命の測定 (波長:250-850 nm, 温度:10K~室温, 繰り返し周波数:0.1 Hz~1MHz)
熱蛍光グローカーブ測定系
・・・紫外線あるいは放射線照射による熱蛍光や残光強度を測定 (室温~670 K)
熱蛍光スペクトル測定系
・・・ 紫外線あるいは放射線照射による熱蛍光スペクトルを測定 (室温~670 K)
輝尽蛍光減衰評価系
・・・紫外線あるいは放射線照射による輝尽蛍光減衰曲線をパルス光刺激により測定
シンチレーションスペクトル測定系
・・・X線あるいはアルファ線励起による蛍光スペクトルを測定 (10 K~室温)
シンチレーション減衰測定系
・・・ガンマ線励起による蛍光減衰曲線を測定 (時間レンジ:~20,000 ns)
シンチレーション波高スペクトル測定系
・・・ガンマ線やアルファ線、中性子線励起時の発光量(シンチレーション効率)の評価,
エネルギー弁別性能(分解能)やエネルギー依存性の評価も可
光音響分光装置
・・・紫外-可視光励起に伴う無輻射失活(熱)を測定, 光吸収スペクトルも測定可 (波長:210~1000 nm)
※液体、粉体、固体など様々な材料形態に対応可能, 散乱体の評価も可
X線音響測定系
・・・X線励起に伴う無輻射失活(熱)を測定, X線吸収スペクトル測定にも利用可
その他
X線照射装置 (1 mGy/min~700 Gy/min)
窒素ガス発生装置
ガスバーナー (石英ガラス管加工用)
ドラフト
大判プリンタ (A0ポスターなど)
上記に加え、学科内共通機器の使用も可
ex.) ESR, SEM-EDS, FTIR, XRF, XPS, TEM, ICP-MAS, ラマン, など http://www.tech.eng.tohoku.ac.jp/sosiki/goudou/index.html
上記実験機器について、使用をご希望の方は、お気軽にご相談下さい。