プログラム

4月19日(月)

セッション 19A (司会:森貴司)

13:00 - 13:05 Opening

13:05 - 13:55 桑原 知剛 氏「Lieb-Robinson限界の最近の進展」

Lieb-Robinson限界は量子ダイナミクスによる情報の伝搬に関する基本的な制限を与えており、近年の量子多体理論で主要な役割を果たしている。一方で、Lieb-Robinson限界が適用される物理系にはいくつかの制約があり、これらの制約が外れるときにLieb-Robinson限界はどのように修正されるのかは現在まで重要な研究課題となっている。本講演では、Lieb-Robinson限界の背景や応用方法について紹介し、主要な未解決領域である長距離相互作用系とボソン系に関する現状を説明する。

14:05 - 14:55 濱崎 立資 氏「反ユニタリー対称性の自発的破れと非平衡量子多体相」講演資料

近年の人工量子系の実験的発展により、ミクロな自由度を操作し、量子多体ダイナミクスの観測・制御することが可能になり、非平衡量子統計力学の探究の舞台が整ってきた。特に、多体局在相[1]・離散時間結晶・動的相転移[2]など、平衡系では存在し得ない新奇な量子相が理論的・実験的に発見され、盛んに研究されている。本発表では、「反ユニタリー対称性の自発的破れ[3]」という非正規な演算子特有の性質に関連する、新しいタイプの非平衡量子多体相について議論する。

一つ目のテーマとして、(開放量子系の一種である)非エルミート系における多体局在現象について述べる[4]。本研究では、非対称ホッピングを持つ非エルミート量子多体系に強い乱れを加えると、エルミート系と同様に状態が局在する(すなわち、熱平衡化が妨げられる)ことを示した。さらにこの際、スペクトル転移(ほとんどの固有値が複素から実になる転移)とそれに伴う動的不安定性の転移を発見した。これは、自発的に破れていた反ユニタリー対称性(時間反転対称性)が、ほとんどの固有状態で対称性を回復することを意味する。このスペクトルおよび不安定性の転移は開放系特有のものであり、今までに定性的にすら議論されたことのない新奇な現象である。また、時間反転対称性のない場合の非エルミート多体局在についても簡単に議論する[5]。

二つ目のテーマとして、ユニタリー周期駆動系における例外点的な動的相転移について議論する[6]。動的相転移とは(自由エネルギーにおいて逆温度を時間に置き換えて得られる)動的自由エネルギーの特異性によって特徴づけられ、理論、実験両面で盛んに研究されている。本発表では、動的相転移と非ユニタリー物理の隠れた関係を明らかにすることで、反ユニタリー対称性の自発的破れによって特徴づけられる新奇な動的相転移のメカニズムを論ずる。まず、周期駆動されたIsing模型において、パラメータを変化させることで動的自由エネルギーの微分が発散する(平衡状態にはない)強い特異性が現れることを示す。この特異性は、元のモデルに対し時空間を入れ替える双対性を施すことで現れる非ユニタリー演算子に起因する。この双対演算子が反ユニタリー対称性を持つ時、それが自発的に破れることで、元の模型でその例外点の普遍的な特異性を反映した動的相転移が現れうることを明らかにする。

[1] R. Nandkishore, D.A. Huse., Annu. Rev. Condens. Matter Phys. 6.1 (2015).

[2] M. Heyl, Reports on Progress in Physics 81.5, 054001 (2018).

[3] R. El-Ganainy et al., Nat. Phys. 14, 11 (2018).

[4] R. Hamazaki, K. Kawabata, and M. Ueda, Phys. Rev. Lett. 123, 090603 (2019).

[5] R. Hamazaki, K. Kawabata, N. Kura, and M. Ueda, Phys. Rev. Research 2, 023286 (2020).

[6] R. Hamazaki, arXiv:2012.11822 (2020).

15:05 - 15:55 藤 陽平 氏「連続測定によるエンタングルメント相転移と量子臨界性」


15:55 - 16:05 休憩

セッション 19B (司会:山本大輔)

16:05 - 16:30 湊 崇晃 氏「Fate of measurement-induced phase transition in long-range interactions」

Quantum jump processに従って時間発展する1次元格子上のフェルミオンに発現するMeasurment-induced phase transition(MIP)について数値的に検証した。先行研究では短距離相互作用の場合にMIPが発現することがわかっていたが、本研究はこれを長距離相互作用の場合に拡張し、MIPが発現する条件を数値的に求めた。

16:30 - 16:55 中西 優馬 氏「リンドブラッド方程式で記述される量子開放系のPT転移」

環境からのゲインとロスが釣り合った開放系では、パリティ・時間反転(PT)対称性の破れを伴う相転移(PT転移)が幅広く研究されているが、量子ジャンプは考慮されていない。本発表では、リンドブラッド方程式で記述される、ゲインとロスが釣り合った2スピン系のPT転移の研究結果を報告する。特に、スピンの大きさが大きい時、定常状態のPT対称性が破れる点でリウビリアンの固有値分布とダイナミクスがはっきりと変化することを解析的に示す。

16:55 - 17:20 山中 康平 氏「開放XXスピン鎖における局在を伴うPT対称性の破れ」

開放XXスピン鎖のダイナミクスが満たすLindblad方程式は、第三量子化によって対角化可能な4N×4N行列で表現される。本発表では、この行列がN×N行列にブロック対角化でき、その固有系を厳密に求められ、物理量の時間依存性を解析的に検証できることを示す。また、この行列の固有状態の局在-非局在転移は熱力学極限においてPT対称性の破れを示唆し、物理量の時間依存性にも影響を及ぼすことを示す。

17:20 - 17:45 山本 和樹 氏「フェルミ超流動の散逸誘起ダイナミクスと相転移」

近年の冷却原子系における実験の発展により、超流動秩序変数の時間依存した制御が可能となった。一方で開放系の文脈で原子ロスの影響を取り入れたフェルミ超流動ダイナミクスの理論はこれまで扱われてこなかった。本発表では系に粒子ロスが印加された後のフェルミ超流動のダイナミクスを解析し、開放系特有の集団励起モードやダイナミカルな相転移が存在することを示す。

17:50 - 21:00 頃 懇親会(Remo を利用)

4月20日(火)

セッション 20A (司会:上西慧理子)

9:00 - 9:50 吉岡 信行 氏「量子多体系をニューラルネットワークに埋め込む」

古典機械学習における成功を受けて、近年、ニューラルネットワークにより量子多体系を調べる潮流が加速してきた。次元性に依拠しない構造を持つニューラルネットワークは、従来の変分波動関数では効率的に計算できないクラスの量子状態を表現できることから、多体現象の研究のフロンティアを押し拡げる役割を担うことが期待されている。本講演では、ニューラルネットワークを変分状態として導入し、その性質・応用について概観する。量子多体系の基底状態[1]だけでなく、励起状態・熱平衡状態・非平衡定常状態など、幅広い物理を記述できることを示す[2, 3, 4]ほか、今後の発展や展望についても述べる。

[1] Carleo & Troyer, Science 355, 602 (2017).

[2] NY & R.Hamazaki, Phys. Rev. B 99, 214306 (2019).

[3] NY, W. Mizukami, and F. Nori, arxiv:2010.01358.

[4] Y. Nomura, NY, and F. Nori, arxiv:2103.04791.

10:00 - 10:50 芳賀 大樹 氏「開放量子系のインコヒーレント・コヒーレント転移とリュウビリアン固有モードにおける束縛・非束縛転移

環境と相互作用する量子系のダイナミクスは、ハミルトニアンによって駆動されるコヒーレントな時間発展と、散逸を記述するインコヒーレントな時間発展とのバランスによって決まる。環境との相互作用が十分に強い場合、系は直ちにデコヒーレンスを起こし、古典的な混合状態へ緩和すると期待される。一方で相互作用が弱い場合には、系の量子的重ね合わせ状態は比較的長時間にわたって維持される。こうした散逸が支配的な緩和過程から量子コヒーレンスが支配的な緩和過程への転移は「インコヒーレント・コヒーレント転移」と呼ばれている。開放量子系における密度行列のダイナミクスは量子マスター方程式によって記述され、それに対応する時間発展生成子はリュウビリアンと呼ばれる。本研究では、開放量子系におけるインコヒーレント・コヒーレント転移が、リュウビリアンのスペクトルや固有モードにおけるある種の構造転移として特徴づけられることを議論する。

 リュウビリアンの各固有モードは、インコヒーレントな寄与とコヒーレントな寄与のいずれがより支配的であるかに応じて、行列要素が対角領域に指数関数的に局在した「インコヒーレントな固有モード」と、非対角領域にほぼ一様に広がった「コヒーレントな固有モード」との二つのグループに分類できる。密度行列をブラ空間とケット空間とのテンソル積空間に属するベクトルと見なすと、インコヒーレントな固有モードはブラ空間とケット空間の自由度が強く結びついた「束縛状態」に、一方でコヒーレントな固有モードは両者の自由度が独立に振る舞う「散乱状態」に相当する。解析計算と数値的対角化からリュウビリアンのスペクトルや固有モードに関して以下の事実が明らかとなった。(i) 散逸の強さを特徴付けるパラメータを減少させた際に、ある臨界値で一部の固有モードがインコヒーレントな「束縛状態」からコヒーレントな「散乱状態」への束縛・非束縛転移を起こすこと。(ii) インコヒーレントな固有モードとコヒーレントな固有モードにそれぞれ対応する固有値同士の距離によって定義される「量子コヒーレンスギャップ」が上の臨界値で閉じること。(iii) 非一様な初期状態が一様な定常状態へと指数関数的に緩和するインコヒーレントな緩和過程から、振動しながら緩和するコヒーレントな緩和過程への動的転移が起こること。

11:00 - 11:50 後藤 慎平 氏「Lindblad形式で探る観測誘起転移」講演資料

量子回路模型の研究によって発見された観測誘起転移は、ユニタリ発展と観測との競合によって生じるエンタングルメントエントロピーのスケーリングの変化で特徴づけられる。我々は同様の転移が散逸すら制御可能な人工量子系である冷却原子系でも実現しうるか、Lindblad方程式の数値解析から調べた。また散逸系でエンタングルメントエントロピーを実測するのは非常に困難であるため、測定可能な物理量の期待値から転移が特徴づけられるかという点についても調べた。本講演では量子回路模型を用いるアプローチとLindblad形式を用いるアプローチを比較しつつ、Lindblad形式の範囲内で観測誘起転移が記述できる可能性について議論する。

11:50 - 13:00 昼休み(Zoom ブレイクアウトルームを利用可能)

セッション 20B (司会:手塚真樹)

13:00 - 13:25 國見 昌哉 氏「光格子中の1次元Bose気体の非エルゴード的ダイナミクスに対する閉じ込めポテンシャルの効果」

1次元Bose-Hubbard模型で記述される光格子中の1次元Bose気体は相互作用が大きい領域で非エルゴード的な振る舞いを示すことが知られている。

本研究では実際の実験を念頭に置き、この非エルゴード的な振る舞いがトラップポテンシャルによりどのように影響を受けるかを厳密対角化法と行列積状態を用いて調べた。

講演では、粒子数インバランスやエンタングルメントエントロピーの時間発展についての結果を発表する予定である。

13:25 - 13:50 金子 隆威 氏「テンソルネットワーク法による2次元冷却原子系の実時間ダイナミクス計算」

空間2次元の量子多体系における実時間ダイナミクスをprojected entangled pair stateによるテンソルネットワーク法で調べた。とくに、Bose-Hubbard模型においてMott絶縁体から量子臨界領域にクエンチした際の相関関数の時間依存性を実験と比較し、手法の有用性を検証した。その結果を踏まえ、2次元縦横磁場反強磁性Ising模型のクエンチダイナミクスの計算結果についても報告する予定である。

13:50 - 14:15 吉田 博信 氏「SU(N)引力ハバード模型におけるマヨラナ鏡映正値性」

冷却原子系においてSU(N)という高い対称性を持つフェルミオン系が実現されており、これはSU(N)ハバード模型で記述される。この実現を契機に本模型に興味が持たれる一方で、取り扱いは通常のSU(2)ハバード模型よりも難しく、知られている厳密な結果は非常に少数である。そこで我々は、近年発見されたマヨラナ鏡映正値性を用いて、広いクラスのSU(N)引力ハバード模型における、基底状態の縮退度や電荷密度波的な長距離秩序の存在を示した。

14:15 - 14:40 高橋 惇 氏「量子モンテカルロ法による脱閉じ込め量子臨界現象の大規模精査」

脱閉じ込め量子相転移(DQC)は、場の理論によって存在が予言される量子相転移の一種であり、物質による実現なども現在盛んに研究されているGinzburg-Landau描像では捉えきれない臨界現象である。

PRR 2, 033459 (2020) や PRL 125 257204 (2020) などDQCに関連する新しい量子相やくりこみ群的に有意な変数について発表する。

14:40 - 15:05 石垣 秀太 氏「ゲージ重力対応を用いた非平衡定常状態における南部ゴールドストーンモードの解析」講演資料

南部ゴールドストーンの定理により、連続対称性の自発的破れには質量ゼロの南部ゴールドストーン(NG)モードの出現が伴う。この定理は平衡系においてよく知られているが、非平衡系での定理の詳細を調べることもまた面白い。本研究では、ゲージ重力対応(ホログラフィー原理)を用いて、電場と磁場の印加により非平衡定常状態かつカイラル対称性の自発的破れを示す系を考え、そこに生じるNGモードの分散関係を調べた。

15:05 - 15:15 休憩

15:15 - 16:15 自由討論(Zoom ブレイクアウトルームを利用可能)

16:15 - 16:20 Closing

16:20 - 18:00頃 Extra discussions(Zoom ブレイクアウトルームを利用可能)

時刻は日本時間で表記しています。