テーマ・解題

2年生 テーマ・解題

Society 5.0 の下での地域課題の解決と地域社会の形成のあり方について


【解題】

 2016年,内閣府の第5期科学技術戦略において,「Society 5.0」(超スマート社会)が唱えられ,日本の多くの地域における再興戦略として注目を集めています。

 ここで,Society 5.0 とは,「これまでの狩猟社会(Society 1.0),農耕社会(Society 2.0),工業社会(Society 3.0),情報社会(Society 4.0)に続く,サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する,人間中心の社会」とされていますが,もう少し分かりやすく書くと,現代社会の課題を,IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)等の最新テクノロジーを活用して解決しようとする社会であると言えます。

他方で,日本の多くの地域では,今後,人口減少や少子高齢化の進展に伴い,数多くの諸問題が発生することが予想されます。経済規模が縮小する地域も出てくるでしょう。財政が逼迫し,公共施設の削減,公共サービスの水準の低下,地方税や使用料の引き上げ,さらなる市町村合併等を行わざるを得ない地域も出てくると思われます。また,すでに,労働力不足,事業承継,中心市街地の空洞化,空き家,遊休農地,交通弱者や買い物難民の増加,医療過疎,コミュニティの衰退等々の諸課題が顕在化している地域もあります

こうした地域課題に対して,Society 5.0 が目指す超スマート社会はどのような解決策を提示することができるのでしょうか。また,我々は,Society 5.0 の下で,どのような地域社会を形成していくのでしょうか。学生の皆さんには,Society 5.0 の下での地域社会における諸課題の解決や地域社会の形成のあり方について,リサーチ・クエスチョンを設定し,最も適切な分析手法を用いて分析を行った後,政策提言を行っていただきたいと思います。

3年生 テーマ・解題

コロナを転機に日本は諸問題を解決していけるか?また,そのためになすべきことはなにか?


【解題】 

 2020年は,新型コロナウィルス感染症の流行に世界中が苦しむことになりました。2021年4月現在も,ワクチン接種開始という明るい兆しが見えてきた反面,変異株出現に伴う驚異と隣り合わせの状態が続いています。厳しい措置を人びとに課す国もみられる中,日本では多くの人びとが国からの自粛要請(自由の制約)を受け入れ,感染の爆発的増加を抑えることに協力してきました。一方,人びとの生命・安全や生活を守ることが最優先されるべきとは言え,膨大となった政府支出が将来の重石にならないか危惧されるところです。

 しかしながら,ニューノーマルと呼ばれる生活スタイルの中からは,来たるべき未来も垣間見えてきている気がします。新型コロナウィルスはこれまでの経済活動の前提(これを,ゲームのルールとも捉えることができそうです)に,突然,少なからぬ影響を与えた可能性があります。その結果,近年のテクノロジーの進歩とも相まって,学生の皆さんが実感した学び方をはじめ,働き方や住まい方までもが変容していく(あるいは,変容が早まった)とも言われています。業態転換や本社移転を既に決めた企業がでてきていることは,その兆しだと受け取ることができそうです。

 経済活動の前提の変更は,コロナ以前から指摘されてきた諸問題(たとえば,経済成長の伸び悩み,企業の競争力の低下,所得や教育における格差,人口減少や少子高齢化に関連する問題,大都市圏の過密ならびに衰退地域の窮状,国際協調のあり方や近隣諸国との関係など)に光明をさす側面があるでしょうか。私たちは,コロナをきっかけとした変化を受け入れ,あるいはこれをむしろ逆手にとり,日本社会の抱える諸問題を解決していくことができるでしょうか。それとも,現行の選挙制度,行政の枠組みや仕組み,各種規制,既得権といったものがその妨げとなるでしょうか。一歩踏み出した未来を,現状維持に甘んじたり以前に逆戻りせずに,確実に実りあるものとするにはどうしたらよいでしょうか。

 学生の皆さんには,喫緊のコロナ対策や医療の現場でご苦労されている方々がおられることに敬意を払いながらも,ポストコロナを見据えて,今のうちからこの論題に向き合ってほしいと考えています。論文作成にあたっては,公共選択論の視点(たとえば,自由を尊重することの重要性,それゆえ民間部門に対する公共部門の役割,あるいは共同行為における合意形成の難しさと民主主義システムの課題,政治のステージにおける各主体の意思決定とその相互作用がもたらす結果など)を交えながら,各ゼミの得意分野に引きつけてリサーチクエスチョンを設定し,それに一番ふさわしい分析手法を用いてください。なお,この論題に向き合う中で,自分自身の将来のキャリアや生活についても思いをめぐらせてもらえたらうれしく思います。