【解題】
日本が現在直面する最も大きな問題の1つとして”少子高齢化問題”があります。1970年の人口構成割合では、14歳以下人口が24%、65歳以上人口が7.1%であったのに対し、2015年ではそれぞれ、12.6%、26.6%と大きく変化しています。また2060年にはそれぞれ、9.1%、39.9%と推計されており、日本での少子高齢化は今後ますます進むと予測されています。少子化と高齢化が対で語られるのは、少子化が進めば高齢化が進む(またその逆も言えます)という人口構成上の問題があり、本来は切り離せる問題ではありません。しかし、問題の発端を考えると、少子化の特徴が強いもの、高齢化の特徴が強いものがあります。前者であれば合計特殊出生率の低下、後者であれば要介護者の介護問題などがあげられるでしょう。
本テーマでは、主に少子化に焦点を当てて、議論を行ってください。少子化の結果の指標の1つと考えられる合計特殊出生率は1970年には2.13であったのに対し、2015年では1.45に変化し、2060年には1.35まで下がると推計されています。なぜ人々は子どもを産まなくなってきているのかを考えましょう。
少子化の原因は複合的です。例えば、結婚観、雇用形態の変化、女性の社会進出など、様々な原因が考えられ、そのどれもが正しいと考えられるでしょう。しかし原因としての重要性の大きさは違うはずです。
皆さんの独自性を最大限尊重しますが、研究における分析の手順の例を示します。まず1つの原因に焦点を当て、その他の原因と比較し、その重要性をデータや統計学、計量経済学を用い定量的に指摘してください(以下、データ、統計学、計量経済学を用いることを定量的と記します)。原因に関しては、様々な捉え方が出来ます。現時点で既に大きな影響を与えているもの、また現時点では重要ではないが、今後更に重要性を増していくものなどです。原因と考えらえる多くのものから、皆さんが考える(総合的に)大きな原因を示してください。そして、その原因の対策として考えられる政策を考え、既に行われているものであれば、その効果を定量的に指摘してください。また行われていない政策を考えた場合は、その政策がなぜ重要かを定量的に指摘してください。例えば、日本では行われておらず、他国で行われている政策を挙げるとすれば、その政策を日本で実施した場合、なぜ有効か、どのような効果をもつかを定量的に考えてみてください。
重要なことは、印象論で語るのではなく、定量的に語ることです。客観的な視点で政策を議論することを忘れないように心掛けてください。2年生の皆さんには少しチャレンジングかもしれませんが、多重回帰分析という手法は様々な条件をクリア出来れば、原因と結果に示唆を与えることが出来る非常に有意義な手法です。ただし原因と結果というのは常に明確な関係があるというわけではありません。結果と思っていたものが実は原因である場合もあります。この点を十分に注意した上で、妥当な先行研究の整理や手法の選択,そして意欲的な政策提言を行ってください。
最後に参考文献を2冊ほど示します。この参考文献を手始めとして様々な文献にあたり、皆さんで議論をして論文を作成してください。
<参考文献>
山口慎太郎 (2019) 『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』 光文社
小塩隆士 (2013) 『社会保障の経済学 第4版』 日本評論社
<参考HP>
政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/syaho/naze/haikei.html
平成30年度厚生労働白書
【解題】
選挙年齢が20歳から18歳に引き下げられた前後から日本においても新有権者の投票参加の向上を目指した主権者教育の在り方に関する議論が盛んになった。最初の国政選挙となった2016年参院選には一定の効果が認められたように見えたが、その後の2017年衆院選や2019年参院選の結果を見ると、2016年参院選での成果は主権者教育の成功というよりは自分たちが初めてということからの新有権者自身の自覚の高まりや、メディアの盛んな報道に影響された初回効果でしか過ぎなかったのではないかという見方も散見されるようになった。そこでここでは主権者教育の効果に関する実証的検討を行った上で、新有権者を投票に誘うにあたってより稔りのある主権者教育の在り方を議論し、提案して欲しい。
検証すべき基本的な仮説は、「主権者教育が質・量ともに充実している都道府県ほど、18歳の投票率は高くなる」というものである。主権者教育の効果が実証できなければ、主権者教育のあり方自体も若者目線で見直しを迫られることになる。
分析にあたって従属変数は最低限でも2016年参院選の都道府県毎の18歳投票率となるであろう。場合によっては市区町村を分析の単位とすることも可能である(2017年の衆院選との比較という観点で分析を進めることもできるが、そもそも選挙の質が異なるという点をいかにコントロールするかが難点となる。同じ質の選挙という意味では2019年参院選との比較の方がより適切であろうが、2019年参院選に関しては都道府県単位で18歳の投票率を一覧できるデータが現時点では整備されていない)。その効果を検証すべき独立変数は分析の単位に合わせた主権者教育の質と量に関するデータである。さらには適切な地域の特性に関する様々な指標をコントロール変数として回帰モデルに投入することが肝要である。都道府県毎の投票率や地域の特性に関する様々なデータの収集は問題ないとしても、主権者教育に関する変数をどのように操作化し、入手するかがポイントとなる。
実証分析には前提となる理論やモデルが必要とされるが、それには下記の参考文献中にあるRikerとOrdeshookの論文を参照されたい。有名な投票参加に関する期待効用モデル(投票参加の計算式)が提示されている。
以上の実証分析の結果を前提に、新有権者を投票に誘うにあたってより効果のある主権者教育のあり方を考察して欲しい。その際、近年行動経済学で注目されているナッジ(Nudge)による向上策を検討するのも、一つの新たな視点として面白いだろう。
<参考文献>
・William H. Riker and Peter C. Ordeshook,“A Theory of the Calculus of Voting,” American Political Science Review, Vol.62, No.1, pp.25-42(March 1968), pp.25-28.
・小田中直樹(2010)『ライブ・合理的選択論―投票行動のパラドクスから考える』勁草書房。
・長沼豊その他(2012)『社会を変える教育―英国のシティズンシップ教育とクリック・レポートから』キーステージ21。
・リチャード・セイラー(2016)『行動経済学の逆襲』遠藤真美訳、早川書房。
・Kevin J. Elliott, “Aid for Our Purposes: Mandatory Voting as Precommitment and Nudge,” The Journal of Politics, Vol. 79, No. 2, pp. 656-669 (February 9, 2017).
<参考HP>
総務省 選挙結関連資料
https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/data/index.html
総務省 都道府県選挙管理委員会ホームページ一覧
https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/links/senkan/index.html
総務省 主権者教育に関する調査
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei15_02000153.html
総務省 主権者教育・高校生向け副教材『私たちが拓く日本の未来』
https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/senkyo/senkyo_nenrei/01.html
明るい選挙推進協会 主権者教育