かつてたびたび行方をくらませていた自身の父が、2008年にひさしぶりの行方知れずから戻ってきて以降何もせずにずっと家にいるようになったことを機に、父を被写体として撮影をはじめる。写真に加えて、父と関わった日々のことを綴った日記を合わせて収録した写真集『father』を2016年に刊行。
『father』を刊行したことによって、父が「失踪する父」として固定されていくことへの反動として、失踪ばかりしているわけではない父のことや自分のこと、写真のことについて言葉で綴り、『い
なくなっていない父』として2023年に晶文社より刊行。今では言葉を書くことが自身の活動にとって欠くことのできないものになっている。現在、雑誌「文學界」で「でもだからこそ日誌」を
連載中。2010年より病院で暮らしている伯母の身元引受人になり、たまに会いに行って写真を撮るようになる。2020年に伯母が亡くなるまでの写真と日記で構成された『長い間』を2023年
ナナルイより刊行。父や伯母についての日記を書くなかで日記というメディアへの関心が高まり、日記に関するワークショップのファシリテーターをおこなうようになる。
現在は、長崎の平和祈念像やカトリックの文化、自身の信仰等々について扱った写真集『祈り/長崎』を制作中で、書肆九十九より刊行予定。
また、複数人で暮らしている自身の生活を撮影した『明るくていい部屋』が2024年10月にふげん社より刊行。
金川 晋吾
写真家。1981年京都府生まれ
2006年神戸大学発達科学部人間発達科学科卒業
2015年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了
主な展覧会
2015年「STANCE or DISTANCE? わたしと世界をつなぐ「距離」」熊本市現代美術館
2018年「長い間」横浜市民ギャラリーあざみ野
2021年「声の棲み家」プライベイト
2021年「CHIBA PHOTO」旧神谷伝兵衛邸稲毛別荘
2022年「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」森美術館
2024年「ハイムシナジー」ふげん社
2024年「祈り/長崎」MEM
刊行物
2016年『father』(青幻舎)
2021年『犬たちの状態』(太田靖久との共著、フィルムアート社)
2023年『長い間』(ナナルイ)
2023年『いなくなっていない父』(晶文社)
2023年『集合、解散!』(植本一子、滝口悠生との共著、自費出版)
受賞歴
第12回三木淳賞(2010年)
さがみはら写真新人奨励賞(2018年)
東川賞新人作家賞受賞(2023年)
photo:森田兼次
2017 年より旧優生保護法に関するリサーチを開始し、2022 年「MOT アニュアル2022:私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」(東京都現代美術館)にて、日本の障害者政策の約100 年の歴史と障害者運動の100 年の歴史を表裏一体にした年表の作品を発表。障害者施設で起きた殺傷事件の被害者の「生活」を作品の中で再現することで、個人の生活も歴史によって作られること、歴史を作るのもまた個人の行動と個人同士の連帯であることを示した。2019 年からは、ジェンダーギャップや社会構造を研究するコレクティブ「ひととひと」の代表も務める。
「ひととひと」ではハラスメントについて法的な側面、カウンセリング、労働組合などの実践的な講座と、アートとジェンダーについて、ジェンダー視点で読む美術史など研究的な講座を行なっている。2023 年には性加害の行われる社会背景についての講座を開催した。2021 年にひととひと主催の展覧会を開催し話題となる。 そこでは、メンバーそれぞれがジェンダーについて「個人的な視点」で作品を作ることをテーマとした。工藤の祖母、母、工藤自身の3 代の女性の個人史と明治時代から現在までの女性の労働にまつわる歴史を年表で繋げ、国の政策や制度、そこから生まれる価値観などが女性の労働、経済的自立にどのように影響を与えたかを示す作品を出出品した。
2024年度のACYでのプロジェクトでは横浜市における障害児の親の会の活動のリサーチ、取材、母親を対象にしたワークショップ、左近山団地内でのカフェでの展覧会を行い、障害をめぐる社会構造、親による社会運動、性別役割分担とケアについて考察した。
工藤 春香
東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。東京都生まれ。絵画を起点に、2010 年代後半より、社会問題へのリサーチと言葉を持たない人々への想像力をもとに、テキスト、オブジェ、映像を組み合わせたインスタレーションを制作。
主な展覧会
2017 年「生きていたら見たかった風景」ART TRACE Gallery「Doble Line~Drawing show andWorkshop」日本・ポーランド交流展(ART TRACE gallery Tokyo/NEON gallery/ヴロツワフ・ポーランド)
2020 年「静かな湖畔の底から」Arai Associates /東京
2021 年「ひととひと」企画展「女が5 人集まれば皿が割れる」北千住BUoy
2022 年「MOT アニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」東京都現代美術館
2023 年 「生活・抵抗」PARA神保町
2025 年 「わたしたちがいるために」左近山アトリエ131110/横浜
受賞・助成等
2005 年「VOCA 展2005」(上野の森美術館)
2009年 「柔らかな器展」野村文化財団助成
2017 年 「DoubleLine~Drawing show and Workshop 」日本ーポーランド交流交換展示
アーツカウンシル東京助成
2021 年「女が5人集まれば皿が割れる」公益財団法人川村文化芸術振興財団社会 参加型アート支援助成(SEA)、 アーツカウンシル東京助成
2024 年 アーツコミッション・ヨコハマ(ACY) アーティストフェローシップ助成
記憶、ジェンダー、ケアを主なテーマとし、リサーチやコラボレーションを通じて、主に映像インスタレーション作品へと展開する。様々な土地でのリサーチや人々へのインタビューを起点とし、世代間の記憶を通じて受け継がれる迷信、歌、日常の儀式といった無形の遺産に埋め込まれた、性別役割の政治性を探求している。
母親になった経験をきっかけに、自分自身の中に無意識に受け継がれた抑圧や女性役割の構造について考察し、「解放」のための実践とは何かを問いかける。近年は、家父長制資本主義への抵抗としての女性労働歌についての作品や、フェミニズムの「周縁」に存在した女性の連帯としての「母親」による社会運動のリサーチを起点とし、ケアする人が共に表現するための空間としてのアートプロジェクト「Dismantling Motherhood」を、研究者の齋藤梨津子と共同で行っている。
個人の制作に並行して、社会問題やフェミニズムに関する協働リサーチ、制作を行うBack and Forth Collective のメンバーとしても活動し、アーティストや研究者との国境を越えた対話を軸にし、協働的なリサーチや協働映像作品の制作、キュレーション、執筆などの実践を行なっている。
坂本 夏海
1986 年生まれ。ロンドン芸術大学チェルシーカレッジオブアーツ MA ファインアーツ学 科修了。アーティスト。Back and Forth Collective メンバー。2019 年より文化庁新進 芸術家海外研修制度にて英国スコットランドを拠点に活動、2023 年以降は日本(岩手 / 東京)を拠点に活動を行う。
主な展覧会
2021 年 個展「Knitting the intangible voices」16 NicholsonStreet、グラスゴー
2023 年「When Bodies Whisper」Timespan
2024 年 個展「Song for Solidarity (WaulkingSong)」 グラスゴー現代美術センター 2024 年 「Dismantling Motherhood」Murasaki Penguin Project Totsuka
助成
2021年 Hope Scot Trust、VACMA Award:Creative Scotland Open Fund
一般財団法人川村文化芸術振興財団SEA支援助成
ポーラ財団若手芸術家在外研修助成(2020-2021 年)
2022年 公益財団法人小笠原敏晶記念財団 調査・研究等への助成(現代美術分野)
2023 年アーツコミッション・ヨコハマ(ACY )アーティスト・フェローシップ助成
身体的な実践によって、過去の出来事を現在のなかに捉えなおすことで、個人や 共同体の失われた関係性の再構築をはかる。東日本大震災後は、半壊した宮城 県沿岸部・新浜の住宅を借り受け、アーティストや建築家らを招聘するプライ ベートなレジデンスプログラムなども企画する。
生まれ育った仙台に存在していた「追廻住宅」(おいまわし地区)という戦争罹災者や引揚者の暮らした宅地を、昨年立ち退きが完了し消えるまでの8年間、調べていました。インフラを町内会で整備したり、生活改善のために行政と交渉を重ねたそのまちは、「普通の暮らし」を目指して人々が自治を行った場所でした。かつて4000人が暮らしたまちの最後の一軒に通い、元住民に話を聞いたり写真を集めたりしながらリサーチと作品制作を行ってきました。私が追廻住宅へ関わる理由は、行政と摩擦のあった追廻地区の人々が地区外からの市民などから偏見をもたれていた現状がありましたが、その実態を明らかにして誤った認識を正したいと思ったからです。また、「自分で自分の暮らしを作る」人々の暮らしぶりの歴史が追廻住宅であり、こうした先人の営みを紐解くことが、これからの暮らし、まち、人との関係をつくるヒントだと考えるからです。
佐々 瞬
1986年宮城県生まれ。 2009 東京造形大学 美術学科絵画専攻卒業。仙台を拠点に活動。
主な展覧会
2012年「大邱フォトビエンナーレ」(韓国)
「MOTアニュアル2012」東京都現代美術館(東京)
2013年「Omnilogue Your Voice isMine」(シンガポール)
2016年 「六本木クロッシング2016」森美術館(東京)
2020年 個展「公園/ローカルの流儀」ターンアラウンド(仙台)
「アカルイカテイ」広島市現代美術館(広島)
「現代地方譚7」すさきまちかどギャラリー(高知)
2021年 「ナラティブの修復」せんだいメディアテーク(仙台)
2022年 個展「未来、もしくは架空の長井のこと」(仙台)
鹿児島での生活や実体験から作品を制作しています。子供の学校に関する事、家庭や地域での出来事、大規模開発や原発への市民運動を通して感じた、言葉ではうまく伝えられないことや言いにくいことを、身近な人と共に考えるために、アート作品にしています。
今回の作品「にぎい、こん!」は、鹿児島の家族の一大行事である運動会での、母親の役割への疑問から作品を作りました。おにぎりを握る女性たちがその手に込めたものを表現したいと思いました。
さめしま ことえ
1979年静岡市生まれ。2006年より鹿児島市在住。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。旧姓名浦田琴恵。別府や横浜など全国各地のアートプロジェクトに参加する。2014年に編集者の夫と鹿児島の小さな出版社、燦燦舎を立ち上げ、多くの書籍でイラストを手掛ける。原発や大規模開発、ジェンダーなどを背景に鹿児島での生活から作品を制作。段ボールや新聞紙など身近な素材を用いた参加型の作品や、ワークショップも手掛ける。「かわるあいだの美術実行委員会」メンバー。
主な展覧会・プロジェクト
2006年 取手アートプロジェクト2006(取手市)
2007年「SA・KURA・JIMA プロジェクト 2007」(鹿児島県・桜島)
2009年 別府現代芸術フェスティバル2009『混浴温泉世界』国内展「わくわく混浴アパートメント」コーディネーター(別府市)
2008年「KOTOBUKI クリエイティブアクション」(横浜市・寿町)
2009年「水都大阪2009」水辺の文化座(大阪市)
2021年「生きる私が表すことは。鹿児島ゆかりの現代作家展」長島美術館(鹿児島市)
2023年「象るふるまい」レトロフト Museo(鹿児島市)
2024年 さめしまことえ展「日の差すおにぎり長い沼」東静岡アート&スポーツ/ヒロバ (静岡市)
2024年 さめしまことえ個展「なんで騒ぐか」レトロフト Museo(鹿児島市)
共著に『桜島 ! まるごと絵本』『鹿児島田の神すごろく』他。(全て燦燦舎)
西田 祥子
キュレーター/アートマネージャー
佐賀県生まれ、京都大学文学部美学美術史学専攻卒業。様々な地域で社会と芸術を架橋するアートプロジェクトの企画運営に携わる。現在は京都芸術センタープログラムディレクターを務める傍ら、アートマネージャー・ラボをはじめ複数のアートコレクティブに参画し、アートに関わる誰もが心豊かに暮らせる社会を作ることを目指し活動している。近年の主な企画に「Screening Dialogue in Asia(元映画館、東京、2023年)「Art for Field Building in Bakuroyokoyama」(MIDORI.so、東京、2021)「講座・アートとハラスメントを考える」(オンライン講座、2020~2021年)
近年の主なプロジェクト
<展覧会・上映会>
2023年 Screening Dialogue in Asia(元映画館、東京)
2021年 Art for Field Building in Bakuroyokoyama(MIDORI.so、東京)
2021年 Art Thinking Week(SHIBUYA QWS、東京)
2021年 WACCA IKEBUKURO 7th Anniversary Event Gallery Show(WACCA IKEBUKURO、東京)
2021年 第45回木村伊兵衛写真賞受賞作品展ー片山真理、横田大輔(ニコンプラザ東京/大阪)
2016年 アーティスト in 六区 2016(宮浦ギャラリー六区、香川)
<オンラインイベント>
2023年 フリーランスアーティスト・ アートワーカーのためのメンタルヘルスケア講座
(アーティスツユニオン、アートマネージャー・ラボの共催)
2022年 アートとキャリアをめぐる多世代交流会
(ひよこアーツ、アートマネージャー・ラボの共催)
2021年 講座・アートとハラスメントを考える「メンタルヘルス編」「労働組合編」
(ひととひと、アートマネージャー・ラボの共催、「法律編」は2020年開催)
<プロジェクトマネジメント>
2022年 片山真理「ハイヒール・プロジェクト」
2019年~ TOKYO MIDTOWN AWARDアートコンペ事務局(~2024年3月)