京都市交響楽団 70周年記念事業
「プロコフィエフの陣~交響曲全曲演奏会」
「“世界にはばたく指揮者”育成プロジェクト」レポート Vol.2
「プロコフィエフの陣~交響曲全曲演奏会」
「“世界にはばたく指揮者”育成プロジェクト」レポート Vol.2
京都市交響楽団が創立70周年記念事業として取り組む「“世界にはばたく指揮者”育成プロジェクト」。
指揮者を目指す学生が京響のリハーサルから本番に立ち会うことで、指揮者として必要な現場を体験してもらうことを目的としています。
5月の「壱」に続き、今回が2回目となります。新たに参加したふたりは、オーケストラと向き合う日々で何を見つけたのでしょうか。
※第1回の様子・沖澤のプロジェクトへのインタビュー記事はこちらをご覧ください。
\ 期間限定!注目の演奏をもう一度 /
今回の参加者
前列左:神志名勇(かしな・ゆう)さん 東京藝術大学3回生
前列右:吉原かれん(よしはら・かれん)さん 東京音楽大学卒業
――音楽や指揮を始めたきっかけを教えてください
神志名さん(以下、敬称略):高校生の頃から、ずっと指揮をやりたいと思っていました。もともとピアノを弾きますし、小学生の時は合唱を、中学校では吹奏楽部でチューバ、高校ではオーケストラ部でファゴットを吹いていました。
――いろんな楽器を経験されて、その中でなぜ指揮に?
神志名:高校生の頃にクラシック音楽が大好きになったんです。きっかけのひとつは、YouTubeで小林研一郎先生のリハーサル動画を見たこと。先生のパッションに圧倒されました。もうひとつは、人生で初めてオペラを観劇したとき。すごく胸を打たれて、指揮者を見ながら「こんな仕事をしてみたいな」と思いました。
――吉原さんが指揮を始めたきっかけは?
吉原さん(以下、敬称略):小学6年生のとき、音楽発表会で「全校生徒の前で誰か指揮を振る人はいないか」という話をいただいたんです。私は人の後ろに隠れるような性格だったんですけど、「一度やってみて」と言われて振ってみたら、自分の指揮に合わせて1000人くらいの全校生徒が一斉に声を出してくれて。自分のスピードで、自分のタイミングで音楽をやってくれることがすごく気持ちよくて、「この感覚は今まで感じたことがない」と、幼いながらに思いました。
中学生のとき「音楽高校を受験してみたい」と親に言うと、反対はされましたが「やってみなさい」と言ってもらい、受験しました。ところがバイオリンでの受験は失敗してしまって、お先真っ暗な状態になってしまったんです。
そのときに、高校から指揮を学べる場所が唯一、ここ京都の京都堀川音楽高校にあると知ったんです。ソルフェージュ、スコアリーディング、和声、バイオリンもピアノも、すべてできないといけない。当時はできていなかったので、出身の姫路から京都まで、週4回、1年間レッスンに通いました。ギリギリ間に合った、という経緯です。
――「これ」と決めたらやる方なんですね
吉原:全くそういう人間ではなくて、何もかも中途半端だったんです。ただ、お先真っ暗になるという体験をそれまでしたことがなくて。あの1年間は、自分の性格も考え方も価値観も、すべてを考え直した、自分の中で切り替えた年だったなと思います。
――今回のプロジェクトに参加したきっかけは?
吉原:高校時代から京響さんにはお世話になっていて、リハーサル見学に潜り込ませていただいたりしていました。3年前の2023年9月に、沖澤さんが京響の東京公演で、ベートーヴェンの交響曲第4番をされたときも、リハーサルを見学したんです。沖澤さんの指揮ぶりとリハーサルを初めて見て、圧倒されたというか。あんなに緻密なリハで、ひとつの言葉、ひとつのモーションで、こんなにもオーケストラの音って変わるんだ、と。「この方の近くでぜひ学ばせていただきたい」と、その時からずっと思っていました。
今年の3月に東京音楽大学を卒業するにあたって、広上淳一先生に相談したら「こういうプロジェクトがある。受けてみたらどうだ」と仰ってくださいました。それがきっかけです。
――広上さんと沖澤さん、お2人それぞれから、どんなことを学んでいますか
吉原:広上先生は、抽象的なイメージを先に提示してくださるんです。例えば「ここの音のキレはソフトクリームの先っぽみたいに」とか。誰にでも分かる言葉で、まず示してくださる。最初は、なぜこの譜面のここでそれを言われたのか、ぱっとは理解できないこともあるんですけど、何回もリハーサルを聞いているうちに「なるほど、だからそういうイメージが欲しかったのか」と腑に落ちてくるんです。沖澤先生は、まず「ここはこういう音が欲しい」とすごく端的に言ってくださいます。アプローチは違うけれど、どちらも奏者にまっすぐ届く言葉なんですよね。リハーサルでは、棒振りだけでなく言葉が奏者にとってすごく重要なキーになると思うので、お2人の言葉をいつも意識して聞いています。
――神志名さんは、現場に来てみてどうですか
神志名:授業では、先生はいつも実践的なことを教えてくださいます。腕のテクニック、この楽器にはこんなタイミングで、こういう動きで、とか。そして大学の外で京響のリハーサルを見学すると、レッスンで習ったことが「こんなところに活かされてるんだ」という場面や、沖澤さんが実践なさっている姿を拝見することがあって。必ずしも同じやり方ではないにしろ、同じようなこだわりをプロの指揮者の方々が共有しているのを見つけることができました。
――指揮をしていて「楽しい」と感じる瞬間は、どんなときですか?
神志名:僕は楽譜を読むのが好きで、「どんな音がするんだろう」と想像する時間がまず好きなんです。それが本当に自分の耳に飛び込んでくる瞬間、イメージしていた音と実際の音が、一緒でも面白いし、違っても面白い。人間を相手にしていることなので、「そんなふうに演奏なさるんだ」という個々の意思が音に見えるのが楽しいですね。
もうひとつは、決して大げさなジェスチャーじゃなくても、イメージして振っているだけで、思った通りに伝わったとき。何にも代えがたい喜びがそこにあるなと思います。
吉原:最近、「責任のある仕事だな」と痛感しているからでしょうか。「楽しい」という感覚とは、少し違うのかもしれませんが…。大学3年の頃、学内で有志のオーケストラを立ち上げました。学生なので、運営を含めたすべての業務を自分たちでこなさなければなりません。その中で指揮者というのは、ただ指揮を振るだけでなく、裏で起きているトラブルに対応したり、あえて一歩引いて全体を見守ったりと、単に「棒を振るだけではない役職」なのだと知りました。
リハーサルで自分の発言やアプローチによって音がガラッと変わることもあれば、全く変わらないこともあります。指揮者の言葉やタクトには責任が伴うのだと実感してからは、本番後に「無事に終わって良かった」という達成感や安堵感はあっても、それを単に「楽しい」と表現するのとは少し違うと感じるようになりました。
――リハーサルやバックヤードで沖澤さんを間近に見て、どうでしたか?
吉原:指揮台を離れているときは、どんなときでもオーケストラのみなさんと同じ立場でお話されているなと思いました。「指揮者だから」ではなく、同じ奏者であり、同じ現場にいる仲間として。もちろん最終決定権は指揮者にありますけど、それ以外はちゃんとオープンにされている。楽屋では私たちにすごく気を使って話しかけてくださって、一緒にお食事に行って、プライベートなお話も聞かせてくださいました。
以前、沖澤さんの記事で「音楽のことに関しては、必ず奏者と同じ目線で向き合うようにしている」と書いていらっしゃるのを読んで、とても共感しました。広上先生も「指揮者は『ごめんなさい』を言える人であるかが、すごく大事なんだ」とよく仰るのですが、現場では、同じ立ち位置で音楽の話をするのって実はすごく難しい。ちょっとマイナスなことを言われたとしても、また違う引き出しを開けて「じゃあ、こうしてみたらどうですかね」と提案する。上からの立場で意見を通すのではなく、対話のキャッチボールを大事にされているのが、いちばん印象に残りました。
神志名:決断力がすごいなと思います。それと同時に、たくさんの事柄に悩んだり迷ったりされるシーンも拝見しました。指揮台の上は決める時間で、楽屋に入ったら迷ったり思案したりする時間。そこに私たちも手を貸せることがあればお手伝いする。その繰り返しの中で、少しずつ曲のイメージが作られていくんだなと思いました。
――今回のリハーサルでいちばん印象に残っている場面は?
神志名:5番のシンフォニーの1楽章、第2主題が出てくるところで、コントラバスが全音符を小節いっぱい伸ばしていくシーンがあるんです。でも、音楽全体は前向きに動いていく。客席で聞いていて、周りの流れに対してコントラバスがちょっと重く感じる場面があった。僕がそう思った直後に、沖澤さんがリハーサルで同じ指摘をされたので、「気づいたところは一緒だ」とちょっと喜んだんですけど――沖澤さんはコントラバスのみなさんに「4拍目から1拍目に向かう感じを、この白玉の連続の中にも作ってほしい」とおっしゃったんです。気づいたところまでは一緒なのに、どのパートにどう伝えるか、その伝え方と効果が自分と全然違う。それからは、気づきとセットで「もし自分がいま指揮台に立っていたら、どう伝えるか」も考えるようになりました。
もうひとつ、印象に残ったことがあって。5番の中に、1stバイオリンがすごく歌い上げるところがあるんですけど、そこで沖澤さんは「『もし亡くなった人をひとり生き返らせることができたとしたら』と想像してもらって、そういう悲痛な祈りみたいなものを表現したい」とおっしゃったんです。心の底から共感するとともに、背筋がぞくっとするような感動がありました。自分がもともとそう思っていたわけじゃなくて、沖澤さんに説得されてしまった、いちばん感動した瞬間です。
――楽団のメンバーと話したことは?
吉原:高校時代からお世話になっている先生方が楽団に数名いらっしゃって。高校時代に習っていた先生が、サウンドチェックで振らせていただいた後、「オーケストラというのは、あなたが振るタイミング、パッション、すべてを見た上で、見た通りに演奏しているんだ」というお話のあとに、こんな宿題をくださったんです。
「プロコフィエフの楽譜の打楽器のところには、「✕」とか「◯」とかの奏法の記号が書いてある。でも僕の経験上、昔のパート譜にはこれが書いてあった覚えがないんだよね。プロコフィエフが本当に書いた記号なのか、後から誰かが付け加えたのか。このプロジェクトが全部終わったら、僕に教えてほしいな」と。奏者にしか分からないのだけど、結局指揮者も分かっていなくてはいけない問題を課題として提示してくださり、すごく考えさせられました。
――プロコフィエフをこれまで振ったことは?
神志名:一度もありませんでした。プロコフィエフといったら「ロミオとジュリエット」を書いた人。そういう存在でした。
でも今回、曲の勉強をする前に、プロコフィエフについて書かれた本をとにかく片っ端から読んで、人物像から勉強し始めたんです。その中で思ったのは、「プロコフィエフって、僕と似てるかもしれない」って。自然が好きで、天体観測が好きで、数学も好きで、映画鑑賞も好きで、あれもこれも興味があって全部調べちゃう。そこが僕とすごく似ている。知れば知るほど近しい人物になりました。
いちばん「プロコフィエフのここが好きだな」と思ったのは――曲の中でものすごい大轟音が鳴るじゃないですか。でも、スコアはほとんどフォルティッシモ止まりなんです。チャイコフスキーだったらフォルテを5つも6つも書くかもしれないところを、プロコフィエフはフォルテ2つでそういう音を鳴らしてしまう。きっと奏者の心情が分かっていて、そう弾きたくなるような、モチベーターとしての力がとびきりすごいんだなって思いました。
吉原:私はプロコフィエフはこれまで勉強したことがなくて、不安な状態で参加したんですけど、神志名さんが初日からすごく熱心に勉強される方で、色んな情報交換をさせていただきました。一緒に参加した方にも恵まれて、あっという間の数日でした。
――第1回で参加されたの藪本さん、森田さんもリハーサルに来ていましたね
吉原:3日目の夜に、お2人が食事に誘ってくださって、みんなで一緒に食事に行ったんです。リハーサルの「ここの箇所難しいよね」といった話を深くしつつ、レッスンの話もプライベートの話もして、年代の近い学生同士でいろんなことを話せて、いい時間でした。
神志名:「プロコフィエフは3番でオーケストラをものすごく大きくした後、4番の初版はすごくコンパクトな編成で、内容も簡潔になっている。ベートーヴェンの『英雄』と4番の関係に似ている。凝縮した、詰まった良さがきっとあるはずだ」という話になり、 なるほどと思うと同時に、1、2、3番を経験してきた彼らから、4、5番をやる僕たちへ、バトンを渡されたような感じがしました。
――リハーサル期間中、図書館に行ったそうですね
神志名:リハーサル2日目のお昼に、沖澤さんが僕たち2人を連れ出してくださって、その時に「プロコフィエフが書いた短編小説集の日本語訳が出てるよ。面白いよ」と教えてくださったんです。京都の図書館にその本があると調べて、借りに行って、夜中の2時ぐらいまで夢中で読みました。
キノコと一緒に地中に女の子が潜っていく話とか、エッフェル塔が歩き出す話とか、プロコフィエフはすごいファンタジーを頭の中に持っている人。展開が読めないし、人を驚かせるし、ニヒルだったりシリアスだったり、いろんなユーモアを持っている。そういうところが、きっと曲にも活かされているなと思いました。沖澤さんのおかげです。
――7つの交響曲のうち、何番を指揮してみたいですか?
吉原:私は1番か5番です。
神志名:4番かな。サウンドチェックで振ったので、もう1回振りたいです。
――リハーサルで実際に振ったのは?
吉原:私が5番の4楽章の冒頭で、
神志名:僕が4番の1楽章の冒頭です。緊張しました。振ることを事前に知らされていたのですが、当日、唯一喉を通った食事は、コンビニで買った白い握り飯1個でした(笑)。
吉原:沖澤さんに初めて私の指揮を見ていただきました。私は癖で上の方で振ってしまうんですが、「プロコフィエフのような重たい音が出てくるときは、重心を下げて振らないと、重たい音は出てこないよ」「重心が上がっていると、オーケストラには早く次に行きたいように見えて、どんどん先に行ってしまう」と。同じ女性で身長も近いので、ご自身が体の使い方で気をつけていることも教えていただきました。
――どんな指揮者になりたいですか
神志名:この期間ずっと、「沖澤さんみたいな指揮者になりたいな」と思っていました。テクニックだけじゃなくて、人柄も。リハーサル中の3日間は、いつも主語が「自分」だったんです。自分がこの曲をどう思うか、自分がどう思われているか。でも本番でお客さんが入って、ブラボーの声があって、拍手が鳴り止まない。普通、3回捌けたら拍手は止みますよね。4回目って、なかなかない。沖澤さんの作る音楽と、みんなから愛されるカリスマ性。それが自分に足りないもので、これから必ず持たなければならない素質だなと思わされました。
吉原:いつ何時でも自然体である指揮者になりたいです。指揮台は、どれだけ自分を着飾っても、どれだけ見栄を張っても、絶対に隠せない場所だと思うんです。自然体の自分をオープンにしていると、曲のことでも、プライベートのことでも、お互い一緒に笑って話せる。そういう当たり前のことが、指揮者にはすごく大事で、実際に音楽にも繋がる。リハーサルがどれだけうまくいかなかったとしても、どんな時でも自然体で、素直さを忘れずに。そういう指揮者を目指していきたいです。
――オーケストラは好きですか
神志名:すごく好きです。まず、京響が大好きなオーケストラになりました。楽団員さんがこんなに優しくて、寛容でオープンなオーケストラは初めてです。それに、プロコフィエフの、絵の具のパレットの青から紫まで、濃淡も全部使うような音楽を、本当に全部表現し尽くしている。オーケストラって無限の可能性のあるものなんだと学ばされました。こんなにいろんな音がするんだって、オーケストラを大好きにさせてくれたのが京響です。
吉原:好きです。オーケストラの中で弾くのも好きなんです。指揮科の仲間の有志オケにバイオリンで乗せてもらうことがあるんですけど、みんなと真ん中で弾くのは、正直、指揮するより楽しいと言えるぐらい(笑)。指揮者としての言葉や振る舞いには常に責任が伴う。そんな「楽しさ」だけでは語れない重圧を背負っているからこそ、 バイオリンを手にしてオーケストラの輪に入る時間は、純粋な楽しさがあります。音楽を共有している、一緒にやっているというのがいいなと思って。そういう意味でオーケストラが大好きです。
――オーケストラがはじめての方へ、どんな楽しみ方があると思いますか?
神志名:演奏を聞くことももちろんですが、奏者同士のアイコンタクトやコミュニケーションをみるのも面白いと思います。そこに自分が参加しているような感じがする時があるんですよね。クラシックにどれぐらい詳しいかに関係なく、お客さんが見ていて楽しめるところだと思います。
\ 期間限定!注目の演奏をもう一度 /
プロコフィエフの陣~交響曲全曲演奏会 「壱」 ※終了しました
2026年5月3日(日・祝) 14:30開演
交響曲 第1番、第2番、第3番
プロコフィエフの陣~交響曲全曲演奏会 「弐」 ※終了しました
2026年7月18日(土) 14:30開演
交響曲 第4番(初版/1930年)、第5番
プロコフィエフの陣~交響曲全曲演奏会 「参」
2026年11月28日(土) 14:30開演
交響曲 第6番、第7番
会場:京都コンサートホール(大ホール)
《一般》
A ¥6,000 / B ¥4,500 / P ¥3,000(舞台後方席)
《U30》
A ¥2,500 / B ¥1,500 / P ¥1,000(舞台後方席・当日のみ販売)
※チケット購入時点で30歳以下
※オンラインチケットのみの取り扱い
・24時間オンラインチケット購入
・京都コンサートホール・チケットカウンター(075-711-3231)
・ロームシアター京都・チケットカウンター(075-746-3201)
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