当研究室では、磁性体で発現する特異な物理現象を探索し、その機構解明を目指して研究を行っています。主な研究テーマとこれまでの成果をご紹介します。
Eu化合物の価数転移の研究
Euは金属間化合物中では4f電子を7個(2価とよぶ)もつ場合と6個(3価)を持つ場合がある。2価の場合は7μBの磁気モーメントを持ち、大きなイオン半径をもつが、3価の場合は磁気モーメントを持たず、小さなイオン半径を持つ。通常は、2価あるいは3価の状態で安定であるが、ごくまれに2価と3価の間で時間・空間的に価数が揺らいだ状態(価数揺動)となったり、2価と3価の間で価数が変化(価数転移)したりすることがある。我々は、2価安定な反強磁性体EuRh2Si2に着目し、圧力を加えたところ、反強磁性磁気秩序(TN)が消失し、価数転移(Tv)が出現することを見いだした(右図)。価数転移温度Tvよりも低温では磁化率が小さく、温度依存性も小さいことから非磁性的な3価に近い価数状態になっている。
・Yb化合物の金属的価数秩序の研究
YbPdは立方晶CsCl型構造をもち、Ybの平均価数が2.8価の価数揺動物質である。4つの相転移を示すことが古くから報告されていたが、その機構が長年不明のままだった。我々は、単結晶のX線回折実験によりT1=130Kで立方晶から正方晶への構造相転移が起こり、T2=105KでYbの価数秩序が起こっていることを明らかにした。通常、価数秩序は電気伝導性が悪い物質で起こるが、本物質は金属的な電気伝導性を示すことから特異な価数秩序である。価数秩序では磁性的なYb3+と非磁性的なYb2.6+が層状に積層している。更に本物質はT3=1.9K以下で磁気秩序を示すことから、その構造を調べるためにJ-Parcで中性子回折実験を行った。その結果、磁気伝播ベクトルk=(0.080 0 0.32)の非整合サイン波構造を明らかにした(右図)。更にYb3+は磁気モーメントをもつのに対し、Yb2.6+は持たないことも明らかにし、上述の価数秩序構造を支持する結果を得た。サイン波磁気構造におけるYb3+の磁気モーメントの振幅は0.3μBであり、通常のYb3+の局在モーメントに比べて小さく、近藤効果によって一部遮蔽されている可能性も考えられ、磁気揺らぎや価数揺らぎの共存した特異な基底状態が実現している可能性がある。
Eu化合物の価数転移を伴う逐次価数秩序転移の研究
層状六方晶化合物EuPtPは、T1=240K, T2=200Kで2段の価数転移を示す物質として知られていた。2段の価数転移を示す物質は珍しいこと、価数転移を示すにも関わらず低温で磁気秩序を示すことから、価数秩序の可能性が指摘されていた。我々はSPring-8で共鳴X線回折を行い価数の秩序構造を調べたところ、c面内に同一の価数が並び、c軸方向の積層パターンが異なる2つの価数秩序構造を見いだした(下図)。すなわち、T<T2では...2価3価2価3価...と積層し、T2<T<T1では...2価2価3価2価2価3価...と積層していることを示した。圧力を加えるとEuの平均価数は更に3価方向へシフトし、新たに...2価3価3価2価3価3価...となる価数構造も見いだした。それ以上の圧力では更に3価方向へシフトし、価数秩序も消失し、磁気秩序も消失している。