塗装前のトラブル
塗装前のトラブル
塗料に関するトラブルと対策・解決方法を記載していきます。まずは、塗料に関する問題でどんなパターンがあるかを見ていきましょう。現在お持ちの塗料が、どのようなトラブルに見舞われているかを確認しましょう。
①ゲル化(増粘)
②沈殿(ケーキング)
③皮張り
④ニス分かれ
①ゲル化(増粘)
ゲル化(増粘)について見ていきましょう。ゲル化とは、読んで字の如く塗料がドロドロとしたゲル状に固まってしまう現象を指します。または完全に固まっていなくとも、ゼリー状になってしまい粘度が上がっている状態も指します。
←塗料が容器の壁面や底部に付着し、
ドロドロになっている状態
<ゲル化の原因>
塗料がゲル化する主な原因は、以下のパターンが主に考えられます。
・高温下での長期間の保管を行った場合
塗料の種類にもよりますが、基本的に塗料は高温下での長期保存は出来ないものと考えましょう。例えばご使用の塗料が20度以下での保存を想定された物と仮定し、仮に庫内で40度で保存された場合、約20度以上の温度差となります。20度以上の温度差と言えば、体感的にもかなり変わってきますよね?塗料も同じで、塗料の中の物質が反応・分解を起こし、ゲル化を促進してしまいます。
・容器の密閉不良により溶剤が揮発してしまった場合
塗料は多くの場合、溶剤と塗料の成分(顔料・染料など)が混ぜ合わされて作られています。当然、揮発し易い物質と揮発しにくい物質が混合されている場合、揮発しやすい物質が先に揮発します。例えばシンナー系溶剤を使用している塗料ですと、シンナー自体が揮発性が高いため、容器の密閉が不十分な場合どうしても先にシンナーが揮発してしまい、結果的に塗料の粘度が上がりドロドロしたゲル状になってしまいます。
・水分が混入した場合
こちらで書いた"水分が混入した"とは、湿気の高い場所にて長期間保存したことを指します。通常、容器がきちんと密閉されていれば水分が混入することは殆どないのですが、容器の蓋がきちんと閉まっていなかった等で水分が混入した場合も、ゲル化の原因になることがあります。
・異種の塗料を混合した場合
基本的に、塗料は異種の塗料を混ぜ合わせることは出来ないと考えてください(調色等で同種類の塗料を混ぜ合わせることは可能です)。異種の塗料を混ぜ合わせると、組み合わせによっては塗料に添加されている物質が反応し、ゲル化する場合があります。
・硬化剤を混合した状態で貯蔵した場合
硬化剤は化学反応を利用して塗料を硬化させる物です。そのため、一度硬化剤を添加してしまうと、放っておいても化学反応が促進され、塗料が強力に硬化していきます。そのため、硬化剤を添加した塗料は必ず使い切るように心がけ、もし残ってしまった場合は廃棄するようにしましょう。
・適合していないシンナーを混入した場合
塗料を薄める際に使用するシンナーは、殆どの場合、メーカーにより指定されています。これは塗料によって溶剤の種類や内容物が異なるためです。中には混合すると危険な組み合わせもありますので、塗料を薄める際は必ずメーカーにより指定されたシンナーをご使用下さい。
<ゲル化の対策>
・冷暗所にて保存する(20度以下で紫外線を避ける)
・塗料の容器の蓋を密閉状態を保てる状態に閉める
・塗料に異種塗料、硬化剤、不適合の溶剤を添加しない
<ゲル化の処置>
仮に塗料がゲル化している場合、多少の増粘である場合は、よく撹拌したり、指定の溶剤を添加し撹拌することで使用可能です。が、完全に硬化している場合は、残念ながら使用出来ないため、指定の廃棄方法で廃棄してください。
【使える製品】
口が大きなタイプの塗料缶は、以下のヘラやミキシングバーが便利です。
口が小さな容器や、そもそも容量が小さな容器はこちらの撹拌用のボールが便利です。
②沈殿(ケーキング)
ケーキングとは、塗料の容器の底に、顔料が沈殿して溜まっている状態を指します。硬い沈殿をハードケーキング、柔らかい沈殿をソフトケーキングと言います。ケーキングした場合、溶剤を入れてから棒等で撹拌するか、撹拌用のボール等を用いて撹拌することである程度は使用可能になる場合もありますが、ケーキングが進行し塗料が完全に固まっている場合は、再使用は不可能となる場合が多いです。
<ケーキングの種類>
・ソフトケーキング→硬化を始めて間もないため、撹拌や溶剤で薄めることでまだ再使用が可能な場合があります。
・ハードケーキング→かなり硬化が進んだ状態のケーキングです。ここまで硬いと、もう使用は難しいかも知れません。
<ケーキングの原因>
・高温下で長期間保存した場合
高温下で長期間保存した場合は、そうでない場合と比較してケーキングが発生しやすくなります。上記のゲル化がおこる場合と、ケーキングがおこる場合がありますが、どちらになるかは塗料の種類によって変わってきます。
・顔料が原因の場合
塗料に含まれる顔料は、基本的に他の含有物よりも比重が大きい場合が多く、長期間放置すると顔料が底部に沈殿していきます。これがさらに押し固まることでケーキングが進んでいきます。塗料によっては顔料の割合が多く、この場合はより顔料が底部に沈殿しやすくなります。これは塗料が様々な物質の混合物である以上は避けられない反応なため、保存環境を改善するほかありません。
・塗料粘度が低い場合と高い場合
これは2パターンあるのですが、塗料粘度が低い場合は、底部にケーキングがおきやすくなります。液体自体の粘度が低いため、重い物は下へ、軽い物は上へ分離し易いためです。逆に粘度が高い場合は分離はおきにくいものの、一度分離してケーキングをおこしてしまうと、再度の混合が困難な場合があります。
<ケーキングの対策>
・冷暗所にて保存する(20度以下で紫外線を避ける)
・定期的に撹拌する(理想はミキシングマシンで定期的に撹拌すること)
基本的には、対策の方法はケーキングもゲル化も大差ありません。冷暗所にて保存し、定期的に撹拌してあげることで塗料はより長持ちします。そうは言いつつ、空気に触れてしまうと保存期間はどうしても短くなってしまいますので、一度開封した塗料はなるべく早く使い切るようにしましょう。
世の中には便利な物がありまして、アジテータカバーという、塗料の撹拌を行える塗料蓋があります。1L缶用、4L缶用など様々なサイズがありますので、お使いの缶のサイズに合わせてお選び下さい。
※アジテータカバーは、各塗料メーカーから販売されています。原則、日本ペイントの塗料缶は日本ペイントのアジテータカバーをご使用下さい。稀に他メーカーの物が使用可能な場合がありますが、実際は取付自体は可能でも密閉性が確保されておらず、中の塗料がすぐに固まってしまいます。主な原因は塗料缶とアジテータカバー間のパッキンの位置で、そもそもここが適合していないと取付出来ませんし、取付出来たとしても塗料を入れる際に滲んできたりして上手く使うことが出来ません。
使う側としては、規格を統一して欲しいと思っちゃいますよね。ただ、塗料は基本的にメーカーを跨いでの使用は出来ませんので、アジテータカバーから規格が異なる方が、異種の塗料が混合されてしまうリスクを回避できるので良いのかも知れません。
アジテータカバーは、必ずお使いの塗料メーカーのアジテータカバーを使いましょう!流用は原則不可能です!
③皮張り
主にフタル酸エナメル塗料で発生する現象で、塗料の表層部分に薄皮ができる現象です。この薄皮を皮張りと呼び、この状態の塗料をそのまま希釈・撹拌してしまうと、塗装時の不具合に繋がる可能性がありますので、処置を誤らないようにしましょう。また、対策も合わせてご紹介していきます。
<皮張りの原因>
・缶の蓋の密閉不良
塗料缶の蓋の密閉が不十分な場合、外気に塗料の表層(上部)が常に晒されている状態となるため、空気に触れている部分が硬化してしまうことで皮張りが発生することがあります。
・缶内の塗料が減り、空気の割合が増えた場合
塗料の残量が減ってくると、缶の中の空気の割合が塗料に比べて増えるため、塗料がより多くの空気に触れることになり、結果的に皮張りが発生することがあります。
・高温で長期間保存した場合
高温化で長期間保存すると、(塗料によりますが、フタル酸エナメル塗料は特に)ゲル化やケーキングの代わりに皮張りが発生する場合があります。
<皮張りの対策>
・冷暗所にて保存する(20度以下で紫外線を避ける)
<皮張りの処置>
・皮張りが薄い場合は膜の部分を取り除き、その後しっかり撹拌しましょう。皮張りが厚い場合は塗料を廃却するしかありません。
以上となります。