日大生の皆さんへ
大学生になってアルバイトを始め「働く」ということを身近に感じている方もいらっしゃるでしょう。
「働く」ということは、生活するために必要なことでもあり、社会の一員として役割を担っていくことでもありますが、「働く」という名の下、どんなことでも許されるわけではなく、使用者は一定のルールを守って労働者を雇用し働いてもらうようにしなければなりません。また社会の一員として役割を担っていくということは、税や社会保障等の面で一定の役割を果たしていくことも求められることもあれば、状況によってはその恩恵を受けることもあります。
そして、そうしたことは原則として全て法律で規定されています。
皆さんの中には、ハラスメントやブラックバイトという言葉に不安を覚えたり、働く中で「これってどうなっているの?」等と疑問を感じたりしている方もいらっしゃるのではないかと思います。そうした不安や疑問については、学生としてアルバイトをする時にも、将来就職して社会に出て行く時にもついて回ることではありますが、関連する法律を知っておくと安心したり、防げたりすることがたくさんあります。
そこで日本大学を卒業した労働・社会保険の専門家である社会保険労務士の集まりである全国社会保険労務士桜門会が、皆さんが、アルバイトをしたり、就職活動をしたりする前に知っておくと良いことをまとめました。「働く」前や「働く」中で、不安や疑問を感じた時にぜひ参考にして頂ければ幸いです。
労働者として会社に雇われて働く場合は、正社員でも、アルバイトでも、働きはじめる前にあなたと会社との間で、雇用契約という約束を交わすことになります。雇用契約とはどういう約束なのか、どういう点に注意したらよいのかについてお伝えします。
雇用契約とは
雇用契約という約束とは、あなた(労働者)が会社(使用者)に対して働くことを約束し、会社(使用者)があなた(労働者)に対してその働きに応じた給与を支払うことを約束することです。
ちなみに「雇用契約」と似た言葉で「労働契約」という言葉があります。「雇用」と「労働」との違いについてですが、労働者として会社に雇用されて働く際にはその違いを意識する必要はありません。この後も雇用契約や労働条件通知書など「雇用」と「労働」の両方の言葉が出てきますが、いずれも会社に雇われて働くという意味でとらえておけば大丈夫です。
雇用契約を締結するときの注意点
何事もそうですが雇用契約を締結するときも最初が肝心です。
あなたが飲食店で働こうと思って面接に行ったとします。その際に、ろくに面接もしないで「今日から働けるよね? そこに制服があるから着替えてホールに行って。注文の取り方とかは先輩に教わってよね」という展開になったら要注意です。週に何日働くのか、1日に何時間働くのか、時給はいくらか、交通費は全額払われるのかなど、働く際の条件(「労働条件」と言います)をきちんと確認したうえで雇用契約を締結してから働きはじめるようにしてください。面倒くさいなぁと思う人がいるかもしれませんが、後々のトラブルを防ぐためにとても大切なことです。
例えば、あなたがコンビニのレジにおにぎりを置いて、店員さんが「150円です」と言ったときに売買契約が成立します。つまり、売買契約には契約書という書面は必ずしも必要ではないのです。これは、雇用契約も同じです。雇用契約書という書面を交わさなくても、雇用契約自体は有効に成立するのです。冒頭の例のように「今日から働けるよね?」で、労働条件があいまいなまま働いてしまうと、「こんなはずじゃなかった」ということになりかねません。
なお、労働者を雇い入れる際、会社は一定の労働条件について書面で明示しなければならないことになっているため、「労働条件通知書」という書面を労働者に交付する必要があります。しかし、「労働条件通知書」は会社が労働者に対して一方的に通知する内容になっていますので、雇用契約書を作成し、それに労働条件通知書に記載すべき内容を盛り込んで、お互いに記載内容について確認したうえで雇用契約を締結する方が望ましいと言えます。
労働条件通知書に記載すべき内容である一定の労働条件については、次の「労働条件通知について」の項目で説明します。
労働条件通知について
前項で述べたとおり、会社は、雇用契約を締結する際に、一定の労働条件について「書面」で交付しなければならないこと、そして、その内容を確認したうえで雇用契約書を取り交わすのが望ましいということを説明しました。
ここでは、会社が書面で通知しなければならない労働条件の内容についてお知らせします。これらは労働条件の重要な内容になりますので必ず確認し、納得したうえで雇用契約書を取り交わしてください。
書面を交付することにより明示しなければならない労働条件の項目は、以下のとおりです。
・ 労働契約の期間
・ 有期労働契約を更新する場合の基準
・ 就業の場所・従事する業務の内容
・ 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働(早出・残業等)の有無、休憩時間、休日、休暇および労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
・ 賃金の決定、計算・支払いの方法および賃金の締め切り、支払いの時期
・ 退職に関する事項(解雇の事由含む)
と多くの項目があります。
上記の項目のうち、学生であるあなたが確実に確認して頂きたい項目に絞って説明します。
・ 契約期間の定めの有無
いわゆる正社員として勤務する場合は契約期間の定めが無いことがほとんどですが、アルバイトで働く場合は契約期間の定めがあることも多くみられます。契約期間の定めがある場合は契約更新に関する定めも記載が必要とされていますので、長期間のアルバイトをしたいと考えている場合は、同時に契約更新に関する内容も確認しておきましょう。
・ 就業の場所・従事する業務
あなたが実際に働く場所と仕事の内容が記載される項目です。店舗で販売職に就くつもりでいたのに、支店で事務職をすることになっていたなんてことが無いように、これらの項目もきちんと確認しましょう。
・ 始業・終業の時刻
学業に支障のない時間帯になっているかなどの確認が必要な項目です。残業や休日出勤をすることがあるか無いかを書く項目もありますので併せて確認しておきましょう。
・ 退職に関する事項
自分の都合で退職するときには、「退職する日の○○日前までに届け出ること」というようなことが記載されている項目です。「退職する日の6か月前までに」など、あまりにも長い期間が設定されている場合は注意が必要です。
その他雇用契約に伴い知っておくべきこと
労災保険
仕事中のケガの治療費などを出してくれる「労災保険」という制度があります。労災保険は労働者として働いている全ての人が対象になります。アルバイトも例外ではありません。週に1日しか働いていないとしても、1日2時間しか働いていないとしても対象となります。
病院では「仕事中にケガをした」と伝えて、会社にも報告するようにしてください。大したケガではないからと会社に報告しないでいると、後から重大な後遺障害が生じた場合に本来なら労災保険から受けられたはずの補償が受けられなくなってしまう可能性があります。
【参考資料1】労働条件通知書の例 ※出典 : 厚生労働省 主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)より
労働基準法は、働くすべての人々が適切な環境で働けるように、一定のルールを設けて労働者を保護するために、労働条件の最低限の基準を定めたものです。これらの基準は、正社員だけでなく、有期契約労働者やアルバイトなど、あらゆる就業形態の労働者に適用されます。皆さんがアルバイトや将来の仕事で、自分の権利を守るために、この法律を理解しておくことは非常に重要です。
以下に、労働基準法の主なポイントを簡単にご紹介します。
1. 労働契約
働き始める際には、必ず労働条件を確認し、労働契約を締結しましょう。
労働条件が書かれた契約書(労働条件通知書)は、将来トラブルが発生した際の重要な証拠となるので、必ず書面で受け取りましょう。
また、そこに記載された労働条件と実際の労働条件が異なる場合は、労働契約を解除することが可能です。
※労働条件通知書については「雇用契約」のページも参照してください。
2. 就業規則
就業規則は、会社と労働者のルールブックです。労働者が10人以上いる会社には、就業規則の作成が義務付けられています。この就業規則は、会社と労働者の権利や義務を明確にするもので、労働条件の基準が記載されています。働く際には必ず確認し、自分の権利を把握しておきましょう。
【就業規則に必ず記載されるべき事項】
・ 労働時間、休憩、休日に関すること(始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務など)
・ 賃金の決定方法、計算方法、支払い方法、締切日、支払日など
・ 退職に関すること(解雇の事由を含む)
3. 労働時間
労働基準法では、1日の労働時間は8時間、週の労働時間は40時間が上限とされています(法定労働時間)。これを超えて働かせることは原則として違法です。ただし、会社が36協定を結んでいる場合、労働時間の延長が認められます。
【36協定とは】
36協定は、労働者と会社が時間外労働や休日労働について合意した協定です。この協定がない限り、会社は労働者に時間外労働や休日労働をさせることはできません。会社が法定労働時間を超えて労働させる場合には、必ず36協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。
4. 休憩と休日
会社は、労働時間中に以下に該当すれば労働者に休憩を与える義務があります。
・ 6時間を超えて働いた場合:労働時間の途中に少なくとも45分の休憩
・ 8時間を超えて働いた場合:労働時間の途中に少なくとも1時間の休憩
また、労働基準法では、1週間に1日以上の休日を与えることが会社に義務付けられています。
5. 年次有給休暇
正社員等通常の労働者が働き始めて6か月が経過し、8割以上出勤している場合は、原則として10日間の年次有給休暇が付与されます。また、この有給休暇は、正社員だけでなくアルバイトやパートタイム労働者にも適用されます。
【アルバイトの場合の「比例付与」】
アルバイトやパートタイム労働者のように、週の労働日数や労働時間が少ない場合は、有給休暇が比例付与されます。これは、週所定労働日数や労働時間に応じて有給休暇の日数が決まる仕組みです。
このように、アルバイトの方でも勤務日数に応じた有給休暇を取得する権利があります。
6. 賃金
賃金の支払いに関して、労働基準法には5つの原則が定められています。
① 通貨で支払われること
② 全額が支払われること
タイムカードなどで時間管理を行っている場合、1分単位での集計を行わなければいけません。15分単位や30分単位 などとなっていないか確認しましょう。
③ 毎月1回以上支払われること
④ 一定の期日に支払われること
⑤ 労働者本人に直接支払われること
賃金の単価については、法律で地域ごとに最低賃金が設定されています。
最低賃金は「時間給」で定められており、毎年改定されるので確認しましょう。
また、時間外労働、休日労働をした場合は、割増賃金が支払われます
【支払われる割増賃金の割増率】
・ 法定労働時間外:25%以上増
・ 法定休日労働:35%以上増
・ 深夜労働(22時〜翌5時):25%以上増
7. 退職と解雇
退職
労働基準法では、退職の方法について規定がありません。しかし、期間の定めのない労働者(正社員など)は、民法にのっとり、原則として2週間前までに会社に通知すれば自由に退職することができます。なお、会社の就業規則には退職に関する事由が必ず記載されています。退職に関しては無用なトラブルを避けるためにも会社の就業規則等のルールを確認し、可能であればそのルールを守るようにしましょう。
解雇
会社が労働者を解雇する場合には、30日前の予告または30日分の賃金の支払いが必要です。
ただし、重大な不正行為や規律違反があった場合など、例外的に即時解雇されることもあります。
解雇された場合には、それが不当解雇でないかをしっかり確認することが大切です。会社が正当な理由なしに解雇することは、労働基準法で禁じられています。もし不当解雇だと感じた場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
参考資料2】年次有給休暇付与日数表
社会保険の制度について
アルバイトをしている皆さん、毎週30時間以上シフトが入ったら、社会保険に加入する、という話をアルバイト先から聞いたことはありませんか?
社会保険とは「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」のことです。
社会保険料は、勤めている会社で支給される給与から控除されるメイン項目となります。何のために給与から払っているのかは、とても気になるところですね。そこでこのページでは、社会保険について説明させて頂きます。
社会保険は法人や一定規模の個人事業所では加入が義務となっています。学生でも、一定時間働くと、加入する必要があります。学生が社会保険に加入することになった場合、ご家族などの扶養家族になっているときは、その保険証を返却し、自ら社会保険に加入することになります。
年金制度について
社会保険に加入すると、図のような年金制度の2階部分の厚生年金に加入します。厚生年金は社会保険に加入している月数に、乗率を掛けた積み上げ方式で計算されます。20歳を過ぎると、毎年誕生日に将来もらえる受給見込み額がわかる年金のはがき「ねんきん定期便」が届きます。マイナンバーカードを持ち、マイナポータルを利用していれば、「ねんきん定期便」を確認しなくても年金受給見込み額が即時でわかるようになっています。
次に、国民年金の学生免除についても説明しておきましょう。国民年金は年金制度の1階部分で20歳から60歳まで加入が必要です。大学在学中に20歳を迎える学生も多くいるため、国民年金を支払う義務も発生します。ただ、経済的な事情で国民年金を支払うことができない場合、「学生納付特例制度」を利用し、年金の支払いを猶予することができます。これは家族の収入の多寡を問わず、アルバイト等の収入が一定額以下の場合、市役所や年金事務所に届出して認められると、1年ごとに納付義務が免除され、10年以内であれば、保険料をさかのぼって納めることができる制度です。
国民年金で年金(老齢基礎年金)を受け取るためには、原則として保険料の納付済期間等が10年以上必要ですが、学生納付特例制度の承認を受けた期間は、この10年以上という老齢基礎年金の受給資格期間に含まれます。ただし、老齢基礎年金の額の計算の対象となる期間には含まれません。(満額の老齢基礎年金を受け取るためには、40年の保険料納付済期間が必要です。)
詳しくは日本年金機構のホームページ https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150514.html を確認しましょう。
社会保険加入の際の健康保険の給付
ケガや病気の時、診療を受けることの他に、健康保険には様々な給付があります。代表的なものとして、「傷病手当金」と「出産手当金」の制度があります。傷病手当金は、業務以外でケガや病気になった時、仕事ができなくお休みした際に、お休みした4日目からおおよそ給与の3分の2程度の金額が最大1年6か月まで本人に支給されるものです。
「出産手当金は」妊娠・出産する方について産前6週間・産後8週間、おおよそ給与の3分の2程度の金額が本人に支給されます。
どちらも職業生活上起こりうることであり、社会保険に加入することで、これらの給付が受けられると思うと安心して働くことができます。
今回は、学生の皆さんが、アルバイトをしたり、将来就職して働いたりする際に、ぜひ知っておいてほしい社会保険に関することをご案内させて頂きました。このほかにも社会保険制度には、様々な保障があります。わからないことや「こんな時どうなの」という疑問を感じたときは、ぜひお近くの社会保険労務士に尋ねてみましょう。
【参考資料3】社会保険の仕組み
入社後に直面する人事評価制度の実体とその対策
これから就職を考えている日大生の皆さん!会社を選ぶときに何を気にされますか?
知名度、企業理念、所在地、年収、休日数、研修制度、会社行事や福利厚生が充実しているか、ブラックな噂はないかなどでしょうか。会社訪問をすれば「活気があるな」とか、「何か重苦しいな」などと感じることもありますが、皆さんの会社選びが正解であったかは入社してもすぐには結論が出ません。結局は退職してから、あなたがその会社で働いた期間をどう評価するかによって決まります。
この項では、あなたの希望する会社に採用されたとして、入社後に知ることになる大学では教わらない会社の人事制度(成績評価、昇給・降給、昇格・降格基準、月給・賞与などの賃金、退職金制度)について、日頃から会社の人事部門より相談を受け、アドバイスを行う社会保険労務士が粗削りですが本音で実体や対策を述べていきます。
その前に会社選びで参考にして頂きたいポイントが2つあります。
一つ目はモデルプランです。堅実な会社であれば入社から定年退職までのモデルプランを作成しています。課長や部長などの管理職まで昇格するケースや一般職までで定年を迎えるケースなど、何歳で昇格し、その時の年収や退職金がいくらになるのか等、何通りものシミュレーションをしています。このシミュレーションによって、昇格条件、社員の等級、役職別の賃金や退職金の基準となる金額が決められているのです。
残念ながら新卒の会社訪問でこのモデルプランを質問しても、殆どの会社では社外秘なので答えてはくれないでしょう。しかし、その会社の役職別の平均年齢や年収はネットで検索すれば実態に近い数字が分かります。公表されている業界別調査資料(「賃金構造基本統計調査」厚労省、「中小企業の賃金・退職金事情」東京都)等に記載の年齢・役職別平均年収などと比較して、条件的に同等以上であれば選定候補に入れても良いと思います。
2つ目のポイントは退職金制度です。いくら支給されるのか詳しくは分からなくても、有るか無いかは求人票に記載されているので確認できます。退職金が無い会社は比較的最近設立されたIT、AI、DX業界などにも見られます。
今の時代、定年まで勤める人は少なく、新卒者の約3割は3年未満で辞めてしまうとの統計も出ています。そこで、退職金制度で会社が準備するお金を先払いする形で月給に上乗せして、多めに支給する方が社員に好まれるのではないかとの考えから、退職金制度が無い会社もあります。また、退職金制度があっても勤続3年未満で退職した場合は支給されない会社も数多くあります。
退職金の有無について、どちらが良いかは皆さん自身が描くキャリアプランにより変わってきます。もし、3年以内に辞めることを前提にしていなければ、「退職金制度有り」の会社を選んではいかがでしょうか。毎月の給与が少し多く支給されたとしても、使ってしまい、なかなか貯められないものです。会社を辞める時にまとまったお金が支給される積立預金のような退職金制度は、税優遇もあり本当に有難いと感じるものです。
それでは本題の人事・評価制度に入りたいと思います。
入社後、どこの会社も新人研修期間があります。そこで初めてその会社の人事・評価制度の詳細を知ることになります。そして研修期間が過ぎると、いよいよ配属部署での仕事が始まり、皆さんは会社を退職するまでの間ずっと、仕事ぶりや成果を評価制度によって判定されることになるのです。
もちろん、職種によって必要な知識やスキル、語学力なども昇格等の評価要素になりますが、最も重要なのは、会社に貢献する成果を出し、職場に良い影響を与えることです。いくら勉強ができて一流の大学を出ていても、入社後は仕事が出来るかどうかが問われます。
会社での皆さんの評価は、1.「設定した目標に対する達成度の評価」と2.「実際の具体的行動に対する評価」の2つの評価項目の合計点によって決まります。
一つ目の「設定した目標に対する達成度の評価」の具体的な評価プロセスは、最初にあなたに与えられた業務をすべて箇条書きにしたものを作成します。これを「職務記述書」といいます。
例えば、あなたがサポート職であれば、①社内備品の適正管理と購買業務。②部署内の経費処理・報告書の作成。などと職務記述書に記載していき、それらの業務の中から、評価期間内(半年間毎に年2回か1年間)で会社への貢献度が高いと考えられる目標を「目標設定シート」に3から4つ考え、上司にその目標で良いかを相談の上、記入します。
上記①の業務の目標であれば、次のように立てます。「6月までに社内備品についてのヒアリングを使用する全社員から行い、9月に購買品の見直しを実施し、必要な備品の欠品率を12月までに10%減らす。」などと設定し、その目標達成までのプロセスや最終結果を主に直属の上司によって評価されることになります。これを「目標評価」といい、5段階評価で点数が付けられます。
目標は、「達成するには少し難しいけれど、頑張れば何とかなりそう」なぐらいの難易度が良いでしょう。ほぼ不可能な目標や簡単に達成できてしまう目標を設定してはいけません。なぜなら、どちらも見破られ、「ほら吹き、ずるい奴」などと思われ、信用を失うリスクまであるからです。
もう一つの「実際の具体的行動に対する評価」は「行動評価」といいます。こちらは皆さんが行動目標を設定するのではなく、会社が社員に業務遂行中に期待する行動・評価する行動を予め5項目程度提示します。皆さんが業務を遂行する上でどのような行動をとって欲しいか、どのような行動が高い評価となるかを設定しているのです。
例えば行動評価項目の一つに「目標達成に向けての積極的な行動」と設定されていれば、実際に自分が行った仕事で、時間を効率よく管理し、期限や重要ポイントに対して、業績状況をチェックする行動を実施した事例等を評価シートに記入し、上司との被評価者面談で詳細に説明をします。
その行動が会社(上司)の期待以上ならば高い評価点が付きますが、特に行動目標に該当するような具体的行動を評価期間中にしていない、または、期待以下の行動事例しかなければ、低い評価点が付きます。
当然、目標評価と行動評価の合計点が高い人の月給・賞与額は、評価点が低い人よりも多くなり、社員等級の昇級や管理職への昇格も早くなるように人事制度は設計されています。
ところで皆さんは行動特性(コンピテンシー)という言葉をご存じですか。人にはそれぞれ行動特性があります。例えば、複数の友人と泊まりがけで温泉に行こうと、話が盛り上がった時、いつも旅の手配をする役目を買って出てくれる人がいませんか?その人は会社の行事でも同じような行動をとる可能性が高いと考えられます。逆に絶対に幹事になりたがらない人は、会社でも同じような行動をとると予想できます。
もし、会社が行動評価項目に「誰かがやらなければならない事への積極的な取り組み」と設定したならば、皆さんはいつもならやりたくない会社行事への積極的な行動(司会役や会場の設営等)を意識してやらなければ、高評価を得るチャンスを失います。
誰かがやらなければならない顧客からの苦情処理や他部署との共同プロジェクトへの参加機会などは、まさにビッグチャンスなのです。多少嫌でも意識して積極的に行動しなければ皆さんは低評価に終わります。
つまり、ボーとしないで、常に会社が求める行動を意識して、自分の行動特性・パターンを変えることが求められているのです。
自分の業務範囲でもイレギュラーな対応をしなければならないピンチな状況は、行動目標で高評価を得られるチャンスだと思って積極的に行動してください。上手く対応できたら忘れないようにメモをして、評価期間終了時に記載する評価シートに時系列で書けるように心がけましょう。
ここまで読まれて、「高い評価点を取るのは自分には無理そうだ」と溜め息が出た方でも、いつの間にか上手くいってしまう、魔法のような誰にでもできる簡単な行動があります。
その行動とは「自分で記入した目標設定シート」と「会社が指定した行動評価項目シート」をプリントアウトして、クリアファイルに入れて持ち歩き、朝起きた時と夜寝る前に毎日必ず1回読むことです。本当にこの行動を習慣にすれば、目標達成の可能性は格段に高くなります。何故これだけでよいのかというと、朝と晩に読んだ時だけでなく、寝ている時や日中も潜在意識の中で目標に関係する情報やチャンスを勝手に脳が集め出して、無意識のうちに目標達成に向けて行動するようになっているからです。
私だけでなく、多くの人がこの行動を実践しており、気付いたら目標を達成していたと話しています。「非常識な成功法則(フォレスト出版 著者:神田昌典)」という本にも同様な効果について書かれていますので、興味がある方は読まれることを強くお勧めします。
次に評価制度最大の欠陥と、その回避策についても触れたいと思います。
悲しいことに人事評価は必ずしも公正ではありません。上司によって評価が甘かったり厳しかったりしますし、相性もあり、そこには評価に主観的な要素が入り込む余地がかなりあります。不幸にも評価能力が低い無能な上司の部下になってしまうこともあります。
「上司は選べない」とよく言われますが、なるべく相性のよい上司の下で働けるように、優秀なリーダーを見つけたら「あなたの下で働きたい」アピールを日頃からすることです。
めぼしい上司がいない時は、他に興味がある部署や仕事があれば、積極的に人事担当者や当該部署のキーパーソンにアピールして、他部署への異動を模索する行動もお勧めします。
それを実現するには、あなたの味方を増やしておくことが重要です。小学校から大学までで同窓の先輩であることを知ったら、すぐに挨拶しに行きましょう。その人はずっとあなたを気にかけてくれるようになります。
先ほどの行動目標の例でも述べましたが、自分の業務ではない、職務記述書に含まれないが誰かがやる必要があることは進んでやる。プロジェクトや行事の手伝いも自発的に楽しんでやる、ただし、全然興味がなく、苦痛に感じることはやらなくてよいです。
すると、その行動を見ていて評価してくれる人が現れ、自分の部署に来ないかと誘い、人事異動の手助けをしてくれることがあります。また、転職時には仕事を紹介してもらえるかもしれません。
最後に何らかの理由でどうしても辞めたくなった時には、独立して事業を始める場合は別として、なるべく良い条件の転職先を探すことになります。一番安心で良い条件を提示してもらえるのは、元会社の先輩や同期が先に転職した会社に引っ張って貰うことです。あなたが気に入られていたならば、ダメ元で既に辞めている優秀な元上司や面識のある元役員等に連絡して相談するとチャンスが広がるかも知れません。
また、新卒時より中途採用のほうが学歴等に関わりなく、何が出来るかをそれまでの実績で評価されます。能力と実績をアピールできれば人気企業に入れる可能性が高くなります。
理由はともあれ、自分のキャリアプランを考えて転職する場合は、自分がやりたい仕事と希望する年収(現状より必ず高め)を遠慮せずに堂々と面接相手に提示することが大事です。なぜなら職務内容はともあれ、年収は自分で決めるものなのです。
入社時に65歳の定年まで勤め上げるか、途中で転職するかは殆どの人は決めていないし、どうなるかは分からないものですが、将来どうなりたいかを紙に書き出して毎日眺めていれば、きっとそのようになるのです。皆さんの将来の目標が達成される日が来ることを心から願います。
<執筆>
全国社会保険労務士桜門会 会員
雇用契約 : 松本 健
労働基準法 : 福田 真澄
社会保険 : 玉木 尚子
コ ラ ム : 中西 啓太
監 修 : 正木 秀幸