研究の興味
個体差はどのように生じるのか?従来はあまり注目されてこなかった行動傾向の個体差にスポットを当てると、動物たちの生き様がより詳細に見えてくる。
また、生物は誕生・成長・繁殖を通してどのように次世代へと命を繋いでいくのか?これらの生活史形質は多様であり、生物学における基礎情報として非常に重要である。
これらの疑問に対して、動物行動学と生態学のアプローチから研究に取り組んでいる。さらに、現象の客観的理解のために統計学的手法の習熟も心掛けている。
(共同研究のリクエストと個性研究の相談大歓迎です)
氏か育ちか?個性はある程度生まれながらに決まっているが、後天的な経験によっても変化しうる。一般的な生物では遺伝的にも経験的にも異なる個体同士の比較となるので、個性の違いが何に由来するのか特定することが難しい。そこで、自然下に生息するクローンの爬虫類に着目した。オガサワラヤモリは単為生殖というユニークな繁殖特徴を持ち、メスのみで子供を生みだす。遺伝的な個体差を排除できるという特徴は、個性形成における経験要因の影響を抽出するうえで理想的な対象である 。これまで野外と飼育下のクローンヤモリを対象に、集団内に多様性が生じるメカニズムを研究してきた。
自然下のクローンヤモリを対象に個性の存在を初めて明らかとした。クローン動物では遺伝的な個体差がほぼ無く、経験の違いが徐々に蓄積されることで多様性を生み出していると予想される。ほとんどの幼体は大胆であるが、成体には大胆な個体から臆病な個体までが含まれていた。この発見は、発達過程で臆病な個体が現れることにより集団内に個性が創出されることを示唆するものである。(Sakai 2018. J Ethol)
この論文はEditor’s Choice 2018 Articlesに選出され、紹介動画を作成していただきました。
防風林に生息するオガサワラヤモリを対象に、個性と生息環境の関連性を明らかとした。3年間の標識再捕獲における369個体の記録から、各個体は決まった枝から移動せず、定住性が高いことが分かった。また、大胆な個体は林内のどこにでも生息するのに対し、臆病な個体は道側に位置する低い枝にのみ生息していた。人為攪乱を頻繁に経験したヤモリが臆病に変化することが示唆され、定住性の高い動物種の場合、生息環境が個性の形成に大きく影響する可能性を提起するものである。 (Sakai 2019. Behav Ecol Sociobiol)
発達を通した個性形成メカニズムを検証し、「成長段階特異的」な影響を考慮した新概念の必要性を提起した 。孵化から性成熟までの15ヵ月間にわたってクローンヤモリへの給餌量を制御して飼育し、成長速度と繁殖開始齢に顕著な差がみられた。しかし、給仕量の差は行動形質にはあまり影響せず、成長が早いと大胆で活動的になるという予想は支持されなかった。幼体時のみに大胆さに急激な変化がみられ、発達を通して徐々に個性が変化するという従来の仮説は本種では妥当でないことを明らかとした。 (Sakai 2020. Anim Behav)
ヤモリ科では一腹卵数が2卵という系統的制約がみられるが、1卵と2卵の両方を生む事例もあり、繁殖形質の種内変異についての理解は乏しい。7年間に及ぶオガサワラヤモリの繁殖経歴の観察から、同じ個体が産卵数を変化させ、特定の個体は高頻度で1卵を産むことが分かった。卵の大きさや産卵間隔は1卵と2卵で差はないが、1卵から孵化した幼体は痩せ気味であることを明らかとした。この発見は、ヤモリの一腹卵数の種内変異は孵化幼体の質に影響し、1卵の場合は胚発生の段階で不利益(水分の損出など)が生じている可能性を示唆するものである。 (Sakai 2021. Zoology)
ヤモリは人為活動にともない移入分散しやすく、一部の種は熱帯原産だが亜熱帯にも定着している。しかし、原産地よりも寒い地域でどのように暮らしているのか?といった知見は乏しい。オガサワラヤモリの分布北限域(沖縄島北部)の生態調査から
春~初夏には幼体は孵化せず、秋の集団構造では幼体と成体が明確に分かれる
個体群密度は熱帯域の集団と同程度に高い
ことが明らかとなった。熱帯域では通年繁殖をしているが、亜熱帯域では冬季に繁殖を休止していると考えられる。しかし、本来よりも寒い環境においても成功している。今後は、移入進出を可能にする温度生態的要因や在来生態系への影響を調べていく必要がある。
(Sakai 2016, 2019. Curr Herp)