スズメは近年減少傾向にあると言われています(三上・森本 2011)。2010年から三井物産環境基金より研究助成を受けて立ち上がったスズメプロジェクトのポスドク研究員として、スズメの生態を3年間追跡しました。研究代表者の立教大学教授の上田恵介氏(現:立教大学名誉教授)、プロジェクトリーダーの岩手医科大学講師の三上修氏(現:北海道教育大学)、主要メンバーの立教大学ポスドク研究員の森本元氏(現:山階鳥類研究所)や笠原里恵氏(現:信州大学)らと一緒に東京・埼玉・筑波・長野・秋田などの各地で野外調査を実施しました。このプロジェクトでは次のことを明からにすることを目的としました。
(1)本当に減っているのか?
(2)なぜ減少しているのか?
(3)そもそもの生態は?
日本国内でスズメ の個体数が減少傾向にあることが近年指摘されており、その要因のひとつに近年建てられた気密性の高い住宅に営巣可能な隙間がほとんどないことが挙げられていました。しかし実際にこのことを調べた研究は行われていませんでした。そこで新旧の住宅地でスズメの巣の密度を調査しました。その結果、巣の密度は、岩手県の調査地では1970 年頃にできた古い住宅地は2000 年頃にできた新しい住宅地より3.8 倍高く、埼玉県でも古い住宅地は新しい住宅地より4.8 倍高いことがわかりました。このことから新しい住宅はスズメが営巣しにくい環境で、それがスズメの減少をもたらした一因になっていると考えられました。
写真:埼玉でスズメの巣の密度を調査した新しい住宅地(左)には古い住宅地(右)よりもスズメが営巣できる電柱や波瓦屋根の家屋が少なかった
三上 修・三上かつら・松井 晋・森本 元・上田恵介 (2013) 日本におけるスズメ個体数の減少要因の解明:近年建てられた住宅地におけるスズメの巣の密度の低さ. Bird Research 9: A13–A22.
都市(東京)と農村(埼玉)で繁殖するスズメたちの営巣場所を調べました。その結果、都市では主に電柱の人工構造物の隙間(写真左)、農村では主に家屋の波瓦屋根などの隙間(写真右)に営巣することがわかりました。また巣の分布様式は、都市ではランダム分布、農村では集中分布を示しました。それぞれの地域でスズメが営巣に利用できる人工構造物の量や質、分布の違いが、両地域の繁殖密度や巣の空間分布に影響すると考えられました。
加藤貴大・松井 晋・笠原里恵・森本元・三上修・上田恵介(2013) 都市部と農村部におけるスズメの営巣環境,繁殖時期および巣の空間配置の比較.日本鳥学会誌 .62:16–23.
孵化後4日目の雛
孵化後8日目の雛
孵化後10日目の雛
孵化後13日目の雛
図.スズメの雛の孵化から巣立ちまでの体重変化.松井ら(2011)より改変して転載.
多くの晩成性鳥類と同様に、スズメの雛は孵化してから二週間程度の間に急速に成長して巣立ちます。写真(上)や図(左)をみると、その急激な変化がわかります。
孵化後1 ~ 2 日目:羽域に黒色の色素が点状にわずかに沈着
孵化後3 日目:頭域、背域、尾域、上膊域、翼域、大腿域、脚域で点状の黒色色素がより明瞭。大腿域および脚域では点状の黒色色素の密度が低く、腹域にはほとんどない。
孵化後4 ~6 日目:背域、尾域、上膊域、翼域、大腿域、脚域では黒色の色素が皮下で針状に伸長。頭域では点状の黒色色素の密度が高くなり、腹域では喉から胸にかけて点状の黒色色素の密度が徐々に高くなる。また腹域と大腿域では皮下で羽の基となる黄白色の部分が針状に伸長。目が開くのは孵化後4~5日目。完全に羽鞘に包まれた尾羽と風切羽が孵化後5 ~ 7 日目に伸長。
孵化後7 ~14日目:各羽域の皮下で発達した羽が皮膚の外まで伸長。全身の裸域は徐々に羽で覆われる。羽鞘の先端から羽先が出るのは、尾羽は孵化後7 ~8日目、風切羽は孵化後8 日目。巣立ち直前の孵化後14日目には腹部の裸域がほぼ完全に羽で覆われる。
松井 晋・笠原里恵・森本 元・三上 修・上田恵介(2011)スズメPasser montanus の巣内雛の成長様式. 日本鳥類標識協会誌 23: 1-11.