南大東島は島の中央部にカルスト湖沼群が形成され,沖縄県内の池で最も大きい大池を含む大小100個を越える池沼が点在している.しかし隆起環礁からなるこの島では,地表部に河川は見られない.海から地下水系を通って海水が浸入してくる島北西部に位置する西水門において(図1,2),2006年5月19日にヒラテテナガエビ Macrobrachium japonicum の雄1個体,同年6月3日にコンジンテナガエビ M. lar の雌1個体,さらに同年6月7日トゲナシヌマエビ Caridina typus の雄1個体が採集され,これら淡水産コエビ類3種は南大東島における初記録となった.これらはすべて小卵多産型で,特に前者2種は浮遊幼生期が非常に長く,地表部の河川だけでなく地下水系にも生息することが知られている.このような生活史形質は,最も近い分布域である沖縄本島から約360km隔離された南大東島に,これら3種が着底することを可能にしたと考えられる.
図1.西水門の位置(松井ら2007より)
図2.西水門洞穴地図
愛媛大学学術探検部(1972)『南大東島の洞穴:琉球列島第8次学術調査報告書』より改変.
(西水門から西の方向には平均水深0.5mの洞穴内河川が約400m続いている.)
松井 晋・池田広志・成瀬 貫・浅沼 清・高木昌興(2007)南大東島における淡水産コエビ類3種の初記録.沖縄生物学会誌 45:33–37.