外来種であるネズミ類Rattus spp. の移入は,世界中の海洋島で鳥類の多様性の低下や絶滅に関与する最も重要な要因のひとつとなっている.しかしネズミ類による捕食以外で,島嶼の生物多様性の損失に関連する要因はほとんど知られていない.本研究では,南大東島において,サトウキビ畑に沿った並木で移入種クマネズミRattus rattus が樹上にドーム型の巣を作ること,またモズLanius bucephalusの上部開放型の巣を二次利用して塒や子育てに利用することを報告した.さらに産卵前のモズの巣をクマネズミが一時的に利用すると,モズはその巣を放棄することもわかった.このモズとクマネズミの相互関係は盗み寄生に当てはまると考えられた.クマネズミが鳥類群集に与える潜在的影響を評価する際,捕食だけでなく,営巣場所をめぐる種間の相互関係も考慮する必要がある.
写真:モズの巣内のクマネズミ
Matsui S, Hisaka M & Takagi M (2010) Arboreal nesting and utilization of open-cup bird nests by introduced ship rats Rattus rattus on an oceanic island. Bird Conserv Int 20: 34–42.
侵略的外来種の一種であるアシナガキアリAnoplolepis gracilipesが,野生鳥類に与えている被害を国内で初めて報告する. 2004年6月9日にモズLanius bucephalus の巣立ち雛1個体および2007年7月12日にダイトウメジロ Zosterops japonicus daitoensisの巣立ち雛3個体が,地上付近でアシナガキアリに攻撃され,致死的な外傷を負っている事例が,沖縄県南大東島において観察された.さらに2004-2008年のダイトウコノハズクOtus elegans interpositusの繁殖成績をアシナガキアリが生息していた樹洞(1巣)と生息していなかった樹洞(4巣)で比較した結果,巣立ち成功率や巣立ち雛数には差がみられなかったが,アシナガキアリが生息していた樹洞では,繁殖雌がより頻繁に入れ替わることが明らかになった.脆弱な島嶼生態系においてアシナガキアリが野生鳥類に及ぼす直接または間接的な影響を,今後さらに調べる必要がある.
写真:アシナガキアリに襲われるモズの雛
Matsui S, Kikuchi T, Akatani K, Horie S & Takagi M (2009) Harmful effects of invasive yellow crazy antAnoplolepis gracilipes on three land bird species of Minami-daito Island. Ornithol Sci 8 (1): 81–86.
海洋島では一般に,強力な捕食者がいないため,そこで進化する生物はしばしば捕食者に対する防衛や耐性を失うことがある.そのため,捕食性の動物が海洋島に持ち込まれ定着すると,種の絶滅が起きることがある.捕食性扁形動物であるニューギニアヤリガタリクウズムシ(Platydemus manokwari)は,太平洋の島々に持ち込まれ,在来の陸産貝類を捕食し,その減少や絶滅を引き起こしていると考えられている.本稿では,大西洋西部に位置する南大東島で初記録となるニューギニアヤリガタリクウズムシが2004年7月,2008年7月,2009年6月に記録されたので報告した.野外における陸産貝類への影響を明らかにするため,2009年6月にオナジマイマイを実験的に配置して,その生存率を調べた.しかし本種による捕食圧は低く,南大東島における本種の陸産貝類へのインパクトは現段階ではそれほど高くないと考えられた.
写真:南大東島でウズムシがみつかった林