南大東島に生息する鳥類の血液原虫感染状況を調査した.ダイトウメジロ,ダイトウコノハズク,モズ,スズメの計4種183個体から採取した血液の塗抹染色標本を光学顕微鏡下で観察した.その結果,ダイトウコノハズクを除くすべての鳥類に血液原虫感染を確認し,感染率は59.6%であった.Haemoproteus sp.およびPlasmodium sp.の感染がダイトウメジロ31個体中14個体(45.2%)に認められた.Plasmodium spp.感染が,モズ102個体中94個体(92.2%),スズメ20個体中1個体(5%)に認められた.海洋島の鳥類血液原虫感染は,隔離生態系における宿主-寄生体関係を理解する上で有用な知見を与えてくれるであろう.
写真:多くの個体が鳥マラリア原虫に感染している南大東島のモズ
Murata K, Nii R, Yui S, Sasaki E, Ishikawa S, Sato Y, Matsui S, Horie S, Akatani K, Takagi M, Sawabe K & Tsuda Y (2008) Avian Haemosporidian Parasites Infection in Wild Birds Inhabiting Minami-daito Island of the northwest Pacific, Japan. J Vet Med Sci 70 (5): 501–503.
沖縄県南大東島に生息する鳥類は鳥マラリア原虫に感染していることがわかっているが,その感染サイクルは不明である.ベクター昆虫を探索するため,島内で蚊を採集し,鳥マラリア原虫保有状況について遺伝子解析手法を用いた調査を行った.2006年3月から2007年2月にかけて採集された蚊の総数は9種1,264個体であった.DNAサンプル399のうち15サンプルにおいて,鳥マラリア原虫が陽性であった.検査した蚊の最小保有率は1.2%であった.ヒトスジシマカおよびサキジロカクイカと南大東島のモズから検出された鳥マラリア原虫の塩基配列は100%相同であった.ネッタイイエカから検出された配列とP. gallinaceumの塩基配列も100%相同であった.さらに,他のネッタイイエカ,キンイロヌマカから検出された配列も既報の鳥マラリア原虫に近縁であった.以上より,ヒトスジシマカ,サキジロカクイカ,ネッタイイエカおよびキンイロヌマカがこの島における鳥マラリア原虫のベクターである可能性が示唆された.
写真:ヒトスジシマカ
Ejiri H, Sato Y, Sasaki E, Sumiyama D, Tsuda Y, Sawabe K, Matsui S, Horie S, Akatani K, Takagi M, Omori S,Murata K & Yukawa M (2008) Detection of avian Plasmodium spp. DNA sequences from mosquitoes captured in Minami Daito Island of Japan. J Vet Med Sci 70 (11): 1205–1210.
南大東島における鳥マラリア研究の一環で、島に生息している蚊の季節的消長と空間分布を調査した。定期調査はイースト発酵を利用した二酸化炭素発生装置と吸引式トラップを組み合わせたCDCトラップ10台とGravidトラップ1台を用いて2006年3月から2007年2月にかけて2週間おきに行った。トラップは以下の4つの異なる環境に設置した:サトウキビ畑、環状の樹林地、居住地、湿地。サトウキビ畑の3ヶ所では2種類の高さにトラップを設置した(地上3mと6m)。採集された種類はヒトスジシマカ、ネッタイイエカ、キンイロヌマカの一種、ダイトウシマカ、アシマダラヌマカ、アカツノフサカ、サキジロカクイカ、オオクロヤブカ、トウゴウヤブカの9種類、1,437個体であった。ネッタイイエカが最も高密度で、島全域に広く分布していることから、南大東島ではこの種が鳥マラリアの主な媒介者となっていることが示唆された。
写真:鳥マラリア原虫を媒介する蚊を捕獲するためのCDCトラップ
Tsuda Y, Matsui S, Saito A, Akatani K, Sato Y, Takagi M & Murata K (2009) Ecological study on avian malaria vectors on an oceanic island of Minami-Daito, Japan . J Am Mosquito Contr 25 (3): 279–284.