南大東島では,これまでに213種の鳥類が記録されています.湿地帯では亜種ダイトウカイツブリ,バン,リュウキュウヨシゴイ,ヨシゴイ,ヒクイナが繁殖し,森林では亜種ダイトウコノハズク,亜種ダイトウヒヨドリ,亜種ダイトウメジロ,農耕地や民家周辺ではモズやスズメ,海岸線の岩場ではイソヒヨドリ,開けた環境の草地では亜種不明ウグイスが繁殖しています. 冬季にはオオバン,チョウゲンボウ,ムナグロ,ヤマシギ,トラツグミ,シロハラなどが毎年越冬のために飛来します.春の渡りの時期にはチュウサギやアマサギが畑を耕運するトラクターの後について餌を探している姿をよく見かけます.また春と秋の渡りの時期には,湿地や貯水池にはアオアシシギ,セイタカシギ,ツバメチドリ,クロハラアジサシなどの渡り鳥がやって来ます.この時期は普段見れないツツドリ,ヨタカ, ヤツガシラ,ツバメ,メボソムシクイ,イカル,コムクドリなども農耕地周辺に飛来します.また台風に巻き込まれてオオグンカンドリやアカアシカツオドリなどの南方系の種が偶発的に飛来した記録もあります.
大東諸島では固有種1種(絶滅種)と固有亜種8種(絶滅した亜種含む)が記載されています.しかし1900年以降,森林から農耕地へと環境が大きく変化したことにより,大東諸島と沖縄諸島周辺の固有種だったリュウキュウカラスバトが絶滅し,大東諸島の固有亜種だったダイトウノスリ,ダイトウヤマガラ,ダイトウミソサザイも絶滅したと考えられています.また亜種ダイトウウグイスとハシブトガラスは南大東島で繁殖していた個体群が絶滅したようです.絶滅が起こったいっぽうで,農耕地へと環境が変動したことで,これまでに大東諸島に生息していなかったスズメ,モズ,亜種不明ウグイス(ダイトウウグイスとは別亜種)が新たに定着しています.
大阪市立大学の研究グループは,2002-08年に南大東島で162種の鳥類を観察(記録)しました.これらの鳥類の生息区分を分類した結果,一年中島に生息する種類が7.4%(12種),春もしくは秋の渡りの時期に島を一時的に通過する種類が21.0%(34種),冬に越冬のために島にやってくる種類が11.1%(18種),数年に一度の頻度で不定期に島にやってくる種類49.4%(80種),台風などの影響で偶発的に島にきた種類が9.3% (15種),不明が1.9%(3種)となります.つまり南大東島に一年中生息する種類は,あまり多くありませんが,定期的もしくは不定期的に島にやってくる渡り鳥は132種いることがわかりました. 写真:チョウゲンボウ(冬鳥)
また,2005年6月には,ヨシゴイの巣が大東諸島で初めて見つかりました(松井ら2006).これまで大東諸島におけるヨシゴイの確実な繁殖記録はありませんでしたが,一年中観察されることから,南大東島で繁殖している可能性が指摘されていました(姉崎ら2003).ただし大東諸島とほぼ同緯度である琉球列島や小笠原諸島などの亜熱帯性島嶼では,ヨシゴイは冬鳥として飛来するのみで,繁殖を行っていないと考えられています.
高木昌興・松井 晋(2009)第4章鳥類. 中井精一・東和明・ダニエル ロング(編)『南大東島の人と自然』南方新社,168–181.
松井 晋・高木昌興・上田恵介(2006)南大東島におけるヨシゴイの初営巣記録.日本鳥学会誌 55:29–31.
嵩原健二・中村和雄・松井 晋(2004)大東諸島における鳥類の生息状況と保護すべき貴重種.琉球列島鳥類研究会・環境省沖縄奄美地区自然保護事務所(編)『平成15年度大東諸島環境情報収集調査報告書』29–58.
姉崎 悟・嵩原健二・松井 晋・高木昌興(2003)大東諸島産鳥類目録.沖縄県立博物館紀要 29:25–54.