本年度入試より、①修士論文計画書、②修士論文構想書のいずれかを選択できるようになりました。昨年度までは、①修士論文計画書の提出が必須でした。
公式HPよくあるご質問Q13「修士論文計画書」の方が「修士論文構想書」よりも有利となるでしょうか?:「計画書」か「構想書」の選択自体で、評価の差はつくことはありません。「計画書」は、きちんと書けていると「入学後の研究指導の方向性がイメージしやすい」という印象を与えられる可能性は高いですが、完成度を高めることは容易ではないと思います。一方で、今抱えている課題や解明したいことに真面目に向き合って、論点を整理して「構想書」という形で言語化して説明できることは十分に研究の出発点になると考えます。
公式HPよくあるご質問Q14「修士論文計画書」と「修士論文構想書」のどちらを書けばよいか迷っています。:過去に論文を書いた経験があったり、研究の進め方についての知見をもったりしていれば、「計画書」の方が書きやすいかもしれません。一方で、過去に論文を書いた経験がなかったり、研究の進め方について十分な知見をもってなかったりすると、「計画書」をきちんと書くのは容易ではないと思われます。 課題に対する有望なアプローチ(データ・分析手法・参考文献など)を具体的に説明できるのであれば「計画書」を選択するのが自然に思えますし、有望なアプローチを具体的に説明することが難しいと思ったら「構想書」という形で、背景・問題意識・明らかにしたいことを中心にまとめていただくのが適当に思います。 いずれにしても、関心があるテーマについてよく検討していただき、自分にとって書きやすい方を選択していただきたいと思います。
大学院は学びの場です。入学時点での知識や理解が限定的であっても問題ありません。重要なのは、理解している範囲を見定め、不足を受け入れる姿勢だと思います。
計画書と構想書のどちらを選択した場合でも、修士論文において、事例研究ではなくデータ分析を用いた研究を基本としています。構想書を提出する場合、研究手法などについて入学後にじっくり学んでください。
ファイナンス分野を幅広く網羅しています。全体像としてはこのページの図 (講義科目群の領域) が分かりやすいと思います。
①資産価格 (Asset Pricing) 、②コーポレート・ファイナンス、③数理ファイナンスに大別できます。
① 資産価格が扱う対象は、 株式、債券、通貨、コモディティ、不動産、デリバティブなど多岐にわたります。
③ 数理ファイナンスは対象というよりも手法を表す用語と考えられます。資産価格と相性が良いですが、コーポレート・ファイナンスでもリアルオプションなど数理ファイナンス色が濃いテーマは扱われます。
② コーポレート・ファイナンスについては下記の概念図のとおりです。公共政策とも密に関連するのがファイナンス、特にコーポレート・ファイナンスの特徴です。たとえば、企業・金融税制やガバナンス改革にはコーポレート・ファイナンスの知見が不可欠です。
コーポレート・ファイナンスとは、企業を中心に、[1]資金調達、[2]投資、[3]投資家への還元を通じた資金の流れを研究する学問領域です。このサイクルの円滑な循環を支えるのが、[0]企業統治 (コーポレートガバナンス) です。
下記はキーワードの雑多な列挙です。対象がこれらに限定されるわけではなく、あくまで例示です。
[1]資金調達:株式調達、公募増資、第三者割当増資、新規株式公開 (IPO)、プライベートエクイティ (PE)、ベンチャーキャピタル (VC)、負債調達、銀行借入、無借金経営、社債、信用格付、与信枠、財務制限条項、最適資本構成、(静学・動学) トレードオフ理論、負債の税務便益、倒産 (および広くFinancial Distress) コスト、資本コスト、財務柔軟性・借入余力、マーケットタイミング、ペッキングオーダー、エージェンシー理論、マクロ経済 (金利、金融政策、為替) と資金調達の関係、リスク管理、ヘッジ、金利スワップ、為替予約
[2]投資:設備投資、研究開発、無形資産、ブランド資本・広告投資、人的資本、投資評価、ROEやROICの是非、調整コスト、資金調達制約、キャッシュフローと投資、トービンのQ理論、現金保有、現金の市場価値、現金活用を促す公共政策、企業買収、スピンオフ、株式公開買い付け (TOB)、買収を通じた産業再編 (Merger Wave)、レバレッジド・バイアウト (LBO)、マネジメント・バイアウト (MBO)、多角化ディスカウント、リアルオプション、投資促進税制、政策の不確実性
[3]還元:配当、累進配当、安定配当、自社株買い、株主還元の硬直性と柔軟性、総還元性向、配当・キャピタルゲイン課税、(キャッシュフローあるいはリスクの) シグナリング、企業ライフサイクル、Clientele (株主を顧客とみなす) 理論、Catering (市場への迎合) 理論、行動 (Behavioral) ファイナンス、株主還元と株価・企業価値、企業投資とのトレードオフ、アクティビストからの還元要請
[0]企業統治:取締役会、社外取締役、取締役の多様性、経営者報酬、ストックオプション、業績連動報酬、機関投資家、アクティビスト・物言う株主、ヘッジファンド、買収防衛策、政策保有株・株式持ち合い、株式流動性、ESG、企業統治改革、スチュワードシップコード、コーポレートガバナンスコード、ステークホルダー、アナリスト、報道機関、政府や証券取引所の役割、PBR改善
34単位取得および修士論文合格が必要です。春・夏・秋・冬の4学期制、各学期で完結する科目は1単位、春学期および夏学期など連続する学期で完結する科目は2単位です。2年間で合計8学期在学しますので、単純計算で毎学期4.25単位取得すれば修了の必要条件を満たせます。
1年生向けの基幹的な科目は、曜日ごとに1コマずつ開講される学期が多いです。このため、初年度については週4日程度の通学が望まれます。
宿題や課題の有無は講義ごとに異なります。演習では通常、事前課題が提示されます。
以下、コーポレート・ファイナンス領域での履修例です。合計44単位ですので、ここから10単位分減らしても修了要件を満たせます。1年目に余裕があれば、2年目の履修として記載した科目を1年目に履修しても良いと思います。たとえば寄附講座の履修が提案できます。
開講学期や曜日について、2026年度の情報に基づきます。各科目のシラバスはこのページから検索できます。学年暦はこちらです。
[1年目春学期] 6単位
月曜:演習、火曜:ファイナンス理論の基礎、水曜:金融数理入門 (※文系出身者向け)、金融データ分析の基礎 (※文系出身者向け)、木曜:会計・バリュエーションの基礎、土曜:線形モデル入門 (※文系出身者向け)
[1年目夏学期] 6単位
月曜:演習 、火曜:ファイナンス理論の基礎、水曜:金融データ分析の基礎 (※文系出身者向け)、木曜:会計・バリュエーションの基礎、金曜:マネジリアル・エコノミクス、集中:金融データリテラシーI
[1年目秋学期] 5単位
月曜:演習、火曜:アカウンティング、水曜:ファイナンス理論、木曜:金融データ分析、金曜:コーポレート・ファイナンスの基礎
[1年目冬学期] 6単位
月曜:演習、火曜:アカウンティング、水曜:ファイナンス理論、木曜:金融データ分析、金曜:コーポレート・ファイナンスの基礎
[2年目春学期]8単位
月曜:演習、火曜:プライベート・エクイティと資本市場、水曜:コーポレート・ファイナンスに関する諸問題、木曜:マネタリー・エコノミクス、金融データ分析:演習、金曜:グローバル金融規制と新たなリスクへの対応、金融機関の戦略的経営、土曜:リスク管理と金融教育
[2年目夏学期]6単位
月曜:演習、火曜:プライベート・エクイティと資本市場、水曜:M&Aと事業再生の実践I、木曜:プライベートエクイティファンドの実際、金融データ分析:演習、金曜:グローバル金融規制と新たなリスクへの対応
[2年目秋学期]4単位
月曜:演習、火曜:情報化戦略とその実践、水曜:M&Aと事業再生の実践Ⅱ、金曜:金融改革と法
[2年目冬学期]4単位
月曜:演習、火曜:プライベート・エクイティと課題、木曜:グローバルM&A、金曜:金融改革と法
コーポレート・ファイナンスに関するMBA1年生向けの科目「マネジリアル・エコノミクス」に基づき、Google NotebookLMを用いて作成したダイジェスト動画です。上から順に、第1回アップルの無借金経営、第2回アップルの潤沢な現金保有、第3回アップルの無配当政策、第4回製品市場とコーポレート・ファイナンス、第5回金融政策とコーポレート・ファイナンス、第6回公共政策とコーポレート・ファイナンスに関する講義動画です。
第3回講義で言及している藤田勉氏の記事はこちらです。
AIによる生成のため、解説の不備やレイアウトの崩れなどが含まれています。概要の把握を目的とする限り支障はないと思います。
コーポレート・ファイナンスに関するMBA2年生向けの科目「コーポレート・ファイナンスに関する諸問題」に基づき、Google NotebookLMを用いて作成したダイジェスト動画です。上から順に、第1回資本構成、第2回企業投資、第3回株主還元、第4回現金保有、第5回M&A、第6回企業統治に関する講義動画です。
AIによる生成のため、解説の不備やレイアウトの崩れなどが含まれています。概要の把握を目的とする限り支障はないと思います。
コーポレート・ファイナンスに関するMBA2年生向けの科目「金融データ分析」に基づき、Google NotebookLMを用いて作成したダイジェスト動画です。
「コングロマリット・ディスカウント」、つまり、多角化企業の価値は割り引かれるとの主張を題材として取り上げています。あくまで一例としての位置づけです。動画で言及しているキリンHDに関する詳細は日経新聞「私の履歴書」で読めます。
いずれの動画も「金融データ分析」の同じ資料から作成しています。上の動画では実務的観点、下の動画では統計学・データ分析手法に重点を置くようにAI (Google NotebookLM) に依頼しました。
AIによる生成のため、解説の不備やレイアウトの崩れなどが含まれています。概要の把握を目的とする限り支障はないと思います。
数学
コーポレート・ファイナンスや会計学の講義や演習に限れば、数学はさほど使いません。ただ、微分と確率・統計のごく基礎的な知識は必要です。たとえば、佐々木宏夫『経済数学入門』(2005年、日経文庫) は分かりやすく良い本です。残念ながら絶版のようです。微分積分、線形代数、確率統計に関する学部生向けの書籍を入学前に自習するのも良いと思います。
本プログラムで広く (つまりコーポレート・ファイナンスだけではなく資産価格なども含む) ファイナンスを学ぶ上で、最も基礎的かつ必須と言える数学の講義は、金融数理入門、線形モデル入門、金融データ分析の基礎です。経済・経営系学部で扱われる水準の数学です。
確率・統計用語
以下の用語を理解しておくと入学後の学習を進めやすいと思います。コーポレート・ファイナンスに限れば、狭く深くをお勧めします。一般的な確率・統計の教科書で概ね扱われています内容です。
- 標本・母集団、確率変数、期待値・分散・共分散・相関、条件付き期待値、標本平均・標本分散、帰無仮説、信頼区間、推定量・推定値、大数の法則、中心極限定理
- 最小二乗法、正規方程式、残差、誤差項、標準誤差、t値・p値、決定係数、欠落変数バイアス、不偏性、一致性、多重共線性、FWL (Frisch Waugh Lovell) 定理
分析手法
重回帰分析を理解していれば十分です。参考文献として、田中隆一『計量経済学の第一歩』(2015年、有斐閣) の第5-6章が挙げられます。第3-4章の確率・統計に関する説明は「第一歩」としては難解と思われます。
ファイナンス・会計
学部初級レベルのファイナンスおよび会計の基礎知識が必要です。いずれについても、ごく基礎的な書籍を2−3冊ほど読むと良いと思います。
英語
英語読解力は必須です。AI翻訳などを補助的に用いるのは構いません。ただ、そういったツールに頼らずとも、自身で論文を読める英語力を前提に演習や講義を進めます。特に演習では、英語論文の具体的な記述を確認しながら議論を進める場面が多いです。
動画教材
「カーン・アカデミー」には数学などの基本を学ぶ上で良質の動画がそろっています。説明は英語ですが、日本語字幕を生成できます。微分 (Unit 5以降)および確率統計 (Unit 4以降) が特に関連します。ファイナンスや会計の基礎知識に関して、ファイナンスと資本市場 (Unit 5-6) も有益です。
統計分析ソフトウェア、プログラミング
Stataを使うのが一般的です。入学前の購入は不要です。プログラミングの知識や経験も不要です。
パソコン・タブレット端末
パソコンやタブレット端末の持参は必須ではありませんが、ほとんどの方が持参しています。資料は電子形式で配布されることも多いため、手書き入力が可能なタブレット端末 (Surface、iPadなど) をお勧めします。パソコンとタブレット端末をそれぞれ1台ずつ持参される方も多く見受けられます。性能面では標準的なもので足ります。
データベース
本プログラムのデータベース室で国内外上場企業のデータは広範に利用可能です。非上場企業についてはテーマによって入手可否が異なります。とはいえ、データが充実しているプログラムである点間違いありません。ESGデータも利用可能です。
科目履修
本プログラムの特色の1つが科目等履修制度です。一般的な科目履修とは異なり、本プログラムの修了生のみ利用できます。在学中に履修できなかった科目の学習を支援する趣旨です。
指導教員
研究テーマ設定に関して、教員の研究領域は気にしないで良いと思います。指導可能な領域は研究領域よりも遥かに広いのが一般的です。
ゼミでの指導体制
少人数プログラムのため教員との距離が近く、研究や学習に行き詰まった際の相談についての懸念は不要かと思います。
在学生の年齢層
幅広いです。30代半ばの方がやや多いですが、20代半ばから50代まで様々です。
在学生の業種
幅広いです。私の演習に関して言えば、1年生と2年生含めて、金融3名 (都銀・地銀・保険)、シンクタンク3名 (金融系・政策系)、事業会社2名 (CFO職・IR部門)、コンサルティング会社2名 (金融系・会計系)、出版社1名です。
他MBAプログラムとの比較
演繹的な教育アプローチが特徴です。すなわち、ファイナンス理論およびエビデンスの体系的理解を土台として、実務的な判断力を高めることを重視しています。もっとも、多様な寄附講座をはじめ、個別事例から一般的な知見を得る (つまり帰納的アプローチで学ぶ) 機会も多々設けています。
一橋大学MBA経営管理プログラムとの比較
金融戦略・経営財務プログラムの特徴は、実際のファイナンスデータを用いた分析を通じてデータ分析スキルを培える点にあります。利用可能なデータも充実しています。教育方法面では、グループワークの比重が低い点も違いとして挙げられます。在学生や修了生間のネットワークという点では、幅広い業種や職種間というよりも、金融機関に勤務する方や事業会社でファイナンス実務に携わる方を中心としたつながりが深まると思います。
博士後期課程
MBAの場合と異なり、個別教員に直接連絡可能です。ただ、社会人として博士号取得を目指す場合でもMBAプログラム入学をお勧めします。合計5年間 (MBAプログラム2年間と博士後期課程3年間) での博士号取得が現実的かと思います。
リンク
Instagram (一橋大学MBA金融戦略・経営財務プログラム)