MBAプログラムへの出願に際して詳細な研究計画がなぜ必要なのか、疑問に思うのは自然なことです。しかし、本プログラムの教育の最大の特色であるゼミ・演習の役割を踏まえれば、この入試方法が実は自然と言えます。本プログラムのゼミでは、2年間にわたり毎週1コマ (1時間45分)、少人数で議論を深めます。41名の募集に対して専任教員8名ですので、各ゼミに所属する受講生は平均5名ほどです。たとえば私の演習では、全受講生に繰り返し発言を促しながら、各受講生の目的に沿った指導を行っています。既製品のような教育ではなく、いわばオーダーメイド型の教育です。目的意識を理解した上で入試を行うべく、研究計画を求めるのは本プログラムの特色と整合的です。もちろん、既製品としての教育にも価値はあります。それでもなお、2年間を有意義に過ごしてもらうため、あらかじめ問題意識を明確化する機会を持ってほしいと思います。
科学研究費助成事業の研究計画調書が参考になります。具体的には、①問いの明示、②問いの重要性および研究目的、③何を明らかにしようとしているのか (分析対象)、④どのように明らかにしようとしているのか (分析手法)、⑤準備状況 (背景知識やデータ利用可能性など) がとりわけ重要と考えられます。自分で立てた問いに対して (上記①から②)、自分でどう答えるかを示す (上記③から⑤) 計画と考えてください。
研究とは意思疎通です。個人的な興味関心の追求ではありません。幅広い聞き手に向けて問いの重要性や研究目的を説明する必要があります。重要性の説明に関して、学術的観点、実務的観点、あるいは広く社会的・経済的・政策的観点など、いずれでも構いません。
問いが実務経験に基づくか否かは本質ではありません。ただし、実務経験に基づく場合、その経験をしていない第三者にも重要性が伝わるように必要十分な情報を整理してください。研究とは意思疎通です。
テーマよりも問いを重視する方が良いと思います。前者の重視は学習計画向きの視点です。
コーポレートファイナンスの実証・データ分析では、仮説をデータで検証する流れが一般的です。すなわち、理論的考察あるいは明示的な理論モデルに基づき実証仮説を立て、その仮説の妥当性を財務・株価データを用いて検証します。この意味で、発想は理系あるいは理科的です。
実証仮説について、上記②から③および④をつなぐ要素と捉えるのが良いと思います。まずは②の問いや研究目的で大枠を示した後、データから検証可能な実証仮説を立て、その仮説と関連させながら③の分析対象や④の分析手法を議論するのが1つの進め方です。
3ページ以内で作成してください。あくまで研究計画の分量です。志望動機などは除いたページ数です。
ライティングについて、①1つの文に新しい情報は1つのみ、②1つの段落には1種類の情報のみ、③段落の1行目はその段落の要約 (トピックセンテンス) であることを意識してください。
研究計画について、何か参照するのであれば『リサーチの技法』が良いです。第1章から第4章 (特に第3章および第4章) を読めば十分です。ただ、人文系寄りであることに加えて、和訳が読みにくいと思います。
大学院は学びの場です。入学時点での知識や理解が限定的であっても問題はありません。重要なのは、理解している範囲を見定め、不足を受け入れる姿勢だと思います。
以下の三大誌および総合誌にはファイナンス分野の代表的研究が幅広く掲載されます。
三大誌 Journal of Finance、Journal of Financial Economics、Review of Financial Studies; 三大誌以外の総合誌 Journal of Financial and Quantitative Analysis、Review of Finance
企業金融 Review of Corporate Finance Studies、Journal of Corporate Finance
日本のデータを用いた研究が比較的多い Pacific-Basin Finance Journal、 International Review of Finance
コーポレートファイナンス研究と実務の橋渡し Journal of Applied Corporate Finance
広くファイナンス分野の様々な研究テーマの概観 Annual Review of Financial Economics
ChatGPTをはじめとするAIの精度は近年着実に向上しています。ただ、研究計画に関する質問を試しにAIに投げかけたところ、問題意識などが明確でない場合、的確な回答は得られませんでした。明確であっても、ある程度の背景知識なしには同様です。さらに言えば、間違った返答も少なくありません。難しいところです。
学術的視点を重視する場合、まずは上記三大誌の関連論文を参照すると良いと思います。論文のイントロダクションにその研究の主要な要素が整理されています。MBA向けの研究計画であれば、論文全体を無理に読む必要はありません。もっとも、何を理解していないかの把握を通じて、MBA進学目的を明確する観点から読むのであれば有意義だと思います。
次の1-6の段階を踏むのが効率的です。あくまで代表的な論文を探す上での手法です。良い出発点だとは思います。
検索オプションの「出典を指定」欄に "The Journal of Finance"と引用符""をつけたまま入力
検索条件にキーワードを英語で入力。たとえばcapital structure (資本構成)
検索オプションの「出典を指定」欄を "Journal of Financial Economics"に変更し上記3.を実行
検索オプションの「出典を指定」欄を "The Review of Financial Studies"に変更し上記3.を実行
実務的視点を重視する場合、「出典を指定」欄を "Journal of Applied Corporate Finance"にに変更し上記3.を実行
コーポレートファイナンス分野の様々なテーマを概観したい場合、Handbook of Corporate Financeが良いです。書籍です。
ファイナンス分野を幅広く網羅しています。
ファイナンスは、①資産価格 (Asset Pricing) と②コーポレートファイナンス (企業金融) に大別できます。資産価格が扱う対象は、 株式、債券、通貨、コモディティ、不動産、デリバティブなど多岐にわたります。コーポレートファイナンスについては下記の概念図のとおりです。
公共政策とも密に関連するのがファイナンス、特にコーポレートファイナンスの特徴です。たとえば、企業・金融税制やガバナンス改革にはコーポレートファイナンスの知見が不可欠です。
数理ファイナンスは対象というよりも手法を表す用語と考えられます。資産価格と相性が良いですが、コーポレートファイナンスでもリアルオプションなど数理ファイナンス色が濃いテーマは多々扱われます。
コーポレートファイナンスとは、企業を中心に、[1]資金調達、[2]投資、[3]投資家への還元を通じた資金の流れを研究する学問領域です。このサイクルの円滑な循環を支えるのが、[0]企業統治 (コーポレートガバナンス) です。
下記はキーワードの雑多な列挙です。対象がこれらに限定されるわけではなく、あくまで例示です。
[1]資金調達:株式調達、公募増資、第三者割当増資、新規株式公開 (IPO)、プライベートエクイティ (PE)、ベンチャーキャピタル (VC)、負債調達、銀行借入、無借金経営、社債、信用格付、与信枠、財務制限条項、最適資本構成、(静学・動学) トレードオフ理論、負債の税務便益、倒産 (および広くFinancial Distress) コスト、資本コスト、財務柔軟性・借入余力、マーケットタイミング、ペッキングオーダー、エージェンシー理論、マクロ経済 (金利、金融政策、為替) と資金調達の関係、リスク管理、ヘッジ、金利スワップ、為替予約
[2]投資:設備投資、研究開発、無形資産、ブランド資本・広告投資、人的資本、投資評価、ROEやROICの是非、調整コスト、資金調達制約、キャッシュフローと投資、トービンのQ理論、現金保有、現金の市場価値、現金活用を促す公共政策、企業買収、スピンオフ、株式公開買い付け (TOB)、買収を通じた産業再編 (Merger Wave)、レバレッジド・バイアウト (LBO)、マネジメント・バイアウト (MBO)、リアルオプション、投資促進税制、政策の不確実性
[3]還元:配当、累進配当、安定配当、自社株買い、株主還元の硬直性と柔軟性、総還元性向、配当・キャピタルゲイン課税、(キャッシュフローあるいはリスクの) シグナリング、企業ライフサイクル、Clientele (株主を顧客とみなす) 理論、Catering (市場への迎合) 理論、行動 (Behavioral) ファイナンス、株主還元と株価・企業価値、企業投資とのトレードオフ、アクティビストからの還元要請
[0]企業統治:取締役会、社外取締役、取締役の多様性、経営者報酬、ストックオプション、業績連動報酬、機関投資家、アクティビスト・物言う株主、ヘッジファンド、買収防衛策、政策保有株・株式持ち合い、株式流動性、ESG、企業統治改革、スチュワードシップコード、コーポレートガバナンスコード、ステークホルダー、アナリスト、報道機関、政府や証券取引所の役割、PBR改善
研究計画において、各キーワードのつながり (たとえば無借金経営とR&D投資との関係) を考える方が書きやすいことも多いです。特に、株価および関連概念 (企業価値やPBR) はほとんど全てのキーワードと関わります。たとえば、「株価 (あるいは企業価値やPBR) が株式調達にどう影響するか」、もしくは逆に、「株式調達が株価 (あるいは企業価値やPBR) にどう影響するか」などです。
もっとも、本来重視すべきは書きやすさではなく、2年間かけてじっくり取り組む価値の有無だと思います。
34単位取得および修士論文合格が必要です。春・夏・秋・冬の4学期制、各学期で完結する科目は1単位、春学期および夏学期など連続する学期で完結する科目は2単位です。2年間で合計8学期在学しますので、単純計算で毎学期4.25単位取得すれば修了の必要条件を満たせます。
1年生向けの基幹的な科目は、曜日ごとに1コマずつ開講される学期が多いです。このため、初年度については週4日程度の通学が望まれます。
宿題や課題の有無は講義ごとに異なります。演習では通常、事前課題が提示されます。
以下、コーポレートファイナンス領域での履修例です。合計45単位ですので、ここから10単位分ほど減らしても修了要件を満たせます。開講学期や曜日について、2025年度の情報に基づきます。各科目のシラバスはこのページから検索できます。学年暦はこちらです。
[1年目春学期] 6単位
月曜:演習、火曜:ファイナンス理論の基礎、水曜:金融数理入門、金融データ分析の基礎、木曜:会計・バリュエーションの基礎、土曜:線形モデル入門
[1年目夏学期] 6単位
月曜:演習 、火曜:ファイナンス理論の基礎、水曜:金融データ分析の基礎、木曜:会計・バリュエーションの基礎、金曜:マネジリアル・エコノミクス、夏集中:金融データリテラシーI
[1年目秋学期] 5単位
月曜:演習、火曜:アカウンティング、水曜:ファイナンス理論、木曜:金融データ分析、金曜:コーポレートファイナンスの基礎
[1年目冬学期] 5単位
月曜:演習、火曜:アカウンティング、水曜:ファイナンス理論、木曜:金融データ分析、金曜:コーポレートファイナンスの基礎
[2年目春学期]9単位
月曜:演習、火曜:プライベート・エクイティと資本市場、水曜:コーポレート・ファイナンスに関する諸問題、木曜:FinTechと金融市場、金融データ分析:演習、金曜:グローバル金融規制と新たなリスクへの対応、金融機関の戦略的経営、土曜:金融経済学 (情報とインセンティブ)、春集中:金融データリテラシーII
[2年目夏学期]6単位
月曜:演習、火曜:プライベート・エクイティと資本市場、水曜:M&Aと事業再生の実践I、木曜:FinTechと金融市場、金融データ分析:演習、金曜:グローバル金融規制と新たなリスクへの対応
[2年目秋学期]3単位
月曜:演習、水曜:M&Aと事業再生の実践Ⅱ、金曜:金融改革と法
[2年目冬学期]5単位
月曜:演習、火曜:プライベート・エクイティと課題、水曜:FinTechとイノベーションII、木曜:グローバルM&A、金曜:金融改革と法
いずれの講義でも、実例と学術論文を踏まえています。市販の和書および洋書からでは、現実への示唆はごく限定的にしか得られません。新しい研究動向の把握が必須です。
最適資本構成に関して、講義「コーポレート・ファイナンスに関する諸問題」において扱った実例および研究です。
[主な実例]
セブン&アイHD CFOメッセージ
資生堂 CFOメッセージ
川崎汽船 2023年度 決算説明会資料
三井物産 CFOメッセージ
[主な学術研究]
Almeida, H., & T. Philippon, 2007, The risk-adjusted cost of financial distress, Journal of Finance 62(6), 2557-2586.
Graham, J. R., 2000, How big are the tax benefits of debt?, Journal of Finance 55(5), 1901-1941.
Graham, J. R., 2001, Estimating the tax benefits of debt, Journal of Applied Corporate Finance 14(1), 42-54.
Strebulaev, I. A., & B. Yang, 2013, The mystery of zero-leverage firms, Journal of Financial Economics 109(1), 1-23.
アクティビスト・物言う株主に関して、講義「コーポレート・ファイナンスに関する諸問題」および「マネジリアル・エコノミクス」において扱った実例および研究です。
[主な実例]
日経新聞 リンナイ、米ファンドの株主提案に反対 (2025年5月9日)
ダルトン・インベストメンツ リンナイ社が最適な資本配分のもと市場で正しく評価される為に (2022年4月)
日経新聞 売られて輝く政策保有株、「持ち合い解消=買い」の新常識 (2024年7月8日)
日経新聞 株主提案受けた老舗企業「短期志向の投資家に応じる必要ない」 (2018年7月2日)
アップル 配当および自社株買いの開始計画を発表 (2012年3月19日)
アップル 資本返還プログラムを2倍以上に拡大 (2013年4月23日)
ガーディアン Apple investor Carl Icahn presses chief executive over $150bn share buyback (アクティビストのアイカーン氏による自社株買い要求、2013年10月1日)
ロイター Einhorn sues Apple, marks biggest investor challenge in years (アクティビストのアインホーン氏によるアップルの提訴、2013年2月8日)
ロイター2010年 Apple’s Jobs says cash hoard allows for bold moves (スティーブ・ジョブス氏は潤沢な現金が大胆な意思決定を可能にすると強調、2010年2月26日)
ロイター ソフトバンクG、自社株買いよりAI関連投資優先する構え (2024年7月4日)
ブルームバーグ 「物言う株主」受け入れて3年、企業変革は前進-オリンパス社長 (2022年3月22日)
ブルームバーグ ファナック:配当性向引き上げ、自己株取得も-物言う株主が要求 (2015年4月27日)
ソニー ソニーからサードポイントへの返信書簡について (2013年8月6日)
[主な学術研究]
Bebchuk, L. A., A. Brav., & W. Jiang, 2015, The long-term effects of hedge fund activism, Columbia Law Review 115(5), 1085-1155.
Becht, M., J. Franks, J. Grant, & H. F. Wagner, 2017, Returns to hedge fund activism: an international study, Review of Financial Studies 30(9), 2933–2971.
Brav, A., W. Jiang, F. Partnoy, & R. Thomas, 2008, Hedge fund activism, corporate governance, and firm performance, Journal of Finance 63(4), 1729-1775.
Brav, A., W. Jiang, & H. Kim, 2015, The real effects of hedge fund activism: productivity, asset allocation, and labor outcomes, Review of Financial Studies 28(10), 2723–2769.
Brav, A., J. Wei, M. Song, & T. Xuan. 2018, How does hedge fund activism reshape corporate innovation?, Journal of Financial Economics 130(2), 237-264.
Chen, G., P. Meyer-Doyle, & W. Shi, 2021, Hedge fund investor activism and human capital loss, Strategic Management Journal 42(12), 2328-2354.
Gantchev, N., O. R. Gredil, & C. Jotikasthira, 2019, Governance under the gun: spillover effects of hedge fund activism, Review of Finance 23(6), 1031-1068.
Greenwood, R., & M. Schor, 2009, Investor activism and takeovers, Journal of Financial Economics 92(3), 362-375.
Klein, A., & E. Zur, 2011, The impact of hedge fund activism on the target firm’s existing bondholders, Review of Financial Studies 24(5), 1735–1771.
Niu, X., 2024, The battle between activist hedge funds and labor unions, Journal of Empirical Finance 78, 101502.
Wei, J., & S. Zhao, 2025, Does hedge fund activism harm corporate social performance? Evidence from ESG ratings, Journal of Corporate Finance 94, 102801.
データベース
本プログラムのデータベース室で国内外上場企業のデータは広範に利用可能です。非上場企業についてはテーマによって入手可否が異なります。とはいえ、データが充実しているプログラムである点間違いありません。
科目履修
本プログラムの特色の1つが科目等履修制度です。一般的な科目履修とは異なり、本プログラムの修了生のみが利用できます。変化の激しいファイナンス分野において、知識やスキルの継続的な更新・再教育はとりわけ重要です。MBA取得を終点とはせず、修了後のキャリアのさらなる発展も支援する制度です。
指導教員
研究テーマ設定に関して、教員の研究領域は気にしないで良いと思います。指導可能な領域は研究領域よりも遥かに広いのが一般的です。金融戦略・経営財務に関わる限り、重要性を説得的に議論できれば支障ありません。
数学力
コーポレートファイナンスや会計学の講義や演習に限れば、数学はさほど使いません。ただ、微分と確率・統計のごく基礎的な知識は必要です。たとえば、佐々木宏夫『経済数学入門』(2005年、日経文庫) は分かりやすく良い本です。残念ながら絶版のようです。
本プログラムで最も基礎的 (かつ必須に近い) 数学の講義は、金融数理入門、線形モデル入門、金融データ分析の基礎です。経済・経営系学部の1-2年次で扱われる水準です。微分積分、線形代数、確率統計に関する大学新入生向けの入門書を自習しても足りると思います。
分析手法
コーポレートファイナンスや会計学に限れば、田中隆一『計量経済学の第一歩』(2015年、有斐閣) の第5-6章が理解できていると良いです。第3-4章の確率・統計に関する説明は「第一歩」としては難解と思われます。
動画教材
「カーン・アカデミー」には数学などの基本を学ぶ上で良質の動画がそろっています。説明は英語ですが、日本語字幕を生成できます。微分 (Unit 5以降)および確率統計 (Unit 4以降) が特に関連します。ファイナンスや会計の基礎知識に関して、ファイナンスと資本市場 (Unit 5-6) も有益です。
在学生の年齢層
幅広いです。30代半ばがやや多いと思いますが、20代半ばから50代まで様々です。
在学生の業種
幅広いです。私の演習に関して言えば、金融3名 (都銀・地銀・保険)・事業会社財務職2名・シンクタンク1名です。
理系・文系
在校生については概ね半々だと思います。専任教員について、純粋理系3名・純粋文系2名・中間3名と理解しています。
優れた指導者 (私の場合) から学ぶのが効果的な分野です。そういった状況にない方々のための資料集です。
"Conducting Empirical Research on Corporate Finance"、David Denis、2019年FMA (Financial Management Association) Annual Meeting
企業金融の実証・計量・データ分析に関する研究計画を立てる上でも最良の資料です。経済学など関連分野との違いを踏まえて説明されています。
少数の企業や投資家を対象とした分析手法であるclinical studyも紹介されています。例として扱われている論文"Financing Investment Spikes in the Years surrounding World War I"が分析対象とした企業は57社です。この企業数は、事例研究と学術論文で行われているデータ分析との中間に位置します。学術的なデータ分析を行う場合でも、まずはclinical studyの枠組みで考えてみるのが効果的です。
動画内で"identification" (識別) とは、因果関係を明確にするための分析上の工夫を意味します。
高度な内容をできるだけ分かりやすく説明しているとはいえ、データ分析の知識や経験なしには理解が困難な箇所は少なくありません。一例として、動画23:51からの伝統的な回帰分析手法 (classic regression approach) における企業固定効果 (firm fixed effects) や変動 (variation) が挙げられます。こうした知識をファイナンスの文脈で簡潔にまとめた書籍や資料は残念ながら見当たりません。
書籍から学びにくい分野です。下記は良書ですが、やはり人から学ぶべき分野です。
企業金融と現実 "Corporate Finance and Reality"、John Graham、2022年会長講演
企業金融の教科書の書き換えを迫る水準の事実が、サーベイ調査を通じて明らかにされています。たとえば、経営判断の短期的視野や保守性が議論されています。継続的な研究に基づく教育の重要性も含意されます。
企業価値の多様性 "Sustainable Finance and E, S, & G Issues: Values versus Value"、Laura Starks、2023年会長講演
ESG関連の話題について広範に議論されています。
ファイナンス研究と公共政策 "How Can Academic Research Inform Policy on ESG and Short-Termism?、Scott Bauguess、Christian Leuz、Mark Roe、Alex Edmans、2022年
研究成果の社会還元の現状に対して否定的な見解が各パネリスト、特にLeuzとRoeから提示されています。
企業投資の短期主義的な傾向 "Short-termism and Corporate Investment"、Toni Whited、Janice C. Eberly、Alex Edmans、Thomas Philippon、2021年
Edmansの報告は良く整理されています。「株主にとっての短期的価値 (short-term shareholder value)」との発想がいかに矛盾しているか、標準的な企業金融および企業統治の視点から議論されています。
企業課税 "Business and Capital Taxation"、Joshua Rauh、Alan Auerbach、Jason Furman、Kevin Hassett、2018年
米国の税制に基づく専門性の高い議論です。