HPV(ヒトパピローマウイルス)は性交渉の経験のある女性のうち50-80%の方が一生のうちに一度は感染すると言われています。200種類以上が同定されており、がんを引き起こしやすいもの、尖圭コンジローマなど良性のイボを引き起こしやすいものなどがあります。
HPVは性交渉などにより子宮頸部や腟、陰茎や外陰、肛門、口腔、喉などの微細な傷から入り込み、上皮の深くにある細胞に感染します。自然に排除されることもありますが、多くは潜伏したり、増殖したりしながら存在し続けます。潜伏感染の状態でHPV検査を受けると陰性になります。ウイルスが増殖してHPV検査が陽性になる状態を持続感染と言います。持続感染からさまざまな要因が関与して子宮頸がんや腟がん、陰茎がん、肛門がん、咽頭がんを引き起こすと言われています。
潜伏感染の状態を維持できればがんに進行する危険は低いのですが、喫煙者や膠原病(こうげんびょう)に対する免疫抑制療法中の方などは免疫力が低下してウイルスを押さえ込む力が弱いため、持続感染しやすくなります。
自分の免疫力で抑え続けることを期待するのは不確実ですが、ワクチンを接種してHPVの感染を防ぐことで、子宮頸がんや前がん病変(異形成)の発生を予防することができます。
なお、2007年からHPVワクチン接種を導入したオーストラリアではすでに2020年には子宮頸がんは「稀ながん」となり、まもなく子宮頸がんで亡くなる方はほぼいなくなると推計されているそうです。
尖圭コンジローマは生殖器粘膜にできる良性のイボで、HPV感染により発症します。
陰部や肛門周囲、尿道口、腟、子宮頸部に数ミリ大のカリフラワーの様な形をした薄紅色〜褐色の腫瘍が集簇して数個〜多数できます。症状はないこともありますが、痛みや痒み、違和感を感じることもあります。
皮膚にできたものは塗り薬で治療できますが、粘膜にできたものは液体窒素での凍結療法、電気焼灼、レーザー蒸散、切除などで治療します。治療には数週間以上を要します。性行為で感染するため、パートナーの治療も必要です。また、治療法によらず再発しやすいと言われています。
妊娠中に出現することもあり、出産時にコンジローマがある時は産道で赤ちゃんに感染する可能性があります。
尖圭コンジローマは命に関わるものではなく、前述のように治療法もありますが、一旦発症すると大変気が滅入る病気です。
4価、9価ワクチンは尖圭コンジローマの原因の約90%を占めるとされる、HPV6,11型の感染も予防することができます。
2013年にワクチン接種後の疼痛や運動障害、起立性調節障害などの症状が報告され、ワクチン接種の積極的勧奨を差し控えることになりました。
その後、国内、国外でワクチンと障害の因果関係について多くの解析が行われ、「因果関係はない」と結論づけられました。
HPVワクチンもその他のワクチンと同様に、注射した部位の痛み、腫れ、赤み、体のだるさ、頭痛、腹痛、筋肉痛、関節痛などが起こる可能性があります。ワクチンを受けた日は、激しい運動は避け、安静にしてください。
万が一、不調が持続する時や呼吸困難、じんましん、手足の脱力、激しい頭痛、嘔吐、意識低下など重い症状があるときは、まずはワクチン接種を受けた医師やかかりつけ医にご相談ください。必要に応じて協力医療機関(さいたま市では自治医科大学さいたま医療センター)にご紹介します。
HPVワクチンの効果は感染を防ぐだけです。残念ながら、すでに細胞に異常が生じて前がん病変(異形成)や子宮頸がんを発症している状態を治療する効果はありません。また、治癒後の再発を予防するものでもありません。
前述の様に、性交渉の経験があっても発症前の方は感染予防効果が確認されていますが、発症後の方のワクチン接種効果は十分には期待できないと言えます。潜伏感染の可能性が低いか高いかの問題ですが、潜伏感染の評価は難しく、ワクチン接種については意見の分かれるところです。
ですが、接種できないわけではありません。ご希望に応じてご検討ください。
埼玉県外の医療機関で接種を希望される方は、各区役所の保健センターまたは電子申請サービスで「予防接種依頼書」の申請が必要です。
詳しくはさいたま市のホームページをご参照ください 。 →こちら
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