腰痛総論
腰下肢痛
四分法でとらえる腰痛・腰下肢痛
腰痛・腰下肢痛の原因はさまざまで、一説には腰痛の85%が原因不明とも言われています。しかし、これは一般的な画像診断や神経学的所見で明らかな原因が特定できない腰痛(非特異的腰痛)を「原因不明」としたものです。
しかし実際の診療現場では症状・身体所見・治療に対する反応から原因を推定できるケースも多く、さらにペインクリニックでは神経ブロックによる「診断的治療」が可能です。すなわち、特定の部位に対し、神経ブロックで直接薬液を作用させ症状の変化をみます。症状が大きく軽減・消失すれば、その部位が痛みの発生源であると推測できます。
腰痛・腰下肢痛をきたす主な疾患を四つに分けて考えると図のようになります。
これら四つのカテゴリーは互いに排他的なものではありません。このうちの複数の痛みが同時に存在しうるのです。
どのような動きや姿勢で痛みが強くなるのかを観察することで、この四つのうちいずれの要素があるのかが分かります。
たとえば長時間坐っているとしだいに腰の奥が重だるく痛んできて立ち上がりたくなるけれども、立ち上がる動作のときにズキッとくる痛みが腰に走る。これは椎間板症と椎間関節症、両方の要素があると考えられます。
また、脊柱管狭窄症の多くは歩くとしだいに増強する下肢痛に加え、体動時の腰痛や前屈位での腰痛が同時に存在します。脊柱管狭窄症の大半は加齢による脊椎の変性・変形が原因なので必然的に椎間関節や椎間板の痛みを伴うのです。
硬膜外ブロック
神経ブロック療法のうち、もっとも多用されるブロックのひとつです。
もともと「硬膜外麻酔」として手術時に用いられてきた方法を痛みの治療に応用したものです。
背骨の隙間からいくつかの靱帯を越えて「脊柱管」内部に針先を進めます。そこが「硬膜外腔」と呼ばれるスペースです。ここで薬液(局所麻酔薬)を注入し、針を抜きます。
もうひとつ深い層に針を進めると虫垂炎の手術などに用いられる「くも膜下ブロック・腰椎麻酔」となります。
硬膜外ブロックの最大の特長は、脊柱管の内部に直接薬液を作用させるという点にあります。
脊柱管は「腰部脊柱管狭窄症」や「腰椎椎間板ヘルニア」の病変部位そのものです。
「脊柱管狭窄症」では慢性的な血流不足と圧迫から、神経根の炎症・うっ血・浮腫が起こっています。「椎間板ヘルニア」では椎間板の外に突出した髄核(椎間板の中身)が神経根を刺激して強い炎症を起こしています。
硬膜外ブロックはこれらの部位に直接薬液を作用させる方法です。局所麻酔薬の作用で痛み信号を遮断するだけでなく、交感神経を遮断することから血流を増やし、薬液を注入することで発痛物質の洗浄効果も期待できます。
この治療を繰り返すことにより、神経の炎症や浮腫が治まれば脊柱管の狭窄や椎間板ヘルニアが残存する状態でも痛みはなくなります。
神経ブロックは麻酔の作用で痛みを止めているだけ、と誤解されることが多いのですが、このように痛みの原因となる神経の病的状態を改善することで治療効果を発揮しているのです。
椎間板症は硬膜外ブロックを反復することで多くの場合は徐々に痛みが軽減します。難治の場合には椎間板内に薬液を注入する方法(椎間板ブロック)を行うこともあります。
このようにペインクリニックでは腰痛の病態に応じた特異的治療(原因に即した治療)を行います。薬物療法や理学療法といった非特異的治療で治まらない痛みにも効果が期待できます。
腰痛の多様性は圧倒的で、この四分法でもすべてをカバーできるわけではありません。たとえば筋筋膜性の痛みや仙腸関節由来の痛みも頻度は高く、他の要素との合併も普通に起こります。慢性の腰痛では心因の関与も無視できません。
ペインクリニックは多彩な神経ブロック療法や薬物療法を駆使して、さまざまな腰痛に立ち向かっていきます。