清水 安三先生(1891 ~ 1988)
桜美林学園の「寄附行為」には、「本学園はキリスト教主義の教育によって、国際的人物(International Character)を育成するを以って目的とする」とある。本学園の理事だった故大原総一郎博士はそのご生前、「百年後の日本」と題する懸賞文を募ってはどうかと、政府に提案されたが、果して百年後に日本なる国が、世界の地図の上になおも存在しているであろうか、私はひそかに心配している。日本国民は、世界にかつてない非攻非戦主義のパシフィックな憲法を持っているが、果してパシフィスト精神を持っているであろうか。
そこに、日本の存亡の問題が存している。日本国民が、軍備を用いずに祖国を護ろうと思うならば、少なくとも周囲の各国民の感情を害してはならぬ。常に、周囲の各国民との間に、意思の疎通を図るべく努めねばならぬ。では誰が、周囲の国民に、日本国民程にbeloved nation −愛好すべき国民−はないと、思わせ得るであろうか。それは、語学の達人である。よって本学は、わが国の周囲の国々の言語を教えんと欲するのである。
更に、語学だけでは足りない。己れを愛する如く隣人をも愛せよ、と教えるキリスト教を、みっちり教えるべきである。
かくてキリスト教主義と語学、この二つをようく体得した人材を能うだけ多数教育せんとするのが、本学の建学の趣旨である。
※ 「寄附行為」とは、学校法人の根本規則。会社などの「定款」に当たる。