よくあるご質問について回答します。
当会では、前者のことを指して「希望者全員入学」といっています。当会は、すべての人が希望する高校に入れる「希望者全入」の実現を目指しています。
ホームでも書いた通り、現代、高校は十分に足りており、高校入試を廃止して希望者全員の入学を認めても、高校が不足するといった事態は起こらないだろうと考えています。
仮にある特定の高校に希望者が殺到するという事態が起きたとしても、通学距離等の兼ね合いにより、その高校に全国から希望者が殺到するということは起きにくく、その高校がその地域内では人気という程度に収まるだろうと予測されるため、設備の増築や教員の増員によって対応が可能なものと考えています。また、そのような対応が必要な人気の高校は少数であると思われるため、希望者全入に対応するための設備増築や教員増員の費用は少額になると見込まれ、また、希望者が少ない不人気高校の運営費用を削減して賄えばいいので、金銭的にも希望者全員の入学を認めることは可能であると考えています。さらに、現在人気の高校は、入学試験が難関であることがもたらすブランドがその人気の理由であることが多いため、高校入試が廃止されれば、そういった高校への人気は弱まるものと予測されます。
私立高校でも授業料の実質無償化が実施されているため、学費の安い公立高校に希望者が集中したり、私立高校の廃校が生じるということも起きないだろうと考えています。そもそも、当会は、子どもたちが希望を実現できるようにすることを目的として高校入試の廃止を主張しているため、仮に希望者がいないことを理由として高校が廃校になったとしても、そのことだけをもって問題であるとは考えておりません。学校法人の経営支援などよりも、子どもたちが希望を実現できるようにすることを優先すべきと考えています。
文部科学省の学校基本調査によると、全国の高等学校本科の生徒308万人のうち、普通科が225万人、商業に関する学科が18万人であるのに対し、工業に関する学科は23万人、水産に関する学科は8,000人であり、工業科・水産科に属する生徒は高校生全体に比べれば1/10以下と非常に少ないです。また、東京都教育委員会の発表によれば、普通科の入試実質倍率が1.37倍であるのに対し、工業科のそれは1.10倍であり、普通科に比べて低いです。したがって、工業科・水産科に入学する人は全体に比べれば非常に少なく、またその倍率から、希望者全員入学を認めたときに増える工業科・水産科の入学者もそれほど多くないことが見込まれるので、工業科や水産科においては、たとえ個々の設備が高額であったとしても、希望者全員入学に対応するために必要な設備増築などの費用は負担可能な程度であり、工業科・水産科のような学科でも希望者全員入学を認めることは可能であると考えています。
OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査の順位をみると、韓国やカナダ、フィンランドなどの、高校入試が一般的ではない国々の中にも、高校入試が一般的な日本と同程度あるいは日本より上位の順位の国があることから、高校入試の存在のみが学力を向上させることは疑わしいと考えられます。したがって、高校入試を廃止すると学力が低下する可能性は低いと考えられます。
高校進学率が97%を超えた現在、高校の授業についていけない人などあまりいないと考えられます。
また、学校教育法は、高校の目的を「中学校における教育の基礎の上に、心身の発達及び進路に応じて、高度な普通教育及び専門教育を施すこと」としています。この規定に基づいて学習指導要領が定められており、高校教育は中学校を卒業した人であれば理解できるようなカリキュラムになっています。
さらに、授業についていけないような人が多く入学するようになったら、学校の側でその人たちでも理解できるように授業をわかりやすくするといった配慮が行われるでしょう。
そもそも、現在の高校入試は、一定の水準以上の学力を有する人を入学させるものではありません。学力が高い順に入学定員分だけ合格するという仕組みのため、志願状況によって入学者の学力水準は変動します。もし、一定の学力水準以上の人を入学させたいのであれば、あらかじめ合格となる点数を定め、その点数を超えた人は人数に関わりなく絶対に合格とし、超えなかった人は絶対に不合格とするような仕組みでなければならないでしょう。
現在の高校入試制度は、学力検査、調査書、内申書などによって選抜するので、進路希望等や性格などを調べることはできません。
また、学力等についても、現在の高校入試は、学力が高い順に入学定員分だけ入学させるという仕組みのため、一定水準以上の学力がある人が入学でき、そうでない人は入学できないような仕組みではありません。
以上のことから、現在の高校入試は、特定の特性の生徒を特定の高校に入学させるような仕組みではありません。
そして、高校の側で各生徒の特性を調べて、特定の特性の生徒を選抜するよりも、希望者全員入学にして、生徒の側で、自分の特性に応じた高校を選んで入学してもらう方が、コストや正確性の面で優れており、より特性に応じた教育ができると考えられます。
そもそも、学校ごとに別々の特性の生徒を集めて似たような特性の集団を構成し、各学校においてその集団の特性に応じた集団教育をするよりも、各学校とも様々な特性の生徒を集め、それぞれの学校の中でそれぞれの生徒の特性に応じた個別最適な教育をするほうがよいという考えもあります。
「能力」を学力のことだとしても、現在の高校入試は、一定の学力水準以上の人を入学させ、それ未満の人は入学させないような仕組みではなく、学力が高い順に入学定員分だけ入学させるという仕組みのため、高校入試によって各高校で学力に応じた教育を行うことはできません。
また、高校は中学校を卒業した人に対してさらに高度な教育を行うところであるため、中学校さえ卒業していれば、高校入試に合格せずとも、高校教育を受ける権利のために必要な「能力」を有しているといえます。
そもそも、憲法26条は、能力に応じて教育を受ける権利を受ける権利を保障しているだけで、それのいわば「上位互換」である、能力にかかわらず全ての人が教育を受けられるようにすることを禁止しているわけではないでしょう。
参考に、大分地方裁判所は、次のように判示しています。
原告らは、本件合同選抜制度は、学校間格差の是正という目的のため、能力以外の理由で入学の許否を決しようとするものであつて、憲法二六条一項、教育基本法三条一項に違反する旨主張する。しかしながら、原告らのいう「能力」とは、所詮検査順位に現われた度合を指称するものと解されるが、それでは単なる所謂能力主義であつて 能力あつても経済的、社会的、あるいは門地によつて、教育を受ける機会を閉された過去の時代にあつてはまだしも、現在の諸々の教育環境に照らせば、能力主義が多くの弊害の根源となつていることは、次項(二)において述べるとおりである。右各条項における「能力」とは、能動的に教育上の差別を正当化し、単に先天的能力に恵まれた者や検査成績上位の者が、その希望する学校への入学を拒否された場合に、これを直ちに違憲、違法とする契機となるものではない。発育途上にある子供達の能力は、顕在化したもののみで評価できず、多くの潜在し開発の可能な部分を内包しているものであり、また刻々と発達成長しているものである。従つて、右にいう「能力」は「・・・能力に応じて、ひとしく・・・」(憲法二六条一項)と定められているように、教育を受ける権利や教育の機会均等を実質的に保障しつつ、その子の能力発達に必要とされる教育とその条件、環境整備を積極的に国家に対して要求する根拠となりうべきものである。この観点からすれば、むしろ、学校間格差の是正という本件合選制の目的は、通学区域内各所に水準の均しい教育施設を整備することによつて、その水準に達する能力を有する者が、ひとしく能力発達を可能ならしめる高等学校教育を容易に受けうる条件整備を目指すものであり、かかる観点から本件制度も採用された経緯を有するもので、「能力に応じて均しく教育を受ける」権利実現に資するという側面をも有しているとも評価しうる。してみると、本件合同選抜制度の採用にあたつて、県教委が学校間格差是正の目的をその主要な要素として考慮したからといつて、前記法条の許容する裁量権の範囲を逸脱したものとはいえず、原告らの主張は失当である。
当会は、高校入試の廃止を主張しているのであって、高校教育の義務教育化を主張しているわけではありません。義務教育化により入試がなくなることもあるでしょうが、義務教育である中学校や小学校にも国私立だと入試があるように、義務教育化が必ずしも入試の廃止につながるとは限りません。また、公立小中学校においては、一般に、通学区域などにより教育委員会が指定した学校に入学する制度となっていますが、これと同じものを高校に導入する場合、当会の目指す希望者全員入学とは相容れないものとなります。そもそも、子どもたちが希望を実現できることを重視する当会の立場からすれば、高校教育の義務教育化は、高校に進学しないという選択肢が無くなるという点で、賛成できかねる部分があります。もちろん、高校教育の義務教育化が、高校入試に関すること以外においてメリットがあるかもしれないので、当会の主張に相反しないような形で行われるのであれば、必ずしも高校教育の義務教育に反対するわけでもありません。
学校群制度や総合選抜は、公立高校内での入試競争は緩和させましたが、都道府県教育委員会レベルで行われ、管轄外である私立高校や国立高校に対しては何もできなかったため、私立高校や国立高校の入試競争が激化し、結果として国・私立高校と公立高校の教育格差の増大につながりました。しかし、当会が提唱する高校入試廃止では、公立高校だけではなく、私立高校・国立高校の入試も廃止するため、そのようなことは起きないと考えています。
学校群制度や総合選抜は、①生徒の希望を無視し、学区等を重視して進学先高校を決定すること、②入学試験自体は存置したこと、③私立高校・国立高校には何も手を加えなかったことに問題がありました。当会が提唱する高校入試の廃止では、①学区等の枠組みにとらわれず、生徒の希望を最優先として進学先高校を決定すること、②入学試験は全廃すること、③私立高校・国立高校も入試廃止の対象とすることを盛り込んでおり、学校群制度や総合選抜の問題点を解消しています。