バンドストーリー
秋月長十郎(あきづき ちょうじゅうろう)は中学1年生。小学高学年のときに受けたいじめが原因で、中学に入学してもほぼ不登校だった。
5月のある日、離れて暮らす大学生の兄が13歳の誕生日にギターをプレゼントしてくれた。教本やユーチューブの講座を元に少しずつ練習をしてみる。指が異様なまでに痛い。しかしついついやってしまう。
気まぐれで登校したときに、長十郎はギターの教本を持っていった。それに目をつけたのが他のクラスの青島美香(あおしま みか)
美香はもともと吹奏楽部に入部していたものの、あまりの素行の悪さに部を追い出されてしまったのだ。美香は元気よく長十郎に話しかけた。
「キミ、ギターをやっているの?」
「えっ、あ、あの」
長十郎は声がうまく出なかった。家族とだってろくに会話をしない毎日だったのだ。こんなにかわいい女の子とちゃんと会話ができるわけがない。
「さ、最近ギター始めました」
「丁度よかった。私、バンドを組みたいと思っているの。でもメンバーが足りなくて。一緒にやろうよ!」
「そ、それはちょっと……」
元気で朗らかな笑顔を見せる美香に長十郎はオドオドとした態度しかとれなかった。長十郎はバンドなんて遠く遠くの陽キャの世界だと思っているのだ。
「空いている教室を借りられることになっているの。今から行こっか」
美香は遠慮なく長十郎の手を掴み引っ張った。長十郎は涙目になりつつされるがまま手を引かれた。ちなみに女の子と手をつなぐのは幼稚園児以来だった。
空いている教室はかなり遠くの、今は殆ど人の出入りがない旧校舎にあった。床は劣化していてなんだかベタつくし、妙な匂いがする。カーテンは黄ばんで破れている。元々は理科室だったようだ。
「ここが私達のスタジオだよ!」
美香は相変わらず元気だ。お化け屋敷みたいなスタジオだな、と長十郎は思った。
廊下からわいわいと、女の子の話し声が近づいてきた。教室に女の子3人が入ってきた。全員美香に負けず劣らずとびきり可愛かった。3人はいっせいに話しだした。
「え、すっごく身長が高いイケメンがいる。見たことないけど上級生? 美香の彼氏?」
「ふんっ男なんて全員キモいじゃん! 連れてくるなよ!」
「もしかして、美香さん新しくメンバー連れてくるって言ってたの本気だったんですか?」
美香は女の子3人を順に指を指しながら言った。
「左から、ドラム担当の赤髪ツリ目ツンツンくせっ毛ギャルが『不二井倫子(ふじい りんこ)』オタクにも優しいギャルだよ」
「よろしくね、イケメンくん」
「次に、キーボード担当のハーマイオニーみたいなふわふわ猫っ毛のタレ目ツンデレ女が『黒井桜(くろい さくら)』常に攻撃的だけどいつかデレがくると信じているよ。」
「帰れよキモいんだよ女目当てだろ!」
「次に、ベース担当のツヤツヤ大人ショートカットジト目マジメ女が『武藤光(むとう ひかる)』だよ。まともなふりしてるけど敬語女なんてろくなもんじゃないよ」
「よろしくお願いしますね、ふふ」
長十郎の青春はどうなってしまうのだろうか。
バンド名の由来
存在しないという意味のnull(ヌル)
長十郎くんが社会不適合者の『用無し』そしてほかメンバーは吹奏楽部から追い出された『用無し』
長十郎くんの名前が梨の品種『長十郎』と同じ
全員腐った日常を送っているためヌルヌルしている(梨の病気でカルシウム欠乏症の『蜜病』というものがある。実がヌルヌルベトベトになる)
光「私たちのバンド名何にしますか? 吹奏楽部から追い出された用無しのわたしたちだからヨウナシ、でどうでしょうか」
倫子「絶対ほかと被りそう〜私たちは腐った人間だから、ヌルヌル、にしようよ」
桜「ふんっ! 2つ合わせてヌルヌルノヨウナシでいいんじゃないの?」
美香「長十郎くんもなんか人としてヌルヌルじめじめしてるし、あっそうだ! 長十郎って名前の梨の種類あったよね? じゃ、バンド名は『ヌルヌルノヨウナシ』で決定ね!」
長十郎(なんて変な名前のバンドなんだ……)
この企画は、私(町田子)が高校生のときに描いていた漫画がもとになっています。
当時の漫画のタイトルは『中学生の鬱とギター』中学生が色々悩みながら生活をし、バンド活動をするという話です。あと長十郎くんと美香ちゃんがイチャつくだけ。煙草に酒にヤクに全員不良で爛れた日常を過ごしています。漫画を描いたノート三~四冊分くらいはまるまる全部なくしました。