名古屋大学 大学院生命農学研究科 植物生産科学専攻
名古屋大学 大学院生命農学研究科 植物生産科学専攻
植物の栄養・水分獲得プロセスを学び、持続可能な農業に応用
なぜサツマイモは肥料なしでも旺盛に生育できるのか?
体内に生息するエンドファイト細菌の窒素固定によって、サツマイモは少ない窒素肥料でもよく育ちます。多くの農作物では、植物体Nの20-50%程度が肥料由来(それ以外は土壌由来)なのですが、それに相当するNを大気窒素から得ているためです。窒素固定量の最大値(13 g N/m2)はマメ科作物にも匹敵し、根粒のような特殊な共生器官がなくても、高い窒素固定能が可能であることは驚きです。共生器官を必要としないのであれば、他の作物への応用のハードルは一段低くなります。
サツマイモのようなエンドファイト細菌による窒素固定は、サトウキビやススキ、イネでも知られています。動物でも、シロアリの腸内で窒素が固定されているようです。また、土壌中では様々な自由生活性の窒素固定細菌が生息しています。しかし、根粒菌が単独で生息する根粒内とは異なり、生物体内や土壌中は多種多様な微生物が生息する複合微生物系です。窒素固定遺伝子を有する細菌も多数存在しており、どの細菌がその現場で実際に機能したのかを直接的に把握することはできませんでした。
既存技術の主流はDNA→RNA→タンパク質の流れに着目し、生成したタンパク質(酵素)が代謝機能を発揮することを前提にしています。しかし、酵素の機能はpH・温度・特定イオン等の様々な外部条件にも依存し、酵素が存在するだけで機能するわけではありません。窒素固定を司るニトロゲナーゼの場合、ニトロゲナーゼ遺伝子(DNA)やその翻訳産物(mRNA)、さらにはニトロゲナーゼ(酵素)そのものをある細菌が所持したとしても、その代謝産物(有機態窒素)を確認しない限りニトロゲナーゼが実際に機能したことを確証できません。
つまり、核酸情報やタンパク質のみに基づく既存技術は酵素の潜在的機能(機能ポテンシャル)を反映しても、酵素が実際に機能した結果(機能アウトカム)を必ずしも反映しているわけではないのです。
機能ポテンシャルに基づけば、複合微生物系内で窒素固定に関与する可能性のある細菌『候補』が次々に見つかります。ところが、どの細菌が系内の現場で実際に機能したのかは相変わらず不明のままです。
私たちは、安定同位体の15N2を供与したサツマイモ体内から細菌を抽出し、有機態15Nを保持した細菌(実際に機能した窒素固定細菌)を非侵襲で識別することに成功しました。このような細菌を回収してゲノムを解読できれば、系内の現場で真に機能した細菌の特定につながるでしょう。
15N2代謝産物(機能アウトカム)に基づく直接的な因果関係により、複合微生物系内 の現場で真に機能した窒素固定細菌の全貌解明に取り組んでいます。
従来の常識では、サツマイモのようなイモ類はカリウムを多く必要とすると考えられてきました。ところが、カリウム施肥量を増やしても、サツマイモの窒素固定能はほとんど変化しませんでした。なぜ、サツマイモはカリウム施肥に応答しなかったのでしょうか?
サツマイモ体内のカリウム含量を調べたところ、施肥量に関係なく同レベルのカリウムが維持されていました。しかも、カリウム肥料を与えていない場合ですら高いカリウム含量を示したことから、肥料以外の培土(バーミキュライト黒ボク土との混合)から十分量のカリウムを獲得していたことになります。
それがなぜ実現するのか、現在解明に取り組んでいます。