2025/05/28
Revisiting Kohn-Luttinger superconductivity using renormalization group approach
藤本 悠輝 (理研バークレーセンター)
Zoom (12:00-13:00 JST)
Abstract: BCS 理論によれば、クーパー対形成のためには引力相互作用が不可欠である。しかし、生の相互作用が斥力的である場合でも、高次補正の遮蔽効果によって角運動量が非ゼロのチャンネルでの誘起相互作用が引力的になり、したがって BCS 不安定性が生じることが知られている [1]。この機構は Kohn-Luttinger 超伝導性として知られる。Kohn-Luttinger 機構によるギャップは指数関数的であり、その指数は角運動量 l の 4 乗に比例 ( - l^4 ) し、非常に小さい。 このセミナーでは、フェルミ面付近での繰り込み群方程式 [2] によって、Kohn-Luttinger効果を再考する [3]。BCS ギャップは、この方程式の解が特異的になる点、つまりフェルミ液体的記述が破綻するエネルギースケールとして求められる。再解析の結果、Kohn-Luttinger 機構のギャップが、これまで知られていたものより指数関数的に増大する可能性があることがわかった。
[1] W. Kohn, J. M. Luttinger, PRL 15 (1965).
[2] G. Benfatto, G. Gallavotti, PRB 42 (1990); J. Polchinski, TASI 92 (1992) [hep-th/9210046];
R. Shankar, RMP 66 (1994) [cond-mat/9307009].
[3] Y. Fujimoto, PRB 111 (2025) [2502.01169].
2025/04/23
トポロジカルソリトン入門:古典解から量子揺らぎまで
西村 健太郎 (新潟大学)
Room A308 (12:00-13:00)
Abstract: 本講演ではまず、カイラル磁性体と呼ばれる磁石を例に取り、トポロジカルソリトンの概念を直感的に解説する。トポロジカルソリトンとは、古典的な運動方程式の解として現れ、トポロジカル数と呼ばれる離散的な量で特徴づけられる場の配位である。こうした配位は、しばしば対称性の自発的破れにより分類可能であることを紹介する。次に、もともとは古典解として導入されたトポロジカルソリトンに対し、実際には量子効果が重要となる場合があることを述べ、その代表例としてSkyrme模型を簡単に紹介する。 最後に、空間一次元の強磁性カイラル量子スピン鎖を具体例として取り上げ、量子揺らぎが支配的な系においても、トポロジカルソリトンのような空間的に局在した構造が存在しうるのか、存在するとすればどのようにそれを特徴づけることができるのか、について議論した発表者自身の最近の研究成果を紹介する。
2025/03/18
強い電磁場の物理の最近の発展:Schwinger機構の研究を中心に
田屋 英俊 (慶應義塾大学)
Room A421 (13:00-14:30)
Abstract: 量子電磁気学(QED)や量子色力学(QCD)の臨界強度を超えるような非常に強い電磁場が高強度レーザーや重イオン衝突を始めとする極限状況で実現できる/されていると考えられている。強い電磁場という極限状態では、真空の崩壊や光子の複屈折など、私たちの身の回りでは起こり得ないような特異な現象が起こり得る。こうした「強い電磁場の物理」について最近の研究の状況をレビューする。特に、講演者が注力してきたSchwinger機構の研究を中心的に議論する。
2025/02/18
三体核力と原子核殻構造の起源
福井 徳朗 (九州大学)
Room B201 (15:00-16:30)
Abstract: 原子核の微視的記述、すなわち核子多体系の諸現象を核力の観点から理解しようという試みは、近年の核力理論の発展と相まって、原子核物理の大きな潮流の一つである。特に三体核力が核子多体系にどのように寄与しているのかが注目されている。 例えば、よく知られている原子核の殻構造について、その発現における核力の役割は十分に解明されているとは言えない。そこで我々は、三体核力が殻構造(より具体的にはスピン・軌道分離)の発達にどのように寄与するのかを理論的に調べた。三体核力に対する既約テンソル分解という新たな視点の導入により、二体核力からは決して生じない新奇なメカニズムが三体核力によって誘起され、これがスピン・軌道分離に決定的な役割を果たしていることを明らかにした。 セミナーでは、私の考える三体核力研究の展望についても述べる。
2025/02/18
三体核力と原子核殻構造の起源
関口 仁子 (東京科学大学)
Room B201 (13:30-14:30)
Abstract: 物質のもととなる原子の中心には原子核が存在し、強い力である核力が働く。核力の成り立ちを理解し、核力から出発して原子核という量子多体系を理解する、これは原子核物理学の長年の重要課題のひとつである。この課題への挑戦がここ20年で大きく進み、「三体核力」と呼ばれる核力が原子核の様々な現象を理解するためには不可欠である、という新しい視点が生まれた。三体核力とは、三つの核子が同時に作用することで引き起こされる核力の事を言う。 三体核力の存在そのものは長らく予想されていたが、実験的な検証が難しく、なかなか研究が進まなかった。我々は、三体核力の効果を探索し、その性質を調べるため、スピン偏極させた重陽子と陽子との散乱実験を理化学研究所の加速器施設で行っている。三つの核子からなるこの散乱系では、実験値と厳密理論計算との比較から、直接定量的に三体核力の大きさ、運動量依存性、スピン量子数依存性といった諸性質を引き出すことができる。これまでに断面積の高精度測定によって三体核力の明らかな証拠を見つけ、またスピン観測量は三体核力研究に有効なプローブである事を示した。 現在、核力の記述は二体核力だけではなく、三体核力を含む議論へと進み始めている。原子核の様々な性質、例えば、原子核の結合エネルギーや、中性子星などに見られる高密度の核物質などで、三体核力は欠かすことの出来ない重要な力であると指摘され、研究が進んでいる。 セミナーでは、我々が切り拓いてきた三体核力の実験的研究とその背景、また新規プロジェクト(ERATO 関口三体核力プロジェクト)を含め、今後の展望について言及したい。
2024/12/24
カイラル有効場理論に基づいたバリオン間相互作用によるストレンジネス核物質研究
神野 朝之丞 (京都大学)
Room A421 (16:30-17:40)
Abstract: 高密度核物質中におけるハイペロンの存在は、核物質の状態方程式に大きな影響を及ぼす。特に、ハイペロンの核物質中における1粒子ポテンシャルは、ハイペロンが核物質中でどの密度で出現するか、あるいは全く現れないのかを議論する上で重要である。近年、高密度物質中で大きな寄与を生むと期待される三体力まで含んだ、カイラル有効場理論に基づくバリオン間相互作用の構築が進展している。本講演では、まずカイラル有効場理論におけるバリオン間相互作用の構成方法について解説し、その後、この相互作用を用いて計算したラムダ粒子およびシグマ粒子の1粒子ポテンシャルについて議論する。
2024/11/21
対相関と対移行反応
萩野 浩一 (京都大学)
Room A421 (13:15-14:25)
Abstract: 反応の途中で片方の原子核からもう片方の原子核へ2つの核子が移行する対移行反応は原子核の対相関に敏感であるとされている。ところが、反応メカニズムが複雑で、対移行反応の断面積から対相関の情報をいかに引き出すかということはそれほど単純ではない。このセミナーでは、複雑な対移行反応を理解する手段の一つとして、時間に依存するアプローチを議論する。これを1次元3体模型に適用し、直感的に対移行反応のプロセスを系の時間発展という観点から理解することを試みる。量子力学の応用問題として4年生にも分かるようなセミナーにしたいと思う。
2024/07/29
Quantum critical point from competition between the Dirac Kondo effect and chiral symmetry breaking
服部 恒一 (浙江大学)
Room B204 (12:55-14:25)
Abstract: We discuss the QCD phase diagram in strong magnetic fields, where the chiral condensate is enhanced by the magnetic catalysis mechanism. In contrast to the conventional discussions, we include heavy-quark impurities that have been known to induce the Kondo effect. We propose a quantum critical point that arises as a consequence of the competition between the Kondo effect and the chiral symmetry breaking. Our phase diagram is obtained from a self-consistent determination of the magnitudes of the chiral condensate and the Kondo condensate, where the latter is a particle pairing composed of conducting Dirac fermions and localized impurities. We also discuss finite-temperature effects and implications for condensed matter physics including bilayer graphene.
2024/07/24
量子マスター方程式と対称性
笠 真生 (Princeton Univ.)
Room B303 (14:40-16:00)
Abstract: 量子多体系は量子相転移やトポロジカル相などの数々の興味深い現象を示すが、その性質を一般に予言することは大変難しい。しかしながら、対称性を積極的に活用して、系が示しうる振る舞いにある種の知見を得ることができる場合がある。例えば、相転移における対称性の破れや、トポロジカル絶縁体やハルデン相などに代表される対称性に保護されたトポロジカル相の分類、そして、量子スピン系におけるLieb-Schultz-Mattis定理などがその代表例である。本講演では、量子開放多体系(環境と相互作用する系)を議論する。とくに量子マスター方程式(リンドブラッド方程式)で記述される系において、対称性に注目した我々のアプローチを紹介したい。具体的には、量子開放系に対するLieb-Schultz-Mattis定理の拡張や、量子開放系の対称性による分類を議論する予定である。
2024/01/30
PAIRING CORRELATIONS IN NUCLEI AND NEUTRON STARS
Enrico Vigezzi (INFN Milano)
Room A314 (16:30-17:40)
Abstract: I will review some manifestations of pairing correlations, which play a crucial role in the spectroscopic properties of atomic nuclei. I will then discuss some aspects of the theory of nuclear superfluidity, focusing on the renormalization of the bare pairing interaction by many-body effects, that can be studied on the basis of particle-vibration coupling, in particular concerning the interaction induced by the exchange of collective vibrations. I will then focus on the inner crust of neutron stars, which, according to our present understanding, should be formed by a lattice of superfluid nuclei immersed in a superfluid neutron sea. The rotation of the star should induce the formation of vortices, which are one of the hallmarks of superfluid systems. I will discuss the possible influence of shell effects on vortex structure and some attempts to calculate the vortex-nucleus interaction as well as the so called pinning energy.
2024/01/11
Hadron Interactions from Lattice QCD - Theory Meets Experiments -
初田 哲男 (理化学研究所 数理創造プログラム)
Room A421 (16:30-17:40)
Abstract: Recent progress in lattice QCD simulations close to the physical pion mass opens the door for quantitative studies of poorly understood hadron-hadron interactions with strangeness at low energies. It also allows comparison with femtoscopic studies in pp, pA, and AA collisions at RHIC and LHC. After an overview of the basic theoretical concepts of the HAL QCD method for extracting hadronic interactions from lattice QCD, an interplay between theoretical and experimental studies will be presented, with Lambda-Lambda, N-Xi, N-Omega, Omega-Omega, N-phi and D-D* interactions as examples. The ongoing program of physical point lattice QCD simulations using RIKEN's 440 PFlops supercomputer FUGAKU will also be mentioned.
2023/12/15
フェムトスコピーによるハドロン間相互作用の研究
兵藤 哲雄 (東京都立大学)
Room A421 (14:40-16:00)
Abstract: 高エネルギー衝突実験におけるハドロン多重生成では、ハドロン間相互作用と量子統計性の影響で観測されるハドロン対の運動量分布に相関が生じる。従来は、フェムトスコピーと呼ばれる手法で、観測されたハドロン間運動量相関関数から放出ソースの情報を引き出す研究が進められてきたが、近年では相関関数の測定がハドロン間相互作用を決定する新な手法として注目を集めている。現在RHICのSTAR実験やLHCのALICE実験などで様々なハドロン対の測定が行われ、従来の散乱実験では測定が困難なハドロン間の相互作用の研究が飛躍的に進展している。本セミナーでは、理論的に運動量相関関数を解析する手法の基礎を解説し、エキゾチックハドロンやハイパー核への応用など、今後の展望を交えて最近の研究を紹介する。
2023/11/08
How baryons appear in low-energy QCD:Domain-wall Skyrmion phase in strong magnetic fields
西村 健太郎 (KEK)
Room A421 (13:00-16:00)
Abstract: Low-energy dynamics of QCD can be described by pion degrees of freedom in terms of the chiral perturbation theory (ChPT). A chiral soliton lattice (CSL), an array on solitons, is the ground state due to the chiral anomaly in the presence of a magnetic field larger than a certain critical value at finite density. Here, we show in a model-independent and fully analytic manner (at the leading order of ChPT) that the CSL phase transits to a domain-wall Skyrmion phase when the chemical potential is larger than the critical value \mu_c=16π f_π^2/(3m_π)∼1.03GeV with the pion's decay constant f_πand mass m_π, which can be regarded as the nuclear saturation density. There spontaneously appear stable two-dimensional Skyrmions or lumps on a soliton surface, which can be viewed as three-dimensional Skyrmions carrying even baryon numbers from the bulk despite no Skyrme term. They behave as superconducting rings with persistent currents due to a charged pion condensation, and areas of the rings' interiors are quantized. This phase is in scope of future heavy-ion collider experiments.
2023/07/06-07/07
量子計算の場の量子論への応用
本多 正純 (YITP)
Room A317 (10:15-17:00)
Abstract: 量子計算の場の量子論の数値シミュレーションへの応用について、入門的な解説を行う。まず量子計算の基礎的な部分を解説した後に、量子計算のスピン系のシミュレーションへの応用について議論する。その後連続的場の量子論・および格子上の場の量子論に関する入門的な解説を行い、場の量子論のシミュレーションについて議論する。また、IBM Qiskitを用いた量子シミュレーションの実習も行う。
2023/01/26
横偏極陽子のSivers効果に対する新たな計算法の確立とその応用
吉田 信介 (華南師範大学)
Room A314 (16:30-)
Abstract: 高エネルギー領域での偏極散乱実験はハドロンの内部構造について多くの疑問を投げかけており、 摂動的手法に基づく理解は強い相互作用のダイナミクスについて基礎理論である量子色力学に 基づいた根本的な理解をもたらすと期待される。とりわけ横偏極陽子散乱に現れる大きな シングルスピン非対称の問題は発見から半世紀近く未解決のままであり、その起源の解明は 次世代実験計画である Electron-Ion collider 実験においても最重要課題の一つとして挙げられている。 華南師範大学のグループは近年、シングルスピン非対称の起源の一つと目される横偏極陽子の Sivers効果に対する新たな計算法を開発した。本セミナーではこの新たな計算法が単に 従来の結果を再現するにとどまらず、摂動論の高次計算等において重要な役割を果たす ことを結果を交えつつ紹介したい。
2022/12/22
量子開放系入門∼量子ブラウン運動を例として
赤松 幸尚 (大阪大学)
Room A421 (10:15-11:15, 13:00-14:00)
Abstract: 散逸は身近な現象であり、摩擦を含んだ運動方程式などは高校生でも直感的に思いつけるであろう。しかし、その量子論的な記述となると学部の講義でもほとんど扱わない。その理由は、開放系という考え方を土台に量子論を組み立てる必要があるからであろう。近年、原子核衝突においても量子開放系の考え方が導入されるようになってきた。本セミナーでは、量子開放系の基礎から出発し、量子ブラウン運動のマスター方程式を摂動的に導出する。複数のブラウン粒子がある場合の束縛状態の記述についても解説する。
2022/12/15
ノックアウト反応で“見る”原子核の新しい構造
緒方 一介 (九州大学)
Room A314 (16:25-)
Abstract: 陽子と中性子(総称して核子)からなる原子核は、様々な姿で描かれる。 たとえば液滴(量子流体)としての姿、原子中の電子のようにそれぞれの核子が 振る舞う姿(独立粒子構造)、原子核中に複数の核子の塊がサブユニットのよう に浮かんでいる姿クラスター構造)などである。多様な貌をもつ原子核を捉える強力な手法のひとつが、ノックアウト反応で ある。この反応では、高速の粒子によって原子核の構成要素が叩き出される。 いわば、量子の世界のだるま落とし反応である。直観的にも理解しやすい ノックアウト反応は、原子核の独立粒子描像の成立度を測定する手段として活用 されている。近年、ノックアウト反応は、原子核のクラスター構造を実証する手段としても 注目を集めている。特に、質量数が大きな原子核がクラスター構造をもつか どうかはほとんどわかっておらず、その解明に向けた取り組みが実験・理論 の連携の下、強力に進められている。本セミナーでは、「おのころプロジェクト」と名付けられたこの新しい取り 組みについて紹介し、核反応理論の観点から、これまで何が達成され、何が 課題として残されているかを概観する。また、原子核のクラスター構造の解明 を目指す研究の発展形として、原子核中の多核子相関にアプローチする研究 についても簡単に紹介したい。
2022/11/17
QFTにおける一般化された対称性とその応用
谷崎 佑弥 (YITP)
Room A421 (15:00-17:30)
Abstract: 場の量子論(QFT)は,量子多体系の低エネルギー有効理論を記述する普遍的な枠組みを与えるが,しばしば強い相互作用のある現象を解析する必要がある.対称性はそのような非摂動的な側面を明らかにするために不可欠な役割を果たしてきたが,従来の対称性で捉えるのがむずかしい豊かなダイナミクスを理解するために,その一般化が近年明らかにされつつある.このような「対称性」は一般化対称性と呼ばれることが多いが,本講演ではその有用性を示すために,詳細なレビューを行う.まず,閉じ込め-ヒッグス(非)相補性についての従来の知識から始め,高次形式対称性,非可逆対称性などの一般化された対称性の概念応用も含めて紹介する予定である.
2022/11/04
自発的対称性の破れに関する最近の話題:基礎から開放系,高次対称性まで
日高 義将 (KEK)
Room B303(16:30-)
Abstract: 連続対称性が自発的に破れると南部ゴールドストンモードと呼ばれるギャップを持たない励起が現れる.固体中の音波や強磁性体中のスピン波がそれに当たる.南部ゴールドストンの定理は,場の量子論において定式化され,物性系の様な非相対論系や,さらには,エネルギーや運動量が保存しない開放系にも拡張されている.また,最近では,渦糸やドメインウォールのような広がりを持った物体に対する対称性とその自発的破れを考えることで光も南部ゴールドストンモードとして理解できる事が明らかになった.本講演では,これらの自発的対称性の破れと南部ゴールドストンモードに関する近年の発展を我々の最近の研究を交えながら紹介する.
2022/10/24
クォークから中性子星へ (From Quarks to Neutron Stars)
初田 哲男 (理化学研究所 数理創造プログラム)
Room B303(16:30-17:30)
Abstract: 宇宙におけるバリオン物質の基本構造は、量子色力学(QCD)とそれで支配される素粒子としてのクォークとグルーオンで決まっている。近年の理論研究とスーパーコンピュータの進展で、QCDから陽子や中性子など単体のバリオンの性質を高精度で計算できるようになった。さらに、バリオン間の相互作用や原子核のQCDからの理解も発展途上にある。複数のバリオンからなる系の理解は、最終的には中性子星の構造論と関係し、天体物理学としても重要な意義をもつ。 特に、2019年に発見された太陽質量の約2倍を持つ重い中性子星、2017年と2019年LIGO/Virgo重力波検出器で発見された中性子星の合体からの重力波、2019年にNICER X線装置で観測されたパルサーの半径、など、中性子星の構造に関わる観測が急激に進んでいる。 本談話会では、QCDに基づいてバリオン単体から中性子星構造までを統一的に理解する上での、これまでの到達点と今後の課題について概観する。
2021/09/16
ニュートリノ・極限物質から探る重力崩壊型超新星爆発
住吉 光介 (沼津高専)
Zoom (16:25-)
Abstract: 重力崩壊型超新星は重い星の最期におこる爆発現象であり、中性子星・ブラックホール、重元素の起源になっている。爆発ダイナミクスにおいては、高温高密度物質とともに ニュートリノが深く関与しており、爆発メカニズムは長年の謎となっている。本セミナーでは、解明の鍵となる 極限環境における物質とニュートリノ輻射輸送にフォーカスして 研究の進展について解説したい。
2021/09/01
回転する多体系の熱力学と輸送理論
豆田 和也 (理化学研究所 仁科センター)
Zoom (10:30-)
Abstract: 2017年に10^20 Hzを超える渦度が重イオン衝突実験で観測されたことで, 渦度(または回転)の物理は近年大きな注目を集めている.この講演では, 曲がった時空の場の理論に基づいて,相対論的な多体系に対して回転が 齎す物理を議論する.前半では回転系の熱力学に焦点を当て,有限サイズ効果 および回転以外の外的効果(温度,密度,電磁場等)が回転系において重要である ことを示す.特に磁場と回転が共存する系で創発する特異なカイラル相転移 に関しても言及する.後半では回転や重力場中でのスピンを含む輸送理論を 取り扱う.ここでは,所謂カイラル運動論の基本的な部分を紹介し,これが 量子場の理論から正しく導出されること,および一般座標系への拡張できる ことを示す.またこの「曲がった時空上のカイラル運動論」に基づいて, 回転や重力場がいくつかの非散逸輸送現象を創発することも示す.
2020/12/08
中性子過剰核におけるエキゾチックなクラスター構造
板垣 直之 (YITP)
Zoom (16:25-)
Abstract: 安定な原子核よりも中性数の多い「中性子過剰核」の構造が実験・理論ともにさかんに議論されている. 中性子過剰核では,クラスターと呼ばれる原子核のエキゾチックな構造が,付与した中性子によってより安定になる可能性が指摘されている. クラスターとは,α粒子など結合の強いものが原子核内で部分系を形成する描像であり,中性子過剰核では, いくつかの中性子が複数のクラスターの周りを運動することで,系全体を安定化させる. 本セミナーでは,中性子の付与に加え,さらに系に回転を与えることで, クラスター構造をより安定化できる可能性を議論する. 例として,3つのα粒子が部分系を形成する炭素同位体の励起状態などを取り上げる. そこにおいて,クラスター構造を安定化させる中性子の軌道が, 系の回転によってより安定となる相乗効果を紹介する. このような状態を分析する理論としては,これまでクラスター模型による分析が行われてきたが, 最近,幅広い原子核へと適用可能な最も一般的な理論である密度汎関数法による分析もさかんに行われてきており, 両者の協働について紹介する.
2020/11/10
核分裂を通じて学ぶ原子核の基礎理論
湊 太志 (JAEA)
Zoom (16:25-)
Abstract: 原子核の核分裂は,歴史的な背景から負の側面を伴いつつも,主にエネルギー利用の観点で社会に利用されてきた. しかしながら近年は,宇宙元素合成や非破壊分析,医療用RI生成,長寿命核分裂生成物の消滅処理など, 核分裂を通した様々な応用研究開発が注目されており,その詳細な理解がこれまで以上に求められている. また核分裂は,様々な原子核反応と崩壊を伴う現象であり, 学生が核物理学の様々な側面を学ぶうえで格好の対象でもある. 本講義は,核分裂を通じて核物理学の最先端研究に触れる機会を学生に提供し, 核物理学の基礎知識を高めるためのものである. また,原子力利用が潜在的に持つ課題をより深く理解するための基礎知識も提供する.